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3. ヘルプキャラ


 

「はぁぁぁぁ」


 盛大なため息が口から溢れる。

 初日から疲れてしまった。

 寮の自室のベッドに倒れ込むように寝転がり、今日一日の出来事を思い返していた。


 ――入学初日で、攻略対象キャラであるエリオット王子からの友達宣言。


 王子からの誘いを平民の私は断ることもできずに、頷いてしまった。

 その所為で今日一日、興味本位の視線と殺気だった視線に刺されまくり、異様に疲れた。


 ええー、ゲーム内の主人公のアリアってこんな状況で日常を過ごしていたの?

 鉄の心臓の持ち主じゃない?

 私、今日だけでもう疲れたんだけど?

 いくら光の神子とか言われた特待生だからって、平民の私には王子の友達なんて無理!

 でも、あの状況で「フラグ立てたくないので友達なんてなれません」なんて言えないでしょう!?

 断ったら断ったらで、平民風情が何様のつもりだって怒られるヤツでしょう?

 詰みゲーじゃん!  


「あーもう!どうしてこうなる!」


 手元にあった枕を掴み、ストレスの捌け口にポカポカと叩く。


「私は関わりたくないのに、どうしてイベントが進んじゃうの! 友達宣言なんてされちゃったら、交友イベントが発生しちゃうじゃん!」


 はっ!

 また騒いでしまった。

 大声で騒いでいるとまた寮母さんに怒られてしまう。

 私は息を潜めて、ベッドの上に座り直した。


 こういうところが平民だと蔑まれる要因になるのだろう。

 貴族令嬢たちを見習った立ち振る舞いをしないと、余計に貴族たちから反感を買ってしまう。


「……もっとも、もう遅いかもしれないけどね」


 エリオット王子と話している私に向けられた彼女らの嫉妬に満ちた顔を思い出し、ため息を吐いた。

 あの後、午後の授業を知らせる鐘がなったため、王子と大して話をすることなく教室に戻れたが、今後はどうなるか分からない。

 今の私に出来ることと言えば、王子が居そうな場所を避けて行動することぐらいなものか。

 

 ……なんせ、エリオット王子はフラグが非常に立ちやすい攻略対象なのだ。

 王子と会話をするだけで簡単に好感度が上がる仕様で、好感度が一定値を越えるとエリオット王子ルートへ入ってしまう。


 大雑把な設定はこうだ。

 エリオット王子はロマンチストな性格のキャラで、同じ光属性の加護を持った平民の主人公に興味を持つ。親睦深めるとあっという間に好感度が上がり、王子はヒロインを運命の相手だと思い込むようになる。

 平民と王族の恋なんて障害が大きいわけだが、障害が大きければ大きいほど恋は燃え上がるようで、周りの諫める声を聞かず恋愛に走ってしまう。

 つまりは夢見る王子様なのである。

 そのおかげで主人公は大変なことになるのだが……

 その後のシナリオを思い出し、私は身震いをした。


「絶対、王子には近づかないようにしよう。はぁ、頭が痛い。……あー、頭が痛いといえば。他にも問題があるのよねぇ」


 私は起き上がって、机の上に置いた鞄を開けて中から用紙を取り出す。

 それは本日渡された授業選択の提出書だった。


 恋愛ゲームの世界とは言え、実際に授業はあるわけで……。

 ゲームの世界では一週間分の授業を決めて、スタートボタンを押すだけだったが、現実ではそうはいかない。


 この学園の勉強方針は生徒個人の自主性に任せる選択授業方式を取っている。

 一般教養を学ぶクラス、魔法を勉強するクラス、騎士クラス、貴族としての立ち振る舞いや社交を学ぶクラスなどがあり、自分が必要だと思う科目を選択する。

 その選択科目でも上級、中級、下級クラスの階級毎に別れて授業が行われる形だ。

 入学して数日は、どんなクラスがあるか一通りの授業を受けるお試し期間となっているが、それまでの間に自分が受けたい授業を決めなければならない。

 ゲームでは受ける授業とその階級によって上昇するパラメータが変わり、そのパラメータが特定の攻略対象キャラとの好感度に繋がるというシステムだった。

 例えば、エリオット王子を攻略するのには、一定の賢さと魔力、魅力のパラメータがいるといった具合だ。


「好感度はどうでもいいけど、何を勉強したらいいやら……」


 ゲームでは主人公のパラメータを上げるために、がむしゃらに授業を詰め込んでいたが現実でそんなことをしたら倒れてしまう。

 賢さを上げるために一般教養のクラス、魔力を上げるために魔法のクラス、体力を上げるために騎士クラスの授業、優雅さと魅力を上げるために社交学のクラス。その他にも定期的に行われるお茶会や社交パーティーに出たり、イベント発生を狙って各催しや行事に出たりすると、パラメータアップに繋がった。

 それこそ朝から晩まで過密スケジュールを入れて主人公の成長に勤しんでいたが……

 はっきり言って、過労で死ぬわ。

 

「乙女イベントどころじゃないわよ。はぁ、困ったー。……こういう時、相談出来る相手がいるといいんだけど」


 口に出して、ふと思い返す。


 そう言えば、ゲームの中にはゲームの進行を助けるヘルプキャラがいた。


 各攻略キャラの情報を教えてくれたり、今の好感度がどれくらいか、行き詰まったときのヒントを教えてくれたり。

 えっと、どんなキャラだったっけ……。


「確か、生徒ではなくて……先生だっけ?」


 私は朧げなビジュアルを思い起こす。

 男性キャラで、確か緑色のロングヘアーで、眼鏡キャラだった気がする。

 ……ん?

 なんかそんな人、見なかったっけ?


「――ああっ!」




 

―――――――――― 





 翌日。

 私は一筋の光を見出し、朝早くから校舎を彷徨っていた。


「えーと、研究棟は確かこっちよね」


 記憶の中のゲームの校舎図面を思い起こしながら、ふらふらと校舎の奥へ進んでいく。


「あ、ここだ!」


 ――魔法学研究室。

 扉の上にそう書かれた教室を見つけ、私は喜びに湧く。


「えっと、こっちの扉が学生用の研究室で、隣の部屋が講師用の研究室なんだよね……」


 曖昧な記憶だが、確かその筈だ。

 私は魔法学研究室の隣のドアの前に立つと、胸の高鳴りを抑えながらノックした。

 ――コンコン。


「はい、空いていますよ」


 やっぱりこの声!

 私は聞こえてきた声にガッツポーズをして、勢いよくドアを開ける。


「失礼しますっ!」


 魔法学研究室と言うと、怪しげな鍋とか見たことのない薬草とか沢山の器材とかがごちゃごちゃと置いてある部屋だと想像しそうだが、ここの研究室は違う。

 壁一面に沢山の本が並べてある本棚に、中央には数人が座れる大きなテーブルと椅子があるだけの至ってシンプルな部屋だ。

 魔法学研究室らしいものと言うと、部屋の奥に申し訳さなそうな程度にある調合スペースくらいなものだろうか。そこも綺麗なもので、持ち主の性格が出るような整理された部屋だった。

 

 テーブルで書き物をしていた部屋の持ち主が顔を上げる。

 年齢で言えば20代半ば。

 深い緑色のロングストレートヘアに眼鏡をかけて、講師用の白い魔術用ローブを纏ったその人は、昨日廊下で遭った講師だった。


「おや? どうかしましたか?」

 

 来たー!!

 ヘルプキャラのテンプレ台詞!

 ああ!この構図、ゲームで見た事がある!

 私の中で眠ってきた記憶が思い出される。

 まさに彼は、主人公が困った際に助けてくれる助言キャラ!

 通称、ヘルプ機能!


 涼しい声で柔和な雰囲気を醸し出すそのキャラはまさに私が探していたその人だった。


 まさか入学式に声をかけてくれた講師が、そのキャラだったとは。

 通りでどこかで見たことのある姿と声だと思ったのよ。


 どうしてシナリオライターの私が彼を覚えていなかったと言えば、答えは簡単。

 ヘルプキャラのセリフはシナリオ外だからである。

 シナリオに関わってくるキャラではないから、こういうキャラクターがいるというくらいにしか認識していなかったのよね。

 それにヘルプキャラなので、ボイスも良い声ではあるが攻略対象キャラと比較して特段有名な声優さんではなかったから、記憶の片隅に置いやられていたわけだ。


 さて、とりあえず訪ねてみたものの、この世界でゲームと同様にヘルプキャラとして機能してくれるかどうかなんてわからない。

 どうやって切り出そうかと考えていると、彼の方から私に話しかけてきた。


「あなたは光の神子の……」

「っ! そうです! アリアと言います! 先生、私のことをご存知なんですね!」


 私のことを知っていることに喜び、思わず食い気味に返事をする。

 先生は持っていたペンを置くと、私の方に向き合うように座り直した。


「ええ、もちろん。……色々と注目の人物ですからね」


 眼鏡の縁を指で押し上げ、意味深な笑みで頷く先生に、なぜだか一瞬背筋がヒヤリとした。


 ん? なんだろう、今の含みのある言い方。

 講師陣の間でも私は有名という意味だろうか?

 まぁ、平民出身の特待生なんて噂の的には違いない。


「立ち話もなんですし、どうぞ中へ」


 そう言って、先生はテーブルを挟んで向かい側の席に座るよう勧めた。


「……お仕事の最中にすみません」


 先生の向かいに座った私は、テーブルの上に広がった書類を見て謝る。

 何の書類か分からないが、朝から書類仕事なんて講師も大変である。

 しかし、その書類に書かれた先生のサインから彼の名前を知ることができた。


 ――クラウス・ウォード。


 ふんふん。そんな名前だったのね。

 ヘルプ機能なんてほとんど使わずにプレイしたから、彼に関する情報ってほとんど持ってないのよね。

 ウォード先生と呼べばいいだろうか。


「えっと、ウォード先生……」


 私が名前を呼ぶと、先生はテーブルの書類を片付けながら言う。


「クラウスで良いですよ。この学園にはウォードの性の講師が何人かいますから」

「そうですか……。じゃあ、クラウス先生」

「はい」


 ニコニコと温和な笑みで対応するクラウス先生の姿は、画面で見ていた立ち絵そのものだ。

 これならばいける気がする!

 私は謎の確信を得て、話を切り出すことにした。


「クラウス先生、私を助けてくれませんか? 実は授業選択のことで悩んでいて。でも誰に相談していいか分からなくて、困っていたんです!」


 授業選択の申請書を差し出しながら言うと、クラウスはなるほどと、その用紙を手に取った。


「授業編成ですか。確かに進路が定まっていない生徒にとって悩ましいことですよね。貴女のように平民からの入学だと特に」

「はい、そうなんです」

「私でよければ力になりますよ」

「本当ですか!」


 スムーズな展開に驚き、思わず大きな声が出た。


「ええ、もちろん。私はここの教師ですからね」

「ありがとうございます」

「でも、一つ確認させてください」

「はい?」

「なぜ私なんですか」


 微笑んだ表情のまま、クラウスはもっともな質問をしてくる。


 まぁ、そうくるよね?

 ほぼ初対面で関わりのない生徒が突然やってきて相談に乗ってくれなんて、普通に考えたらおかしな話だ。

 一体、ゲームの中ではどう言った経緯で主人公に逢ったのだろう。

 そんなの全然覚えていないよ!

 貴方がヘルプキャラだからです、なんて変なことも言えないし。


「え、えーと、それは……」


 返答に窮していると、クラウスは小さく息を吐く。


「言いたくないならいいですよ。まぁ、私の方も光の神子と呼ばれる稀有な存在には興味がありますから。授業に関することなら幾らでも相談ください」


 怪しさ満点の私に対して、とことん優しく対応するクラウスに感動すら覚える。

 さすがヘルプ機能!


「ありがとうございます!」


 素直にお礼を言うと、

「じゃあ早速カリキュラムの説明をしましょうか」とクラウスは進めてくれた。




「そうですね。一般教養の座学はもう少し多めに取ってもいいかもしれませんね。社交の科目は何か考えましたか?」

「いえ、まだ」

「貴女の場合だと行儀見習いの授業をお勧めします。将来のことを考えると、受けて損はないと思いますよ」


 クラウスは思いの外、丁寧に説明をしてくれた。

 親身になって相談に乗ってくれる先生の存在はこの上ないほどありがたい。


 しかも――

 私は説明をするクラウスをまじまじと見る。


 ――ゲームキャラの一人であるだけあって、顔がとても良い。


 近くで見ると、眼鏡の奥は濃い緑の瞳をしていることが分かる。睫毛も長いし、髪もサラサラだし……

 攻略対象キャラに混じっていても良いくらいのビジュアルだ。

 生徒からも人気があったりするのだろうか?

 彼が関係するシナリオはないので、その素性が知りたくなるところだ。


「何かわからないことでも?」


 しまった。ジロジロと見すぎた。


「あ、えっと……」


 咄嗟にどう誤魔化そうか考えるが、丁度良い機会だと思い直す。

 どうせなら直接聞いてみればいい。

 ヘルプキャラの情報を知っておくに越したことはないよね。


 そんなことを考えて、私は軽い気持ちで先生に質問をしてみた。


「先生はここに勤めて何年くらいですか?」

「私ですか? 5年になりますかね」

「出自はこの国ですか?」

「ええ」

「やはり貴族の方なんですか?」

「ハリス公爵家の分家にあたるウォード家と言えば分かりますかね」

「すみません。あまり貴族の界隈には詳しくなくて……」

「一応爵位がありますが、私自身は次男坊なんでそれほど権力はありませんよ」

「へぇ、そうなのですね」

「それで?」

「えっ?」

「私について調べてどうするつもりですか?」


 さらりとした笑みを浮かべているが、氷のような冷ややかな圧を感じて背筋に悪寒が走る。


 あ、まただ。

 この感じ。

 何でただのヘルプキャラなのに、妙な迫力を感じるの?

 え、何?ただ質問を投げかけただけなのに、何か気に障ることでもあった?


私の第六感が警告を告げる。

 ―—ええ? この講師、ただのヘルプ機能じゃないの??



ヘルプキャラの登場。しかし、彼には何やら秘密があるみたいで……



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