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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
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トゥスケル

「ただ、無駄に正体晒すこともないだろうし、窮屈かもしれないけどまた、鎧は着てもらえるか? 表向きはまた、動く鎧(リビングメイル)ってことで」


 シルバの要請に、タイランは大きく頷いた。


「あ、は、はい。それはもう、全然……大分、前衛も慣れてきましたし」

「うん、せっかく前衛三、後衛二でよくなってきたのを、また組み替えるのも大変だしな」


 精霊体のタイランの状態では、前衛は難しいだろう。

 前衛後衛を使い分けられるというのは魅力的だが、それはどちらつかずでもあるのだ。

 キキョウとヒイロの二人で、後衛三人を守るのは、不可能ではないが難しい。


「それなんだけどシルバ、新しくもらったタイランの鎧には、ちょっと色々仕込みたいんだけどいいかな?」


 スッと手を挙げたのはカナリーだ。


「色々?」

「せっかくの精霊体だ。その力も使えば、タイランはもっと強くなると思うんだよ」


 なんだかカナリーは、楽しそうだ。


「……それはつまり、近接戦専門の重装兵から、中距離遠距離にも対応出来る魔術重装兵にしたいと?」

「ああ。もちろん本人の許可が必要だけどね。どうだろうか、タイラン」


 カナリーの申し出に、タイランは自信なさげだった。


「つ、強くなれるっていうのなら、お願いしたいですけど……私に務まるかどうか」

「基本は、これまでとは変わらないよ。ただ、手札は増やせそうだろう? 例えば風の魔術で高速移動、斧槍に火や雷の属性を与えるといった風に」

「あ……それは、確かにいいですね」

「当然、タイランもアイデアがあれば言って欲しい。可能な限り、取り込みたいからね」


 盛り上がる、カナリーとタイラン。

 シルバはチラッとキキョウを見た。

 小さく首を縦に振り、キキョウがヒイロに視線を向けた。

 ヒイロは眠そうにしていた。

 うん、これはまずい。


「……カナリー、そろそろ抑えないか。なんか勢いのまま、学習院(アカデミー)に行きそうになってるぞ」

「行けるのであれば、そうしたいね」

「気持ちは分かるけど、何か、その、あれだ」

「うん?」


 カナリーは、シルバが何を言いたいのか分からないと、怪訝な顔をした。

 これは自分より別の誰かが言った方が効果的だろうな、とシルバは判断した。


「……ヒイロ、多分俺と同じだと思うから言ってやってくれ」

「うん、今のカナリーさん、何かクロップの爺さんっぽい」


 タイランに身を乗り出しかけていたカナリーは、スッと椅子に座り直した。

 真顔であった。


「……とりあえず話を続けようか。タイラン、鎧の件はまた後だ」

「は、はい」

「じゃあ、話題を切り替えて、これだ」


 カナリーは、ポケットからハンカチに包んでいたそれを、テーブルに滑らせた。

 それは、平たく小さな丸い物質だった。


「コイン?」


 ヒイロの問いに、カナリーは首を振った。


「メダルだと思うよ。貨幣価値はおそらくないからね。霊獣のフィリオ氏が、宝石と一緒に落としてくれたモノだ。クロップ老の私物さ」

「どういうことであるか?」


 キキョウもメダルを眺める。

 開かれた書物のレリーフが刻まれている。


「クロップ老は霊獣を、仲介業者から手に入れたと言っていた。フィリオ氏から頂いた老人の記憶によればね、このメダルはその仲介業者から名刺代わりにもらったモノだ」


 カナリーは自分の額を、指で叩いた。


「『トゥスケル』のメダルだな」


 シルバは、メダルを手に取った。


「シルバ殿、知っているのか」

「まあ、一応な。カルト集団というか邪教集団というか……前に、学習院(アカデミー)の研究室で、神とか魔王の話しただろう?」

「えーと、人のお祈りで強くなるとか、そういうのだっけ?」


 ヒイロは思い出すように、天井を見上げた。


「そう、それ関係だ」


 シルバはメダルをテーブルに置き直した。


「一言で済ませるなら、『トゥスケル』ってのは魔王を生み出した集団だ」

「あれ、魔王って魔族が生み出したんじゃなかったっけ?」


 ヒイロが疑問を口にしたが、シルバは否定しなかった。


「それも、間違ってはいないんだが……」


 誰かが、考えた。

 神は祈りによって、その力を増す。

 そもそも、祈りによって新たな神が生じることもある。

 ……ならば、我々は意図的に神を生み出すことができるのでは?

 神にも負けぬ、自分達の考える最強の神、即ち魔神。

 ……試してみる価値は、ないか?


「この『トゥスケル』という連中の根っこは、これだ。ただ、最初は失敗した」


 そもそも、魔神なる存在は漠然としていて、分かりづらい。

 破壊神、暗黒神、疫病神などは既に存在している。

 それではダメだ。

 また、誰かが言った。

 我々が考える最強とは、別に神の名を持つ必要はない。

 普遍的に怖れられる『何か』であればいい。

 例えば……神を喰らう『魔王』ではどうだろうか?


「発端はそこだと、教会では伝えられている。つまり『俺達で最強の神を作ろう』って思想の集団だ」


 そして『魔王』の原型が魔族に伝えられた。

 魔族は己達の神である『魔王』を崇めたが、それだけではまだ力が足りない。

 人々の恐れが必要だ。

 先に挙げた破壊神、暗黒神、疫病神の要素も取り入れたい。

 様々な意見を取り入れながら古から活動を続ける集団、それが『トゥスケル』である。


「……馬鹿じゃないのか?」


 心底呆れた、という顔をしたのがカナリーだった。


「俺もそう思うが、事実、コイツらは活動しているし、魔王は脅威になってる。そういう意味では、『トゥスケル』は一定の成果を上げているんだよ」

「でも、霊獣をお爺ちゃん達に売ったりするのと、魔王が強くなるのが、どういう関係があるの?」


 ヒイロが、鋭いところを突いてきた。


「直接的にはないな。でも、モンブラン八号を開発させて、何かをさせたかったのかもしれない。それこそ、モース霊山の攻略とか」

「あー……」


 ただ、モース霊山は遠い。

 もしかすれば、この周辺で何かをさせたかったのかもしれない。

 シルバの頭の中に、いくつかの可能性が浮かび上がる。

 一番、あり得るのは、墜落殿(フォーリウム)関連。

 それにこの辺境は、まだまだ未開拓な土地が多い。

 シルバ達が知らない、『何か』がある可能性は充分にあった。

 考えればキリがない。

 シルバは、話を戻すことにした。


「モース霊山じゃなくても、例えばモンブラン八号が都市内で暴れたとして、これは魔王軍の活動の一環だって言い触らすだけでもいい。わずかだけど、魔王の力は増す」

「……それは、効率が悪いにも、程があるだろう?」


 まあ、今の例に無駄が多いのは、シルバも重々承知の上だ。


「今のは極端な例だし、何より連中の活動は幅広い。爺さんの一件なんて、ほんの一端だ。でもな、教会の人間の俺が言うのも何だけど、『トゥスケル』の信奉者は結構多いんだ。何しろ『俺達の考えた最強の神を作ろう』計画だからな。何の得にもなんないし、まったく同意はできないんだが」


 童心といえばきれいすぎる。

 どちらかといえば『邪悪な男子のイタズラ』に近い。


「できるだけ、関わり合いにはなりたくない類の集団だね」

「俺も、そう思う。あと、この連中の描く『最強』の神である『魔王』とはほど遠い、『魔王』が生まれたりとか。例を挙げると日がな一日ダラダラ過ごして、片付け一つまともにできない『怠惰』の『魔王』とか。いや、必要な仕事はするし頼りにはなるんだけど、それ以外が問題なのとかな」


 シルバは大聖堂のある方角を見た。


「……シルバ、妙に具体的だね」


 カナリーは、ジト目をシルバに向けた。


「たまたまだ。加えて、『魔神』と比較すると『魔王』ってのは人々にはイメージしやすい。そういうメリットがある一方で、デメリットもある。カウンターとしての『勇者』が出現するんだ。困窮した人々は、救いを求めるからな」

「それでも、その連中は活動をやめないんだな」

「何せ、古代王朝の時代から存在してたって話だからなあ。あ、このメダルは、先生に預けていいか?」


 シルバが問うと、カナリーは肩を竦めてタイランを見た。


「僕は全然構わないよ。タイランはどうだい?」

「わ、私も、持っていてもしょうがないですし……」

「じゃあ、そういうことで」


 シルバはメダルを受け取った。

 ……とあるキャラクターの正体がそれっぽくバレそうになってる以外、話が進んでなくてすみません。

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― 新着の感想 ―
先生、魔王か。
[一言] まぁ、角とか羽とか尖ったシッポとか(笑)
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