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大和型戦艦4番艦「111号艦」の偉大なる戦果

史実では建造されなかった大和型戦艦4番艦が活躍する架空戦記です。

 おう、なんだ。俺の銃殺刑が決まったか?


 それか絞首刑か?


 それとも、このまま牢獄の中で朽ち果てさせるつもりか?


 何でも構わんよ。


 俺の長年の願いは叶ったんだ。


 ここで死んでも悔いはない。


 えっ?俺の処分については、まだ何も決まっていない?


 何で、あんなことをしたのか俺の動機が聞きたい?


 あんたが尋問係か。


 以前からの知り合いのあんたに話す方が気楽だな。


 長い話になるが、いいか?


 よし!お許しが出たのなら話そう!


 あんたの知っての通り、俺は元々は日本人だ。


 日本帝国海軍の軍港がある街で生まれ育った。


 軍港の近くに住む男の子は軍艦好きになって、戦艦の艦長になるのを将来の夢にするのが普通だったが、俺はちょっと変わっていた。


 俺は「巨大な戦艦を造る」のが子供の頃の将来の夢だったんだ。


 俺は必死に勉強して日本帝国海軍の造船士官になった。


 そして、日本帝国海軍が建造した世界最大の戦艦「大和型戦艦」の建造に関われるようになったんだ。


 俺が建造担当者の1人になったのは、大和型戦艦4番艦、仮称「111号艦」だった。


 だが、この「111号艦」の建造は中止されるところだった。


 太平洋戦争開戦初頭の真珠湾攻撃とマレー沖開戦で、戦艦に対する航空機の優位は確実になったし、ミッドウェー海戦で空母4隻を失ってからは空母の建造が優先になったからな。


 大和型3番艦の「信濃」は空母として建造されることになり、「111号艦」は建造そのものが中止、資材は他に転用されるところだった。


 そこに救いの手を差し伸べたのが、意外なことにソ連の最高指導者スターリンだった。


 諜報活動で大和型戦艦が46センチ砲搭載戦艦だと知ったスターリンが惚れ込んで、大和型戦艦その物の購入を申し入れて来たんだ。


 ソ連はドイツとの激烈な地上戦の真っ最中で、アメリカとは同盟国だったが、戦後はソ連とアメリカは対立する可能性が高かった。


 アメリカ海軍にソ連海軍が対抗できるようになる手段の一つとして大和型戦艦を手に入れようとしたんだ。


 日本は、政府・海軍・陸軍を巻き込んだ激しい議論の末、スターリンからの申し入れを受けることにした。


 ソ連は連合国側だったが、日本とソ連の間には不可侵条約があり交戦状態にはなかった。


 ソ連は、「111号艦」とはバーター貿易で石油や鉱物資源の日本への引き渡しをすることになっており、少しでも資源が欲しかった日本はそれを受け入れた。


 それと、ソ連をアメリカなどの連合国との「仲介役」としても期待していた。


 ソ連に引き渡されることになったので「111号艦」は正式な艦名はつけられることなく、「111号艦」のままとなった。


 アメリカは、このことを知ったがソ連に特に抗議はしなかった。


 ソ連が大和型戦艦1隻手に入れたとしても特に脅威にはならないと考え、日本は「111号艦」に工業力を余計に使うことになり、むしろアメリカ側に有利になると判断したのだった。


 大和型1番艦「大和」は沖縄に向かう途中で航空機に撃沈され、2番艦「武蔵」はレイテ沖でやはり航空機に撃沈され、空母として建造された3番艦「信濃」は日本近海で潜水艦に撃沈された。


 大和型は一度も敵の戦艦とまともに撃ち合わないまま3隻が失われた。


 残った大和型は「111号艦」だけとなった。


 1945年8月6日 アメリカ広島に原爆投下。


 8月8日 ソ連、日ソ不可侵条約破棄、日本に宣戦布告。


 8月9日 アメリカ長崎に原爆投下。


 8月15日 日本ポツダム宣言受諾。


 9月2日 日本、東京湾のアメリカ海軍戦艦「ミズーリ」艦上で降伏文書に調印。


 日本は敗北し、全土が連合軍に占領された。


 終戦時、「111号艦」の建造の進捗率は約90パーセントだった。


 ソ連は「戦時賠償」の名目で「111号艦」と建造に必要な資材・工作機械を日本から持ち去った。


 技術者も必要なので、ソ連は高額報酬を提示して日本人技術者を募集した。


 俺はそれに応じた。


 日本に未練はなかった。


 俺の家族はアメリカの空襲で全員死んでいたし、軍隊が廃止される日本では二度と戦艦が建造されないことは明らかだった。


 例え、ソ連の軍艦となっても「111号艦」の建造に関わるのが、俺の唯一の人生の目標になっていた。


 航行は可能になっていた「111号艦」に便乗して俺もソ連のウラジオストクに移動して、そこで建造が再開された。


 俺が熱心な共産主義者として振る舞い、ソ連国籍を取得したのは、その方が俺の目的に都合が良かったからにすぎない。


 スターリンは、大和型戦艦がよほど気に入っていたようで、ウラジオストクに直接視察に来て、俺たち技術者と並んで記念撮影までしたな。


 そして、「111号艦」が完成すると、あんたらは「ソビエツキー・ソユーズ」と名づけたな。


 だが、俺は内心では「111号艦」と呼び続けた。


 滅んでしまった日本帝国海軍の戦艦たちの最後の生き残りであり、日本帝国海軍からは正式な名前をもらえなかったが、仮称である「111号艦」こそが日本帝国海軍の戦艦であった証だからだ。


 日本帝国海軍を滅ぼし、俺の家族を全て奪ったアメリカに「111号艦」で復讐するのが、俺の新たな人生の目標になっていた。


 その機会がやってきた。


 1950年6月に始まった朝鮮戦争で、ソ連空軍は北朝鮮にジェット戦闘機と義勇パイロットを派遣したが、ソ連海軍も「111号艦」と駆逐艦数隻を義勇艦隊として派遣した。


 アメリカ海軍の戦艦が朝鮮半島沿岸に対地艦砲射撃のために近づくと、ソ連義勇艦隊は出撃した。


 アメリカ海軍の空母機動部隊に空襲されれば、ソ連義勇艦隊は簡単に壊滅されていただろうが、「111号艦」を撃沈して戦争が拡大するのを怖れたアメリカ海軍は戦艦を撤退させるのが常だった。


 アメリカもソ連も朝鮮半島を舞台にした「限定戦争」におさめたいのであって「全面戦争」にする気はないことから起きる状況だったな。


 その内、「111号艦」とアメリカ海軍戦艦は洋上で何度もすれ違うようになり、お互いの距離が3万メートルぐらいで砲を向けあったまま交差するようなことが何度も起きるようになった。


 ソ連海軍もアメリカ海軍も互いに「にらみ合いはするが本気では殴り合わない」というのが暗黙の了解になっていた。


 俺はそこにつけこんだ。


 俺は「111号艦」に技術顧問として乗り込んでいたが、何回目かの出撃でアメリカ海軍戦艦「ミズーリ」と交差することが事前に分かった。


 日本帝国にとって屈辱の降伏の調印式の会場となった戦艦だ。


 撃沈するのに一番ふさわしい戦艦だった。


 そして、「111号艦」が「ミズーリ」と4万メートルまで近づいたところで、スターリンからの命令書を艦長と政治将校に提出した。


 内容は「戦艦ソビエツキー・ソユーズの指揮権を俺にゆだねる」というものだった。


 もちろん、偽造だ。だが、スターリンと並んで写っている写真が新聞に載ったりしたから、それなりに信憑性はあった。


 洋上行動中の艦隊は無線封止が原則だったからモスクワに無線で問い合わせることもできず。「111号艦」の指揮権は俺が握ることになった。


 俺は戦艦「ミズーリ」に向けて無線で連絡した。


 ロシア語と英語で付近の敵味方両方にも聞こえるようにだ。


  「共産主義の道を歩む朝鮮人民を殺戮する帝国主義者の犬である戦艦『ミズーリ』よ。偉大なる同志スターリンにかわって、この戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』が成敗する。3分後に砲撃を開始する」


 卑怯な騙し討ちとは言われたくなかったからな「111号艦」には、他の大和型戦艦ができなかった戦艦同士の砲撃戦をやらせたかった。


 きっかり3分後、「111号艦」が先に発砲した。


 初弾命中なんてことは起きることはなく、全弾が海面に落ちて水柱を上げただけだった。


 戸惑っていたらしい「ミズーリ」も、こっちが本気だと分かったようで、少し遅れて発砲した。


 あちらも全弾はずれだったが、水柱から榴弾だと分かった。


 こちらは最初から徹甲弾だったが、向こうは地上への砲撃しか考えていなかったのが分かった。


 お互い数回の斉発の後に、最初に命中弾を出したのは、やはり砲戦技量の高い「ミズーリ」の方だった。


 こちらの第一砲塔の天蓋に命中したが榴弾で、こちらの戦闘能力に損害はなかった。


 こちらはなかなか命中弾が出ず。海面に水柱を上げるだけだった。


 やはり、経験の差で、ソ連海軍の砲戦技量は日本帝国海軍にもアメリカ海軍にも劣っていた。


 戦艦「ミズーリ」は徹甲弾に切り替え、こちらに数発命中するようになっていた。


 46センチ砲弾に耐えられる分厚い装甲で弾き返しているが、「ミズーリ」の40センチ砲弾でも何発も喰らえば危険なことを知っている俺は、水柱を上げるだけのソ連水兵に内心で苛立っていた。


 突然、「ミズーリ」の舷側に魚雷が当たったように水柱が上がり、浸水したようで傾いていた。


 味方の駆逐艦には攻撃命令を出していなかった俺は一瞬戸惑ったが、すぐに理由が分かった。


 水中弾だ。


 戦艦「ミズーリ」の手前に着水した砲弾が水中を直進して水面下の「ミズーリ」の舷側に命中したのだ。


 傾いた「ミズーリ」は照準が不正確になり、命中弾は出なくなり、それとは反対に浸水して速力が低下した「ミズーリ」に対するこちらの砲撃は命中率が向上した。


 弾薬庫に命中したらしく「ミズーリ」は爆沈した。


 俺はウラジオストクに帰投することにした。


 付近の海域に「111号艦」と対抗できるようなアメリカ海軍の軍艦はいなかったし、アメリカ海軍の空母は対地攻撃から手を離せなかった。


 大和型戦艦4番艦「111号艦」は、アメリカ海軍戦艦「ミズーリ」を撃沈するという偉大なる戦果を上げて無事にウラジオストクに帰投した。


 ウラジオストクに帰投すると、すぐ俺は逮捕されて、この牢獄に入れられたわけだ。


 俺の話はこれで終わりだ。


 ああ、あんた、もしスターリンに会うことがあったら伝えてくれないか。


 建造中止になるはずだった「111号艦」がスターリンのおかげで完成できたことに本当に感謝している。


 それと、勝手に「111号艦」を使って恩を仇で返すようなことをして本当にすまなかったと。


 若い女のあんたにこんなこと頼んで悪いな。


 えっ!?共産主義では男女平等だ?


 ああ、そうだったな。


 えっ!?それと……。


 あんた個人としては俺のことが好きだって!?


 若い女がこんなおじさんをからかうもんじゃないよ!




 ……以上がソ連崩壊時に流出した文書よりの抜粋である。


 追跡調査によると、この造船士官は1980年代末ごろまで生存しており、ソ連が崩壊する少し前に癌により死亡している。


 造船士官は軍法会議で長期の強制労働刑となったが、その労働内容は「111号艦」の整備・改装を監督することで常に監視係が側にいる以外は仕事内容に以前と変わりがなかった。


 なぜこのような軽い処分になったのか詳細は不明だが、アメリカ海軍の戦艦を撃沈した造船士官を意外にスターリンは気に入っていたという説がある。


 戦艦「111号艦」は1980年代にはミサイル戦艦として改装され、第三砲塔を撤去して、そこにミサイル発射装置を設置している。


 造船士官も改装には関わっており、砲塔を減らすことに抵抗はあったようだが、戦力としての価値を維持するため納得したようだ。


 アメリカとソ連の冷戦中は、「111号艦」は常にウラジオストクにあり、それに対抗するためにアメリカ海軍はアイオワ級戦艦1隻を日本の横須賀を事実上の母港としていた。


 ソ連崩壊後、ロシア海軍は予算不足により「111号艦」も整備ができず一時期廃墟のようになっていた。


 だが、ロシア経済が持ち直し、「強いロシアの復活」をスローガンとする現在のロシア大統領が就任すると、「アメリカ海軍の戦艦を撃沈した戦艦」として綺麗に整備されて、ウラジオストクで記念艦となっている。


 もちろん、正式な艦名は「ソビエツキー・ソユーズ」であるが舷側に描かれた艦番号は「111」となっている。


 現存している唯一の大和型戦艦として日本からはミリタリーマニアが大勢訪れている。


 日本で最近流行りの軍艦を擬人化して女性化するゲーム・アニメ・漫画では、大和四姉妹の末の妹として登場し、「ソビエツキー・ソユーズ111」というキャラ名で日本生まれでソ連の養女になったという設定である。


 余談ではあるが、尋問係と監視係は同一人物であり、造船士官は監視係だったロシア人女性と結婚、その女性は現在も健在であり、息子と孫と一緒に記念艦「ソビエツキー・ソユーズ」の近くで観光客向けのロシア料理店を経営している。

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[良い点] シニカルにドラマティック♪ 楽しく読ませていただきました! [気になる点] なんとなくスターリンが転移・転生者である様に思われました。  〉あんたが尋問係か。 〉以前からの知り合いの…
[良い点] 最高の作品ですね!111号艦がソ連に渡り、ミズーリに一矢報いるというストーリーや、建造中の設定など本当にリアルで素敵です!私の親戚が武蔵の設計に携わっていたので主人公の造船技師が身近に感じ…
[良い点] 造船士官は 事実上、お咎めなし状態ということですね [一言] おまけに、軽空母(鳳翔)ももっていけたんでしょうかね
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