1 とある夏
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夏。それは…人をおかしくする季節。
例えば男女二人で掃除用具ロッカーに偶然入ってしまったとしよう。勿論横幅は一メートルも無いし、奥行きに至っては五十センチも無い。必然、体は密着し熱を持ち始める。閉鎖空間や密着度も手伝って脳は正常な判断など下せる筈も無い。
そんな環境で、間違いが起きる訳が無いと言い切れるだろうか?一時の環境に身を任せ、ズッコンバッコンしないと誰が言い切れるだろうか?
そう。夏というのは…エロい時期なんです。
困ったら青空を見上げよう。なんか、こう…何でも許される気、しない?
夏休みに全裸でベランダに出るとか…その…やった事、ない、ですかね…
ま、まあつまり。
「おねぇちゃんがエロすぎるーーーーーーッッッ!!!どわあああああああああ!!!エッチしたいいいいいい!ぺろぺろしたいいいいいい!!!」
この夏休み。おねぇちゃんと、ちょっとした間違いくらいなら起きてもおかしくないよねって、話。
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私の名前は神室瑠衣。しがない大学一年生です。
一昨日から夏休みに入ったので、絶賛満喫中です。―――しかし。
「はぁ…暇だ…暇すぎるぅ…」
私はソファーの上でとろけていた。大学の夏休みは高校の時より長く、妹達は未だ学校から帰って来ない。妹達が居ればまだ良いけど、一人でゲームをする辛さよ。確か昼に帰って来るって言ってたっけ?早く帰って来てくれ…さもないと死ぬぞ。
それに私は元々凄くものぐさなんだよなぁ。暑いのが嫌いで、今もエアコンをガンガンにしている。はー、きもてぃー。この時期にスポーツとかする奴一定数いるよなw
親もハワイ旅行中で今朝出て行ったきり。しかもそこそこ長く滞在するらしい。クッソ、金持ちめ。良い生活しやがる。まあ私もその娘なんですけどね。
そんなこんなで脳死の擬人化RP中です。
脳が死ぬってこういう事なんだなぁ。意識しながらレム睡眠を取ってるみたいな感じ。…これ、極めたらFBIワンチャン入れるな。あの手の人って一瞬だけ寝るとか出来るらしいね。
そんな事を考えていると、三倍くらいの速度でだんだんと時間が立っていく。おお、これが無の境地か。
…っつぁー…
…ふあぁー…
…んあぁー…
「ただいまー」
莉愛の声だ!唸れ、私の脚!
「お帰りッッッ!!!!!!」
「おわっ…瑠衣ねぇ全力のお出迎えありがとう。なんかあったの?顔ヤバいよ」
「…暇だったのぉ…寂しかったよぉ…」
莉愛は末っ子だ。中学三年生なのだが、中学生らしからぬ言動が目を引く。因みにすっごい美少女だ。うーん、可愛い。末っ子ってやっぱそれだけで破壊力あるよね。
「あーはいはい。ごめんね、もっと早く帰って来れるようにするからね…だからその、あー、えー、うん。瑠衣ねぇ…ボクのお腹の匂い、そんなに気に入った?」
「すんすんすんすんすんすんすんすんすん…謎に良い匂いするからさぁ、この年頃になると」
莉愛は謎にフローラルだ。中学生のくせに…中学生はやっぱ最高やで…
それにしても、中高生って横通るとふわって香るよね、ふわって。あれなんなの?
「うわキモ…瑠衣ねぇおっさんっぽいよ」
「ぐっ、う゛ぅ゛っ!?や、やめます…」
おっさんは効くわ…うん、客観視って大事だね。莉愛が私だったら下手したら殺してるわ。
「あっ…いや、止めなくても良いんだけど…時と場所を選べば」
「えっ良いの?やったぁ」
心なしか残念そうな顔でそう言って来たのだが、朗報でしかない。やったね。
あれ、でもさ…妹のお腹の匂いを嗅いでいい時間と場所とは一体…?
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「お昼ご飯くらい自分で作れた方が良いんじゃないのー?」
「いいもーん。包丁握ると絶対どっか怪我するからさぁ」
「…そうだった。一生料理しなくて良いよ」
「何という掌返し…いや、良いんだけどさ」
そう、私は料理が出来ない。天性の不器が祟り、包丁を握るだけで何らかの傷を負うのでもう料理は止め、長い事キッチンに関わっていない。何でだよぉッ………!
まあ私の夢の形が狭まって良かったなお前ら。私がこのまま行ったら最強になってしまう。あー、弱者のふりキツイわー。
…くそぅ…
「…ど、どうしたの、瑠衣ねぇ…あ、暑いよ…?」
「…ふーんだ。私だってそれなりに苦労してるんだよ?これでも」
「…そ、その割にはぽわぽわしてるけどねぇ…あ、あの…」
うるさいよ。ぽわぽわってなんだよ。というか莉愛はガチの天才過ぎて何言っても皮肉なんだよなぁ…
「才能の壁ってデカいねぇ…」
「いや、あの、離して…うん、才能ね才能。分かった分かった」
莉愛がもがもがと動くが、私は離さない。
むぅ、ちょっとくらい付き合ってくれたって良いだろうに。
「ポンコツって凄く言われるんだよねぇ、大学で。酷くない?」
「あ、あの…は、はなして…くきゅぅ…」
「…?莉愛、吹き零れそうじゃない?火弱めようか?」
茹でていたパスタがぐつぐつと煮え、今にも零れそうだ。
大丈夫かな…?私、堅めの方が好きなんだけど。
「んはっ…あばば…危ない危ない。ありがとう瑠衣ねぇ。後で一緒にお昼寝しようね」
「ん?良いよー?…いや、何急に」
莉愛の顔が急に引き締まったんだが。あらやだかっこいい…
「悟ったんだよ。ほら、この腕を離したまえ。もうちょっとで出来るから待ってて」
「はぁい」
莉愛ママンすこすこのすこ…あれ、年齢差…
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「はぁーっ、食べたわぁ…」
「瑠衣ねぇ全然太んないよね」
「あぁうん、何でだろうね?分かんね」
確かに私の体重は中学卒業辺りから殆ど変わっていない。平均してとかではなく、体重の変遷がそもそも起きないのだ。
「…あぁ、それはそうと。お昼寝、しよ?」
「あ、うん…そうね…」
上目遣いでとことことこちらへやって来る莉愛が妙に可愛くて、私は小さく返事する事しか出来なかった。
おぉう、なんか変な雰囲気。莉愛ってかなり我が強いから、雰囲気作りが上手いんだよねぇ。いや、やましい事は一個も無いんだけどね。中学生と同衾って犯罪でしたっけ?
リビングのソファーに寝転がり、莉愛の小さい体を抱えて毛布を被る。毛布を被らないと寝れない体質なんだよね。
莉愛の体温が伝わって来て、エアコンの冷風と良い感じに合わさって心地良い。はぁーっ、最高。
「お休み、瑠衣ねぇ。良い夢見てね」
「?うん、お休み」
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「ちゅぷっ…ちゅ、ん、ぅうん…ぷはぁっ」
「ただいまー。…うわ、昼間からやってるねぇ」
「ただいま。くっ、居間でなんて真似を」
「ちゅぽんっ。…二人だって、瑠衣ねぇがこんな無防備になってたらやるでしょ。おかえり」
「えげつない倒置法を見た。や、まあそれはそうなんだけどね…お昼食ったー?」
「あ、そこにあるよ。あっためれば食べれるから。じゃ、ボクはもうちょっとやってるね」
「ありがとう。…うらやまなんだが?」
「凛、後でやればいいでしょ。つーか夜だって死ぬほどやるんだし変わんないよ」
「…それはそうだけど」
神室四姉妹には、ある秘密がある。
一つは、他の三人が長女瑠衣を異常な程好いている事。結婚しても良いくらいに、だ。
そして二つ目。瑠衣が寝ている状態に入った時、三人は獣と化す。唇を蹂躙し、胸を吸い尽くし、肌を重ね、秘所を疼かせる。協定と呼ばれる物はあれど、かなりガバガバである。
そして瑠衣は蝶よ花よと育てられ、箱入り娘も真っ青な超世間知らずである。当然のように性知識は小学生レベルであり、女性同士の性行為の方法など知る由もない。従って、例えば妹からキスを求められたとして、妹の気が済むまま、成すがままにされるだろう。何故なら大事な妹だからである。もしもそれがエスカレートして行ったとしても…同じ結果になるだろう。
即ち、凛、麗、莉愛。この三人の目の前には、一流ホテル張りのオードブルが盛られているのだ。そのくせ、食べない。食べても良いのに、食べられない。その関係が就寝時にのみ構築される事は彼女達にとって枷であり飴。その相反をこそ楽しんでいるのである。
何を隠そう、彼女達は―――変態なのだ。
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ヒューマンドラマくん涙目でワロタ