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11話

 とても子どもには見せられないような光景が視界を埋め尽くし、まるでこの世に地獄が顕現したかのようでした。

 本物の地獄はこんなものではありませんが、表現の一つとして受け取ってください。言葉の綾です。

 ほぼ全ての家屋は倒壊し、視界の全てが血糊に満たされ、足を絡め取って地獄へ引き摺り込もうとしているみたいです。

 少女の表情は絶望に塗り固められ、腰が抜けて地面にへたり込んでしまいました。呼吸のリズムが激しく乱れています。


「マグ大丈夫か?!」

「…………ぅぷ、うぇ」


 女性がすかさず駆け寄って、肩を貸しました。返事をする余裕もないのか、少女はしきりに首を横に振るばかり。

 少女はこれ以上、この場にいないほうが良いでしょう。離れた場所で落ち着くまで様子を見たほうがいいかもしれません。

 ここは気持ちを切り替えるべき場面。この場にいる全員が。


「その子をお願いします。どこか安全な場所へ」

「お前どうする気だ」


 そう問われたわたしは、場違いな笑みを浮かべてこう答えました。


「わたしは葬儀屋ですよ? やることなんて決まっているじゃないですか。仕事です」


 それがわたしの生業(やるべきこと)ですから。どや。

 誇りをもって美しく仕事をすることを誓いましょう。

 袖を(まく)ってやる気を高めます。ノースリーブなので仕草だけですが。


「こちらの判断で進めてしまっても構いませんか? 早くしないと魔人になるリスクが高まるだけなので」


 女性は少女の看病で手が離せないでしょう。事前に注意点などあれば教えてくれると助かるのですが。

 女性は生きている少女と死んでいる仲間たちを天秤にかけて、わたしに任せることを躊躇いながらも渋々頷きました。


「あ、ああ頼む。同胞たちを……弔ってやってくれ」

「承知しました」


 悔しさを噛み締めるようにして、最後の言葉はほとんど声になっていませんでした。

 二人が見えなくなる位置まで見送ってからわたしは一人、気合を入れます。


「さて、この数は骨が折れますね」


 何事もやっていれば終わるし、やらなければ終わりません。魔物の行方も気になりますし、早々に始めてしまいましょう。

 魔人化を回避するため人間の原型が強く残っている遺体から優先的に弔います。


「これは……あの二人も似たようなものをつけていましたね」


 少し観察してみると、宝石があしらわれたブレスレットを全員が身につけていました。宝石は天然物なので全く同じものはありません。


「身につけた宝石と体に描かれた模様が名刺のような役割を果たしているというわけですか」


 ならば、この宝石は残しておかなければなりませんね。その人の人生が詰まった魂の結晶とも言うべき遺品なのだから。

 ざっと見て30人程度。

 わたしは誠心誠意を込めて、黙々と作業を続けるのでした。

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