16話
「い、いやああぁぁぁぁぁ!?」
木の根で串刺しにされた女性が目の前に吊り上げられ、悲痛な悲鳴を上げる少女。ここに来るまでにも見たくない光景が沢山あったでしょうに、目の前で一番見たくない光景を見せられてしまいましたか。やってくれましたね。
わたしは魔力を爆発的に高めて魔物たちを牽制して時間を稼ぎます。
「ア、グ……ふぅ……しぃ……か」
串刺しにされた女性は頬が裂け、まともに発音できていません。ぐったりと全身から力が抜けていて、まるで糸の切れた操り人形のよう。
「う、うそ、でしょ……うそだよね……ジル姉はどこにもいかないって、やくそくしてくれたよね?!?!」
「す、あ……ない……」
「あやまらないでよ!」
少女の瞳には大粒の涙。声は涙ぐみ、駄々をこねて癇癪を起こした子どものように力一杯に叫ぶのみ。
「皮のはぎかたおしえてくれるってやくそくした! お人形つくってくれるってやくそくした! いっぱいあそぼってやくそくした! ずっといっしょにいてくれるってやくそくした! おりょうりも! たたかいかたも! もりのあんないも! やくそく……したのにッ……!」
「────」
「どうして……なにも言ってくれないの?!」
「────」
「ジル姉! ジル姉ってばぁ!!!」
女性はすでに事切れていました。わずかな鼓動も、かすかな吐息もこの世には無く、綺麗な青い瞳も死に濁っていました。
「……もう、遠慮する必要は無さそうですね」
女性の弔い合戦は負けに終わりました。ここからはわたしの戦い。一瞬で終わらせます。
これはわたしの──たった一人のための弔い合戦。
「ここが水辺だったことを後悔するんですね。全員血祭りにしてあげます」
手を掲げ、高めた魔力を解放して領域を形成。川の水を閉じ込めて宙へ持ち上げました。
「〝ウォーターカッター〟というものをご存知ですか? 全てを切り裂く斬鉄の水刃です」
超高圧で噴射された極細の水柱はどんな業物よりも鋭い刃物と化すのです。
「派手に散れ」
領域に小さな穴を生み出し、腕を払いながら握り拳を作ります。
超圧縮された領域内の水は出口を求め、小さな穴から飛び出してひしめく魔物たちを上下に両断しました。勢い余って樹海の樹々たちすら切り倒して、真っ赤な噴水があちこちから誕生して川を見事に染め上げました。
「逃しません」
運良く水刃から逃れた魔物が逃走しようとしても、ピンポイントで水を飛ばして貫きます。
こうして呆気なくわたしの弔い合戦は終わりを告げました。
振り返り、女性と少女のほうを見ると──
「──うっ、げほ、ゲッホ?!」
口を押さえ、指の隙間から溢れるほどに吐血する少女が映り込んできたのでした。




