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28. 勧誘

「何者かと言われましても……」


 ただの乙女ゲームヒロインですと言っても話が通じないだろうしな。

 というか、今までの私の行動ってほとんど成り行きだし、何か壮大な目的や計画をもって画策したわけではない。

 単にフラグを折るために行なった結果である。


 しかし、ニコラスがここまで裏で関わっていたなんて……。

 とは言うものの、エリオット王子を破滅に貶すという根幹はシナリオに沿っているので、ニコラスの行動として筋は通っている。

 ある意味、シナリオ通りの行動ということなのか。

 

 ――寧ろ、その計画を悉く狂わせていたのは、私か。

 つまりは私にも責任があるってことだよね。

 うーん、複雑。

 取り敢えず、誤解は解いておきたい。

 私はダメ元で弁明することにした。


「……私はしがないただの平民ですよ。今、色々と仰っていましたが、騒動のきっかけに私がいたかもしれませんが、計画して起こしたことなんてありませんから」

「そんな筈はないでしょう。貴女がしてきたことを見れば、ただの一般市民である筈がない。正直に話してください。それとも、やはり何か言えない秘密を持っているのですね。第二王子派の誰に付いているのです? それともどこぞの間者ですか?」

「いや、本当に。話を聞いてよ! 私は次の王様が誰になろうが興味ないし、送り込まれたスパイでもないからね!?」


 思わず素の口調で突っ込むと、ニコラスはやれやれと前髪をかき上げた。

 パッツン斜めの前髪がサラサラと靡く。


「今までの貴女の行動を見るに、第二王子派かと思っていましたが、その様子ではそうでもないようですね」

 

 ニコラスは私の顔色を見て、そう判断する。

 うん、間違ってはないよ。

 間違ってはないけど、さっきから過大評価し過ぎだよ、ニコラス。

 まじで権力のない平民なんだって。


「この際、貴女が何者でも構いません」

「え?」

「ここまで計画を狂わされたんです。貴女には責任をとっていただきたい」

「せ、責任!?」


 私は唾を飲み込み、背筋を凍らせる。

 ――や、やはり私を殺そうと!?


 私はちらりと部屋の隅の甲冑を見る。


「私はね、アリアさん」

「は、はい!」


 ニコラスが話出し、慌てて彼に視線を戻した。

 まずい。

 ジョシュアの時のように魔法攻撃もあるかもしれない。

 ええっと、ニコラスの加護ってなんだっけ? 文武両道っていう設定だったけど、どの程度の実力か全く分からない!


 私は相手がどんな出方を見せてくるか、固唾を飲みながら身構える。

 そんな私に対して、ニコラスは眼鏡を指で押し上げ、不敵な笑みを浮かべて言った。


「私は貴女の力が欲しい」

「…………は?」


 な、なんだって?


 事態が飲み込めない私にニコラスは更に続ける。


「私の傘下に入りませんか」

「はい?」


 突然、何を言い出すんだ?

 傘下?

 え? 

 勧誘ってこと!?


「エリオット王子が改心したことで私の中の政権の勢力図が変わりました。今まで彼を失脚すべく動いていましたが、今のエリオット王子をもう少し見ていたいと思いましてね」

「はぁ」

「現状の派閥のままにいるにせよ、第二王子派に寝返るせよ、私には使える駒が必要です」

「駒ですか?」

「ええ、そうです。私の計画を引っ掻き回した情報通の貴女には是非、私の陣営に加わっていただきたいのです」


 随分と含みのある言い方である。

 ただの平民だと信じる気ないな、こいつ。


「……あ、あの、もし仮に断ったら?」


 恐る恐る訊ねると、ニコラスは口の端を上げ、冷たい目で私に微笑んだ。


「ここまで話したんです。貴女に拒否する権利はありませんよ」

「ひっ」


 ――勝手にペラペラ話ったのはあんたじゃない!?

 それを脅しに使うなんて、なんて卑怯な!


 しかし、底冷えするようなニコラスの目は本気であることを証明している。


 私は部屋の隅に飾ってある甲冑にちらりと目を向けた。

 もし仮にここで断ったら、シナリオのエリオット王子の様に刺されるかもしれない。

 刺されないにしても、相手はこの学園の生徒会長。

 ある事ない事を吹聴されて、私をこの学園から追い出すことだって可能だろう。


 ――退学なんてされたら、野垂れ死エンドだよ!

 ひぃい。それも嫌っ!


 だからと言って、ニコラスの所属する傘下に入る?

 彼が王宮のどんな派閥に入っているかは知らないが、確実に面倒ごとに巻き込まれる予感しかしない。


 ねぇ、乙女ゲーム要素何処へ行った???

 なんで急にこんな王位継承争いの関わる話になっているの?

 そんなゲームじゃなかったよね!?

 

 混乱する私を見て、ニコラスはフッと笑う。


「もっとも今すぐに返事を頂こうととは思っていません。貴女にも考える時間が必要でしょうから」


 そ、そうだよね!

 考える時間は必要よ!


「返事を貰うのは明日に致しましょう」

「明日!?」


 猶予なさすぎでしょう!?

 もうちょっと考える時間くださいよ!?


「――良いお返事を待っていますよ」




ーーーー




 生徒会室から追い出された私は、ふらふらと廊下を歩いていた。


 頭の中はパニックでぐるぐるとしている。

 一体全体どうしてこんな展開になってしまったのだろう。

 私が攻略対象を引っ掻き回し、シナリオを塗り替えた為にこんなことになってしまったのだろうか。

 生徒会長ニコラスは腹黒キャラだと認識していたが、まさかここまでとは。

 

 ――しかし、私はニコラスの傘下には入りたくない。

 けれど穏便に断る方法が思いつかなかった。


 今までは、相手の攻略対象キャラのシナリオに沿って、なんとかフラグ回避してきたが、ニコラスの場合はそうは行かない。

 シナリオからかなり外れているし、何より向こうから手の内を見せてきた。

 バッドエンドでのエリオット王子とエレノアを殺害してしまうシナリオを思い出すと、下手に逆上させるのだけは避けたい。

 せめてエリオット王子が更生されていなければ、まだ付け入る隙はあったかも知れない。

 しかし、王子は既に改心済み。


 馬鹿馬鹿私――っ!

 なんでニコラスの展開を考えずに、エリオットに王族としての自覚を取り戻させてしまったの!?

 この国の将来の為に良いことをしたとドヤ顔をしていた自分を殴りたい!


 あの時は、上級クラスさえいかなければ、ニコラスのルートに進まないと思っていたから、深く考えずに行動してしまったんだよね。

 ああ、私の馬鹿! 考えなし!


 はぁ。

 過去を責めたところで、どうしようもない。


 ーーこうなったら、今からニコラスの弱みを探るしかない。


 そして、こんなときのヘルプキャラ!


 私は脳裏にクラウス先生を思い浮かべた。

 腹黒キャラには腹黒キャラで対抗よ!


 そもそもロングストレートヘア、メガネ、綺麗系の美形、頭が良い策士タイプというニコラスのキャラクターって、クラウス先生とキャラ丸被りじゃん!

 え、設定ミス?

 乙女ゲーとしては致命的よ?

 いや、考えてみればゲームではクラウス先生はヘルプキャラで立ち絵しかなかったからそこまで深く気になることはなかったのかもしれない。

 しかし、こうして現実で二人を比較してみると……

 うん、クラウス先生の圧勝だね。

 腹黒さで比較してもクラウスに勝る人間はいないだろう。


 ふふーん。

 クラウス先生という味方がいて良かった。

 きっと、何かニコラスの弱みを知っているでしょう!


 と言うことで、私はいつものようにクラウス先生の研究室までやってきた。


「クラウス先生ー! 助けてください! ……ってあれ?」


 ドアを開けようとして鍵が閉まっていることに気づく。

 ガチャガチャとドアを開けようとするが動かない。


「……く、クラウス先生!? いらっしゃいますか?」


 返事はない。


 ――もしかして留守!?

 え、え!?

 嘘でしょう!?

 いや、待って落ち着こう。

 授業が長引いているだけかもしれないし、用事で席を外している可能だってある。

 ちょっと待っていれば来るはず!


 ヤキモキしながら廊下の前をウロウロとしていると、隣の魔法学研究室のドアが開き、顔見知りの魔術研究部の部員が出てきた。


「あれ? アリアさん? もしかしてクラウス先生待っている?」

「は、はい。そうです!」

「先生なら二、三日出張で留守だよ」

「えっ!?」

「学会に参加するためって言っていたけど。……もしかして聞いていない?」


 き、聞いていないよーっ!

 このタイミングで居ないとか嘘でしょう?

 ジョシュアの時に引き続き、役に立たないとか無いでしょう!??


 ――クラウス先生!!!

 

 顔面蒼白になりつつも、取り敢えず教えてくれた部員さんに礼を言い、私はフラつきながらその場を立ち去った。


 返事をするのは明日。

 それまでにどうにか自分で対応しなきゃいけないってことっ!?




――――――――




「……結局何も思いつかなかった」


 あれから寮に帰り、寝ずに一晩中対策を考えたが上手い案は思いつかなかった。

 お陰で今日は授業どころではなかった。

 授業中もああでもない、こうでもないと作戦を考えたが、一向に良い案は思いつかず、気づけば約束の放課後になっていた。


 ――まずい。

 

 トンズラして無かったことにしたいが、逃げたら逃げたらで、きっとニコラスは私に制裁をするだろう。相手は学園の権力を握った生徒会長。平民の私など、どうにでも出来てしまう。

 退学だけは避けたい。

 だが、ニコラスを断れるほどの切り札はこちらにない。

 

 このまま、ニコラスの傘下に入るしかないか――。

 

 苦渋の選択肢に最後まで悩みながら、私は生徒会室のドアをノックする。


 ――コンコン。


「どうぞ」


 ニコラスの声が聞こえ、私は心臓をバクバクさせながらドアを開いた。

 予想していた通り、生徒会室にはニコラスの姿しかない。

 私は部屋の奥の机に座るニコラスの前に立った。


「……」

「……」


 緊張感の中、ニコラスに対峙する。

 どう切り出すか迷っていると、ニコラスの方が先に口を開いた。


「……昨日の話だが」

「はい」

 

 緊迫した空気が漂い、私はゴクリと唾を飲み込む。


「……私は君から手を引くことに決めた」

「……………………はい?」


 間抜けな声が口から漏れたのは許して欲しい。

 ニコラスの言葉が全く理解出来なかった。


 ――手を引く?

 そう言った!?

 はぁ? 昨日あんなに脅してきたのに!?

 一体全体どんな心境の変化!???


「……あ、あの。それは一体どういうことですか?」

「言葉通りの意味だ。私は今後、君に一切関わりを持たないと約束しよう」

「はい? え? なんで?」

「……これ以上、答える義務はない」


 問答無用で言い切られ、会話を終了させられた。


「話は以上だ。帰ってくれ」




ーーーーーーーーー



 「………………」


 生徒会室を追い出された私はしばし呆然として、廊下に佇む。

 一体全体何があったの?


 いや、私にとってはいいことなんだけど、理由もなしに一方的に告げられて、釈然としない。

 かと言って……。

 私は追い出された生徒会室のドアを見つめるが、ここをもう一度開けるのは躊躇われた。

 下手に突っ込んで元の木阿弥に還してしまうのだけは避けたい。


 ニコラスの心境の変化は非常に気になるが……。

 とりあえずーー

 私はもぞもぞと動き、制服の中に入れていた鉄板を抜き取った。

 シナリオを考えて、万が一、刺された時を考慮してお腹と背中に鉄板を用意していたが、どうやらこれは必要なかったようだ。


 モヤモヤが残るが、結果オーライでいいのだろうか。

 う、うーん?

 殺されなかったし、命拾いしたが、釈然としないものが残る。

 これで攻略対象キャラのフラグが折れたと認識していいの?


「あー、もう! わからーん!」


 ――一体全体何が起こっているんだよっ!?



 

 

ニコラスに何があったのか、次回のニコラスsideに続きます。


お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも面白いと思ったり、続きが気になると思っていただけましたら、

ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!

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