36話 タイロンの頑張り
試合が始まった。
タイロンはまず相手の出方を伺ってみることにした。
「膝をついたら負けか……だが、制限時間もあるから逃げ回るわけにもいかないよな。」
「何をごちゃごちゃ話している! あっという間に、時間は過ぎていくぞ。」
兵士はそう話すと、少しずつ近づいてくる。
タイロンは攻撃をするといっても、斧を持っていないため武器と呼べるものは自分の拳くらいであった。
ただ、攻撃という面においては相手も同じだろう。
そう思った次の瞬間、タイロンの腹の辺りに激痛が走る。
兵士を見ると、手にグローブをつけていた。
「なん……だ……手に……」
突然の攻撃をタイロンは防ぐことが出来なかった。
なんとか、膝をつかないように耐えるので精一杯だった。
それよりも、手にグローブをつけていることが許せなかった。
「油断したな。素手だと思ったんだろ。」
「……なぜ、そんなものを持っている?」
「対決を早く終わらせるためだ。これが無くても、負けることはないがな。」
馬鹿にするかのように話す、兵士だった。
タイロンは、改めて相手の全身を見てみる。
手には攻撃することが出来る武器。
そして、身体を守ることが出来る防具。
勝つための方法を考えるはずだったが、出てくるのは自分にとって、不利な状況ばかりであった。
一方、カイルは別の方向を見ていた。
観客席にいるマネースキーは、笑っている。
護衛の者たちも、一安心といった様子で対決に夢中になっている。
「今からミーナだけでも、ここから離れるんだ!」
「どうしてですか? まだ、タイロンは戦っていますよ。」
「相手の装備している状況を見れば、どう考えても厳しいと思う。もちろん、タイロンは頑張ってくれているけど……」
「では、なぜ逃げるのは私だけなのですか?」
「それは、この対決をするにあたって、大事なことを聞いていないからだよ。」
「それは、どのようなことでしょうか?」
「負けた時のことだよ……勝ったときには、リッチ王国の出入りが許されると話していたけど、よく考えたら負けた時のことは、話されていないんだ。」
「言われてみれば、そうですね。では、カイルも逃げましょう。」
「それは、出来ないよ。それをしてしまうと、タイロンを1人にすることになる。」
「それでしたら、私も残ります!」
「気持ちは嬉しいけれど、やっぱりミーナにはここから逃げて、状況が分かるまで隠れていてほしいんだ。みんなが一斉に捕まってしまうと、出来ることが限られてしまうからね。」
「分かりました。けれども、無理はしないでくださいね。」
「ありがとう! ミーナも気を付けて。」
対決に夢中になっている隙を見て、ミーナは闘技場を後にする。
ミーナが出た後、居なくなったことを気付かれないか、カイルは不安に思った。
カイルとミーナが話していた間に、対決の時間は残りわずかになっていた。
タイロンは、兵士の攻撃を避けながらも素手で防具に攻撃していた。
痛くないわけない。それでも、攻撃をやめない。
残り時間が少ないことを知ってから、タイロンはずっと体を動かしている。
「いい加減、諦めろよ。無駄なんだよ!」
兵士の言葉を無視するタイロン。
すると、防具にヒビが入る。
なんとタイロンは、同じ箇所をずっと叩いていたのだ。
「もう少しで……防具を……」
そして、より力を込めて攻撃する。
防具を壊すことに成功したが、同時に時間切れの合図がされる。
タイロンの負けが決まってしまった瞬間でもあった。
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