タイランの去就について
辺境都市アーミゼストに日が昇り、中天に達したそれは徐々に下がり、沈んでいく。
夕べの食堂『朝務亭』の個室に、シルバ達は集まっていた。
料理と飲み物は既に卓に並んでおり、店員は呼ばない限り当分来ることはないだろう。
刀を傍らに置いたキキョウは、腕組みして目を瞑り。
後ろの壁に骨剣を預けたヒイロは、骨付き肉を食べながら不安そうにキョロキョロと皆を見渡し。
カナリーは、赤ワインを傾けている。
そしてタイランは、精霊体のまま、裁きを待つように俯いていた。
シルバが、パンと手を叩くと、タイランが弾かれたように顔を上げた。
「さて、こっちに戻って、昼間休んでもらっただけで、また集まってもらったのには訳がある。タイランのことだ。一応全員の意思を確認しようと思ってな」
「うむ、確かに早急に済ませねばならぬ問題であるな」
「僕がその立場だと、キリキリと胃が痛むよ。当人は気が気じゃないだろうね」
キキョウが目を開いて、カナリーもグラスをテーブルに置いた。
ヒイロは不安そうに、肉を食べていた。
「大丈夫なんだよね、先輩」
「……」
シルバは、タイランと目が合った。
「まずは、タイランの話を聞かないか? 何で素性を隠してたのかとか、その中身は一体何なのかとか」
「わ、分かりました……」
シルバに促され、タイランは話し始めた。
父の助手の裏切りで国を追われたこと、魔女の家で世話になり、その後、父と合流するために旅に出たことなど。
話が終わると、タイランは小さく息を吐いた。
「なるほど」
タイランの生い立ちに関してコメントは挟まず、シルバは皆を見渡した。
「それじゃ、今の話を聞いて、タイランがこのパーティーを去るべきだと思う人は挙手」
誰も手を挙げなかった。
「じゃあ、一緒にパーティーにいて欲しいと思う人は挙手」
すると、全員が手を挙げた。
「だよなあ」
「当然だよ! タイラン悪くないじゃん!」
シルバが呟き、ヒイロは憤っていた。
「ねえ、これ茶番じゃないかい、シルバ? 答えなんて分かりきってただろう?」
やれやれ、とカナリーが首を振った。
「分かりきっててもやっとく必要はあるんだよ。無駄に疑心暗鬼になられても困る」
「まあね。意思表示は大切だ」
「あ、ありがとうございます……でも、その、決まりで……」
タイランは、またしょぼんと俯いた。
「そう、だからタイランが不安になるのは分かってたから、さっさと終わらせたかったんだよ、この件。半日置くだけでも長いぐらいだ」
さて、とシルバはタイランに切り出した。
「そもそも、女性禁止ってルールにした経緯は、タイランも知ってるだろ。キキョウと呑んでた時から、いたんだから」
「は、はい……その、シルバさんのいた前のパーティーが、女性絡みで酷いことになったっていう……」
視界の隅で、ヒイロが「そんなのだったっけ……?」という顔をしていたが、シルバは無視することにした。
話が盛大に脱線しそうだからだ。
それよりも、今はタイランとの会話に集中するべきだろう。
「じゃあ、タイランがあんなのになるかっていうと、ないだろ。それぐらい、パーティー作ってから今までの付き合いで分かる。タイランがいることで、パーティーが壊れるって思う奴、ここにはいないだろうし」
キキョウやヒイロが頷く中、異論を唱えたのはカナリーだ。
「だがね、シルバ、ルールはルールだ。そこはどうするつもりだい?」
「そこなんだがな、ここにいる全員が黙ってればバレないんじゃないか?」
「うん、確かに!」
いい笑顔をしたヒイロが、両手の親指を立てた。
「い、いやいやいや、本当にそれでいいのかい!? 僕は構わないけど、このパーティーの風紀的に、それはちょっとどうかと思うよ!?」
カナリーはあくまで、常識論を唱えるつもりのようだ。
カナリーがこういう役割をしてくれて、シルバとしても本当に助かっていた。
キキョウとヒイロだけだと、ほぼ成り行きというか、なあなあで終わってしまうからだ。
お陰で、シルバもなあなあな話ができるというものだ。
実際、タイランがノワみたいなパーティークラッシャー的な役割を果たすかというと、まずないだろう。
それに、パーティーの機能としても、今やタイランは不可欠だ。
「タイランレベルの前衛はそうはいないぞ? しっかり仕事してくれてるし今回の一件でも活躍した。加えていえば、タイランを追い出すと漏れなくヒイロも多分出ていくことになる。だろ?」
「うぇっ!? あ、あー……」
シルバの指摘に、ヒイロは挙動不審になった。
ただ、ちょっとシルバの予想とは、反応が少々異なる。
何故、そこで自分の胸を両腕で押さえて、太股をもじもじさせるのか。
シルバが首を傾げていると、カナリーが早い口調で話し始めた。
「ああ、なるほど。ヒイロはタイランとコンビを組んで旅をしていたし、そういうこともあるか」
「そ、そそそ、そう! そういうこともあるかもー」
カナリーが目配せすると、ヒイロは何度も首を上下させた。
ふぅむ、とキキョウと同意を示した。
「感情的な問題もそうであるが、前衛が二人抜けるというのも困る話であるな」
ヒイロとカナリーの態度には、何やらまだ妙な違和感がまだあったが、概ねシルバの考えた通りに話は進んだので、良しとすることにした。
「だから、タイランの性別に関しては、黙っていよう。……何より、ほら、リフが入ってくるかもしれないしな」
いつになるかは分からないが、その時それを理由の拒絶できるかとなると、シルバには自信がない。
「ああ、それもあるか。うん、あの子は父親の言葉通りなら、間違いなく女の子だしねえ」
カナリーの言葉に、シルバはスッと目を背けた。
シルバは既に確認済みだが、皆にそれを話しても誰も幸福にならないような気がしたからだ。
カナリーは納得しそうになっていたが、ピタッと動きを止めた。
「いや、でも待って欲しい。タイランにはもう一つ、問題があるだろう?」
言われて、シルバは思い出した。
「例の、国から追われている件か」
属性を自在に変えられる人工精霊。
そんなのは、シルバも聞いたことがない。
タイランの故国が、あっさり諦めるとも思えない。
まだ、探している可能性は高いだろう。
「あ……」
タイランが申し訳なさそうな顔をするが、それにしてはシルバも話さなければならないことがあった。
「その件だがな、実は既に別の国から追われている奴がいる」
話しながら、シルバの右の人差し指は、キキョウを指していた。
「シルバ、指、その指」
「シ、シルバ殿……あのことを話してしまうのか?」
タイランに続いて、キキョウも不安そうな顔をした。
「事のついででもあるし、この際みんなにもリスクは話しといた方がいいだろ?」
「……まあ、何となく僕は見当がついているけどね」
ふっ……とカナリーは笑い、窓の方を見た。
その方角には、クスノハ遺跡がある。
一方、ヒイロは慌てて、立ち上がっていた。
「え!? キキョウさん、何しでかしたの!?」
「またずいぶんと人聞きの悪い言い方であるな!?」
「ただ、領主の屋敷にあった宝物庫から、財宝を根こそぎ持ち逃げしただけだよな?」
シルバがポンと肩を叩くと、キキョウは涙目になった。
「それもその通りであるが、言い方が!?」
「……本当に、何をしでかしてるんだい、キキョウ」
呆れたような顔をする、カナリーだった。




