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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
第三層の古代遺産
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四人目のメンバー

 倒れている冒険者達の装備を、ノワは一つずつ検分していく。


「んー……あんまりいい装備の人、いないなぁ」


 ポイポイポポイと広間の中央に、革袋やリュックが積まれていく。

 剣や槍といった武器も蹴飛ばして、やはり広間の中央へ。

 ノワは、淡々と雑用をこなしていく。


「僕の眷属にした女性達にも、お手伝いさせましょう」

「うん、よろしくー♪ ノワ一人じゃ、さすがにちょっと辛いよ」

「はい」


 クロスが頷くと、倒れていた何人かの女冒険者達が、ゆらりと立ち上がった。

 首筋には二穴の噛まれた跡があり、それは彼女達が吸血鬼の奴隷に堕ちたことを示している。


「えっと……」

「私、どうなったんだっけ……?」


 女冒険者達は頭をふらつかせていた。

 周りにある死体には、気づけていない。


「少し気を失っていたんですよ。大丈夫でしたか?」


 クロスが優しく語りかけると、彼女達は夢見るような表情でコクンと頷いた。


「少し、僕の仕事を手伝っていただけますか? 何、そんなに難しい仕事ではありませんから……」




「て、テメエら……一体……」


 この大規模調査団を率いていた冒険者のリーダーが、呻き声を上げた。

 まだ、息があったらしい。

 ノワはそんな彼の前にしゃがみ込み、血生臭い現場とは到底かけ離れた朗らかな笑みを浮かべた。


「ノワ達の為に、ご苦労様でした☆ でも、お互い様だったでしょ? みんなのご飯に毒っぽいのとか盛ってたし?」

「……!! 何故、それを……!」


 この大規模調査団は、そもそもの最初から信頼関係などなかった。

 団長であるこのリーダーが率いていた冒険者パーティーも、白銀級という実力とは別に、黒い噂がいくつもあったパーティーだ。

 よからぬ集団との関わりや、ご禁制品の横流し、新米パーティーの失踪等々。

 調査団に参加している他のパーティーも、大なり小なり似たような疑惑のある面々だ。

 だからこそ、ノワ達も潜り込むことができた。


 情報収集は、ノワにとってはお手の物だ。

 調査団の各パーティー間に不和をもたらし、パーティーの中でも諍いの種を蒔いていった。

 クロスは密かに女性冒険者達に迫り、少しずつ眷属を増やしていった。

 ロンは普段は力を弱める魔道具をいくつか装備し、周囲の目を欺き続けた。

 また、リーダー達が用意していた毒未満の怪しげな薬を盗み出し、彼らの食事に混ぜたのもロンである。


「……腰、だな」


 人の姿に戻ったロンは、鼻を鳴らした。

 リーダーの腰をまさぐり、そこにあった携帯香炉を取り上げた。

 そこから、かすかに甘い煙が立ち上っている。

 これは、リーダー達が用意した薬を飲んだ者達に作用し、力を弱める効果があるのだ。

 自分達の力は温存したまま、他の冒険者達を使役し、迷宮の深い場所で彼らの命や財産を奪う。

 それが彼らのやり口だった。


「便利な薬だよねー。せっかくだから、これももらっておくね?」


 もっとも、自分達がその罠に掛かるとは、考えもしなかったのだろう。

 罠に掛けようとしたノワ達の方が、一枚上手だった。

 ただ、それだけの話である。


「そりゃ一回でこんだけボロ儲けだもの。やめられないよねー?」


 ノワの背後には、冒険者達から収穫した様々な装備やアイテム、金袋が積まれていた。

 もっとも、毎回こんなことはしていないはずだ。

 いくら何でも目立ちすぎる。

 ある程度は普通に依頼を受け、たまに新米パーティーや臨時で入った冒険者で稼ぐ。

 そういうやり方をしていたのだ。


「よいしょー……」


 それらを全部横からかっさらった少女は、武器であるトマホークを大きく後ろに振り上げる。

 あの真新しいトマホークがスイングされた場合、自分の頭は絶妙な位置にあることを、リーダーは悟ったようだ。


「よ、よせ……やめろ……やめてくれ……!!」

「え、何で? ノワのこと、エグい趣味の貴族様に売り飛ばそうとしてたでしょ? 自分のことは、自分で守らなきゃねっ☆」


 ぶぅん、と無慈悲に振るわれたトマホークが、リーダーの頭に振り下ろされた。




「さて、とー」

「ここからが本番ですね」

「……ああ」


 ノワ達は、広間の一面を見た。

 開かれた古めかしい大扉があり、その向こうにはまだ手つかずの状態にある、古代遺跡のような大部屋があった。


「ねーねー、クロス君ロン君、これ何かな?」

「ふむ、何かの工房でしょうか?」


 頭脳労働担当であるクロスは感心したように、遺跡を眺め回していた。

 ここまで歩いてきた『墜落殿(フォーリウム)』の通路とは、明らかに積み重ねてきた歴史が違う空間だ。


「……罠はない。このままいける」


 肉体労働担当のロンにはよく分からない。

 ただ、罠の有無を確認する作業を、淡々と行っていた。


「ふむ、魔術師の研究室によく似ていますね。古代の魔術などあると、高く売れるのですが……おや、どうかしましたか、ロン君」


 興奮しているのか、クロスは饒舌だ。

 その舌が止まったのは、ロンが手でノワとクロスを制したからだ。


「うん? 何か見つかった?」


 ノワが近付くと、蓋のない柩に横たわる、逞しい銀髪の青年の姿があった。

 額には、青い宝石が埋め込まれている。

 腰に布を巻いている以外は、全裸だ。


「人形、ですね。いや、人形族とは違う……うん、今の技術とは異なるタイプの人形ですか。精霊の理に乗っ取った造り……人造人間、という奴でしょうか」

「格好いいねー」


 彫像のような青年に、ノワは感心したような溜め息を漏らした。


「はは、ノワさんは本当に面食いですね」

「うん。男は顔と背丈があって幾らだもん。あとは財力があればゆーことなし?」


 クロスとロンの前では、猫を被る必要はなく、実に正直なノワだった。


「心音は聞こえないのに、生きている、だと……?」


 ピクリとも動かない青年に、ロンは訝しげな視線を向ける。

 彼の動物的感覚からしても、生物的な反応は感じられないでいた。

 なのに、生気は感じられるのだ。


「ふむ。……古代文字は専門じゃないんですけどね……読める所だけ……」


 クロスは、寝床の横にあった石板に目を通した。

 読み拾える単語から、かろうじて意味を把握する。


「おお! これは素晴らしいですね」

「ん? どしたの?」

「どうやら、古の時代の奴隷人形のようですね。契約によって彼は、絶対服従の下僕となるみたいです」


 クロスの説明に、ノワは目を輝かせた。


「じゃあこれ、ノワがもらっていい?」

「構いませんけど、研究はさせてくださいよ」

「うん!」


 苦笑するクロスに、ノワも頷く。


「僕達は運がいい。盾役が手に入りそうです」

「……どれほどのモノかは、動かしてからでないと分からないだろうが、な」

「それはごもっともです」


 慎重論を唱えるロンに、クロスは肩を竦めた。

 定期的に異性の血を吸いたくなる半吸血鬼(ダンピール)、獣性の制御が出来ない狼男(ライカンスロープ)といった彼らは、パーティーを組むことすら難しい。

 そんな二人を拾ってくれたノワに、二人は恩を感じていた。

 もっともノワの理由は「格好良くてとても性能がいいから」という即物的なモノだったが、それすら問題ではなかった。

 何より、表の世界を歩くことがなかった彼らと、欲しいモノはどんな手段を使っても手に入れようとするノワの相性は、とてもよかったのだ。


「絶対起こしてよ、クロス君」

「はい。やってみますね」




 数時間後、クロスの努力の末、青年は目を覚ました。

 石板にノワの血で名前を記し、彼との契約は完了していた。


「……」


 無表情な視線が、己の主であるノワを見つめる。


「この子、名前は?」

「ありません。契約者が決めるようですね」


 クロスが言うと、ノワは両手をパンと合わせた。


「じゃあ、ヴィクターにしよ。今日の戦勝記念♪ お前の名前はヴィクターだよ?」

「……う゛ぃくた-」


 上体を起こした青年――ヴィクターは、たどたどしい言葉遣いで、己の名前を反芻した。


「そう。君はノワの下僕なんだからね。絶対服従だよ。分かった?」

「げぼく……ぜったい、ふくじゅう……」


 ふむ、とクロスはヴィクターの屈強な肉体を眺め回した。


「頑丈そうですね。装備は重いモノでもいけそうです」


 冒険者達から奪った装備の中に、サイズの合うモノが有ればいいのですが、とクロスは考える。


「……」


 ヴィクターはクロスを見、次にロンを見た。

 分厚い手が、クロス、ロンと順に触れる。

 その途端、二人は、自分の中に活力が送られてきているのを感じた。


「へえ」

「む……」


 クロスは感心したような声を上げ、ロンは小さく唸った。


「回復も使えるのですか。それも、祝福とは異なる……これはよい拾い物をしましたね、ノワさん」

「うん☆ じゃ、補給タンクも出来たし、一旦地上に戻ろうか?」

「そうですね。眷属にした子達も、移動させる必要がありますし」

「……武器や道具も、売り捌かなければならないしな」

「おう……がんばる」


 かくして四人に増えたノワのパーティーは、一旦来た道を、引き返すのだった。

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