20. 捻くれた子
打開策もないまま、今日も今日とてジョシュアに追いかけられていた。
「待って!」
「しつこいっ!」
あれから毎日のように朝昼放課後と、時間も関係なく待ち伏せされては攻撃魔法を仕掛けるジョシュアに私は逃げ回っていた。
今日も放課後にジョシュアに出くわしてしまって、全力で逃げている状況だった。
夢中になって走っている内に、校庭を抜け、学園を取り囲む雑木林を抜け、いつの間にか学園裏側にある広い野原へと出てしまった。
流石にここまで来ると生徒の姿は人っ子一人見えない。
「はぁはぁはぁ」
「……ぜえ、はぁ」
はっきり言って脚に相当きている。息も上がり、なんでこんなことをしているんだっけ?と頭も回らなくなってきた。
それは後ろからついてくるジョシュアも同じようで、私よりジョシュアの方がヘロヘロだ。
そして、「もうだめ」と喘ぐ声が聞こえ、ジョシュアが先に倒れた。
「……ゼェ、ハァ、ハァ」
息も絶えだえに、芝生の上に倒れ込むジョシュアに、私は恐る恐る近づいた。
ここまで息が上がっていれば呪文詠唱も出来ないだろう。
「はぁ、はぁ。……もう終わり?」
「……くそっ」
「ふん。この引きこもりっ子が! 平民の体力舐めるんじゃないわよ!」
ここぞとばかりにジョシュアから杖を取り上げた。
これさえなければ怖いもんはない。
調子に乗って、ついつい態度も大きくなるってものだ。
私は仁王立ちになって、倒れているジョシュアを見下ろしながら言う。
「あんたさー。そんなにクラウス先生と勉強している私が羨ましいなら、自分も勉強みて貰えばいいじゃない」
「……」
「何よ」
「……ボクはお前みたいに馬鹿じゃないから必要ない」
「喧嘩売ってんの?」
まったく意地っ張りにも程があるだろう。
本当に偏屈なんだから。
だからいつまでも友達を作ろうともせず、一人ぼっちなのだ。
そう言う私も大概ぼっちなので、人のことは言えないが……
そもそも、この子がこんなヤンデレ体質になったのは、そのぼっち気質が原因だ。
闇の加護持ちと言うけど、その力自体は悪いものでもなんでもない。せいぜいちょっと攻撃魔法に特化した性質っていうだけだ。希少な加護の為、闇魔法について詳しく知る人間が少なく、悪い噂だけが広まってしまっているが、能力だけで言ったら、光の加護と同等の力を持つ素晴らしい加護である。
クラウス先生曰く、闇の加護持ちで周りから倦厭されていたというが、偶々この子の周りには闇魔法に対する理解者がいなかったというだけだ。
でも、この学園は違う。
魔法学の勉強に力を入れているし、毎年優秀な宮廷魔導師を数多く輩出している。
つまり、闇魔法に関する理解も一般人より知っている人間が多いってことだ。
――ジョシュアさえ、心を開けば、一緒に勉強をしたいって生徒って結構いるんじゃない?
ポンっと、ある考えが浮かんだ。
「ねぇ、ジョシュア」
「……なんだ?」
疲れて動けないこともあるだろうが、意外にもジョシュアは話を聞いてくれる様だった。
「あんた、勉強も出来て、魔術の才能もあるんだし、魔術研究部のグループに入れてもらえば?」
「……馬鹿か? ボクは闇の加護持ちなんだぞ」
「それが?」
「…………気味悪がれるだけだ」
「そんなの分かんないじゃない」
「光の神子とか言われてるやつに分かるものか!」
はー、なるほど。
今、分かった。
彼は単にクラウス先生の個人授業を受けているからという理由だけで私を目の敵にしているわけではなかったのだ。
私が闇の加護とは対極にある光の加護を持っているから、絡んでくるのだ。
「……はぁ。なんだ。ただの妬みじゃない」
思わず心の声が漏れると、ジョシュアは聞き捨てならないと睨み返した。
「何だと?」
「あら、違う?」
「……」
聞き返すと、ジョシュアは悔しそうに口を噤む。
どうやら図星のようだ。
「あのさ、別に光の加護持ちだからって、皆から好かれるわけじゃないからね?」
「……そんな筈はない」
カッチーン。
ジョシュアの拗ねた一言に、いい加減頭にきた。
「……言わせてもらうけどね。光の加護を持っているからって誰からも好かれて、誰からも尊敬されるような素晴らしい人間になるわけじゃないの! 見てみなさい、この私を!」
私は胸に手を当て、声高に主張する。
「平民のくせにって蔑まれて、毎日ぼっち生活! その上、光の加護を持っていても基礎的な魔術の勉強さえもついていくのがやっとの劣等生! 基礎が分からないから実技もパッとしない。光の神子とか言われているけど優等生じゃないから、みんなの見る目もただの珍獣扱いよ? そんなんで本当に羨ましいと思う?」
「……お前、自分で言って悲しくないか?」
熱弁を奮う私にジョシュアは哀れみに満ちた目を向ける。
「悲しいわよ!」
「色々残念やつだな、お前」
「うるさい!」
私は叫ぶと、彼を一喝した。
「大体、あなたは自分の実力があるじゃない! しかも公爵家なんて凄いアドバンテージよ。小さい頃から魔術に打ち込める環境にあったんでしょ? 私からすれば、あなたの方が何倍も恵まれているし、魔術師としての素質も桁違いよ。運も才能も、それを努力する実力もあって、一体何が不満なのよ! あんたはね、凄いのよ! もっと自分に自信持ちなさい!」
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