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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
それぞれの休日
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ノワ・ヘイゼル一派と新たな仲間(予定)

「よいしょ♪」


 ノワ・ヘイゼルは金袋を商人用ウエストバッグに入れた。

 そして、さして酔った風もないしっかりした足取りで酒場を出ると巡回馬車に乗り、かなり離れた場所にある大きな酒場に入った。


「ただいまー。二人とも、上手くいったよー。やーっと、自由になれた!」


 柔らかいソファに身体を埋め、ノワは満足げに大きな息を吐いた。

 その両脇には、二人の男が控えていた。


「首尾よくいったようで何よりです。僕としても、気の進まない変身を使った甲斐がありましたよ。ロン君もお疲れ様でした」

「……クロス。俺は、大したことはしていない。部屋に忍び込んで金を置いたり、モノを回収しただけだ」

「ふふふ、充分いい仕事をしてくれているじゃないですか」


 冷徹で知的な印象の眼鏡青年は、クロス・フェリー。

 金髪に紅い瞳を持つ、半吸血鬼(ダンピール)だ。

 対照的に、しっかりした印象を受ける黒い短髪の青年は、ロン・タルボルト。

 サフィーン出身の格闘家であり、盗賊職も務めている。

 ノワはふわっとした笑みを浮かべながら、身体を起こした。


「ありがとう、二人とも。おかげで『古代遺産(アーティファクト)』はちゃんと二つとも確保したし。明日からは気分も新たに、再出発だね」

「はい」

「……ああ」


 クロスが、ノワのグラスにワインを注ぐ。

 ロンは口数少なく、テーブルの料理を移動させ、スペースを作った。

 そこに、指輪と球体を置く。

 ロンが手に入れた『古代遺産(アーティファクト)』だ。


「指輪はともかく、球の方は本当にロン君頑張ったと思うよ。だって、盗賊から盗むなんて、相当難しいはずだもん」

「たまたま、騒ぎがあってそれに乗じただけだ」

「騒ぎですか?」

「例の冒険者パーティーとテーストという盗賊が一悶着あった。その時のどさくさだ」


 首を傾げるクロスに、ロンは補足した。

 ()()()()()()()()()()という部分に、ノワとクロスは同時に顔をしかめた。


「あー……シルバ君のトコの」

「……カナリーがいるパーティーですね」


 ノワは、同じ冒険者パーティー『プラチナ・クロス』にいた、シルバと繋がりがある。

 またクロス・フェリーとカナリー・ホルスティンは、腹違いの兄弟だ。

 そしてどちらも、あまりいい関係ではない。

 そういう因縁がないロンは、構わず話を続けた。


「あのパーティー、一人増えたぞ。盗賊職だ」


 むーっとノワはソファに身体を預けた。


「それは、本格的にダンジョン探索の準備が完了したってことかー。どうしよう、クロス君」

「僕としては、目的最優先。そのパーティーはあくまでついでですね。ただ、僕の場合カナリーと顔を合わせると厄介です。対策は練っておきたいところですね。ロン君、その増えた人物について教えてもらえますか。あと、以前に聞いた時と、メンバーに何か変わったところはないかも聞いておきたいです」


 ノワも、クロスの意見に賛成だ。

 シルバのいる冒険者パーティーが所有する革袋は気になっていたが、代用できるモノを用意出来た。

 ただし、少々高くついた。

 そういう事情で、シルバに対してあまりいい感情を抱いていないノワであったが、執心を抱くほどではない。

 せいぜい見かけたら、背後から鈍器で脳天に一撃加えたい程度である。

 それよりは、自分達のダンジョン探索を優先するべきだろう。


「増えた盗賊職は、年端もいかない獣人の子どもだ。ただし、速い。テーストとかいう盗賊だったか、アレが手玉にとられていた」

「それはまた……」


 クロスが信じがたい、と呆れた顔をした。

 テーストは本職の盗賊だし、ロンの身体能力も知っている。

 その彼が速いというのだから、相当だろう。


「ロン君と、どっちが速い?」


 ノワが問うと、ロンは首を振った。


「俺が見た攻防だけでは判断がつかない。一瞬で終わっていたからな。それよりも、一緒にいた保護者の方が印象に残った」

「保護者? その子が、子どもだからですか」

「おそらくは。あの父親は絶対に手を出したらダメだ。全部終わるぞ」


 ロンは表情を変えない。

 冗談を言っている風ではなさそうだ。


「ロン君がそこまで言うんなら、まあ、その保護者の方はやめといた方がよさそうだねー。それ、野生の勘ってやつだよ、きっと」

「他のメンバーの変わった点は?」


 クロスの質問に、ロンは思い出すように視線を下に落とした。


「鬼の子どもは武器の形状に少し変化があった。鎧も少々以前とは違うが、性能面では不明だ。狐獣人は尾が増えていた。司祭には特に変化がない。吸血鬼は眠たそうだったが……吸血鬼ならば、あんなものだろう」


 そしてふと、思い出したように顔を上げた。


「……もう一つ、変わった点があった。何故か、全員食材を大量に抱え持っていた」


 思わずノワは吹き出していた。


「何それ」

「分からん。酒場から出てきていたようだが、もらったのかもしれん。しかし……」


 珍しくロンが言い淀んだのに対し、クロスが心配そうな顔をした。


「何か、気になることでも?」

「いや、俺の故郷サフィーンには薄靄に包まれた、モース霊山という修行者にとっては聖地のような土地がある。そこに棲むモノに分けてもらえるという、希少なキノコや野草に似ていたのだが……さすがにそれはないな」

「ああ、山の名前なら僕も存じ上げていますよ。キノコも野草もいい薬の材料らしいですね。ただ食べるだけでも、寿命が延びたり、体力が増えたりするという、眉唾物の情報が多いですけどね」


 得意げに知識を披露するクロスだが、ロンの顔色は優れなかった。

 いや、むしろ先ほどまでよりも、陰鬱としていた。


「……あの父親、フィリオと名乗っていたが……いや……偶然だ。……偶然のはずだ」


 思考を振り切るように、ロンは頭を数度振った。

 まあ、そんなので悩んでもしょうがないよね、とノワは思う。

 まさか、本人達に確認できる訳もないし、大体そんな珍しい食材を、抱えるほど手に入れられるはずなんてない。

 ノワはそう思うことにした。

 せっかく、パーティーを抜けられたのだ。

 めでたい気分に、水を差したくなかった。


「後は、新しい仲間との合流かー。腕は大丈夫なんだよね」

「そこは、僕が保証しますよ。以前はサフォイア連合王国のとある小国に仕えていたという、錬金術師です。大分お歳は召していますが、実力は間違いなく。それに、部下もそれなりにいるようなので、色々とできるようになるんじゃないでしょうか」


 クイ、とクロスが銀縁眼鏡を指で持ち上げる。

 クロス・フェリーが半吸血鬼(ダンピール)なので、常識的に考えて教会の関係者はパーティーに組み込めない。

 なので、回復薬(ポーション)を中心とした薬品関係が、ノワのパーティーでは回復の要となる。

 クロスもそれなりに詳しいが、今度パーティーに入る錬金術師は格が違う。


「じゃあ、回復役と一緒に、盾役も期待できそうだね!」


 クロスの話では、その錬金術師は独自の技術で、巨大な自動鎧も作っているのだという。

 これが加われば、ノワの新パーティーはさらに充実することになるだろう。


「ところでクロス君、その顔合わせする錬金術師って名前なんだっけ。ごめんね、ここで二人と合流するのも久しぶりすぎて、忘れちゃった」

「ああ、確か……クロップですね。テュポン・クロップ老人です。直接交渉していたのはロン君ですが……いつ会うことになっていますか?」

「明日だ。こっちは『プラチナ・クロス』の件で動いていたし、向こうは自動鎧の開発が大詰めだったからな。向こうが根城にしているクスノハ遺跡でお互い、顔合わせになる」

「そっかー、楽しみだね。じゃあ、今日は前のパーティー解散と、新パーティーの前祝いだよ。いっぱい飲もう!」


 ノワがグラスを掲げた。

 二人もまた、同じ動作をとる。


「僕達の門出に乾杯」

「……乾杯」

「かんぱーい!」


 三人はグラスを打ち鳴らした。


 ――彼女達が、空っぽになったクスノハ遺跡で途方に暮れるのは、翌日のこととなる。

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