5話
「それはまた厄介ですね。魔物ですか」
死んだ人間に悪魔が宿った存在を『魔人』と言うのなら、死んだ動物に悪魔が宿った存在を『魔物』と言います。
先程埋めた猪も、状態が良かったら魔物になっていた可能性もあったという訳ですね。
大抵が低級の悪魔なのであまり苦戦することはありませんが、それはあくまでわたし視点でのお話。普通の人間からすれば、人を簡単に殺せるほどに狂暴化した動物を相手にするようなものでしょう。
もちろん魔法も使ってきます。低級でも悪魔が宿っていますから。
「それでも相手にしなければ時間が解決してくれるのでは」
「駄目だ。今でなければ」
「ですよねー」
首を振って頑なになる女性に、わたしは小さくため息を漏らしました。
魔物の命はなぜか長くありません。
これは個人的な見解ですが、悪魔の依り代として人間は相性が良く、動物は悪いのです。
人間には高い知性があるから悪魔の考えを思考できる。だから生きていける。でも動物には難しい。だから生きていけない。
つまり放っておけばいずれは馬鹿だから勝手に死ぬ。──というのがわたしの意見。
もちろん本当のところはわかりませんし、あまり興味もありません。
「でも約束は約束です。魔法に関する質問にはお答えしましょう」
わたしがそう言うと、彼女は手の甲の模様を見せるように一礼してから言いました。
「魔法の使いかた聞いたとき、お前『無理だ』と言った。なぜだ。弔い合戦果たせれば死んだっていい!」
存外よく喋る人ですね。嫌いじゃないです。
ですが──
「その程度の覚悟では足りないからですよ」
全くもって、これっぽっちも。
女性はショックを受けたようにほんの僅かですが、項垂れました。
「……足りないのか」
「足りません。必要な覚悟はそのさらに先にあります」
「どういう意味だ」
「死ぬのは大前提と言っているんです。必要なのは、絶対に死なないという覚悟です」
死にたくないという想いを糧に、死ぬことによって得られる皮肉な力。それが魔法なのです。
「???」
この方には少しややこしかったでしょうか。しきりに首を傾げています。
簡潔に手順だけで伝えてみましょう。
「一度死んで魔人になってから、もう一度人間に戻ってください。そうすれば魔法が使えるようになっています」
「そんなことでいいのか」
「待っ──!」
女性は舌を限界まで伸ばして、顎に力を入れたのでした。