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15. 試合

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます!


タイトル変更しました。元タイトル→「乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、死にたくないので攻略対象はお断りします」


 制服の上に胸当てや肩当てなどの軽装な甲冑を装着する生徒たち。

 模擬戦の形を取っているので、使用する武具は刃の潰れた剣だ。

 それでも打ちどころが悪ければ大怪我をするかもしれない。その時のために、訓練場の隅には救護班も待機していた。

 これはクラウス先生にお願いして、手配して貰ったものだ。


 これで万が一、モルガン先輩が負傷しても直ぐに治療してもらえる筈だ。

 ゲーム内のように真剣での勝負ではないから、よっぽどのことがない限り、重傷を負うということはないと思うが、念には念を入れての対策だった。

 

「きゃー! リディック様! 頑張って!」


 観客席からファンクラブの声援が飛び、手を振るリディックは余裕の表情。

 その他の上級クラスの生徒はというと、怠そうに準備をする者、ふざけあってチャンバラごっこをする者がいたりと、明らかに皆やる気のない有様である。


 対して、下級クラスの面々はモルガン先輩を筆頭に円陣を組んで、最後の作戦会議をしていた。

 私はミアちゃんと一緒に観客席に座り、その様子を眺めていた。

 両手をキツく握りしめたミアちゃんが不安そうに俯く。


 シナリオよりも有利に試合を進める為とはいえ、勝負を仕掛けたのは私。これでモルガン先輩やミアちゃんに何かあったら私の責任だ。

 

 私もまた緊張の面持ちでグラウンドを見つめていた。


「整列!」


 オーウェン先生の野太い号令に両クラスがグラウンドの端と端にそれぞれの陣営を組む。

 甲冑を着た生徒が並ぶとそれだけで迫力が増した。

 彼らは胸に剣を掲げ、合図を待つ。


「始めっ!」


「うぉぉぉぉっ!」


 オーウェン先生の合図と共に砂埃を散らして一斉に両者がお互いの方向へ走る。

 そしてすぐに混戦となった。

 剣のぶつかり合う音が訓練場に響き、観客席に緊張が走った。

 

「下級クラスの方がいい動きをしていますね」


 いつの間にか隣に座っていたクラウス先生が呟く。


「そうなんですか?」


 わちゃわちゃと混戦状態で、状況の把握など出来ない私と違い、クラウス先生は情勢が見えているようだ。


「司令を行なっているモルガン君の指揮が巧いですね。連携も取れているし、全体をよく見て、フォローもできている。それに比べ……」

「それに比べ?」

「上級クラスの面々は纏まりがないですね。個人プレーが目立ちます。……ああ、今も複数人に囲まれて一人脱落しましたよ。あれでは統率も何もありませんね」


 上級クラスのリーダーはもちろんリディックなのだが、彼はクラスの統率がとれていないことだろうか。一年生ではあるが、彼の家は騎士クラスの中でも一番の階級だ。それでも家柄だけでは人を纏められないということか。

 もっとも、上級クラスは訓練も真剣に受けてないようだったし、こうなることは当たり前か。

 私の予想よりも上級クラスは堕落しているようだった。

 

 そうこうしている内に、殆ど勝負がついていると言ってよかった。

 グラウンドに立っているのは、ほぼ下級クラスの面々だ。


 残り少なくなった上級クラスのメンバーの中にリディックは残っていた。

 彼は周囲を見渡して、見るも無惨な状況に悔しそうに唇を噛む。


「やーん、リディック様、負けないで!」

 

 観客席から悲痛な声援が飛び、それを受けてか、リディックは正面に立つモルガン先輩に目を向けた。

 とそこへ、リディックに向かって下級クラスの一人が横から攻撃を仕掛けた。

 しかし、リディックは剣を振り、簡単にいなすと、反対に一撃を喰らわせてその生徒を倒してしまう。


「え、強っ」


 普段はあんなちゃらんぽらんなチャラ男なのに、実力だけは本物のようだった。


 ーーええー、モルガン先輩大丈夫だよね!?

 

 今更ながら心配になってきた。


 リディックのただならぬ気配を受けてか、それ以上彼に近づこうとする人間はいない。

 モルガン先輩は自分に狙いを定めたリディックに気づき、剣を握り直し、彼に対峙した。


 ――モルガン先輩っ!


 訓練場にいる全ての人間が息を止め、彼らに注目していた。





――――――――――





 ――こんなはずではなかった。

 

 次々と減っていくチームメイトを見ながら、額に焦りの汗が浮かんだ。


 どうして、どいつもこいつもオレの言うことを聞かない!

 オレの立てた作戦を聞いていたのか!?

 

 盾役となる筈だったメンバーは、向こう見ずに敵陣に飛び込んであっという間に倒された。


 大将を守らないでどうする!


 襲ってくる相手を薙ぎ払いながら、上級クラスの連携が取れていないことに舌打ちをする。

 そうやってグラウンドを見渡せば、また一人、向こうのチームに囲まれて離脱していた。


 ――使えない奴らめ。


 見るも無惨な上級クラスの状況に頭が痛くなる。

 

 それに対し、下級クラスはーー。


 下級クラスを指揮をするのは、あのスタンレー家の次男坊。

 たかだが三流貴族がどうして上手く統率できるのか。家柄がいいわけでもない、体格が恵まれているわけでも、剣の腕がずば抜けているわけでもない。どこにでもいる騎士見習い程度の実力しかないのに……。

 なんで皆、アイツについていくんだ!


 ――くそっ。


 首を振って、まだだと考え直す。

 人が減ってもまだ勝負はついていない。

 要は大将がやられなればいいのだ。

 実力はアイツよりもオレの方が圧倒的に強い。 

 ならば、オレが相手をすべき人間は一人だけ。

 

 ――目指すのは、スタンレーだけだ。


 そう考え、スタンレーに目を向けた時、視界の隅に黒い影が入る。


「はあっ!」

「フンっ! ――小賢しい」

 

 オレは横から突っ込んできた下級貴族の剣をいなし、反対に一撃を食らわせた。

 剣の威力に押されたそいつは後ろに吹っ飛んでいった。


 所詮は下級クラス。

 オレの相手じゃない。


 騎士の家系に生まれ、同年代の連中の誰よりも訓練をしてきた。毎日の厳しい訓練に何度逃げたくなっただろう。しかし、父や兄はそれを許さなかった。成長するにつれ、背も伸び、体格も良くなった。そんなオレを見て、誰もが父親のような立派な武人になるだろうと口を揃えた。父親の口添えもあって、第二王子の近衛騎士にも就いた。

 オレは将来を期待される有望な騎士見習いだ。


 確かに入学前よりも剣の練習量は減ったかもしれない。しかし、それは周りのレベルに合わせてやっているからだ。オレが本気を出したら勝てる奴はいないのだから当然の配慮だ。

 オレは強い。

 誰にもオレを倒せるわけがない。


 ーーこんな勝負、さっさとケリを着けてやる。


 オレは剣を振り下ろすと、目標に目を向ける。

 奴もオレの視線に気づき、剣を構えた。


 モルガン・スタンレー。


 そもそも、前から気に入らなかった。

 毎日の訓練場に自分の女を連れてくる、あの男。

 恋人の差し入れを嬉しそうに口にする光景が特に目障りだった。


 スタンレーの婚約者だというあの令嬢。

 その姿は昔の女を思い出せた。


 オレにもかつて、ああやって応援してくれる恋人がいた。

 いつも心配そうな目でオレを見ていた彼女。

 臆病で弱虫で心配性で。

 騎士の練習試合は怖いからヤダと言っていたのに、いつも来ては「負けないで、リディック!」と応援してくれた。


 ……でも、彼女はもういない。


 ――くそっ。

 こんな時に思い出すな。



 オレは剣を構えると、地面を勢いよく蹴った。

 相手の間合いに入り、剣を横に振る。


「はぁっ!!」

 

 ――キンッ!


「くっ!」

 

 腹部狙った剣筋だったが、スタンレーはそれを剣で受け止め、弾き返した。


 ――ちっ。

 打ち損ねたか。


 上手く薙ぎ払れたことに小さくショックを受けるも、瞬時に弾かれた剣の勢いを利用し、再び剣を振り上げた。


「食らえっ!」

「っ!」



「負けないで! モルガン!」

 

 観客席から悲痛な声が飛ぶ。



『負けないで! リディック!』


 脳裏をよぎる彼女の声。


 観客席にいた筈のその姿はーー。





――――――――――


 



 リディックの動きが一瞬鈍った。


「――今よ!」


 私は思わず叫んでいた。

 その声が聞こえたかどうかは分からないが、モルガン先輩はリディックの隙を見逃さなかった。


「はあっ!」


 振りかぶるリディックの剣を躱し、ガラ空きの彼の胴体に剣を叩き込む。


「ぐはっ」


 いくら刃を潰した剣といえども、甲冑越しでも威力は相当なものだ。

 リディックは呻き声を上げ、手から剣を滑り落とす。


 ――カラン。

 

 グラウンドに響く剣の音と共に、リディックに身体がゆっくりと崩れ落ちた。


 ーー勝敗はついた。


 一瞬の静寂の後、下級クラスの勝利の雄叫びが訓練場に響き渡った。



「――やった!」

「うおおおっ!」

「勝った! 俺たち、勝ったぞ!」

「モルガンっ! やったな!」


 チームメイトに揉みくちゃにされるモルガン先輩見て、こっちまで涙が出そうだった。


「……よかった」

「ミアちゃん!?」

 

 ヘナヘナとその場に崩れ落ちるミアちゃんに気付いて、私は慌てて彼女の肩を抱く。


「……本当によかった」


 涙を浮かべ、心の底から安堵するミアちゃんの姿に、私も最悪の事態を回避出来たことにホッと息を吐いた。



攻略対象サイドの視点を書くのが楽しいです。



いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

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