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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
それぞれの休日
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かつての仲間との再会

 シルバのパーティーは、昼食を食べながら今後の相談を行うことにした。


「現状、墜落殿(フォーリウム)は全十層のウチ、第五層まで探索は進んでる」


 シルバが言うと、骨付き肉を囓りながらヒイロが手を挙げた。


「先輩先輩、前から疑問に思ってたんだけど、どうしてこの迷宮、まだ一番奥まで進んでないのに、全部で十層だって分かってるの?」

墜落殿(フォーリウム)はその名の通り、古代オルドグラム王朝時代にあったとされる天空城の一つが落下して、出来た迷宮とされている。でまあ、これが上下逆さまになった街と考えてくれ」

「うん」

「街には案内図があったんだよ」


 ヒイロは何とも言えない表情になった。


「……親切なんだ」

「ま、こー、逆さまに落下したせいで中身とか構造とかはグチャグチャっぽいんだけど、基本的に全部で十層ってのは分かってる」

「もしかしたら、それ以下の可能性もあるけどね」


 いつものように皮肉っぽくカナリーは笑い、トマトジュースを煽った。


「うん、上層部が潰れていたらそれも有り得るけど、まだ誰も確認してないから、それは何とも言えない。ただ、第十層には王城があるらしい。教会としては、そこにある古代の武器防具類の回収が基本的な目的だ」

「それは、あくまでシルバの目的だね」

「まあな」


 カナリーの指摘に、シルバは頷いた。

 そして指摘したカナリーも、肩を竦めていた。


「僕としても探索に異存はないね。古代の遺物にも興味がある」

「面白そうだしねー」

「……あのシルバさん、私達の実力は、どれぐらいのモノなんでしょう」


 ヒイロが言い、鎧から出た精霊体のタイランも桃蜜水を飲みながら、おずおずと質問してきた。

 今は人の大きさで、皆と同じく椅子に座っている。


「前のパーティーの時は、第三層って所だったかな。戦闘力に関してなら、今のこのパーティーでも大丈夫だと思う。ただそこから先は、俺も未知の領域。下層へのルートは複数あるっぽいし……ただ、やっぱりダンジョンに挑むとなると……」

「盗賊が必要なのであるな」

「ただ、魔物を倒せばいいって話じゃないからなあ。宝箱を見つけました。盗賊がいないので、諦めましたってのは、かなり悔しい」

「はい、先輩!」


 ヒイロが勢いよく手を上げた。


「どうぞ、ヒイロ」

「宝箱を、先輩の持ってる革袋に入れるっていうのは? つまり持って帰る!」

「ナイスなアイデアだ、ヒイロ。ただし、動かしただけでドカンと爆発する宝箱ってのもあったりするんだよ」

「えぇー? いい考えだと思ったのになあ」


 シルバの答えに、ヒイロは残念そうに椅子に座り直した。


「いや、お世辞抜きにいいアイデアだったと思うぞ、ヒイロ。少なくとも俺は思いつかなかったし、もしかしたら別の機会に使えるかもしれない。もっと、そういうのを出してくれると助かる」

「そう? じゃあまた何か考える!」


 少ししょんぼりしていたヒイロだったが、すぐに元気を取り戻した。

 ただ、やはり盗賊職は欲しい。


「盗賊、なぁ……」

「ボクはリフちゃんを待った方がいいと思う!」

「はいはい。それに関してはもう結論が出てるだろ」


 再び挙手したヒイロを、シルバはあっさり流した。

 盗賊枠がリフで埋まっているのは、確定事項なのだ。

 ただ、リフが盗賊の技術を学んで戻ってくるとは言っていたが、それがいつぐらいになるか聞きそびれたのはミスだった。

 最悪直接聞きに行くしかないだろうが……モース霊山まで、どれぐらいの距離があるのか、また行き違いになる可能性も充分にあるとか、悩みどころは多い。


「かといって、その間、別の盗賊を採用するっていうのも、二重の意味で義理に欠けるもんなぁ」

「先は長いねぇ、シルバ」

「だな」


 カナリーの言葉に、シルバは同意した。

 そして、ふと思い出した。


「ところでカナリー。例の収納機能のある革袋なんだが」

「ん? ああ、もちろん言ってた通り、冒険者ギルドに預けておいたよ? それがどうかしたかい?」

「……いや、毎日通ってたのに完全に忘れてた自分に、ちょっと自己嫌悪を……」


 これでは、先生のことをとやかく言えないな、と反省するシルバであった。




 食事を終え、シルバ達は『朝務亭(あさむてい)』を出た。


「さて、まずは冒険者ギルドか。いや、でもまずは、先にこれを俺の部屋まで持って行った方がいいかな」

「半分持つぞ、シルバ殿」

「じゃあ、ボクも半分!」

「……俺の持つ分が、なくなった」


 結局皆で、手分けをして持つことになった。

 ちなみに今すぐ食べるわけでもないのに、ヒイロは肉類を中心に持ってご機嫌であった。

 状態保存の生活魔術が施されているので、あと数時間は保つだろう。

朝務亭(あさむてい)』は大通りから一本筋を外れた場所にある。

 まずは大通りに出ようと歩き出したシルバ達の前に、金髪の男が立ちふさがった。

 シルバが以前所属していた冒険者パーティー『プラチナ・クロス』の盗賊、テーストだった。


「よう、シルバ」

「よう、テースト。どうした、一体?」


 シルバも足を止めた。

 相変わらず軽い男だ。

 なので、シルバも軽く挨拶を返した。


「いや、ちょっとした頼みがあってさ、話をしに来たんだよ」

「借金の申し込みは、勘弁してくれよ。アレは人間関係を破綻させる」

「言えてるな」


 互いに気安く、軽く笑う。

 シルバの裾を、ヒイロが再び引っ張った。


「ねえねえ先輩……誰?」

「あー、前パーティーのメンバーで盗賊のテースト」


 シルバの答えに、ヒイロがポンと拳を打った。


「あーっ! あの先輩が嫌気がさして抜けたパーティーの!」

「ちょっ、ヒイロ声でかいって!」


 シルバが慌てて、ヒイロの口を手でふさぐ。

 遠慮のないヒイロの言葉に、テーストの笑みは引きつっていた。


「は、はは……」

「っていうか、こんな所で立ち話っていうのもなぁ……俺、しばらく休んでた分これからやること多いし、別の機会じゃ駄目か?」

「いや、すぐ済む用事なんだ。まあつまりなんだ……見た所、お前のパーティー、盗賊いないだろ?」

「あ、ああ、まあな」

「そこにオレ、入れてくれね?」

「……は?」


 意外、ではなかったが、やや呆れの混じった声がシルバの口から漏れた。

 後ろのキキョウ達からも警戒と緊張が伝わってきていた。

 しかし構わず、テーストは言葉を続けた。


「ちょっとなー、あのパーティーはもう見切りを付けた。アレはもう駄目だ。お前の言う通りだったよ、シルバ」

「それで……ウチに?」

「ああ。腕の方は知ってるだろ? それに互いの呼吸も分かってるし、何か特殊なルール……何だっけ、女人禁制? アレだって問題ない。オレにはちゃんと付いてる」

「なるほど」

「で、駄目か?」

「悪いな。駄目だ」


 シルバは即答した。


「何で!?」

「盗賊のポジションは既に予約済みなんだよ。いつになるか分からないけど、アイツが来た時のために開けとかないと。な?」


 シルバは、パーティーのメンバーに同意を求めた。


「うむ」


 キキョウ以下、全員が頷いた。

 リフを仲間に入れる事は、パーティーの中ではもう既定の方針となっている。

 もちろん、そんなことをテーストが知るはずもない。

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