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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
それぞれの休日
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新たなる仲間との再会

「い、いや、でもさ、それまでどうするんだよ。盗賊抜きってことは、護衛や運搬の仕事中心で、そいつを待つ気か? お前、墜落殿(フォーリウム)を探索する為に、パーティー組んだんだろ?」


 テーストが戸惑いながら言う。

 確かにその通りであり、その為の準備もこれからシルバが行う仕事の一つに含まれる。

 リフが来るまでどうするか……となると。


「まあ、気長に待つかな?」

「おいおいおい! 何かいつ来るかも分からない奴を待ち続けるつもりかよ!?」

「一応その辺は、メンバーの総意だよ。誰も不満はない。それに討伐系の仕事なら、このメンバーかなり強いぞ?」


 シルバの横に、カナリーが立った。


「パーティーの運営に関しては最悪、僕がどうにかするさ。お初にお目に掛かる。僕の名はカナリー・ホルスティン。このパーティーでは魔術師を担っている。ちょっと格好がつかないが容赦願いたい」


 カナリーは微笑み、腕に抱えたトマトを軽く持ち上げた。

 それに対し、テーストはわずかに身体を強張らせた。


「ああ、話は聞いてるぜ。アンタ、有名人だからな」

「そうかい。僕も聞いているよ。シルバが抜けた後の『プラチナ・クロス』の噂についてはね」


 余裕の表情を変えないまま、カナリーが言う。

 その隣で、シルバも口を開いた。


「というかさテースト。お前こそ前パーティーどうなんだよ」

「どうって?」

「俺、まだお前が『プラチナ・クロス』をやめたとは聞いてないぞ。まさか、話もついていないままこんな交渉してる……とか、ないよな?」


 すると、テーストは心外な、と大きく手を広げた。


「まさかまさか。ちゃんと抜けたって。だからもう行く場所ないんだよ。シルバ頼む、この通りだ! 臨時でいいからさ!」


 パン、と両手を合わせ、テーストがシルバを拝む。


「んー……」


 シルバは困った。

 入れる入れないの問題ではなく、どう断るかで悩んでいたのだが。

 そんな時だった。


「お兄、いた」


 そんな声が、頭上から聞こえた。


「……え?」


 シルバが思わず見上げると、大きな帽子に腕まくりをしたコートの小柄な人影が、建物の屋上に立っていた。

 帽子とズボンに穴が開いているらしく、その人物が猫獣人の一種であることが分かる。


「今いく」


 ひょい、と『彼』は建物から飛び下りた。


「ちょっ……!?」


 通りを歩いていた人々が、一斉に悲鳴を上げる。

 しかし『彼』は、重さを感じさせない身のこなしで地面に着地し、とてとてとシルバに近付いた。

 テーストをガン無視で、シルバの腰にしがみつく。


「リフ、きた。約束どおり、盗賊、する」

「リ、リフ!?」

「に」


 年の頃は八歳ぐらいだろうか。

 目深にかぶったハンチング帽と腕をまくったカーキ色のコートは、ちょっと見ても性別不明だ。

 しかし、つり目がちな大きな瞳が印象的な端整な顔立ちは、かなりの美形である事が分かる。

 ピンと立った尻尾がその背後で、ゆらゆらと揺れていた。


「その姿は一体……」

「せんせえに、人間にしてもらった。お兄達の力になれる」


 また、あの人か……っ!

 そう思ったが、師匠であるストア・カプリスを問い詰めるのは後回しだ。


「そ、そうか……いや、しかし驚いた」


 てっきり、仔虎状態のまま来ると思ったのだ。

 まさか、獣人状態で来るとは思わなかった。

 皆も同様のようで、かろうじて最初に声を出せたのはタイランだった。


「……お、お帰りなさい、リフちゃん」

「に。ただいま、タイラン。みんなも、ただいま」

「お、おう、おかえり」


 顔を上げると、置き去りにされっぱなしだったテーストと目が合った。


「お、おい、シルバ……」

「悪いな、テースト。たった今、全部無しになった」


 それがどういう意味か、あっさりと察してくれたようだ。

 リフ本人も、言っていたことでもある。


「え? いやちょっと待てよ。そいつが、お前の言ってた盗賊?」

「そいつとはご挨拶だな。ちゃんとリフっていう……あー、名前がある」

「……シルバ殿が名付けた、な」

「うぅ……」


 皮肉っぽくキキョウに言われ、シルバとしては唸るしかない。


「に」


 リフは嬉しそうに、シルバに頭を擦りつける。


「ま、まだ、全然ガキじゃねーか!?」

「ああ、それが?」

「いやいやいや、さすがにないだろこれは」

「にぃ?」


 リフには、よく分からない。


「……それに、女の子じゃねーか」

「に。リフは男の子。かんちがい、ダメ」


 おそらくストアに言い含められていたのだろう、リフは空気を読んで否定した。


「……と、本人もこう主張している」

「それに、リフの実力は折紙付きだよ? ボクらみんな、知ってるもん。ね?」


 ヒイロの言葉に、皆は一斉に同意した。


「うむ、先程の飛び降りと着地は見事だった」

「で、でも……ああいうのは危ないですよ、リフちゃん」

「にぃ……驚かせてごめんなさい」

「……リフ、君、精霊砲とかその状態で、大丈夫なのかい?」

「に、それは問題ない」

「という訳で――」


 ヒイロは、パンと手を叩いて、快活に笑った。


「――納得いかないなら、勝負してみれば?」

「こ、こんな小さな子とやれってのか?」


 さすがに怯む、テーストだった。

 これでも、それなりに修羅場を潜っている。

 だが、目の前の少年(?)のような子供を相手にすることなど、まずなかった。


「だから、それが不満なんでしょ? 大丈夫だよ。別に殺し合いじゃなくてただの腕試し。そうだね、どっちかが倒れたら負けでいいんじゃない? それならすぐに決着もつくでしょ?」


 しかしヒイロにこうまで言われると、今更引くわけにもいかない。

 テーストとしても、必死なのだ。


「お、おう、いいとも。ここで、問題ないならすぐにでも始めるけど」


 テーストは頷き、後ろに大きく跳躍する――。


「にっ!」


 ――はずだったが、両足にいつの間にか無数の雑草が巻き付いていた。

 石畳の隙間から生えていた草が、いつの間にか異様に成長していたのだ。

 それが、彼の足を拘束していた。

 もちろん、リフの霊獣としての能力である。


「ぬわっ!?」


 テーストはあっさりバランスを崩し、たまらず尻餅をついた。

 かろうじて受け身を取ったお陰で後頭部を打たずに済んだが、何とか立ち上がろうとするテーストの目の前に、鋭い刃が突きつけられていた。


「……これで、いいの?」


 リフは両腕から生えた刃をテーストに突きつけたまま、シルバに振り返った。


「……まあ、いいんじゃないか? それよりその腕は一体」

「に。リフの牙。父上はもっとすごい」

「あー」


 リフの父、フィリオの長く立派な二本の剣牙を思い出し、シルバは頷いた。

 一方納得いっていないのは、テーストだった。


「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て! い、今のはないだろ!? まだ勝負始まってすらなかったじゃねーか!?」

「……なら、我が相手になるが?」


 尻餅をついたまま抗議するテーストに、高い頭上から声が掛かった。


「へ?」


 テーストは振り返り、建物を見上げた。

 直後、空から降ってきた二メルトを超える偉丈夫が、テーストの目の前に現れた。

 丈の長い緑色の貫頭衣を着た、顎髭を蓄えた壮年の男だ。

 眼鏡のレンズの向こうにある瞳は深い知性を感じさせるが、テーストに向けられるその視線はどこまでも冷たかった。


「ひめ……我が子のやり方に文句があるのだろう。よかろう。我が代わりに聞こう。ひ……倅に何か、問題があったか?」


 ズザザザザと、テーストは地面に腰を落としたまま、後ずさった。

 器用な男である。


「ア、アンタ、一体何? その子の従者か何か? それにひめって」

「……何だ?」


 ジャキン、と男の腕からリフの刃など比べモノにならないほど長大で見事な刃が出現した。

 これは死ぬ、とテーストは思った。


「い、いや、何でもないです……!」

「ならば引っ込んでいろ。我は、奴らに用がある」


 刃を納め、男はシルバを振り返った。

 もはやシルバ達は周囲からも注目の的になっていた……が、今更どうする事も出来ない。


「……話の流れからすると、リフ、あれってフィリオさんか?」


 リフの頭を撫でながら、シルバは長身の男から目が離せない。


「に。父上」

「久しいな、シルバ・ロックール」


 にこりともせずに、男――フィリオは言った。

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