第5話:桜色の美貌
いたたたた……。
ここはどこ?私は誰?
3秒前、民宿の中でタイムトラベルを試みた俺は空中5メートル程の高さから放り出されたみたいだ。
俺は焦って空間ウィンドウを起動した。
ーできてる!
空間ウィンドウが示していた時刻はしっかり、20年後になっていた。
そして、カウンタは残り2980となっていた。
さすがにタイムトラベルはチートすぎたのだろうか。
それはそうと、今自分が置かれている状況を把握することが最優先だ。
ー森だった。
空間ウィンドウの目次から「マップ」を選択すると、《オークの森》と書かれていた。
森は四方八方どこを見ても、神秘的な森だ。青白く発光するオーブのようなものが点々と浮遊していて幻想的な景色だった。
俺、一生ここに住むんだ!
そう心に誓った。
さて、20年後の世界に来たわけだが、何か変わったことはあるのだろうか。そう思って、咄嗟に空間ウィンドウの内容を確認しまくってやろうとしたその時だった。
ーガサガサ。
この時、自分の顔が一気に蒼白した気がした。
うーん、落ち着こう俺、東條奏多。これはいわゆる、魔物出現ってやつだ。
ガサガサという音にトラウマがある。小学生のころ、陰キャで友達もいない俺は一人でに学校に登校していた時、ガサガサという音の後、草むらから飛び出してきた柴犬に盛大に噛まれた経験がある。
危険極まりない状況に置かれた俺は耳をすませばすますほど、ドクドクという心臓が鳴る音が聞こえてくる。止まれ、止まってくれ、俺の心臓の動悸。
まだ敵は、姿を現していない。俺に気づいていないかもしれない。ゆえに、このままゆっくりしゃがんで身を潜めていれば気づかれることはー。
その刹那、俺の3メートル目の前を木の陰から緑色の何かがゆっくりと姿を現し始めていたことに気づいた。
ー逃げろ。東條奏多。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!
ぶっ殺されてしまう! 戦う手段は!? 空間ディスプレイって武器なの!?
俺が今使えるスキルといえば……。
「逃亡だ……!」
って技名をつけている場合じゃない東條奏多!
俺は、走って走って目の前に次々と現れる草を死に物狂いで掻き分けながら逃げた。
ちらっと後ろを見れば、全身緑の肌色をした巨体が3体、2m級の巨大な木製の鈍器を振り上げながら追ってきていることを視認できた。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
魔物の叫び声に背筋が凍る。
えっ、俺って目覚めた瞬間に何らかのイベントが起こるというビギナーズラックでも持っているわけ!?
そんな異世界生活いやだよ!
すると、逃げまくる俺の眼前に一筋の光が漏れ出していた。
キタ! 救いの光! 恵の光! 希望の光!
森を一気に駆け抜けるとそこには、太陽の光の反射で白く輝く水面が見えた。
水中に身を隠せればうまく切り抜けられるかも。
「ダーーーーーーーーーイブ!」
ーバシャン。
異世界の水にダイブするのはこれで二度目だ。あの時は、公然わいせつ罪ですぐに捕まってしまったよ。懐かしいな。そして、懐かしんでいる場合ではない。
ーっ!?
そのとき、四つん這いになる21歳東條奏多陰キャラの下に何か、温かみを感じた。
汚れの一つもないどこまでも白い肌に滴る一粒の水滴が、木々の隙間から漏れ出す光に美しく反射している。水面に浮かぶ透き通った桜色の髪。あまりにも整いすぎているつぶらな瞳に水とは何か違う液体をためていた。そして、その美しい全身は布を何一つ纏っていない。左の二の腕には赤い刻印がされていて、そこに挟まれている巨大な双丘に勝手に目が行った。
そう、それは。
ピンク髪の裸の美少女だった。ーー胸の大きい。
「おい……」
おお、喋った。
「いつまで、私の上に乗っている……」
当たり前の反応だよね。だって、俺、女の子の裸5秒くらい見つめているんだもん。主に胸を。
「私から……離れろぉぉぉぉぉぉぉお!」
美少女は、俺の顔に手のひらを突き出し、尋常ではないくらいの豪炎の火柱を放った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
えっ? 死んだ?
俺は、後方に30メートルほど光の速さで吹き飛ばされた。
そして、後ろから俺を追ってきていた3体の魔物も巻き添えにされていた。
「少々やりすぎてしまったか……」
やりすぎどころではない。森が火災現場の後のそれになっている。周囲の木々はほとんど黒い灰と化していて、点々と煙幕が立ち上っていた。
そこからの記憶はほとんどなかった。
*
ここはどこ? 私は誰?
「目が覚めたか、犯罪者」
さっきの美少女の声だ。身体中が痛い。
美少女は、しっかり服を着ていた。
「女性に犯罪者呼ばわりされるのは複雑な気分だよ」
「一般人に少々手荒いことをしてしまったのでな、貴様の火傷に治癒魔法を施しておいた」
美少女から発せられる言葉とは思えないくらいの口の悪さだ。いや、これは気高いと言うべきだろうか。
「誰だ?お前は」
「まず、貴様から謝るべきではないのか? そ、その、はだ、はだ……裸を見たのだ。そして私を押し倒して襲おうとしてきたではないか! こうべを垂れてひれ伏せ!」
「す、すみま」
「声が小さい!」
「すっ、すみませんでしたァァァァァァァァァ!」
つい勢いで、土下座をしてしまった。簡単に土下座をするなと母親から言われてきて育ってきたのに。
「フン、顔をあげろ、もういい」
「んで俺の名前は東じょ……」
「犯罪者の名前など聞く理由もやる気も度胸も寛大さもない。用は済んだ。私は帰る」
俺の自己紹介を遮ってきやがった。
美少女がそう言い残してその場から立ち去ろうと、岩に立てかけておいた剣を腰にさし、歩き出した。
「ちょっと待ってくれ!」
「……」
美少女は返事の一つも返さない。そんなに嫌われたのかよ!
このまま一人置き去りにされてしまうのは、とても寂しい。ここは、恥を捨てろ東條奏多。
「どうやって帰ればいい! 俺はこの辺のこと全く知らないし、案内してほしいんだよ! あと、お前の名前を聞かせてくれ!」
「黙れ……!」
美少女は随分お怒りらしい。これは、仲間にするのは厳しいか。
「気高き貴族の娘であるこの私に指図をするな。ましてや、私のことを『お前』などと……」
「貴族? あ、お前! ピンク髪のあの貴族ってやつか!」
「何? 犯罪者、貴様、私のことを知らないのか」
「知ってるわけないだろうよ。この辺のこと全く知らないって言っているじゃないか」
「口答えするな。私は帰る」
そう言い残して、美少女は一瞬にして姿を消した。
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