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第4話:チート発動

 ー街を覆う轟々たる炎。

 

 暑い。

 

 目の前の絶望に俺は為す術もない。意識を保つのもやっとであるこの状況を打開する策に見当もつかない。

 もういっそのこと死んでしまおうか。

 

「奏多……たす……けて……」


 すぐそこに助けを求める美少女がいるというのにー。

 動けば豪炎の中の暑さで皮膚が溶けて削ぎ落ちそうになり、声を出そうとすれば喉がちぎれそうになる。既に俺の体は赤黒い生血に染まっていて、未来に待っているのは死以外に考えられないこの絶体絶命なこの状況を何ともできない無力さに自分を呪いたくなった。


 ー死ぬ。





     *





「……っ!」


 あれ?ふかふかだ。

 ゆ、夢か。気味の悪い夢を見たな。

 牢獄からの脱獄からの見知らない貴族との出会いに身体的にも精神的にも疲れ、寝てしまっていたらしい。この世界に来る前も寝た後に何か起こったから注意しないと。

 

 ー陰キャラが異世界にやってきた。


 俺はゲームにあまり縁はないからこういう世界観をあまり知らない。今言えることは、俺の謎なチート能力によって標準語が日本語になりこの世界にひらがなとカタカナと漢字、そしてアルファベットが普及したということだ。その他細かい設定の修正を加えて今この宿泊所に来ているわけだが、明日からどう動くべきかの推論を行うべきだろう。今日はこのまま夜明けまで起きようと決めた。


 空間ディスプレイを起動して、今の時刻を確認。


 ー2035/1/3/3:45。


 もしかして、この空間ディスプレイ上に表示されているこの時刻は偽物かもしれない。基本的に、未知に遭遇したときは確信づける証拠が見つかるまで極力信じないというのが俺の研究方針だ。


 今気づいた。「ステータス」なんていう項目あったのか。


職業(ジョブ)……? 構築者(プログラマー)……?」

 

 これが俗に言うアレか。聞いたことがある。RPGを始めるとき最初の設定画面で職業を選び、戦闘スタイルを予め決めておくと。

 この構築者(プログラマー)という職業(ジョブ)は、俺がプログラミングオタクだったから? そんなノリで決まっちゃっていいの? というか選択権なかったの!?

 どうせなら、剣士とかそういう無難なやつを選びたかったよ。

 この職業(ジョブ)かなりチートに近いけど。世界変えちゃう魔法でしょ。


 この空間ウィンドウは、どうやらスマホ的役割を持っているらしい。マップを開いてみる。

 今いるのは、この世界でいうと一番南にある王国サランヘーデルというみたいだ。







     *





 あれから1時間程空間ウィンドウを操作してみた。

 

 以下が当文献(空間ウィンドウ)を操作してみてわかったことである。



 ================================

 ・この世界の名前は、《ヴァヴィロン》と呼ばれる。

 ・異世界なのに魔法は存在しない。

 ・中央王国セントラリアが《ヴァヴィロン》を管理・支配を行う。

 ・戦闘を行うには戦闘許可書の発行が必要。

 ・戦闘許可書の発行者には、その実力に応じて世界序列が決められる。

 ================================




 要するに、魔法は存在せず異世界らしき極めて重要な要素が欠落して、武器も気軽に振り回してはいけないということか。

 これはいけない。

 

 ー俺が構築(プログラミング)しなければ。

 

 俺は、空間ディプレイ上で異世界(ヴァヴィロン)の新元素《魔素(マナ)》の導入を試みた。

 成功したか……?

 カウンタが8980から6770に減っているのがわかった。これはコンパイル成功したということだ。

 ちなみに、コンパイルというのはわかりやすく言うと、プログラム上の人間が打つ言語(ソースコード)をコンピュータが読める言(オブジェクトコード)語に変換することをいう。変換されたものを実行することで、初めてその機能を使えるようになるということだ。

 

 そして、この数字のカウンタの謎にも気づくことができた。

 このカウンタはこのチート能力を使う毎に減っていき、チート度合いによって減り具合が変わると言うことだろう。

 要するに、「それはあまりにもチートすぎるだろ!」というのはめちゃくちゃカウンタを減らされるらしい。

 

 そういえば、魔素(マナ)が導入されたと思うが、魔法はもう使えるのだろうか。


 俺は、ベッドから降りて全身に力を込めてみた。




「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 燃えろ!」




 俺は凄まじいい勢に、手のひらをベッドに向けた。




 ーーー。




 ーーー。




 ーーー。




 ーーー。




 ーーー。




 何も起こらなかった。一人で顔を茹でダコのように赤くした。燃えたのは俺の顔でした。

 哀れだ。魔素(マナ)の導入は失敗?


「ゴホン」


 気を取り直して再びベッドに横になる。

 他に空間ウィンドウでできることは?

 

「……っ?」


 俺は気づいてしまったよ。


 日付変えられるんじゃね?


 そう、ゲームでいうと隠しコマンド的なアレだ。

 さっきまでの俺は目次上での操作しか頭になかったけど、可能なら日付を変えることができてもおかしくはないんじゃないか?

 例えば、仮に20年進めたらこの魔法もない異世界(ヴァヴィロン)も何とかなるのでは?

 常に空間ウィンドウの左上に表示されている日付をタッチした。


 ー思い通りだ。


 日付の文字列が拡大され、各数字の上下に「↑」「↓」のコマンドが表示されている。

 嘘だろ。そんなこと出来ていいのか。

 

 ータイムトラべル。


 俺が元の世界(向こう)にいたときは現代科学の力で理論的には可能だとは騒がれていたが。


「なんなんだこのロマン溢れる世界は……! 素晴らしすぎるぞ」


 驚いている。感激している。独り言が思わず出てしまうほどに。

 俺は早速空間ウィンドウに表示されている日付をこう変更した。


 ーー2055/1/3/3:56。

 




 ー行け。20年後の世界に。





 俺は、「コンパイル」をタッチし、「実行」した。

第4話読んでくださりありがとうございます。次話から本格的に話が始動すると思います。

お待ちかね美少女的新キャラも登場するのでご期待を。

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