4話
焚き火を見つめながら隣り合うわたしと女性。そのさらに隣に少女が眠っています。
わたしは静かでも全然大丈夫な人なのですが、女性はおもむろに口を開きました。
「気を失う寸前に見た。聞きたい」
「なんでしょう?」
「魔法」
たった一言ですが伝わりました。この人は魔法について聞きたいようです。珍しい。
魔法は悪魔の力ですから忌避されがちですけど、この人は興味があるタイプの人のようです。
「魔法についてお話しできることはあまりありませんよ」
「構わない。魔法を使いたい」
「無理ですね」
たまにいるんですよこういう人が。そしてこういう人ほど魔法の適性がない。
つまり魔法を使いこなせるわたしは天才ということです。どや。
「どうすれば使える」
「…………。知らないなら、知らないままのほうが幸せですよ」
世の中には知らないほうがいいこともあるものです。
「強くなりない。すぐにでも」
水色の瞳に決意の固さを感じさせます。ボロボロになって倒れていたのと、なにか関係があるのでしょう。
確かに魔法は手っ取り早く強くなれる方法ですが、それは蜘蛛の糸を登り、雲の上を歩くようなもの。まず不可能です。
上手いこと言っちゃいました。どや。
「強くなりたいなら普通に修行をすることをおすすめします」
この女性は修行なんてしなくても、素人目に見て充分強そうですけど。無駄のない引き締まった肉体をしています。その道の人が評価したら高得点を叩き出しそうな。
「なぜ教えない?」
「逆に聞いてもいいですか? どうして強くなりたいのか、と。答えによっては気が変わるかもしれません」
そう聞くと、女性は初めて瞳の光を揺らがせました。
しばしの沈黙が舞い降りて。
「……弔い合戦だ」
「…………」
──弔い合戦。そうきましたか。
葬儀屋としては、聞き逃せない理由でした。俄然興味が湧いてきます。
「……詳しく聞いてもいいですか?」
弔い合戦とは、味方の戦死者の敵を討ち、その霊を慰めることを言います。わたしなりの解釈で言うならばそれは〝負け戦〟と同義。
これは放っておいたら大変なことになるかもしれません。
「教えるか?」
「……そうですね。教えてくれたら、質問には答えましょう。約束です」
小指を立てて言い切りました。約束は守ります。絶対。
ですが、これは聞かなかったほうが良かったのかもしれません。聞いてから軽く後悔しましたから。
彼女は言いました。
「──大量の魔物だ」
と。
それは、あまり聞きたくない言葉だったのでした。