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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
それぞれの休日
73/215

合流

 昼前、食堂『朝務亭(あさむてい)』の二階個室。

 その扉が勢いよく開かれ、元気のいい鬼っ子が飛び込んできた。

 骨剣を背負ったヒイロである。


「お久しぶりー……って、何この野菜!? あ、お肉と魚もある!」


 ヒイロは部屋の隅に置かれた大きな木箱に盛られた、食材に目を丸くした。

 部屋で、一人待っていたシルバが答えた。


「……ウチの先生のお土産だってさ」

「お土産って、先輩の先生どっか旅行行ってたの?」

「詳しくは聞けなかったけど、ちょっと遠方に行ってたらしい」


 何しろ、この『朝務亭(あさむてい)』に向かう途中に、ストア・カプリスに問答無用で渡されたのだ。

 そしてストアは、仕事があるからとそのまま大聖堂に向かってしまった。

 正確には向かおうとして、反対側に行こうとしたので、ギリギリのところでシルバが軌道修正したが。

 何故、周辺の建物よりも高い鐘楼が目に入らないのかとツッコミを入れた、シルバである。

 いっそ大聖堂まで送るべきかと迷ったが、今日はパーティーメンバーの合流日だったし、ストアが大丈夫というので任せたのだ。

 全然大丈夫ではなく、別れてからも不安しかなかったが。

 そして、どうせなら手に持ったお土産を、大聖堂に持って行ってもらえばよかった、とその時に気づく、シルバも大概である。


「へー……」


 そんな話を聞いたヒイロは、そわ……と目が泳いでいた。

 視線の先にあるのは、大きめの葉に乗った新鮮そうな何かの肉だ。

 実に分かりやすい。


「一応、昼の注文は頼んであるから、生の素材を物欲しそうな顔をされても困るんだが」

「ボクは別に、生でも全然」

「そういう話をしてるんじゃないんだが」


 などとヒイロと話していると、再び扉が開かれた。

 入ってきたのは、キキョウだ。


「ぬ、某が一番ではなかったであるか。残念」


 その尻尾が、わずかに下がる。


「予定の時間よりは早いんだからいいだろ」

「シルバ殿、その野菜の山は一体……?」

「ああうん、それさっきヒイロにも言った。先生のお土産」


 怪訝な顔で食材を指さすキキョウに、シルバはさっきと同じ説明をすることとなった。


「そのような大量の品、いつもの革袋にしまえば……いや、そういえばカナリーに預けていたのであったか」

「正確には、カナリーに預けてたんだけど、その後、冒険者ギルドに預けてたって話なんだ。この場合、俺がそれを完全に失念してたんだな。探索にも出なかったし。まあ、ここを出たらまた、ギルドに顔を出してみるよ」

「であるな。……それにしてもヒイロ。お主のその骨剣、少し大きくなっておらぬか?」


 キキョウの言葉に、シルバもヒイロが背負っている骨剣を見てみた。


「大きいというか、少し幅広になってるな」


 これまで、太い棒状だった骨剣の刃部分がやや膨らみ、切断力も高くなっていそうだ。


「あー、うん。この周辺で狩りやってたら、なんかこんな風になったんだ。時々、盾みたいに使ってたからかな?」

「使い心地に支障はないのであるか?」

「や、むしろ今の方が快適なぐらい。何かねー、使えば使うほど、一体感が増すっていうか、腕の延長上になってきてるっていうか」

「おお、それは良きことであるな」


 ヒイロはその骨剣を下ろすと、壁に立てかけた。


「多分アレだろ。フィリオさんが言ってた、龍の因子ってやつの効果だ」

「……水とかあげた方がいいのかな? あと日光とか」


 ヒイロは骨剣の前にしゃがみ込み、首を傾げた。


「植物じゃないと思うが、まあ、やってみたらもしかしたら効果あるかもな」

「よし、やってみよう」


 ……水をやったら水属性が付与されたりするんだろうか。

 そんなことを、シルバは考える。


「シルバ殿は、休みの間はずっと物件探しであったか?」

「いや、適当に休んでたよ。キキョウこそどうだったんだよ」

「某は、ムワン殿の整体に通いながら、妖気に身体を慣らしていた。まあ、主に瞑想と型の稽古であったな。おかげで尻尾が増えたのだ」


 キキョウの後ろで、太い尾が機嫌よさそうに揺れていた。


「本当だ、キキョウさんの尻尾が増えてる!? すごい、もっふもふだよ先輩」


 骨剣の前にしゃがんでいたはずのヒイロが、いつの間にかキキョウの後ろに回り込み、尾に手を当てていた。


「ちょ、ヒ、ヒイロやめるのだ! そ、それなりに敏感なのであるぞ!?」

「えっと、それは弱点になったりとかは」

「シルバ殿冷静!? いやまあ、元々弱点に近いモノである故、気をつけてはいるのであるが!」

「そういえば先輩、物件って?」


 キキョウの尻尾から手を離し、ヒイロが尋ねてきた。


「それはまた、後で話す……ん、もう二人来たな。カナリーとタイランか」


 階段の方から響く足音に、シルバは扉を見た。

 聞き慣れた、軽い足音と重い足音の二種類だ。


「タイランはいつも通り……いや、少し軽くなったであるか? ……カナリーはずいぶんと、緩慢というか、弱ったような足取りであるが」


 なるほど、言われてみれば、軽い方の足音は軽快というよりは、何だか不規則というか、その度に重い方の足音も止まっていた。

 ……おそらく、タイランがフォローを入れているのではないだろうか。


「ふわ……おはよう諸君」


 扉が開き、あくびをしながらカナリーが入ってきた。

 その後ろには、やはりタイランが続く。


「カナリーさん、あの、もうお昼前ですよ……?」

「ん、そうだっけか。いかんね、どうも研究室に籠もっていると、日にちの感覚がどうにも曖昧になってしまう。みんな、久しぶりだね」


 カナリーは壁に掛けられた額縁に、挨拶していた。


「カナリー、それは絵画である」

「とりあえず、席に座っとけ。なんか立ったままだと、どこにぶつかるか分かったもんじゃない」

「で、あるなあ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 シルバの勧めに、カナリーはどこか頼りない足取りで、椅子に近づいた。

 ただし、そこにはシルバが座っている。


「――そこはシルバ殿の膝である!!」


 中腰になったカナリーをキキョウが抱え上げ、シルバから遠ざけた。

 そして空いている席に、座らせた。


「うわ、キキョウさん速っ!?」


 ほとんど瞬間移動のような動きに、ヒイロが目を丸くしていた。


「あー……これはついうっかり」

「本当の本当にうっかりであるか? とにかくそこに座っているのだ」


 ビシッと指を指すキキョウ。


「タイラン、久しぶりー」


 ヒイロは、タイランとハイタッチした。

 ただし頭上になっているのはヒイロだけで、タイランは腰のあたりに両手があったが。


「お、お久しぶり、ヒイロ。あとシルバさんとキキョウさんも」

「体格自体は変わってないのに、何だか痩せた印象があるなあ、タイラン」


 シルバの見たところ、タイランの鎧のデザインも細かいところで変わっているような気がする。

 多分、カナリーが色々いじったのだろう。

 キキョウも、ふぅむと唸っていた。


「重さ自体はむしろ増えているようであるが……うむ、タイランの動きにややキレが出ているのであるな」

「は、はい。カナリーさんのおかげで、出力が以前よりも高くなっていますので……」

「色々頑張ったよねえ」


 相変わらず眠そうに、カナリーは椅子に身体を預けていた。

 昼間だからとかそういうのとは無関係に、寝不足のようだった。


「ですけど、カナリーさんはほとんど休みになってなかったような……」

「それはいいんだ。僕が楽しめたんだから」


 ははははは、とカナリーは手をヒラヒラとさせた。

 少しハイになっているようだ。


「まあ、ともあれ全員揃った訳だ。まずは飯にしよう」

「そうだね。……ところでシルバ、君また何かとんでもない素材を持っているようだが、何なんだい、それは」


 寝ぼけ眼のまま、カナリーは部屋の隅にある木箱を指さした。


「三回目」


 シルバは、小さく吐息をついた。

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