35. VS魔王①
目の前に差し出されたルシフェルの手に吸い寄せられるように、ふらふらと自分の手を重ねた。
「フフっ。決まりだな。早速、魔界へ行くぞ」
私の答えに満足したルシフェルは私をお姫様抱っこで抱き上げると、背中の翼広げた。
まるで重力を感じさせないように跳躍すると、羽を羽ばたかせて上空に浮き上がる。
「掴まっていろ」
突然の飛行に驚き、言われるままルシフェルの逞しい体にしがみついた。
――あ、いい匂い。
魔王様、どんなコロン使っているのですか?
それともこれが魔王の色香?
ルシフェルにしがみつきながら、そんなことを考えていると、あっと言う間に校舎より高い位置に飛んでいた。
うっとりとルシフェルの体にもたれ掛かっていた私の目に、離れていく校舎が映った。
「ひっ」
高っ!!
――堕ちたら死ぬっ!
宙に浮いている足からぞわぞわと恐怖が競り上がってきた。
え、嘘。
怖いっ!
魔界までこの状態で飛んでいくのっ!?
やっぱり早まったかも!
生身の状態で相当な高さを飛んでいるという恐怖に一瞬でさっきまでの乙女モードが解けていく。
「やっぱり無理っ!! 帰してっ!」
「こら、暴れるなっ!」
パニック状態になった私はルシフェルの体にしがみつきながら、彼の体を揺さぶった。
当然、ルシフェルはバランスを崩し、フラフラと空中を揺れるように大きく蛇行する。
「ぎゃぁぁぁああっ! 落ちるっ!」
「くっ! 落ち着け。叫ぶな! 本当に落ちるぞっ!」
「嫌ぁぁっ!」
恐怖とパニックで泣き叫んだ、その時だった。
「アリアさんを離しなさい!」
叫び声と共に、突然眩い光が空全体を覆うように広がった。
「な、何!?」
強烈な光に目が眩み、視界が遮られる。
「ぐはっ!」
呻き声を上げたのは私を抱えていたルシフェルだった。
顔を上げれば、ルシフェルが苦悶の表情で苦しんでいるではないかっ!
うぇ!?
ちょっと、待って、この状況。
嫌な予感を感じた瞬間、ルシフェルの両手が私を離した。
「きゃあああああっ!」
宙に放り出された私はみるみる間に落下していく。
おおおお落ちてる!
私、落下しているっ!
――このままだと地面にぶつかるっ!
迫り来る地面に目を閉じたその瞬間。
突然、体がふわりと浮き、落下のスピードが緩まった。
「ふぇ?」
ふわふわと宙に浮きながら、私はゆっくりと地上へと降りていく。
――えっ!? どういうこと?
そして間もなく体が地面に着くという時、私の体を受け止める者がいた。
「大丈夫ですか? アリアさん」
「く、クラウス先生っ!?」
地表に近づいた私を受け止めたのは、なんとクラウスだった。
お姫様抱っこをするようにクラウスの腕が私の体を支え、私は先生の腕に抱かれながら、何が起こったのか上空の魔王を振り返った。
上には、空中で顔を両手で覆ったルシフェルの苦しんでいる姿があった。
「――これは。一体、何が」
「アリアさん、怪我はないですか?」
心配する言葉に顔を戻せば、いつになく真剣な顔をしたクラウスと目が合った。
――ドキ。
至近距離で見つめられ、胸がキュンと脈打つ。
よく考えたら、この状況、魔王ルシフェルに引き続き、クラウス先生にもお姫様抱っこをされているっ!
ヤダっ! 本当にヒロインみたいじゃない!?
「……先生」
「怪我はないようですね。立てますか?」
「は、はい」
クラウスはゆっくりと私を地面に下ろすと、そっと私の頬を撫でた。
「魔王に無理矢理連れられそうになるなんて、怖かったでしょう」
心から私を案じ、心配な表情を見せるクラウス。
私は初めて見る彼の表情に言葉を詰まらせた。
「……」
言えない。
ルシフェルの色香に惑わされて、自ら魔王の手を取ったなんて……。
確かに状況から見たら、無理矢理ルシフェルが私を攫っているように見えたかもしれない。
しかし実際は、乗り気で魔界へ行こうとしていたなんて、口が裂けても言えない……。
気まずさと申し訳なさで良心が痛んだ。
「もう少し、早く駆けつけることが出来ればこんな怖い思いをさせなかったのですが……。すみません」
「い、いえ。先生が謝ることでは……」
寧ろ先生が謝れば謝るほど、こっちの良心が痛むから、止めてっ!
そんな気まずい状況を打破してくれたのは、ルシフェルの雄叫びだった。
「よくもやってくれたな、人間っ!」
「――っ!」
「……」
私とクラウスは頭上のルシフェルへと顔を向ける。
「おのれ、人間如きが小賢しい真似を――」
怒りの形相に表情を変えたルシフェルが私達を睨んだ。
その体から先程よりも更に強い魔力を放っている。
――ま、マズいっ!
明らかに戦闘態勢になっている。
なんということだ!
ここに来て、魔王を倒すルートに切り替わってしまった!
しかし、今の私の実力であのルシフェルを倒すことが出来るのだろうか?
でも、ここで私が応戦しなければ、人類の滅亡は免れない!
とやかく言ってられない。
こうなったら――。
先手必勝っ!
「食らえっ!」
私は唯一知っている攻撃魔法をルシフェルに向かって放った。
無詠唱で威力は低いが、奴の苦手な光魔法だ。
さっきも眩い光線にやられたようだし、もしかしたら効くかもしれない。
一か八かの私の光魔法がルシフェルの元へ飛んでいく。
「ハンッ。なんだ? 随分と弱い魔力じゃないか」
――ベシっ。
まるでそこら辺に飛んでいる虫を殺すように、ルシフェルの手が私の攻撃魔法を一振りで叩き落とした。
「……う、うそ」
力の差はあることは分かっていたが、これほどまでとは。
「――これがお前らの実力か?」
「ひぃ」
駄目だっ!
敵わない!
――一体、どうしたら!!
魔王戦突入です。
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