4. 疑念①
「……えっと、どうするも何も、単にただ興味があっただけです……」
凍りつくような張り付いた空気に、私はしどろもどろになりながら、クラウスの質問に答えた。
「ほう、興味」
先生の目がすぅと細められる。
うわー、なんかマズい気がする。
何? なんの?
え、先生、攻略対象キャラじゃないよね?
興味持ったらいけなかった?
絶対これは下手なことを言ってはいけないやつだ。
どうにか上手い言い訳をしなければ!
私は引き攣りそうになる顔に無理矢理笑みを貼り付ける。
「実は私……」
「実は?」
ええい、ままよ!
「学校の先生に憧れていたんです!」
「はい?」
意外な返答にクラウスはぽかんと呆気に取られた顔をする。
こうなったらこじつけでもなんでもいいから誤魔化すしかない!
「平民の身分で笑われるかもしれませんが、昔から教師の仕事に憧れていたんです! だから、学校の先生ってどんな人がなれるのかなと思って。やっぱり貴族じゃないと無理なんですかね?」
「……いえ、そんなことはありませんが」
「本当ですか! いやー、私なんて知識もないし、勉強もまだ碌に出来てない分際で夢見がちとか思わえるかもしれないんですけど。アハハハ」
一気に捲し立てるように喋ってしまったが、わざとらしかっただろうか。
ちらりと相手の反応を窺うと、彼はふっと息を小さく吐いた。
「そんなことはありませんよ。こうやって学ぼうとする意思があるのですから」
さっきの冷ややか目は何処へやら、先生は元の優しい表情に戻っていた。
「でも光の加護を受けた貴女にはもっと別に進路があると思いますがね。例えば、宮廷魔導士とかどうですか?」
「魔法のマの字もまだ分かってない私には無理ですよー」
「努力次第だと思いますよ。歴代の神子はそれだけの力と才能がありましたから。どうでしょう、この魔法学の科目は基礎クラスの他に応用クラスの授業も受けられては?」
「そ、そうですね」
会話が元の授業選択の内容に戻り、内心ホッとする。
……なんとか誤魔化せたみたいだ。
そうこうしているうちに午前の授業の時間になってしまい、相談の続きは放課後にという話になった。
私は先生にお礼を言うと教室のある校舎へと戻る。
「緊張したぁ」
人気のいない廊下に出ると、へなへなと壁にもたれかかって、脱力する。
とりあえず、怪しいところはあるものの、クラウス先生がヘルプ機能と同じように助けてくれる人間ということが分かった。
先生のお陰でなんとか授業のカリキュラムが組み上がりそうだし、それに分からないことがあれば個別に勉強を見てくれると言ってくれた。
なんて頼りになる先生だろう。
……それが本当の姿の話だが。
さっき対峙した様子だと、一見温和な雰囲気を醸し出しているが、時折覗くあの探るような目が只者ではないように感じた。
殺意とかではないから、まさか変なことに巻き込まれたりとかはなさそうだが。
しかし、ただのヘルプキャラにしては色々ありそうだ。
うーん、もしかして、シナリオに関係のないところで細かい設定でもあるのだろうか?
そういえば、シナリオを書いているときも、あったな。
設定を後出しで教えられるクライアントを思い出す。
『このシナリオ、悪くないんだけど、このキャラこんなこと言わないから直して』
『え、でも設定では』
『あ、設定ちょっと変えているんだよね。新しい設定こっちだから。そう言うことでよろしく』
『……』
………………思い出したら腹が立ってきた。
あのクソクライアント。
そんなことが、一度ならず二度も三度もあったことを思い出し、クラウスの設定もシナリオライターの知らないところで何か別の設定が付け加えられているのかもしれないと考え直す。
一体、何者なのだろうか?
「……まぁ、攻略対象キャラじゃないから、関わっても問題ないよね」
考えても分からないことので、この事は放置することにした。
直接被害が出そうになったらその時に考えよう。
それよりも問題は……
「やぁ、アリア。また逢ったね」
廊下の向こう側からやってきた人物見て、頬が引き攣る。
「エリオット王子……」
キラキラエフェクトを相も変わらず振り撒くこっちの方をなんとかしなくては。
話が長くなるので、話数を分けました。
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