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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
『アンノウン』の始動
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合流地点

 合流地点となる広い十字路は、冒険者で溢れかえっていた。

 シルバはその中に、自分のパーティーの面々が揃っていることを確かめた。


「やれやれ、どうやら俺達が一番最後だったみたいだな」


 ノンビリと歩きながら、そんなことを呟くと、前を歩いていた新米パーティー『ハーフ・フーリガン』の面々が振り返った。


「ま、しょうがねーんじゃねえッスかね。せんせー、色々実験し過ぎッスよ」

「そうそう」


 モヒカンやら髪を尖らせたのや、外見はチンピラっぽいが気のいい面々だ。


「いやぁ、新しい装備の意外な効果につい」


 遅れた主な原因である、シルバは弁明した。

 精霊を見ることのできる眼鏡と、鱗の籠手の力はまだまだ未知数だ。

 それなりに研究が必要だろう。

 そしてもう一つ。


「あとアルフレードは、言ったこと忘れないように。回復と防御の出し所さえ間違えなければ、滅多に死ぬことはないんだから」


 ヘロヘロになっている、『ハーフ・フーリガン』の回復役に、シルバは告げた。


「うう、先生は鬼教官です」


 回復薬(ポーション)を口にくわえたまま、スキンヘッドのアルフレードが泣き言を呟いていた。

 今回の探索で、一番シルバの叱咤を受けたのは彼である。

 前半では前衛を務めていた彼を、後半ではシルバの傍で支援を仕込んでいた。

 休憩中に相談し、前衛に戦士二、中衛に鞭を使う盗賊、後衛に聖職者と魔術師というフォーメーションを試してみることにしたのだ。

 前衛は、当たりさえすればモンスターを倒せるだけの攻撃力があることが判明したので、同じく前衛に立っていた聖職者のアルフレードを下げたのである。


「本当の鬼なら、魔力ポーション渡したりしないと思う」

「五臓六腑に染み渡るッス~」


 はふぅ……と息を漏らすアルフレード。

 ちなみに今回の探索で彼は、やや威力は弱いものの『鉄壁(ウオウル)』を身につけることができた。

 次の課題は、味方の集中力を高める『針穴(シンガン)』だ。

 これがあれば、『ハーフ・フーリガン』の総合攻撃力は一気に高まる。

 ゴールに辿り着くと、『ハーフ・フーリガン』の面々は他のパーティーから拍手で迎えられた。


「それで、順位は?」


 各パーティーが交流する中、シルバは待っていたキキョウに訊ねた。


「一位がカナリーの『アンクル・ファーム』。二位が僅差で某の『プラス・ロウ』。三位がヒイロの『フェアリーズ』。四位タイランの『フィフス・フラワーズ』。五位がリフの『ツーカ雑貨商隊』となった。シルバ殿の『ハーフ・フーリガン』は残念ながら、最後だな」

「ま、それはしょうがない。カナリーとキキョウは僅差だったって?」

「うむ。互いに最短距離を突き進んだが、回復する時間の差で、某達は後れを取ったようだ」

「どっちも特攻タイプだったからなぁ」


 パーティーを選別したのは、シルバだ。

 どちらも似たパーティーだったが、体力の消耗が大きそうな方を、回復を今回の強化テーマにしたカナリーに振ったのだ。


「最後は『アンクル・ファーム』のアポロと某がタッチの差であった。実に惜しかった……」


 無念、とキキョウは肩をすくめる。

 とはいえ、それほど落ち込んでいないのは、尻尾を見れば大体分かるのである。

 何より、最大の危機は脱したのだから、お互いホッとしていると言ってもいい。


「……まあ、ヒイロの一位を阻止出来たからよしとしよう」

「……であるな。何せ、某達のパーティーの一位は、今晩の夕飯が他メンバーからの奢りであるからして」


 つまり今晩誰がタダ飯を食うかという、実におそろしい、賭けだったのだ。

 そしてこうした食欲が関わるイベントとなると、最大の敵はヒイロなのである。

 幸い、今回はカナリーが一位を取ってくれたので、それはなくなったが。


「ま、カナリーなら、それなりに自重してくれるだろう」


 高い料理ばかり注文する可能性も考えたが、カナリーのことだ。

 タダだからと言って、無茶な注文をするような真似はしないだろうとシルバは踏んでいた。

 もしくは全員に高い料理を振る舞い、共犯にしてしまうかだ。


「……って、そういえばずいぶんと大人しいけど、どうしたんだ、カナリー?」

「む、それがだな」


 キキョウの向いた方に、シルバの視線をやった。


「ふはぁ……うぃ~……ひっく」


 木箱を並べた簡易ベッドに、カナリーは横たわっていた。

 傍に控えて見守っているのはタイランだ。

 赤らんだ頬に、時折漏れるしゃっくり。

 まるっきり、酔っ払いの体であった。


「……赤ワインの飲み過ぎか?」

「それは否であろう。冒険の途中で酒に酔うほど、迂闊ではないはずなのだが……」


 シルバは、カナリーに近付いた。


「大丈夫か、カナリー」

「……何だと」


 カナリーはシルバを見上げ、訝しげに眉をひそめた。


「あ?」

「……シルバ。君はいつの間に幻術を使えるようになった。そうか、キキョウに教わったのだな。で、どれが本物なんだい?」

「分身の術を使った憶えはないぞ。それはお前の目の錯覚だ。っつーかどうしたんだよ、カナリー?」

「あー……うん。タイラン、お水を頼むよ」

「は、はい」


 カナリーは身を起こすと、タイランからグラスを受け取った。

 水を軽く口に含み、木箱に腰掛ける。


「ふぅ……まあ、つまり新しく身につけた生命吸収なのだがね」

「うん」


 従者のヴァーミィとセルシアに戦わせ、吸収した生命力をカナリーが取り込むという戦術は、シルバも聞いていた。

 これにより、敵を攻撃しながら、同時に回復もできるのだ。


「これはすなわち……吸血鬼の特性を強めたモノだ。吸精の類はね、基本的に与える方も受ける方も快楽が伴う。それはそうだ。基本的にそれは甘美なモノなのだから。吸血鬼個々人によって、それは性的快楽の場合もある」

「性……っ!?」


 ぼんっ、とシルバの後ろでキキョウの顔が赤くなっていた。

 しかし、カナリーはそれには構わない。


「僕の吸精は……さて、どうやら、酩酊効果があったらしい」

「つまり、アルコール摂取みたいなもんか」

「うん。自覚するまでちょっと時間が掛かったがねぇ……そして気付いた時には手遅れだった。ところでリフに枝豆を用意してもらえるように言ってもらないだろうか」


 そのリフはというと何か買うつもりなのか、ツーカ雑貨商隊の商品をヒイロと一緒に眺めている真っ最中だ。


「却下だ却下。ってことは、カナリーが考えてた強化案は、使い物にならないってことか?」


 シルバの問いに、カナリーは首を振った。


「いやぁ、量次第って所かな。言っただろう、酒と一緒だって。使いすぎなければ大丈夫」

「使いすぎたら?」

「ふむ……まずろれつが回らなくなるから、詠唱の長い呪文から使えなくなる。集中力が乱れるので、命中率が落ちる。精神面での乱れが大きいので威力も下がるか」

「おいおいおいおいおい」

「だからやり過ぎればの話を言っているのさ。消耗した時に適度に利用する程度なら問題はない……ただ、無茶をすると」

「倒れるか」

「……まあ、そうなるね」

「なんか酔い冷ましのツボとかいいの知らないかい、シルバ」

「……そりゃどっちかといえば、キキョウの管轄だ。おい、立っても大丈夫なのか?」

「ずっと座ってもいられないだろう」


 言ってカナリーは立ち上がるが、足取りはかなりおぼつかない。


「おっとっと」

「お、おい……」


 たたらを踏んだカナリーを、シルバは慌てて支えた。


 むにゅ。


「……うん?」


 手の平に、何だか妙に柔らかい感触が伝わった。


「こりゃ失礼」

 だが、カナリー自身はそれには気付かなかったようだ。

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