7話
「家族も仲間も部族ももういない。全員死んだ。誰もいない、なにも無い」
それが女性の大切なものだったのでしょう。戦いで散っていった命に想いを馳せるように、目を瞑って言いました。
やれやれ、灯台下暗しとはこのことでしょうか。
「大切な人はいないから魔法の呪いは問題ないとでも?」
わたしは指を差して問いました。
「じゃあその子はなんなんですか?」
女性に守られるようにして意識を失っていた幼き少女。まだ目覚める様子はない小さき乙女。
女性はハッとしたように目を見開きました。
「……血の繋がりはない。だが妹のような。仲良くしてくれた」
「大切ではないのですか?」
「とても大切だ」
ハッキリしていていいですね。自分に正直で非常に好感が持てます。
「ならば、魔法の力を手に入れたらその子は死ぬでしょう。間違いなく」
魔法使いの先輩であるわたしが保証してもいいです。
どんな形で死ぬかはわかりません。動物や魔物に襲われて死ぬのか、世界の厄介者『魔教徒』に襲われて死ぬのか、覚えた魔法の巻き添えになって死ぬのか。
可能性だけ挙げれば死ぬ理由なんてキリがありません。
「その子を殺してまで魔法の力を得たいのですか?」
「……いや」
悔しそうに首を振る女性に、魔法は諦めることをダメ押ししておきます。
「先程言った『無理ですね』『普通に修行することをおすすめします』とはそういう意味でもあります」
守るために得た力で守りたかった大切なものを失う。自らの意思で魔法を得ようとすると、このように矛盾が発生してしまうのです。
こんなバカげた話があってたまりますか。
「お前はどうして魔法使える?」
「それはもちろん、魔人から人間に戻れたからですよ」
多分、聞きたかったのは『どうして死んだのか』なのでしょうが、適当に誤魔化しておきました。
ミステリアスなほうが魅力的な女に見えるでしょう? どや。
「ワタシ仲間の無念晴らせないのか」
「個人的には晴らしてほしいですけどね。魔法に頼らずに」
魔物が相手という話ですから、相当難しいでしょうけど。
「わたしからも聞いていいですか?」
「なんだ」
「その子、どんな子なんですか?」
質問してみると、女性は困ったように笑って、表情を崩しました。
「よく食べよく笑いよく走る困った子だ。つまみ食い拾い食い横取り当たり前。しょっちゅう喧嘩もした。だが憎めない」
「手のかかる愛し子ですか」
「問題児」
そんなにやんちゃな子だとは。穏やかに眠っている今の姿からはとても想像できませんね。
親の顔が見てみたいです。
……本当に。見てみたかった。