6月・9(☆)
町の外はやはり砂嵐が吹き荒れていた。
多少は弱まっている気がするのは、門を越えて外に溢れ出した枝が日陰を作ってくれているからだろうが、それでも陽射しは暴力的に強い。
この木は崩れる町から逃げようとした誰か。
ノクトが仕掛けた爆弾やら地盤が崩れたせいやらで怖い思いをさせてしまったに違いない。今になって思えばフランたちが消えた地割れも、僕が偽善を振りかざして壁を壊せと言ったから……。
そう思うと、全員が木化する予定だからと言われても罪悪感は拭えない。
木を見上げている僕に、クルーツォは着ていたマントを脱ぐと被せてきた。
「クルーツォ、」
「気にするな。俺は慣れてる」
先にそう言われてしまうと返すとは言えない。
しかし慣れているとは言え、この環境だ。暑さはともかく砂が入り込む恐れはないのだろうか。いくら初期型が丈夫だとは言え、マントが砂を遮っていた部分は大きい。
でも。
僕は深く被ったフードの下で目を擦る。フードのおかげで顔が見られないのはいい。
「言っておくが、お前たちが下層を壊さなくてもこうなることは決まっていた。気にすることはない」
「そう、かな」
「全員を助けるなんて世迷いごとは本来なら創造主の仕事だろう。まぁ、あいつは全員殺すつもりで動いているようにしか見えないが」
「……それは僕も思った」
こんな時なのに。
こんな時だから?
僕は、甘えている。
「ほら」
僕の心の内を知ってか知らでか、クルーツォが空を指さす。
迫り出した枝で今まさに羽根を休めようとしているのは、以前ノクトと一緒に見た鳥だろうか。
「”ヴィード”だ」
「ヴィード、」
ヴィードとはマルヴォの凶行に倒れ、意識不明のままファータ・モンドに転院したレトの学徒のひとり。当時は転院ではなくて死んだのではないかとさえ言われ、当然のことながら卒業式までに戻ってくることはなかった。
あの鳥は彼の名を冠しているだけか?
否。
「ヴィードは……世界のためになったの?」
「そうだな」
「フローロと同じように?」
”ヴィード”とは鳥という意味なのだと、昔、誰かから聞いた。
そして”フローロ”とは花を指す、とも。
あの鳥を『ヴィード』と称したところからして、ファータ・モンドに行ったきりのヴィードと関係がないはずがない。
「消滅したものたちが何故お前たちに紐付いているのか、それは我々もわからないんだ」
鳥を見上げたままクルーツォは続ける。
「ただごく僅かながら、お前たちの中には彼らの魂を宿して生まれて来る者がいる。細胞の一部でも残っていれば培養による複製もできたかもしれないが、その手段すら失われていた我々にはお前たちの存在は奇跡と言ってよかった」
「それが”レトの学徒”」
「そう言うことだ」
どうしてかわからないのはノクトがこの世界を完全に作っていないから。
そんなことを考えて、苦笑する。ノクトの妄言を信じるなんて、とうとう僕も焼きが回ったのかもしれない。
「そしてフローロのおかげで生命の花の開花量が増えた。我々は感謝してもしきれない」
ヴィードが鳥になったように、レトが『フローロは世界のために尽力してくれている』と言ったあの時、フローロは比喩でも何でもなく文字通り世界のためになってしまっていたのか。
『そんな義理蹴っ飛ばして、自分の思うほうに進んでいいんだ。これはきみの命で、きみの人生なんだから』
夢の中で「追わなくていい」と言ったフローロを思い出す。
あれはやはり本人だったのかもしれない。
だから。
『――ずっと遠くまで広がる本物の海が見たい』
「……フローロの夢は、海を再生することだったよ」
感謝されてはいるけれど、腑には落ちない。
チャルマもヴィヴィも痣から木化までは数日だった。
それに比べてフローロは痣が出たにもかかわらず木化はしなかった。なのに何ヵ月も経ってから発症するだろうか。
「レトは、フローロをどうしたの?」
もしかして、能力を手に入れたいばかりに強制的に木化させた、なんてことは……?
「お前が考えているとおりだ」
ああ!
僕が尋ねたことなのに、返事も予想していたとおりなのに、なのにこんなに息が苦しい。
フローロはいない。
僕は2度と彼には会えない。
「ファータ・モンドは存在しない」
クルーツォは遠くに目を向ける。
砂嵐の向こうに彼の地の象徴でもある白い塔が見える。
「あの場所には何もない。ただ、命を際限なく飲み込む虚無があるだけだ。行ったところで何もできない」
「それって、」
「人間たちの世界は此処、ラ・エリツィーノで完結している」
だからファータ・モンドの情報は何ひとつ与えられなかったのか?
『性別が分かれたら男性のほうが多くなるらしい』とか、『セルエタを交換しておきながら、姿が変わったら好みではなかったと逃げてしまうケースもあると聞いている』とか、情報がどれも皆、噂の形を取っていたのはそのせいか?
「昔はあの場所にも町があった。そこに住む人々が木化し、生命の花を咲かせたところから全てが始まった。”ファータ・モンド”とは”化け物の世界”と言う意味らしい。皮肉だな」
全てを飲み込む虚無。それを化け物と称したのは時の人々か。それともレトか。
いや、それもどうでもいい。
卒業生がファータ・モンドに向かうのは、虚無の近くで木化させるため。
性徴が現れたとされる学生がファータ・モンドに送られるのも、虚無の近くで木化させるため。
生命の花を無駄に散らせないために、全てを虚無に飲み込ませるために、あの場所に連れて行く。だからあの場所には生命の花が群生している。
「あの塔はただの墓標だ。世界のために力を貸してくれた子供たちを忘れないために名を刻んでいる」
フローロやイグニやヴィードの名も。
ヴィヴィやチャルマの名もあると、クルーツォは言う。
「それで……レトがお前を必要としていることについてだが」
珍しく口籠るクルーツォを、僕は何も返さずにただ見上げる。
意地が悪い、とは思う。
「……”マーレ”の意味を知っているか?」
気を遣ってくれているのだろうか。クルーツォは珍しくよく喋る。ヴィヴィが見たら僕ばかり狡い、と文句を言って来るであろうほどに。
木になってすぐに燃やされ、根も残っていない彼の名には、どんな意味があったのか。そんなことを少し思う。
「ヴィードが鳥、フローロが花を指すように」
「海を再生させるには僕の命が要るんだね」
鳥が姿を現したように。
生命の花の開花量が増えたように。
これが”レトの学徒”の使命。レトが僕を必要とすること。
どういう理由で僕の命に海が割り振られたかはわからないけれど、学徒になることも、僕の最期も、生まれた時から既に決まっていたなんて、驚きを通り越して笑ってしまいそうだ。
「すまない」
「何であやまるのさ。僕はフローロから夢を引き継いだんだ。この命が海の再生に使われるなら本望だよ。でもね」
僕はクルーツォを見据える。
「フローロの夢を潰したことと、チャルマに栄養剤を過剰投与したことは許せないんだ。ファータ・モンドがないならないって最初から言ってくれればいい。僕たちの命が必要ならそう言えばいい。どうして騙すようなことをするのさ。そう言うのは優しさとは言わないよ。そうでしょう? レト」
「……知っていたのか」
「意外だった?」
クルーツォは僕のことを”マーレ”とは呼ばない。
何時だって”レトの学徒”と呼んでいた。クレアも、レトに乗っ取られたあの日だけ僕のことを”マーレ”と呼んだ。
ノクトは町を破壊することでレトをネットワークから切り離し、移動を制限しようとした。
外側から少しずつ攻め込んで、敵の領地を削っていくのは戦争でもよくあること。国境を、砦を奪い、町や村を制圧し、城下町に火を放つ。最後に残るのは城、ただひとつ。
その城が何に当たるのか。
ノクトは商店街の何処かだと言っていたけれど、自力で動けないシステムの何処かにいるよりは、自由に動き回れるアンドロイドに入り込むだろうとは思っていた。
そして世界が崩壊し始めてから僕の前に現れたアンドロイドは、フランと、クルーツォだけだ。
「結果的に騙したのは申し訳ない。だがこの運命を誰もが納得するとは思えなかった。現に他の町の人々は怯え、苦しんだ。だからそんな思いを抱かせて死までの16年を過ごさせるくらいなら、たとえ夢でも未来を見せてやりたいと……そんな考えは決して当事者にはならない者の驕りだったのかもしれない」
レトはずっとこの世界と人々を見て来た。
多くの人を見送って、見送って、見送って、それで僕らのために最善と思える楽園を作ったのだろう。
「……優しいね、とは言わないよ。でも」
「構わない。我々はそれだけのことをしたのだから」
ちゃんと言えばわかってくれると言い切ることはできないけれど、でも責めたところで誰も戻って来はしない。
ただ、謝罪の気持ちを持っていてくれたのなら、それ以上は言うことではない。
レトの使命はこの世界を守ること。
かつての世界を取り戻すこと。
その世界に”光合成のできる人間”はいない。
「……それで……確かにレトはこの身に入り込んではいるが、今、表に出ているのは”クルーツォ”なんだが」
「わかってるよ」
本当ならクルーツォの修理は2ヵ月以上かかるはずだった。
なのに最後に残った僕を導くために大急ぎで手足を付け直して、こうしてレトではなくクルーツォとして傍にいてくれるなんて、本当にレトは僕のことをよくわかっている。
僕たちが話している間にもその木はさらに枝を伸ばしていく。
町の中の潤沢な水を吸って、外へ、外へと伸びていく。
その枝の先、門から少し離れたところに、ポツンと1本、別の木が生えているのが見えた。ヒョロリと頼りなさげなその木は細いながらも幹はガサガサに荒れ、見るからに昨日今日に生えたものではない。
わかる。これは以前クルーツォが言った、『遺体ではない、人間の形をしていないもの』。
言い換えれば、町を脱走した学生の成れの果て。
上着のポケットの中で小さく鳴った振動に、僕はこの木が生前誰だったかを知る。
「学生が減ったという報告はなかったから、過去の行方不明者の内の誰かなのだろうとなっていたのだが、やはりお前が探していた友人とはこれか」
僕が能登大地のことをノクトだと言い張らなければ、ノクト失踪をレトに伝えていれば彼は無事に見つけてもらえたのだろうか。
見つけられたところであの壁の内側に閉じ込められるだけなら、行きたかった場所で根を張っている今のほうが幸せなのだろうか。
見ている前で、ノクトの木を覆うように枝が伸びて来る。
望んでいた外の世界で仲間に囲まれて。勢いの良い他の木に混ざって何処にあるのかわからなくなってしまうけれど、寂しい思いをしなくてもいいと思えば良いことだと思いたい。
木は空を覆うドームを突き破り、上にも伸びていく。
屋根を壊せば外の砂嵐に直接当たることになるのに、木の成長は衰えない。
『まずは植物の生える環境を整え、そこである程度の群生になるまで育て、それから劣悪な環境下に放つ。1本では折れてしまう草木も群生でなら生き延びることができるでしょう?』
ああ、そうだねクレア。
僕たちの森はきっと砂嵐になんか負けない。
「そろそろ行くか」
「ねぇ」
足を進めかけたクルーツォを呼び止め、僕は振り返る。
「やっぱり虚無のところまで行かないと駄目?」
「お前の役割は生命の花ではないから、特に問題はないと思うが……気が変わったのか?」
「あー……、ううん。歩いてファータ・モンドまで行くのはちょっとキツいなぁって」
「ああ。車が出せれば良かったんだが」
町は壊滅状態。あちこちが陥没したり隆起したりして、とても車を走らせられる状態ではない。ノクトの爆破も加わって、今や取りに戻ることすら至難の業だろう。
それに体もずっとだるい。
地下通路にいる間、光合成できなかったのが影響しているのか、足が重くて――。
「もし此処でもいいなら此処にいたいんだけど。此処にはノクトもいるし、ヴィヴィもチャルマも眠ってる」
暫く考える素振りを見せたクルーツォは、やがて僕の隣に戻ってきた。
フードを深く被せなおし、範囲を広げつつある木陰に引っ張り込む。此処にいてもいい、ということだろう。
はらりと1枚、薄紅色の花弁が舞った。
見れば、先ほど鳥が止まっていた枝に花が咲いている。その1輪だけではない。次々に蕾が現れ、膨らみ、花が開いていく。
「0番花?」
「いや、1番か2番か……0番ではないな。0番花はもっと、見ただけでそれとわかる」
クルーツォは手を伸ばし、手近な花を1輪摘む。そして花弁を千切って数枚に束ねると僕の首に当てた。
マルヴォに切りつけられた傷の痛みがそれだけで引いていく。
何番かわからない花でこれだけの効能があるのなら0番花はどれだけ強力なのか。
花で世界が回復するという推測の信憑性も増すと言うものだ。
開いた花はあっという間に散っていく。
しかし散った端からまた蕾が現れる。
次から次へと咲き乱れる生命の花のせいで、あたり一面がピンクに染まる。
『――ほら、前にチャルマの病院に行った時、落ち葉が凄かったろ。あんな感じだ。あれのピンク版だと思えばいい』
これを見たらノクトも桜に似ていると言うだろうか。
でも僕が先に言ったって、鼻で笑うか、返事もせずに黙り込むんだ。
「あの塔、僕の名前も刻まれる?」
遠くに見えるのはファータ・モンドだと信じていた白い塔。
あと数日で僕もあの場所に行くはずだった。
「どうかな。お前は最後のひとりだから刻んでる暇はないかもしれない」
「え、酷い」
「お前たちが全て木化したら俺たちの役目も終わる。名前を刻んでいる暇なんてないだろうな」
「止まっちゃうの?」
「子供たちだけに辛い思いはさせない。俺も、最後までお前の傍にいてやるから安心しろ」
世界が回復したらレトは消滅する。
けれどアンドロイドまでが止まるとは思わなかった。レトの支配から解かれ、守るべき人間を失えば、彼らの存在意義はなくなったようなものだけれども……。
「役目を終えれば消える。それだけだ」
淡々と紡ぐクルーツォの声を聞きながら、僕は舞い散る花弁に手を伸ばす。
視界に入った紅を、そのまま両手で胸に抱く。
「お前が咲かせる花で海が再生されるだろう。そして何千年か何万年かの後、その海から新たな命が生まれる。人間も、そのうち現れる」
「光合成しないのが?」
「そう。光合成しない奴が」
そして進化して、機械を作れるようになって、その機械を使ってゲームを作る者も現れて。
「……何時か、この世界に能登大地が生まれる」
「そういうことだ」
やはり彼は引き籠ってゲームを作っているのだろうか。
独りよがりで我が儘で頑固で厨二病で、自分のことよりもかわいい妹の交際相手ばかり気になって。
そんなふうだから30歳にもなって彼女のひとりもできなくて。
ああ、そう考えたら。
僕の守った世界で、何時かきみが生きてくれるのなら。
「――マーレ!」
声が聞こえた。
ノクトのことを考えていたから空耳が、ではない。
ノクトが駆けて来る。門を壊して溢れかえる木を、満身創痍の体で乗り越えて。
手にしているのは僕のセルエタだ。1時間後に持ち主の居場所を指し示すあの機械は、今頃僕に向かって矢印を点滅させているのだろう。
「……どうして」
「お前が! 死ぬ覚悟したみたいな顔で置いて行くからだろうが! レトに必要とされてるからって此処に残って、それでどうなる!? みんな木になっちまって、レトも止まって、そうしたらクルーツォも止まるんだぞ?」
折られたのは腕だけだが、好き勝手に伸びる木を越えて此処まで追って来るのは並大抵の苦労ではない。
最後まであと1日もかからないって言ったんだから彼処でおとなしくしていればいいのに、何故追って来るのだろう。
「俺、ゲームのラストまでは作ってないって言ったろ? ラストはまだ変えられる。レトを倒したくないなら倒さなくてもいいし、俺が元の世界に戻らない未来だって作ればいい。
な、一緒に行こう。いや、マルヴォみたいに女になれとか言ってるわけじゃないからな。だけど、お前となら男同士でも女同士でも上手くやっていけると思うんだよ。ほら、お前こういうトンデモ話に耐性あるし」
僕が犠牲になることを選んだように見えたから?
そんな安っぽい正義感で追いかけて来るなんてきみらしくもない。
「クルーツォの言うことが正しいとは限らないだろう!? 俺ならできる。お前が俺の世界に行きたくないってんなら俺が残る! ふたりで、この世界をどうにかする方法を」
僕は何時だってきみの味方でなんかなかったし、ずっとお互いにお互いを利用するつもりできたんじゃないか。
僕のために此処に残る? ふざけるな。
僕は花弁を握った左手を、左手の甲を、ノクトに向けて差し出す。
遠目からでもわかるだろう。四葉のような、花のような紅い痣に。
「お前……! 何時!?」
「良かったねノクト。僕が木になればゲームエンドだ」
「だけど木化するとは限らないだろう! ほら、フローロだって」
「見える? ファータ・モンドの手前に生命の花の群生があるんだ。フローロは彼処にいる。イグニも一緒にいる。ヴィードも、先にファータ・モンドに行った同級生も、みんな、」
「嘘だ!」
「どうして嘘なのさ。きみは自分で言ったよ? ファータ・モンドに行った同級生は木化要員として必要とされてるんだろうって」
フローロまでもが木化してしまった今、痣が出て木化しなかった症例はひとりもなくなった。信じる信じないは関係ない。
「何でそんな悟った目でいられるんだよ! まだ15歳だろ!? 世界のために子供に命を張れってどんな世界なんだよ、って作ったの俺だけど、でももっと我が儘言ったっていいじゃねぇか!! 死にたくないって、木になんかなりたくないって、それを叶えるのが大人の、」
「ねぇノクト」
僕は痣を、僕の手の甲に咲いた紅を擦る。
ノクトが『この世界を作ったのは俺だ』と言った時から、ずっと引っかかっていることがあった。
それを考えないようにして、一緒に過去の世界へ――疫病が蔓延しているし、僕は人間扱いされないかもしれないけれど――行った後のことも想像した。
でも。
「此処はノクトの作ったゲームの世界なら、此処を出ても僕はノクトの世界には行けない。ただのデータが実体を持つことはない。戻れるのはノクト……能登大地だけ」
滑稽だ。僕自身は此処がゲーム世界だなんて微塵も思っていないのに。
でも。
「そ、れは」
ノクトにはこの言い方が効く。
此処を自分のゲーム世界だと思い込んでいるノクトには。
そして、僕のことは僕が1番良く知っている。
体の奥で芽は吹いてしまった。足はもう、この場所を終の棲家と決めてしまった。
「……後ろ向いて、10数えてくれない? 僕、自分が木になるとこ、ノクトには見られたくないなぁ」
「マーレ、俺は」
なおも言いたそうにしていたノクトは、それでも口元を歪めたまま後ろを向いた。
握りしめた拳が震えている。
「ありがとう。ええと……能登、さん」
「ノクトだ! ノクトでいい!」
僕の痣を突き破って、それを具現化したような、血よりも紅い花が咲く。
「ありがとう、ノクト」
※実際にはファータは妖精という意味ですが。




