カナリー・ホルスティンは力を与える
『墜落殿』第一層の中でもそこは、特に強いモンスターが多いフロアだった。
だがしかし、そんなことは一向に構わず突き進むパーティーがあった。
新参パーティー『アンクル・ファーム』は戦士三人、助祭、魔術師、盗賊各一の六人で成立していた。
本来はもう一人戦士がいたのだが、家庭の事情で抜けてしまった。
よって、現在は五人。
そこに、臨時で加わった一人を加えて、六人。
しかもその臨時の一人には従者が二人いた為、八人の大所帯となっていた。
最前線ではリーダーのカルビン・オラガソンとエースであるアポロが、モンスターの群れと死闘を繰り広げ、助祭と、この場には不釣り合いな赤と青のドレスを着た美女二人がそのサポートに回っている。
カルビンがカッパーオックスを、力任せにハンマーで殴り倒す。
アポロの豪剣がリザードファイターのロングソードとぶつかり合い、火花を散らす。
さらに残っているモンスターを助祭のキーノ・コノヤマがメイスで相手取り、時折リーダーとアポロに回復の法術を与えていた。
赤の従者ヴァーミィの手刀と青の従者セルシアの蹴りが、次々と現れる妖蟲を払い飛ばしていく。
体力をまるで無視した、特攻のような戦闘だ。
更に後方からは絶えず光の矢と紫電と石礫が飛び、モンスター達の体力を削っていく。
助祭の祝福が、淡い光と共に最前線に立つ戦士達を癒していた。
「進め進め!」
「突き進め!」
カルビンとアポロには浅い傷は数知れず、生じていた。
それでも高いテンションを維持したまま前に進み続ける。
迷宮の角から新たなモンスターの群れが出現した。
カルビンとアポロが、敵の前衛と激突する。
「……最初は三体目を作ろうと思ったんだけどねぇ」
後方から雷を飛ばしながら、眠たそうに金髪紅眼の美貌を持つ青年貴族、カナリーはぼやいた。
外の時刻は昼間であり、日が差さない迷宮といえども、吸血鬼であるカナリーはまだあまり本調子ではない。
青天の下でないだけまだマシだが、テンションが低いのはしょうがないといった所だ。
一応、昼間でも夜と同じだけの力を振るえる月光石のペンダントをつけてはいるのだが、タイランの鎧の調整で連日の徹夜ならぬ徹昼が続いていて、睡眠不足なのだ。
だからといって、仕事に手を抜いたりはしない。
後方から素早い詠唱とともに放たれる雷撃魔術は、次々とモンスター達を撃ち抜いていた。
ちなみに三体目、というのは彼の従者の話である。
「それは……手が付けられなくなりますね」
並んで魔法を飛ばしていた半森妖精の魔術師、タキナ・コノサトが困った笑顔で相槌を打った。
アクビを噛み殺しつつ、カナリーは指を鳴らした。
新たな紫電が、カッパー・オックスを一撃で丸焦げにする。
「僕が楽出来るのはいいんだけどねー……こういう場所だと数が多いと、かえって邪魔だし。通路の幅から考えても、パーティーの理想は大体前衛三人、後衛三人の六人がセオリーだ……ま、頑張って八人になってる訳だけど」
「す、すごく強いですよね、ヴァーミィさんとセルシアさん」
正直美人従者の二人の力は、タキナの目には『アンクル・ファーム』の前衛より強く見える。
「そりゃ、僕の従者だからね……当然さ」
さして得意という様子もなく、カナリーは頷いた。
そんな風に二人で話していると、メイスを手に持ち鎖帷子を着込んだ少年助祭が生傷だらけで前線から戻ってきた。
「っておいおいおい、タキナ! 雑談してないで、手伝えよ!?」
「何言ってるのよ!? ちゃんとやってるじゃない!?」
助祭、キーノ・コノヤマのキツイ物言いに、タキナも張り合う。
にらみ合う二人の間に、カナリーは割って入った。
「……まーまー、二人とも喧嘩しちゃ駄目だ。……いや、いいのか? 君達はあれだな。仲がいいほど喧嘩するという奴か。はたまた、犬も食わない何とやらか」
カナリーが頬に指を当て首を傾げると、二人は真っ赤になった。
「な……」
「こ、この状況で、何を言ってるんだ、アンタも!?」
「ああ、そうだね。まずは、彼らをやっつけてしまおう。タキナ君は次、今使える一番強烈な魔法用意」
「え……で、でも」
これ以上魔法を使うと、使える魔力が尽きてしまう。
そう言おうとするタキナの唇を、カナリーの細い人差し指が制した。
「問題ない。キーノ君も同様さ。最初に言ったろう。今回はかなり無茶をしていいって。魔力の回復は全部、僕に任せてくれて構わないんだから」
「い、言った責任は取れよ?」
「……任せたまえ。君んところのリーダーとエースなんて、もう完全に開き直ってるじゃないか。今更、君だけ踊らないのはもったいないよ?」
言って、カナリーは正面を指差した。
「アポロ次くるぞ、いけ!」
「ういっす!!」
どごーん、と鈍い音がして、リザードファイターが二体、吹き飛んでいた。
もう、最前線はノリノリだった。
助祭のキーノも急いで前線に駆け戻った。
「お、俺もやります!」
「おう、キーノしっかり働け!」
一方タキナの呪文も完成し、高威力の魔法の矢で妖蟲をバラバラに弾き飛ばしていた。
それを至近距離で見ていた、アポロが快活に笑う。
「おー、タキナも頑張るなー! やるじゃん」
ガクッとタキナがその場に跪いた。
魔力切れだ。
「はぁ……はぁ……カ、カナリーさん、撃ちました……でも、もう……!」
「はいはい。それじゃ魔力供給いくよ」
カナリーの指先が、タキナの首筋に当てられる。
「ふぁっ……!?」
タキナは思わず声を上げていた。
熱いエネルギーの様なモノが、カナリーの触れた部分からものすごい勢いで流れ込んできていた。
気がつくと、根こそぎなくなっていた魔力が回復していた。
「僕の生命力を魔力に転化して分け与えた。まだまだ、いけるね」
「は、はい……でも、カナリーさんは大丈夫なんですか? ……生命力って」
「……もちろん、無尽蔵じゃない。だから、供給してる」
カナリーは、前線で踊るように戦い続けている、自分の従者を指差した。
「彼女達がモンスターを倒す際、その生命力を吸収している……そして、その生命力は、僕に送られてきているという訳さ……」
平然とそんなことを言い、カナリーはそれまでカチンコチンに固まってスリングを振るい続けていた盗賊の方を向いた。
「君は、大丈夫そうだね、メルティちゃん」
「は、はははは、はい! ぜ、全然平気です!」
カナリーに声を掛けられ、少女は思いっきりかしこまった。
「そう、いい子だ。それじゃ僕もちょっと、前に行って来るよ」
「お、お気を付けて!」
おっとりとした足取りで、カナリーは壮絶な戦場に向かった。
さすがに疲弊してきた戦士、アポロの背中にカナリーは手を当て、自身の生命力を送った。
「お、おおおっ!? み、漲ってきたぁ!」
「……なら、まだ、行けるね? よろしくー……」
さっさと、カナリーは後方に引き下がる。
魔術師である自分がここにいては、足手まといになるだけだ。
「リーダー、もういっちょ行こうぜ!」
「お、おお!」
一方、リーダーのカルビンは、助祭のキーノから祝福を受けて、回復していた。
ただし、キーノは今の回復で、力を使い果たしてしまっていたようだ。
「はぁ……はぁ……」
メイスを杖代わりにして、その場にへたり込みそうなキーノに、カナリーは声を掛けた。
「大丈夫かい、キーノ君」
「だ、大丈夫じゃねえ……戦って……回復して……マジきついっつーの……」
「……それじゃ、両方とも回復しようかな?」
カナリーは白い自分の手を、傷だらけになっているキーノの手の甲に置いた。
「うあっ……あ……あぁ……は、あぁ?」
手の甲から強烈なエネルギーを送り込まれ、キーノの体力と魔力が全快する。
傷も、完全に治っていた。
「元気、出たかい?」
「あ、ああ……」
「……教会の人間が、こういう術の世話になるのは業腹だろうけど、我慢してくれたまえ。さ、続きだ。もう一回修羅場に突っ込んで、張り切って敵を全滅させてこようか、そら」
パンパン、とカナリーは軽く手を叩いた。
「ったく、分かったよ!」
メイスを握りしめ、再びキーノは前線に突入していく。
「ふわぁ……んん……さて、タキナ君。また、魔力が減ってきているんじゃないかな……?」
大きなアクビをしながら、カナリーは後衛に戻った。




