21話
──後ろを見ればわかる。
魔教徒にそう言われて素直に後ろを確認する人なんてどこにもいないでしょう。適当なことを言っているに決まっています。後ろを確認したらその隙に逃げる算段なのはお見通しです。
そう思ったのですが──
ゾ ワ ッ
「っ?!」
突如、背後から強烈な魔力の高まりを感じました。本能の赴くままに横っ飛びで回避行動をとると、わたしが立っていた位置が爆音と共に陥没しました。
「あぁ~んおしぃ~! もうちょい気を引けばよかった!」
視界の端で悔しがる魔教徒の姿。それよりもなにが起こったのか、なにに襲われたのか、のほうが重要です。
その姿を確認して、わたしは自分の目を疑いました。自分の目を疑うなんて初めての経験です。
「────」
「……いくらなんでも早すぎはしませんか」
そこにいたのは……魔人となった少女でした。
奇麗な青い瞳を不気味に光らせて、自らの血で全身を染めた飢えた獣のように荒い呼吸を繰り返す人ならざる者。その身に悪魔を宿した破壊の権化。
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている魔教徒を睨みつけます。
「ネタ切れだったのでは?」
確か『伏兵を残しておけばよかった』と言っていたはずです。つまりもう手の内は残されていないと。
「そうだよぉ~? 魔物はね☆」
舌を出し、下瞼を引き下げてあっかんべーをする魔教徒。そのまま後ずさるように距離を取っていきます。
「時間稼ぎよろ~。そんじゃまったね~☆」
あっけなく、魔教徒は手を振りながら逃げていきました。本当は追ってでもすぐに殺してやりたいところですが、それよりもやるべきことがあります。
わたしは葬儀屋。死んだ人を弔うことが仕事であり、魔教徒を討伐することは仕事に含まれません。そっちはついでのようなもの。
魔教徒よりも魔人のほうが優先度が上です。
「少し考えが甘かったですね」
これはわたし自身に対しての言葉。
少女が魔教徒のナイフの毒に侵されて死んでしまったのならば、それは悪魔が宿りやすくなっているということ。少し考えればわかることじゃないですか。魔教徒からの情報収集に気を取られていました。
「助けてあげますからね。今すぐに」




