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19. 攻略対象 闇魔法使いジョシュア




 ジョシュア・ハリス

 それが第三の攻略対象キャラクター名前だ。

 

 同学年の男の子だが、私と同じくらいの背丈で顔も声もまだ幼さが残る、少年と呼ぶに相応しい所謂ショタキャラで、学園では制服があるのに、その上から頑なに魔術師のローブを被っている辺りが厨二病っぽい設定のキャラクターだった。

 今はフードによって顔の半分が隠れているが、色白の小顔に黒のサラサラショートカットヘア、金色の大きい瞳という、まさに美少年の外見をしている。


 そんな彼が不機嫌そうに私を睨みつけていた。


「……えっと。……私に何か用ですか?」


 突然、人気のない校舎裏に連れてこられて、私も動揺しながらも身構える。


 しかし、本当に呼び出し多いな! これで何回目?

 乙女ゲー、ヒロインの宿命かよ。


「お前が平民で光の加護を受けた特待生か」

 

 はうぅ。

 CV××××さんのショタボイス!!!

 か、可愛いっ!!!


 声優界でも随一のショタ系ボイスである××さんの声は、生意気な口調であっても可愛い!

 さすがは甘え系弟キャラをやらせたら右を出る者がいないと言われるだけある可愛いボイスを得意する声優さんだわ。

 ゲームでも好きだったけど、実際に聴くと堪らないものがあるなー。


「おい、聞いているのか。なにニヤニヤしている。気持ち悪いな」


 グサっ。


 ううっ。

 オタク丸出しのニヤケ顔を指摘されてダメージを食らう。

 いけない。

 そう言えば、彼は毒舌キャラでもあったっけ。


「ええと。はい、一応その特待生です」

「……試験結果見たぞ。光の神子のくせに、なんでこんな成績なんだ」

 

 突然のディスりである。


 ちなみに全生徒の試験結果は本日廊下に張り出された。

 私も休み時間に確認したが、予想通りのトータルとして中間よりやや低めの順位に位置していた。


 私としては割と精一杯にやったんだけど、なんでこんなこと言われなきゃならないのだろうか?

 しかも初対面で!

 ちょっと可愛い声と顔だからって言っていいことと悪いことがある。

 毒舌キャラだとは知っているが、面と言われて傷つかないわけがない。


 ――そもそも彼とのフラグは立てていないはずなのに、どうしてこうして対峙しているのだろう。


 私の記憶では魔術クラスを一定回数受けた上で、上位の成績を残すと彼のフラグが発生する筈である。

 ゲームにおいて、この条件を発生させるためには、上級クラスに行き、ほぼ魔術クラスのみを受ける勢いで受講しないと上位の成績は取れないという内容だった。

 だが、今の私は魔法学のクラスは取ってはいるが、下級クラスに在籍しており、しかもそれほど熱心に受講していないから、今回の試験では彼のフラグ発生に届くほどの成績ではなかったはずだ。

 無論、それを狙っていての戦略だったのだが……。

 いや、ほんと、実力が足りないからではなく、狙ってだよ。うん。


 ――なのになんで?

 いや待て待て、落ち着くのよ、アリア。

 まだこれがフラグとは限らないじゃない。

 とりあえず話を聞こうじゃないか。


「……私の成績が何の関係があると言うの?」


 突然、私が反抗的に話し出したからか、彼は怯んだ様子を見せた。


「そ、それは……」


 さっきまでの威勢はどこへやら、急に目が泳ぎ出す。

 そう言えば、ジョシュアは極度の人見知りだったっけ?

 深めに被ったフードも人の目を気にしてのことだった。もっとも、それが却って悪目立ちしてるのだが。

 ゲーム内の設定を思い出して、じぃとローブの中を覗くようにジョシュアを見つめると、案の定ジョシュアはオロオロとし出す。

 

 ――ふふっ。可愛い。

 思わず顔がニヤけてしまいそうになる。

 そんな私の表情に気づいたのか、ジョシュアが頬を僅かに赤くしながら、キッとこちらを睨んだ。


 ……おっと、いけない。

 あまり彼をからかって、逆上させるのは避けなければ。


 実はこのジョシュア、所謂病みキャラというやつであった。

 確か設定はこう。

 魔術に関してはこの学園でもトップクラスの実力を持つジョシュアは、魔術師志望で成績も優秀だが、性格が歪んでおり、人付き合いは苦手。

 孤独を愛し、図書館の片隅でいつも一人で研究をしているような子だった。


 主人公が試験で上級クラスに編入すると、魔法学のクラスで彼と交流を持つようになる。光の神子であるヒロインは、そのクラスでもすぐに頭角を現すようになり、その実力にジョシュアは苛立ちを覚え、最初は反発するのだが、ヒロインと交流するうちにその実力を認め、遂には彼にとって初めての友人となる。

 そして更に好感度が上がると、友情が愛情へと変わり、最後には独占欲となって主人公を監禁する。


 ……ここで来る突然のヤンデレ!!

 怖いわっ!

 恋人同士になって、めでたしめでたしでいいじゃん!!

 なんで監禁?

 なんなの? この急展開?

 脚本頭おかしくない!?


 ここでジョシュアの好感度がマックスであれば、彼を説得でき、監禁は解かれ、お互い国一番の魔術師となるべく切磋琢磨するハッピーエンドルートへ。

 好感度が低いと、監禁先から主人公は命からがら逃亡。しかし、途中でジョシュアに見つかり、殺され、ジョシュアも一緒に死ぬ。

 よくありがちな、君がいないなら世界なんて意味ないから一緒に死のう無理心中エンドってやつだ。


 確か好感度上げるためには魔法学の好成績が必須条件なのよね。

 うん、今の成績だと間違いなくバッドエンドコースよね。


 ……バッドエンド、主人公死ぬじゃん。

 

 誰よ! こんなクソシナリオ書いたの!

 はいはーい、私!

 うふ。知ってたー。アハハ。

 もう、ええわ。このくだり!

 現実逃避のあまりノリツッコミしちゃったよ。


 しかもここの監禁シナリオ。

 執筆をしている時にたまたま誘拐監禁を題材にした映画を見ていたから、ものすごくリアルに書いてしまったのよね。

 精神崩壊していく主人公の描写が狂気じみててヤバいって、ユーザーレビューに書かれたっけ。


 ……………。

 ぐおおおっ!

 こんなことなら三食昼寝付きのマイルドな監禁生活にしておけば良かった! 

 何で餓死寸前、精神発狂しかけるシナリオにしてしまったんだ、自分!

 前世の私の馬鹿っ!


 お、お、落ち着こう。

 まだ分かんないから。

 ともかく!

 要はジョシュアに懐かれなければいいって話でしょ?

 大丈夫。まだ何もフラグは立っていない筈だから!


「お前、クラウスあに……、コホン。クラウス先生の個別授業を受けていてただろう」

「へ? どうしてそれを知っているの?」

「それを受けていて、この成績ってどういうことだ。なめているのか」


 私の質問には答えず、彼は私に突っかかる。

 んん??

 何?

 クラウスが何か関係あるの?

 え、設定にそんなのあったっけ?


「えーと、クラウス先生とあなたはお知り合いなの?」

「……従兄弟だ」

「従兄弟!」

 

 なんと! 二人は同じ家系の出身だったのか。知らなかった。

 そう言えば、クラウス先生の口から、ハリス家の分家に当たるとか何とか言っていたような……。

 でも、まさかヘルプキャラであるクラウス先生と攻略対象が関わりを持っているなんて思いもしなかった。


 これもまたゲームシナリオにはない設定というやつか。

 うーん。ちょいちょい、そういうのがあるな。

 でも、シナリオにはない、そういった裏設定があるというのはゲームでも良くある話だ。ゲームには描かれないプロデューサー達の身内話の設定が、実際の世界で反映されているってことか?


「……魔術研究部の奴らがお前のことを話しているのを聞いたぞ。なんでも素質はあるのに、センスと知識が無さ過ぎて宝の持ち腐れだとな! しかも、クラウス兄上の個別授業を毎日のように受けているだと? それなのに! あんなお粗末な成績!」


 うえええっ!

 ちょっと魔術研究部の皆さん!?

 いや、確かに試験勉強教わっているときにも、「センスないね」とか「もうちょっと勉強頑張ろうよ」とか言われてたけど!

 私そんなにダメダメですか???

 いや、たぶん彼らの性格からして、軽い気持ちで言っているんだろうけど、ここに本気に捉えちゃう子がいるから下手にそんなこと言っちゃダメ!

 

 ってことは何か? 私が魔術研究部に助力を求めた所為で、ジョシュアの耳に私の噂が入っちゃったってこと??

 それで、尊敬しているお兄様の個別授業を一人特別に受けている私が妬ましいと言うわけ?

 しかも、成績が良いからではなく、成績が悪いから呼び出しをしたってわけ???

 おおおお?

 脚本にはないシナリオだよ!?

 一体どうしてこんなことに??


「……とにかく。これ以上、クラウス兄上に近づくな!」

「そうは言っても、まだ勉強を見てもらいたいし……」

「お前……。自分の立場を分かっていないようだな」


 思わずぽろりと本音を言ってしまい、それがジョシュアの逆鱗に触れたようだ。

 彼は懐から魔術用の杖を取り出した。


「えっ……ちょっと!」


 焦る私に我を忘れた様子のジョシュアは杖の先を向け、呪文詠唱を始める。


 詠唱魔術って!

 うわわっ。

 マジでヤバいやつ!


「喰らえ!」

「わわっ! 防御シールド!」


 私は超初歩的な防御魔法を展開すると、ジョシュアの放つ攻撃魔法を跳ね返した。


「っく。光魔法か」


 あ、危なかった……

 詠唱の要らない魔法のお陰で、間一髪で間に合った。

 実技試験対策で魔術研究部に教えてもらったばかりの防御魔法が役に立つとは。


 ちなみに魔術には詠唱魔術と非詠唱魔術の二種類があるが、詠唱魔術の方が精度も威力も高く、私にはまだ使えない代物だった。

 私の非詠唱の防御魔法でも防げたのは、ジョシュアが闇魔法の申し子であり、私の使う光魔法が正反対特質を持っているからだろう。魔法の相性が悪いから運良く防げたものの、そうでなかったら諸に攻撃を受けていたことだろう。


 って言うか、今のガチモンの攻撃魔法じゃん!

 殺す気かっ!


「次は当てる」

「わぁ! 待て待てっ!」

「待たんっ!」


 聞く耳持たない!

 いや、何この病みキャラ!!

 ――こうなったら!


「あ、クラウス先生っ!」


 私は咄嗟に明後日の方向を指差し、大声で叫んだ。

 クラウスの名前に、びっくと驚き、その場に固まるジョシュア。


 やだ。黒猫みたいで可愛い。

 ――ってそんな場合じゃない。


 私はジョシュアが固まっている隙に、一目散に逃げ出した。


「あっ、おいっ!待て!」




――――――




「先生! あのブラコンなんとかして下さい!」


 私は魔法研究室に飛び込むなり、クラウスに抗議した。


「ジョシュアと会ったみたいですね」

「ははは。さすがはクラウス先生。お耳が早いですねー」

「さっきちょうど廊下を通り過ぎた時に姿を見ました」


 見てたんかーい。

 止めろよ。


 いや、廊下ってことは校舎裏に連れられる前か。

 でも、見かけたのなら声くらいかけて欲しかった。

 はぁ。

 私も突然攻撃されたことにまだ動揺しているようだ。実際、まだ心臓がドキドキしている。

 ちょっと、ここは一旦落ち着こう。


「はい、お茶をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 タイミング良くクラウスがお茶を出してくる。

 なんか手の内に転がされているようで気に食わないが、ありがたくいただこう。

 ……ふぅ。美味しい。


「あのー。先生から見て、ジョシュア君はどんな子ですか?」


 落ち着いたところでクラウスに訊ねてみる。

 従兄弟というなら、ゲームよりももっと攻略対象について情報があるかもしれない。

 なんと言っても彼はヘルプキャラだし、きっといいアドバイスをしてくれるに違いないっ!


「ジョシュアですか? 可愛い子ですよね」


 おい。お前もブラコンか。

 のほほんと微笑みながらお茶を飲むクラウスに思わずズッコケそうになる。


「も、もうちょっと具体的に……」

「そうですね。元々おとなしい子なんですけど、闇の加護を持っているせいで、人から疎まれることが多くて、どうも人付き合いが苦手なんですよね」


 ああ、確かそんな設定だっと思い出す。

 よくある定番だが、この世界で希少価値のある魔法属性は光と闇の二つ。

 光は聖なる力とし、闇は悪魔寄りの力とされている。

 攻撃魔法に特化した闇魔法は使い手も少なく、強大な威力を持つことから、昔から闇魔法は人々の恐れの対象となっていた。

 でも実際には闇魔法自体は悪い魔法でもなんでもない。

 他の魔法属性に比べて攻撃系の魔法が得意というレベルだ。

 その威力と闇魔法というネーミングが、ちょっとばかり独り歩きしている程度と言って良いだろう。


 そんな闇の加護を持つジョシュアは、幼い時分から人々から倦厭されてきた。

 もっとも家族などは彼を嫌ったりしていないようだし、こうして従兄弟であるクラウスも可愛い子と言うくらいなのだから、家庭環境は問題ないのだろう。

 しかし、周りに闇魔法を理解してくれる友達はいなかった……。


「魔術の素質はありましたからね。小さい時から家庭教師をつけて魔法の勉強をさせていました。でも、それが却って良くなかったのかもしれません。周りに溶け込もうとせず、寧ろ殻に籠るように勉強ばかりするようになって」

 

 なるほど。

 ざ、根暗キャラ誕生というわけか。


「そのジョシュアがどうしましたか?」

「先生を独占している私に嫉妬して、やっかんでくるんです!」


 私が机から身の乗り出して抗議すると、クラウス先生は腕を組んで笑った。


「ははは、またあの子はそんなことを? 相変わらず可愛いですね」

「顔は可愛いけど、やっていることは可愛くないです! 攻撃魔法放ったんですよ! ……って、ちょっと待ってください。『また』ってことは、前にもそんなことが?」


 ちょっと聞き捨てならない問題発言である。


「あの子は昔から執着心が強くてね。まぁ、味方も少ないということもあるかもしれませんが。懐いてくれるのは可愛いんですが、私に近づく相手がいるとすぐに目の敵にして。まったく困ったものです」

「目の敵って……。一体何を?」

「ちょっと痛い目に合わせる程度ですよ。命までは取りませんから安心してください」


 おいおい。

 十分、怖いわっ!

 ブラコンのレベル越えてない??


「……それで先生は今までどう対処されていたんですか?」

「特に何も」

「特に何も?」

「ええ、私自身に実害はありませんでしたからね」

「……」


 あ、頭が痛い。

 え、何? この従兄弟?


「あの、そんなことをして今まで訴えられたりしなかったんですか?」

「訴える? ハリス家を? それとも私を?」

「あ、分かりました。結構です。今の質問はなかったことにして下さい」


 一瞬、ヒヤリと感じた冷たい空気に、すぐに前言撤回をする。


「大丈夫ですよ。皆さん、せいぜい小さな怪我くらいで済みましたから」


 そういう問題ではない。

 まず人に向けて攻撃魔法を放つのは止めさせようよ。

 私、死にたくないんだけど?

 監禁ルートの前に、死ぬよ?

 

「あ、あの、せめて何かアドバイスを……」

「そうですね……。では、ジョシュアと友達になったらどうですか?」

「……」


 ニッコリと提案するクラウスに、顔が引き攣りそうになる。


 だから! 仲良くなったら、ヤンデレルートなんだって!


 役に立たない!

 ここにきて初めてヘルプキャラが役に立たないよっ!

 なんてこったい!



 ――どうする、私!?


お読みいただき、ありがとうございます。

攻略対象三人目はヤンデレショタキャラです。

毎度のことながらCV名はお好きな可愛いボイス声優さんでご想像くださいませ。


少しでも面白いと思ったり、続きが気になると思っていただけましたら、

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