14. 作戦会議
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
タイトル変更しました。元タイトル→「乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、死にたくないので攻略対象はお断りします」
困った状況になった。
このまま行くと、リディックとモルガン先輩の一騎討ちは待ったなしだ。
ゲームと少し状況が違うものの、シナリオ通り進行するとモルガン先輩が致命傷を負ってしまう可能性がある。
それだけは避けたい。
――その為に、私に何が出来る?
今にも一触即発しそうなピリピリとした空気の中、私は意を決して顔を上げた。
「では、勝負で決着をつけましょう」
私はリディックに向かって提案をした。
「ええっ、アリアちゃん!?」
「アリアさん!」
「お前、一体何を言い出す?」
私の発言に当事者の三人が驚きの声を上げる。
「そうですね」
私は彼らを無視して、周りを見渡して頷く。
そこには私たちの様子を遠巻きに窺っている騎士クラスの面々がいた。
「ちょうどいいわ。クラス対抗の勝負でいかがですか?」
「え? アリアさん、何を?」
状況が把握できないモルガン先輩がおろおろと私と騎士クラスの面子の顔を見比べるのに対し、クラス対抗と聞いたリディックは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「上級クラスと下級クラスが勝負しようと言うのか? ハンっ! そんなの勝負にならないだろう」
クラス人数の比率は2対3と、やや下級騎士の方が多い。
それでも対抗戦では上級クラスが勝つとリディックは断言する。
余程自信があるようだ。
「そうですか? 人数は上級クラスの方が少ないようですし、戦力的にはちょうどよろしいかと思ったのですが。……あまり人数差が大きいと、負けた時に言い訳にされてしまうのも困りますし」
「負けるだと?」
聞き捨てならないと、リディックの片眉が跳ね上がる。
「あら、嫌だ。私ったら、つい本音が。……だって上級クラスの皆さん、普段から大した訓練をしているように見えませんもの。下級クラスの皆さんの方がよっぽど熱心に授業に打ち込んでますわ」
私の喧嘩腰のセリフに騎士クラスが騒つく。
しかし、リディックはそれでも余裕の顔だ。
「元々の実力の程度が違うからな。そんなの当たり前だろ」
「実力差ですか。……では、もっと戦力差をつけなればいけないかしら?」
「そっちの半分の数でいいさ」
「まぁ! さすがは王子専任の近衛騎士さま。自分たちの実力を良く分かっていらっしゃるのね」
「当たり前だ」
リディックは尊大に頷いた。
この間、勝手に話を進める私にミアちゃんとモルガン先輩は唖然としている。
私とリディックの間だけで、どんどんと話が進み、クラスを巻き込んだ試合を行う流れとなっていた。
私は更に考えて、条件を追加する。
「では試合にあたり、いくつか誓約をしてもらってもよろしいですか?」
「誓約?」
「ええ、お互いの面子をかけた勝負ですもの。お約束ごとはちゃんとしませんと」
「良いだろう」
リディックは二つ返事で頷いた。
「一つ。万が一、上級クラスが敗北しても、下級クラスの方にいちゃもんを付けないこと。これは騎士ですから当たり前ですわね。将来は騎士を目指す方々がそんなみみっちい言いがかりをして、家柄や権力に訴えることなんてあっていいはずがありませんものね」
「ハッ。そんなことか。当たり前だろう。騎士が勝負に負けて、それを理由に手を出すことなんてあり得ん。まぁ、万が一はないだろうけどな」
リディックは見下した笑みで了承した。
うん。ゲームのシナリオでは逆恨みして私を殺すんだけどな!
私は叫びたくなる思いを押し殺して、続ける。
「一つ。同じく万が一、この勝負でリディック様達が負けた場合、今後ミアちゃんとモルガン先輩のお二人には手を出さないこと」
「……アリアちゃん」
「……」
私の言葉にミアちゃんとモルガン先輩がはっと顔を上げる。
「誓いますよね」
「当たり前だ。万が一にも負けたらの話だかな。しかし、こちらが勝てば……そうだな。二人の婚約は無かったことにさせてもらおうか」
「――っ!」
「それは!」
「分かりました」
言葉を失う二人の代わりに私は頷いた。
「アリアちゃんっ!?」「アリアさん!!」
同時に悲鳴の声を上げる二人をとりあえず無視して、私はリディックに微笑む。
「では約束、ちゃんと守って下さいよね」
「騎士に二言はない」
こうして、上級クラス対下級クラスの試合が行われることとなった。
――――――――――
「と、言うことで! モルガン先輩、頑張ってください!」
「アリアさん! 君はなんていうことをしてくれたんだっ!」
「そうだ! そうだ!」
モルガン先輩をはじめとする下級騎士クラスの面々が一斉に私に訴えってくる。
作戦会議として、集まった下級クラスの生徒は訓練場の端で座車となっていた。
その中心にいるのが、私とモルガン先輩だ。
下級クラスの取りまとめ役のモルガン先輩はともかく、部外者の私が彼らの作戦会議に加わっているのは、事の発端人だからである。
「やだなー、モルガン先輩。私が提案しなくてもどの道、ミアちゃんを賭けてリディック様と決闘することになっていましたよ。もしそうなったら、先輩だって黙ってはいられないでしょう?」
「……それは、そうだけど」
訓練場の観客席で一人不安げに座っているミアちゃんの方をちらりと見て、モルガン先輩は頷く。
「私は先輩が有利に立つ条件を整えただけです」
そうなのだ。
これがシナリオである以上、避けられないイベント。
ならば、私に出来ることは勝負の条件を有利にさせること。これしかなかった。
リディックとモルガン先輩の一騎討ちのイベントでは勝敗は五分五分。
しかし、ヒロインとの好感度が溜まっていないことを考えると、バッドエンドに向かう可能性の方が高い。つまりはモルガン先輩が負けるということだ。
それならばいっそのこと、一騎討ちではなく、クラス対抗戦にしてシナリオから状況を大幅に変えてみることを試みた。更に条件をこちら側に有利にし、少しでもゲームとは違う条件に整える。
これが功を成すかは、正直判らない。
けれど、これがあの場で私が精一杯のことだった。
「有利って言っても……」
「あら? だって、もし一騎討ちになったら先輩の方が少し不利な条件ですよね。実力で言ったら勝敗は五分五分かもしれませんが、なんせ相手は上級貴族ですもの。先輩だってやりにくいでしょう?」
「……それはまぁ、そうだが」
「はっきり言って向こうが勝手にけしかけた下らない勝負なんて、相手にする必要がないんです。こっちが優位に立つ為の条件をつけて何がいけなんですか!」
「いや、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて。って言うか、勝負をけしかけたのは君……」
「先輩! いいですか? 相手は上級クラスだからと言っても、所詮は同じ騎士見習いの学生です。実戦経験があるわけでも、毎日特別な訓練をしているわけでもありません。寧ろ、この学園生活でならば、皆さんの方が訓練を真面目に受けています。怖がる相手じゃありませんよ。皆さんなら勝てます!」
「そうは言ってもな……」
「なぁ……」
私の激励に対して、下級クラスの面々は渋った顔のままだ。
今まで上級クラスの生徒に散々いびられてきた経験が彼らを萎縮させているのだろうか。
彼らの表情には自信というものがまるでない。
私は鼓舞するように重ねて彼らに言う。
「しかも先程の条件に、この試合の結果に今後文句は付けないと約束してくださいました。もう上流階級貴族だからって、皆さんが遠慮する必要なんてないんですよ!」
「いや、だからって……」
「うーん……」
それでもまだ悩んだ顔を見せる生徒たち。
くぅ。根性なしめ!
騎士志望ならもっとがっつきなさいよ!
なかなか煮え切らない下級クラスのメンバーにどうしたものかと考えていたところへ、背後から意外な人物が現れた。
「まったく君は面白いことばかりするね」
「クラウス先生」
いつの間にか背後にいたクラウスは平然と作戦会議の輪に加わる。
先生は私の隣に座ると、面白そうに下級クラスの生徒たちを見渡した。
「クラス対抗の勝負なんて初めて見ますよ」
部外者だからか、先生は楽しそうだ。
他人事だと思って……。
飽きれる私だったが、ふと思いつく。
「そうだ。先生」
「なんだい?」
「この試合に不正がないように、審判をお願いしたんですけどよろしいですか?」
これは是非ともお願いしたいことだった。
上級クラスの生徒による不正防止もあるが、負けた時に後で文句もつけられても困る。
「審判なら、オーウェン先生が担当するよ。話を聞いて、自分から審判を志願していたからね。彼は曲がったことが嫌いな人種だから、公正な審判をしてくれるよ」
……いつの間に。
もしかしてクラウス先生が手を回してくれていたのだろうか。
「それは安心ですね」
公平な審判がつくということで、みんなの目から希望の光が戻る。
あと少しと言ったところか。
なら、もうちょっと箔付けをしてあげよう。
「ところで先生。もしこの試合で活躍の場を見せた生徒は講師陣からはどんな目で見られますか?」
素知らぬ顔でクラウスに訊いてみる。
私の言葉にクラウスはすぐに何を求められているか把握したようで、口の端を上げた。
「……なるほど。そうだな。まずは今後の活躍を期待するだろうね。……ましてや下級クラスが上級クラスを打ち破ったとなったら、間違いなく学園中の噂になるよ。活躍した生徒は将来期待されるだろうね。卒業後の推薦状にも関わってくる可能性は大きいよ」
クラウスの発言に一斉にみんなの顔つきが変わる。
彼らの頭の中は推薦状のことで頭がいっぱいだろう。
現金なものだ。
それに、今まで上級クラスの面子に理不尽な扱いをされてきた思いがある。つまりこの試合は日頃の鬱憤を晴らすチャンスでもある。
私の予想通り、彼らの目は闘志に燃えていた。
「……人を動かすのが得意ですね」
ボソリと呟かれたクラウスのセリフは聞かなかったフリをする。
早速、試合の作戦会議を始める彼らを見て、私はこっそりその場から離れた。
ふふふ。
彼らにやる気火がついたようだし、何とかなりそうじゃないか。
さて、後は――
「クラウス先生。幾つか用意して欲しいものがあるんですけど」
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
少しでも面白いと思ったり、続きが気になると思っていただけましたら、
ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。
作者のモチベーションアップになっています!




