『アンノウン』
「さて、話はほとんど終わったけど、あと一つ残ってるんだ。割と重要」
シルバは指を組んだ両手を、テーブルに置いた。
「む? 何かあったであろうか」
キキョウには、思い当たることがないようだ。
「このパーティーの名前。まだ『アンノウン』なんだよ」
シルバが言うと、皆、椅子からずり落ちそうになった。
最初に立ち直ったのはカナリーだ。
「まだ、それで通してたのかい、シルバ!?」
「や、まあ、それで通じてたからなぁ。とりあえず今、全員揃ってるし、聞いとこうと思ってな。何かいい案ないか?」
うーん、とカナリーが唸り、己の金髪を指で弄り出す。
「……さっきまでの話と、全然趣が違うねえ。それにしてもパーティー名か。厄介だな。こういう案件は、あまり扱ったことがない」
「こ、こういうのは、パーティーの特色から考えるのがいいんじゃないでしょうか……?」
タイランが提案し、ヒイロは腕組みしながら天井を見上げた。
「パーティーの特色……種族バラバラ。……『バラバラ』?」
ヒイロは、どうかな、みたいな顔をシルバに向けた。
「怖ぇよ!? もうちょっと捻ろうよ!?」
なんかもう、名前だけで事案っぽかった。
トン、とカナリーが指でテーブルを叩く。
「あとは、戦闘スタイルからとか。基本的にイケイケだよね、このパーティー。攻撃力特化型というか……まあ、シルバを除いてだけど」
「ぬ、シルバ殿が仲間はずれになっているだと?」
ピクンと耳を揺らしたのは、キキョウだ。
反応早いなあ、とカナリーは苦笑いを浮かべた。
「いや、そうじゃなくてね。攻撃以外は全部シルバが要になってるだろう? そういう意味だよ」
「ならばよいが……ふむ、それでは『守護神』ではどうであろうか」
キキョウは大真面目な顔で、提案した。
「待って、それは何か俺が名前負けしてる気がする。他!」
シルバが恥ずかしそうに言うと、キキョウは少し残念そうな顔をした。
とはいえ、名前の由来を聞くと、やはり困る。
神を信仰している自分が神を名乗るとか、結構なブラックジョークのような気がするのだ。
スッとカナリーは手を挙げ、タイランとキキョウを順に見た。
「『やらかし隊』と『僕達賞金首』、どっちがいいと思う?」
「個人攻撃過ぎないか、カナリー!?」
シルバはすかさず突っ込んだ。
精霊体であるタイランの肌が、黒くなった。
闇属性である。
キキョウも、テーブルに突っ伏していた。
「じゃあ、『スミス村冒険団』」
さっきのはタチの悪い冗談で、カナリーの本命はどうやらこちらだったようだ。
「お……割と悪くないかもな」
これまでで一番、それらしい冒険者パーティーの名前の気がするシルバだった。
はにゃ? とヒイロが料理を食べながら、首を傾げた。
「スミス村ってどこだっけ?」
「僕の治める隠し里だよ。行商人捜索で来ただろう?」
「……隠し里の名前をパーティー名にしたら、名前の由来を聞かれた時、困らないかなあ?」
ヒイロの素朴な疑問に、カナリーもまたテーブルに突っ伏した。
「迂闊……! シルバ、今のは却下で」
「お、おう……」
遠慮がちに、タイランが手を挙げた。
肌の色はもう、青みのある水の色に戻っていた。
「えっと……もう『アンノウン』でいいのでは?」
「いや、それはさすがに……」
何しろ、名称が決まっていないパーティーはみんな、暫定的に『アンノウン』と呼ばれている。
数が多すぎるのだ。
ただ、タイランの話には続きがあった。
「別に手を抜いている訳ではなくて、その……少なくとも、パーティー名で私やキキョウさんの故郷が探っても、数が多すぎてバレないんじゃないか、とか……」
言われてみれば、とシルバは皆を見渡した。
カナリーやキキョウも意表を突かれた、という顔をしていた。
「それは、一理あるな」
「某は、特に問題ないと思うのである。まあ、冒険者ギルド泣かせではあろうが」
「名前も短いしね」
ヒイロも、賛成のようだ。
「じゃあ、みんな『アンノウン』で登録して、いいか?」
「大前提として、冒険者ギルドで通れば、だけどね」
カナリーが言う。
「それはあるな」
冒険者ギルドが難色を示しそうな名前ではあるなあ、とシルバもちょっと思った。
ま、ダメならダメでまた考えようと、シルバは気を取り直した。
そして、話題を次に移すことにした。
「じゃあ、それで。必要な話は終わったけど、これ。今回の件は冒険者ギルドを通してないから、ただ働きに近かっただろ。先生に伝えたら、教会で出してくれることになった」
シルバは革袋から、五つの包みを取り出した。
中身は硬貨だ。
全部、同じ額が入っている。
それを、皆の前に一つずつ置いた。
「へえ、それはまた景気のいいことじゃないか」
「で、でも、私達、フィリオさんから……」
タイランが遠慮がちに言うが、カナリーは首を振った。
「あれは、君の鎧の整備費だ。僕達全体に対しての報酬じゃないよ。もらえるモノは、もらっとくべきだね」
「実際、都市規模でヤバい案件だったからな。これぐらいもらっても、バチは当たらないだろ」
シルバは自分の分の包みを、懐に入れた。
「そういうことならば、ありがたく頂いておくのだ」
「何に使ってもいいの? ご飯とか」
キキョウに続き、ヒイロも自分の手元に報酬を引き寄せた。
「自分の装備の整備も込みだぞ。あんまり無駄遣いしてたら、すぐになくなるからな」
「はーい」
元気よく返事をしながら、ヒイロは自分の私物であるリュックに硬貨の詰まった包みを押し込んだ。
シルバは一息つき、香茶を口にした。
「じゃ、これから十日ほどみんな休息日にしようと思うけど、いいよな? さすがに、昨日の今日でまた依頼を受けるとか、俺もないと思ってるし」
「異議無し。やることやったら、のんびりさせてもらうよ」
カナリーは笑うが、ヒイロは少し浮かない顔だ。
「え、身体鈍っちゃうかも」
「もちろん、その間、単独や誰かと即席で組んで冒険するのは構わない。ただ、俺達のパーティーでの行動は休みってことだ」
「そういうことなら、ボクは全然いいよ」
ヒイロはパッと顔を輝かせ、今度は太い骨付き肉に手を付け始めた。
「ただ、ダラダラ休むって訳じゃないよね」
サラダをつつきながら、カナリーが問う。
「そりゃな。カナリーはあれだろ? もう一回、クスノハ遺跡に向かうつもりだろう?」
「当然さ。ホルスティン家で手が空いている者はみんな派遣して、クロップ老の遺した研究室を調べるつもりだよ」
「じゃあ、これも持っていくか?」
シルバは腰から革袋を外すと、カナリーに渡した。
「いいのかい? そりゃ、こっちの効率は格段によくなるけど」
「パーティーのためになるんだろう? だったら協力するのは当然だ。いいよな、キキョウ」
アイテムボックス的な機能があるこの革袋は、元々はキキョウの私物だ。
そのキキョウも、特に反対意見はないようだ。
「よいと思う。休みであるし、特に必要という者もおらぬであろう?」
「あればいいなーとは思うけど、なくても困んないかな?」
うーん、と骨付き肉を囓りながら、ヒイロが言う。
「わ、私は、カナリーさんと同行することになると思いますし」
「鎧の設計も必要だし、クスノハ遺跡での作業を考えると、タイランがいてくれると助かるよ」
タイランは、カナリーと行動を共にするようだ。
「ボクは狩猟かなー。勘を鈍らせたくないし、違うお肉も食べたい!」
ヒイロの手にある骨付き肉は、既に骨だけになっていた。
「……肉食べながら言うかよ」
「それはそれ、これはこれだよ、先輩!」
ふむ……とキキョウは椅子の背もたれに身体を預けた。
「某は、まずは整体であるな……狐面の力を引き出すには、まだまだ身体を慣らせる必要があるのだ」
「あ、それボクも行きたい! ボクも結構、身体の負担きつかったんだよねー」
大きく手を挙げるヒイロを、キキョウは見た。
「某は構わぬぞ」
「やた!」
そうなると残りは自分か、とシルバは考えた。
「ま、俺は冒険者ギルドやら雑貨屋やら、色々だな。あ、カナリーはクスノハ遺跡の件が終わってからでいいから……」
「これだろう?」
カナリーは、革袋を持ち上げた。
補充する回復薬やその他雑具を持ち歩くには、やはり革袋はあった方がいい。
「教会はあまり近付きたくないから、冒険者ギルドに預けるよ。まあ、明日か明後日になると思う。それ以上ならそのように言付けておくよ」
「頼む。じゃあひとまずはみんな、お疲れ様」
「「「「お疲れ様」」」」
こうして、シルバ達はしばしの休みに入るのだった。




