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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
『アンノウン』の始動
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キキョウ派とカナリー派

「抗魔……いや、反魔コーティング!?」


 さすが魔術師らしく、ミナスは興奮を抑えきれないままヒイロのブーツを分析する。

 抗魔コーティングという技術が存在する。

 これは魔術の効果を半減させる技術で、主に防具に使用される。

 その上位版として絶魔コーティングがあり、これは完全に魔術を遮断させてしまう。

 そして、魔術を跳ね返す技術として存在するのが、反魔コーティングだ。


「正解、反魔コーティングブーツ! 足だけだから、ちゃんと回復の祝福も受け付けられるよ!」

「んだども、必要なさそうだな、こら……」


 カカの言葉に、いつでも『回復(ヒルタン)』を出せるよう準備をしていた神官ハルティは頷いた。


「ええ……そうみたいですね」


 その前に、敵が全滅してしまいそうだ。


「とりゃっ!」


 カモシカのような脚の重い一撃が、プチ魔道をもう一匹倒す。

 最後の一匹の魔術攻撃も器用に足で弾き、そのまま大上段から骨剣の一撃を振り下ろした。


「ていやっ!」


 石畳と一緒に、プチ魔道も叩きつぶされ、消滅した。

 黒い霧状になった残りが散り、後には七つのローブの残骸と杖が残された。


「しかし言っちゃ何だが……」

「足癖悪いよね」

「……同感です」


 フェアリーズの面々は、一斉に頷いた。


「勝ったー!!」


 ヒイロは大きく両腕を上げた。


 戦闘が終わり、ヒイロの傷の具合を確認する。


「……はー、あれだけの敵を相手に、ほとんどダメージなしだか」


 カカが呆れた声を上げた。


「ま、多少は負傷したけどね。うん、このブーツもいい感じっぽい。さすが、カナリーさんのコーディネート」

「高かったんでねえか?」

「あはは……当分、貧乏生活」


 反魔コーティングはとても高額なのだ。




 ヒイロを加えた六人は、再び迷宮を歩き始める。


「基本は骨剣を盾にして突進と殴打、緊急回避で脚が基本になりそうかな」


 何となく自分の基本戦術を掴んだヒイロだった。


「うす。しかしここから先はオラ達に任せて欲しいだ」

「えー、まだ暴れ足りないよう」


 まだまだヒイロは元気が有り余っていた。

 しかし、カカ達にも事情があるのだ。


「ヒイロさんがいてくれて、オラ達すげえ助かるけど一つだけ、大きな問題があるだよ」

「え? 何? ボク、何か悪いことしてた!?」


 自分の気付かないうちに、何か失礼なことをしたのではないか。

 不安になるヒイロに、残る五人は揃って苦笑するしかなかった。


「ヒイロさんに任せてたら、オラ達、ほとんど何もしないまま合流地点に着いちゃうだよ。敵を倒した数、オラ達まだほんの一桁だ。すげえ困るだよ」


 そう笑いながら、カカはグローブの紐を締め直すのだった。





「とめてとめてとめてひああぁぁ~~~~~っ!?」


 墜落殿第一層迷宮に、強い風が噴く音と悲鳴が木霊する。

 声の主、重装兵タイラン・ハーベスタは足を動かしていない。

 ……にも関わらず、突き進んでいた。

 やがて、迷宮が振動するほど派手な激突音が鳴り響いた。



 タイランは突き当たりの壁に正面衝突して、ようやく停止していた。


「……タ、タイランさん、大丈夫?」


 心配そうに追いかけてきたのは、新米パーティー『フィフス・フラワーズ』のリーダー、カトレアだった。

 両手剣使いの女性……といってもまだ十代後半の女の子だ。


「うう、な、何とか……すみません……まだ、出力に慣れていなくって。弱すぎると意味がないし、かといって強すぎるとこうなんです……」


 鼻面を押さえながら、タイランはヨロヨロと振り返った。

 まあ、鼻はないのだが。




 休息兼ミーティングを取ることとなった。

 この辺りはそれほど強い敵も存在しないらしく、ブルーゼリーや雑鬼の集団を幾つか相手にしているだけで、カトレア達もそれほど消耗していない。

 同行させてもらっているタイランも、ほとんど無傷だった。

 だからこそ、様々なテストも出来るのだが……。


浮遊(ホバー)式移動とは……また、すごい足ね」


 カトレアは呆れながら、自身のポニーテールをいじる。


「カナリーさんと鎧を改造して造ったモノなんですけど……完成したのが今回の合同訓練直前になっちゃいまして、じゃあ実戦で試してみようってことになり……こんな具合で、すみません」


 縮こまるタイランに勢いよく身を乗り出したのは、パーティー一小柄な少女、狩人のモモだった。

 手には、整備途中のボウガンがあった。


「カナリー様が!?」

「こ、こら、モモっち」


 カトレアがたしなめるが、モモは聞いちゃいなかった。


「だ、だってだって、つまりそれってタイランさんの鎧には、カナリー様の手が入っているってことでしょう!? 鍛冶師でもないのに、すごいすごい! 他に何か手を入れられたりしたんですか?」


 目を輝かせるモモに、基本的に控えめな性格のタイランは怯んでしまう。


「あ、いえ……その、手の中に精霊砲を搭載しようって話もあったりしてるんですけど、今回全部試せるかどうかは、その、まだちょっと……」

「ふんふん。精霊砲って何ですか?」


 モモは、興味津々という様子だった。



 タイランの強化は主に、鎧への細工にあった。

 ベースは、霊獣フィリオから新しく受け取ったパル帝国製の重甲冑。

 それに、以前使っていたタイランの鎧と、モンブラン八号の部品で使えそうな部分を組み込んである。

 パッと見では、若干のデザイン変更と色が鮮明になった程度だが、精霊体としてのタイランの力も振るえるよう、カナリーの手がかなり加えられていた。

 内部でも、精霊炉の改良を検討されていた。

 最初は、モンブラン八号の使っていた精霊炉を使おうかという案もあったが、それは強力な反面、ほぼ『底なし』だったらしく、あまりにもタイランの消耗が激しかった。

 クロップ老は、モンブラン八号を動かすのに、霊獣四体を投入した。

 そのエネルギーに耐えうる精霊炉だが、同時にそれだけのエネルギーがなければまず、まともに動かないのだった。

 タイランの人工精霊としての体力がもっとないと、使いこなすことが出来ないらしい。

 よって、これまでよりも若干大きい精霊炉の搭載で、動力改造は終了している。




 タイランを熱心に構うモモとは別に、冷めているパーティーのメンバーもいた。

 その筆頭は戦士のディジーと、助祭のシランの二人。


「まあ、実際の所、外れよねアタシら」

「……何でキキョウ様じゃなくて、鉄の塊なのよ」


 三角座りをして、溜め息をつく二人であった。

 いくつかの新米パーティーは、以前の事件でシルバのパーティー『アンノウン』と(よしみ)を結んでいる。

 すると、自然と女子と一部の男子の間で大きな二つの派閥が生じた。

 ストイックなキキョウ派と、華やかなカナリー派である。

 ディジーとシランは、キキョウ派であった。

 カナリー派であるモモにしたって、カナリーと一緒でないのは残念なはずなのだが、もとよりパーティーのムードメーカー兼基本的に楽天的な性格なので、非常に前向きだ。

 タイランの相手をモモに任せて、カトレアは暗い雰囲気をまとう二人をたしなめに近付いた。


「こら、ディジーにシラン。貴方達ね、そういう所がシルバさんに外された理由だって、いい加減理解しなさいよ」


 シオシオと元気のなくなる、二人である。

 ……まあ、仕事はちゃんとこなすのは長い付き合いから知っているからしつこく言う気はないが、とにかくこの二人は気が多いのが泣き所だ。


「だってさー」

「……この際、カナリー様でもよかったのに」


 それまでタイランと話していたモモの目が、ギラーンと輝き振り返った。

 その後ろでタイランが、思わずびびっていた。


「あー! その発言は、カナリー・ホルスティンファンクラブ会員二桁台の、このモモに対する挑戦と見たよ二人とも!」


 カナリーの美貌と知力と財力と権力について、モモが説教を開始する。

 タイランの元に戻ったカトレアは、深く溜め息をついた。


「……ごめん。ホント駄目なパーティーでごめん」

「い、いえ……平気ですから。けど、全員女性のパーティーって珍しいですね」

「同じ孤児院出身なのよ。普通なら何人か、男装してるんだけどねー」


 冒険者の中にはよからぬ考えを持つ者もいる。

 ギルドで登録したばかりの女性冒険者が絡まれることも、珍しくない。

 なので女性の冒険者は、パーティーを組むまで、男に舐められないようにする為や自衛目的で、男装する者も少なくないのだ。

 けれど、元から一つのパーティーを結成しているカトレア達には、当てはまらないらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ホバー式移動の鎧!? ド、ドム? ヒイロとキキョウとシェットストリームアタックするとか(笑)
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