表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
『アンノウン』の始動
87/215

予想外の遭遇

 広間に入った所で、一行は部屋の隅に店を開いた。

 さすがに第二層の入り口が近いだけあって、そこそこ人通りがある。

 パーティー『アンノウン』のメンバーは、それぞれで合流地点に向けて競争しているが、それは別に強制という訳ではない。

『ツーカ雑貨商隊』の商隊という性格もあるし、リフも自分の人見知りを少しでも緩和する為にいるという自覚があるので異存はない。

 もっとも、その辺も配慮した上で、このパーティーの通過ルートは他パーティーよりもかなり短かいように設定されていたりするのだが。


「に、い、いらっしゃい……ませ」


 双子と次男が店の設営をしている中、リフはツーカ夫妻と挨拶の練習を行っていた。


「んー、やっぱりもうちょっと愛想欲しいなぁ」

「にぃ……ごめん」


 苦笑するゲンに、リフは生真面目に落ち込んだ。


「ええんよ、リフ君。ウチの子より美男子なんやし、おとんは僻んどるだけやから」

「な……!? お、おかん、オレは思たことをそのままやな――」


 ゲンが怯む。

 さりげなく、長男も罵倒していたクローネであったが、幸いなことに彼は弟が召喚したモンスターの持つテントを組み立てたり、アイテムを陳列するので忙しかった。


「クローネ、ここはワイが一番最初に提案した、リフ君女装化計画をやっぱり実行に移すべきやと思うねん」

「それ以上言うたら、股間のモンこの棍棒で破壊するで?」


 笑顔のまま、クローネは手に持つ棍棒を掲げた。

 商人であり司祭である母親の膂力は、前衛ほどではないが割とハンパない。


「うう……ウチのおかんは美人やけど超おっかない……」


 一方ゲンは盗賊も兼ねる為、手先は器用なのだがその分腕力では、次男に次いで弱かったりする。


「それ承知で結婚したんやから、今更ゴチャゴチャ言うたらあかんよ、おとん。まあ、美人言うた点で、お仕置きはなしにしとくけど」

「に……おとん、ふぁいと」


 リフは、ゲンの背中をポンポンと叩いた。


「……うう、すまんのう。ウチん中やと、ワイが一番弱いねん」


 などと話していると、臨時の雑貨屋に誰かが近付いてきた。

 設営はほぼ完了しており、小さいながらもカウンター付きの立派な店が出来上がっていた。

 双子とユーロウは、店の裏で必要なアイテムを用意する荷物番となっている。


「すっみませーん☆」


 可愛らしい女の子の声に、金庫番のクローネはパンパンと手を叩いた。


「ほら、おとんお客やで。リフ君もお仕事お仕事。表に回って」

「へいへい。らっしゃい!」

「に」


 カウンターにゲンとリフは立った。


「買い取り、お願い出来ますかぁ?」


 声に違わぬ、ツインテールの可愛らしい少女冒険者だ。

 職業は……前鞄を腰に抱えているところから察するに、ゲン達と同じ商人だろうか。

 後ろには、金髪と黒髪、背の高い青年を二人従えていた。


「あいよ。何引き取りやしょ」

「第二層で手に入れた剣と防具です。ロン君、お願い」

「ああ」


 彼女の後ろに控えていた短い黒髪の青年が、荷物を下ろした。

 鍛えられた肉体と黒を基調とした軽装から判断すると、戦士兼盗賊だろうか。

 第二層は、初心者を脱した冒険者がひしめく、競争率の高い階層だ。

 たった三人ながら、彼らはかなりの手練れらしい。


「ほな精算するから、ちょっと待ってやー」


 ゲンは荷物を受け取ると、数を改めてから奥に引っ込んだ。

 そうなると、残りはリフ一人だ。

 奥に引っ込む前に、ゲンはリフにグッと親指を立てた。

 ……リフ一人で、応対しろということらしい。


「それと、糸巻きを三つと、あと聖水ありますかー?」

「い、いらっしゃい……ませ」


 緊張しながら言うと、女の子は顔をほころばせた。

 糸巻きは帰り道を迷わないように糸を垂らすのに使用し、聖水はそのまま汚れた存在を祓うのに使用するアイテムだ。


「わぁ、可愛い店員さん。二人もそう思わない?」

「いいえ、貴方の美しさには敵いませんよ、ノワさん」


 豪奢なマントを羽織った、金髪紅眼の眼鏡青年が柔和な笑みを浮かべる。

 リフには彼が、吸血鬼であることが分かった。

 一方ロンと呼ばれていた黒髪の青年も頷いていた。

 こちらも人間ではない、とリフは直感で感じた。

 見かけは人間だけど、気配がちょっと違う。


「……可愛いには違いない」


 ロンが言うと、女の子の目がスッと細くなった。

 ゾワッとリフの尻尾が逆立つ。

 ロンはスッと腕を上げ、親指を立てた。


「……だが、ノワの方が一枚上だ」


 すると、女の子から放たれていた剣呑な気配が、スッと霧散した。


「ありがとう、二人とも。でもロン君、一枚なんだ」


 女の子が拗ねるように言うと、黒髪の青年は表情を変えず、


「……なら、二枚か三枚」


 そんなことを言った。


「ありがとー、ロン君♪」

「……にぃ、リフ、おとこのこ」


 糸巻きと聖水を用意しながら、一応そこは律儀に修正しておくリフだった。


「え!? やだ、ごめんなさい。ノワ、勘違いしちゃった☆」


 少女、ノワは小さく舌を出し、コツンと自分の頭を小突いた。

 それからふと、考え込んだ。


「リフ、君……?」

「に……?」

「……んー……どっかで聞いたような名前のような気がするんだけど……どっかで会ったこと、あったっけ?」

「……にぃ、リフはしらない」


 ノワの顔に、覚えのないリフだった。

 ちょうどその時、ゲンが裏から戻ってきた。


「はいよ、おまちどうさん。お嬢ちゃんもどうやら同業者みたいやけど、証明書はあるかい?」

「はーい、ちゃんと割引してね、お兄さん」


 ノワは懐から商人ギルドの証明書を取り出した。


「お、お兄さんかぁ。そう呼ばれるんも久しぶりやなぁ。おし本来は三割の所を、サービスで四割な! まいど!」


 買い取り額から糸巻き三つと聖水の分を引いたお金を、ゲンはリフに手渡した。


「わぁ、ありがとう、お兄さん! また寄らせてもらうね?」

「あいよまいどぉ」

「もー、駄目だよクロス君。今度からちゃんと糸引き車は補充しとくこと。帰るの大変なんだから」

「……申し訳ございません、ノワさん」

「ロン君、荷物持つのお願いね」

「ああ」


 話の内容から判断すると、もう一度、第二階層に潜るらしい。

 そんなやり取りをする三人組をゲンと一緒に見送っていると、後ろから妙に笑顔の怖いクローネが現れた。

 そのクローネは、ポンとゲンの肩を叩いた。


「……おとん、一割引いた分はおとんのお小遣いから引くかんね?」

「うはぁっ!? か、勘弁してえな」

「あきません」


 やはり笑顔のままのクローネだった。


「にぃ……変なパーティー」


 リフは少しだけ、気になった。

 シルバの話だと、大抵のパーティーは同じ種族で固まることが多く、自分達みたいな多種族パーティーというのは珍しいらしい。

 三人とも、違う種族というのはやはり珍しいと思うリフだった。




 そこそこ客も入り、パーティーは二時間ほどで店を畳んで、再び合流地点に向かって進み始めた。

 今回の出店は思ったよりも儲かった『ツーカ雑貨商隊』だ。


「そろそろ人にも慣れてきたかー、リフ君」

「にぃ……よく分からない……」


 ゲンの質問に、リフは少々自信がない。

 すると、前を歩いていた双子の姉、レアルが振り返った。


「ま、最初の頃よりは大分マシやと思うね、ウチは。この調子で、盗賊ギルドの方でも友達増やし?」

「に……お兄のためにも、がんばる」

「……あと、リフ君」

「に?」


 レアルは後ろ歩きをしたまま、背後を指差した。


「モンスターと仲良うなるんはええけど、ほどほどにな。いや、店片付けんのとか手伝ってもろて、すごい助かったけど」

「すごい数やねぇ」


 クローネもニコニコ笑顔のまま、頬に手を当てる。

 男衆は表情を強張らせていた。

『ツーカ雑貨商隊』の後ろには、何十匹ものモンスター達が、付き従っていた。

 襲ってくる気がないのは、雰囲気で分かる。

 が。


「にぃ……ついてきちゃダメ」


 リフはやっぱり困った顔で、耳を伏せるのだった。

なるべく毎日更新を心がけていますが、もしかすると今週、不定期になるかもしれません。

えーと、事情は詳しくまだ言えませんが、「お察しください」。

色々ギリギリです。

感想欄での指摘も返信に困るので、こう、申し訳ありませんが自粛をお願いします。

これからも『ミルク多めのブラックコーヒー』をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ