10話
「お前本気か?」
「もちろんです。適当なことは言っても嘘は言いません」
嘘なんてつけないくらいにわたしの心はピュアなんです。どや。
仕事を引き受けてしまった以上、現場の様子は確かめておかなければなりませんし、誰かが魔人になってしまう前にしっかりと弔って差し上げる必要もあります。
「それに、確かに危険かもしれませんが、あなたもわたしもいます。守ってあげればいいのですよ」
魔物程度に後れを取るわたしではありません。いざとなったらわたしが二人を守ってみせましょう。わたしほどの実力者であれば、それくらいは余裕です。どやどや。
「それに、その子は言って聞くようないい子ちゃんでしたっけ」
「そうだよジル姉! アタシわるい子! とめてもいく!」
「と、仰っていますが?」
わたしは少女の味方について、女性を見つめます。しばし逡巡していましたが、諦めたように大きくため息をつきました。
「……わかった。ただし、絶対に離れるなよ」
「そーこなくっちゃ! ありがとージル姉!」
嬉しそうに少女は抱きつきました。女性は満更でもなさそう。ちょろいですね。
少女がどこか憎めないというのもわかるような気がします。
「では善は急げと言います。早速移動しましょう」
というわけで、焚き火をサクッと消化して、魔物の気配に注意しながら女性を先頭にゆっくりと移動を開始。しばらくすると嗅ぎ慣れた血生臭さが鼻腔をくすぐってきます。
「…………」
少女の顔を窺ってみると、先程まで元気だった表情がみるみるうちに暗くなっていくのが目に見えてわかります。
心の中で察しているのでしょう。そして現実を認めたくない自分と必死に戦っているのでしょう。
「お気を確かに」
「うん……」
優しく微笑んで声をかけてあげましたが、この年齢で受け止めるには少々重い現実が待ち受けていそうですね。ですが、少しでも少女に心構えをしておいてもらわなければなりません。
ここから先は、地獄のような光景が待ち構えているでしょうから。
「……静かすぎる」
女性はポツリと疑問を口にしました。同意見です。
大量の魔物とやらの気配が微塵も感じられません。
「やっぱりやっつけたんだよ! きっとそうだよ!」
「それならそれで、静かなのはやっぱりおかしい」
「急ぎましょう」
引き続き警戒しつつ、少し歩調を早めます。
そして集落へ辿り着いたのですが、そこで待ち受けていたものは──
「ぃ、いやああああああああああああああああ!!!!??!」
少女の絶叫がこだまします。
──ぐちゃぐちゃに喰い千切られた人間の死体が大量に転がっていました。
ある者は腹部がすり鉢状に陥没し、中身がズルズルと引きずり出されて散らばっています。
ある者は頭部が破裂したように無くなり、肉片と血だまりの海に沈んでいます。
ある者は手足をもがれ、体を折り畳まれ、あちこちから骨が飛び出しています。
ある者は一滴残らず血を啜られ、カラカラに干からびて土のようになっています。
「……これは、しばらく仕事には困りませんね」
過去最低最悪の笑えない冗談でした。




