第2話:職業との出会い
牢獄に放り込まれてから1週間が経過した。していると思う。したと仮定しよう。
なぜ俺が牢獄に放り込まれたかというと、突然広場の噴水に全裸で現れたからだ。無論、どうしてこんなことになってしまったのかは知る由もない。
突如現れた青白い光に飲まれて噴水で全裸?
なんだこの状況。夢か?
いや、夢は1週間も続くわけないな。
「ヌンチャーミチャンチンキンキンキン」
謎の言語とともに、監視の警備員から飯が出された。
これ、パンだよな。上に乗っているのは、見たことがない虫だ。
ここ1週間1日朝と夜の2食ーわけのわからない食事が提供されている。
3日に1回くらい俺の舌に合わない肉が出され、その他は虫スープや虫ライスのようなものを食わされている。そろそろ虫食にハマるぞ俺。
ただの刑務所ではないことはわかる。そして、恐らく日本の刑務所ではないだろう。
日本だったら日本語で会話できるはずだ。では何語だ?スペイン語?イタリア語?
大学で中国語を履修していたが中国語ではないことも確定した。
ーくそまずいメシだ。
何より苦しいことは手元にパソコンがないこと。プログラミングができないこと。
何度か脱獄を試みたが、変な金属のようなものに覆われた牢屋に閉じ込められている以上人間の力では到底脱出することもできない。最初は木製の牢屋に閉じ込められていたが、警察(?)と言語が通じず、要注意人物扱いされ牢屋のグレードアップが施されたという感じだろう。
「あー、こんな牢獄生活懲り懲りだ!」
振り上げた右手を思い切り金属製の硬い床に叩きつけた。
その時だった。
叩きつけた床が青白く光り、モニターのようなものが空間上に現れた。
突然の音に監視の警備員が俺の元に集まる。
とっさに俺は、体で覆うようにしてそのモニターを全力で隠す。
「ヌンチャミン?」
「ヨクソセンリリンゲ・・・」
ただの腹痛だと勘違いしたのか監視の警備員は所定の位置に戻りに行った。
「ふう・・・」
俺は再度空間に現れたモニターに目を向けた。
って、これって空中ディスプレイじゃないか!?最新のITテクノロジーを駆使した空中投影技術!?
まさかこんなところでお目にかかれるとは、大歓喜だよ。原理はわからないが、今は素直に受け止めよう。脱獄が先だ。
ーこれ、日本語だ。
そう、空中ディスプレイは何故だか日本語で書かれていた。
どういうことだ?1週間ぶりに日本語を見た気がする。なんか安心する。
メニュー画面だ。
空間ディスプレイ上に文化、社会、教育、法律、生産、常識・・・と様々な目次が羅列されている。
とりあえず生産という項目を指で押してみる。
*
警備員の目を盗みながら空間ディスプレイをいじりまくって、わかったことがある。
俺は気づいてしまったよ。
これは、この世界の取り扱い説明書のようなものだ。
そして、ここは地球ではないことにも気づいた。この空間ディスプレイには、一般常識や人々の固定観念などが事細かく辞書のように書き記されている。
でもそんなことあり得るのか?
俺の勘が正しければ、俺は・・・
ー異世界転移をしている!
すると、俺は空間ディスプレイの右下に「工具」のようなアイコンがあることを確認した。
押してみよう。
ーこれは!
プログラミング画面!?
工具のアイコンを押すと、ディスプレイ上に出力されている内容が、アルファベットや数字の羅列に変化した。
見たことがある。この言語、プログラミング言語だ。
ん?なんだこれ、キーボードと数字のカウンタが出てきた。数字は10000と表示されている。
まさか。
ー編集できるだと。
試しに「文化」の項目を選択し、「世界共通言語はサマハンタ語である」の文を「世界共通言語は日本語である」と修正した。
俺は「コンパイル」と書かれているアイコンをタッチし、「実行」を押した。
「おいおい、聞いたか?リジル家の奥さん出産間近らしいぞ!」
「おお、それはおめでたいな」
「なんていう名前なんだろうな・・・」
「うーん、まだ決まってないらしいな」
俺の耳に警備員達の会話が入ってきた。こいつら警備やる気はあるのだろうか。
ーやっぱり予想通りだ!
会話の内容はよくわからないが、よくわからない言語を喋っていた警備員が日本語を喋るようになった。やはり、この空間ディスプレイに書かれていることを無理矢理修正することで、現実世界もそれにリンクして変更されるということか。
理系大学生は原理や理論が気になるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
これならいける。脱獄できる。
ーこうして俺は、世界を変えてしまったらしい。
ごあいさつ。
皆さんこんにちは。八百万こけしです。読み方は「やおよろずこけし」が正式ですが、これを知らない人が素直に読むとちょっと危ない読み方になることに今気づきました。
そして、これに気づいてしまったそこのあなた。思考が汚れていますよ。
実は以前に別の名前で小説を書いていたことがあります。
少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくれたのならば、評価やブックマークをしてくれるとかなり喜ぶのが作者である私です。
予想外な展開をどんどん盛り込んでいく予定なので応援よろしくお願いいたします。




