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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
63/215

タイランの去就について

 辺境都市アーミゼストに日が昇り、中天に達したそれは徐々に下がり、沈んでいく。

 夕べの食堂『朝務亭』の個室に、シルバ達は集まっていた。

 料理と飲み物は既に卓に並んでおり、店員は呼ばない限り当分来ることはないだろう。

 刀を傍らに置いたキキョウは、腕組みして目を瞑り。

 後ろの壁に骨剣を預けたヒイロは、骨付き肉を食べながら不安そうにキョロキョロと皆を見渡し。

 カナリーは、赤ワインを傾けている。

 そしてタイランは、精霊体のまま、裁きを待つように俯いていた。

 シルバが、パンと手を叩くと、タイランが弾かれたように顔を上げた。


「さて、こっちに戻って、昼間休んでもらっただけで、また集まってもらったのには訳がある。タイランのことだ。一応全員の意思を確認しようと思ってな」

「うむ、確かに早急に済ませねばならぬ問題であるな」

「僕がその立場だと、キリキリと胃が痛むよ。当人は気が気じゃないだろうね」


 キキョウが目を開いて、カナリーもグラスをテーブルに置いた。

 ヒイロは不安そうに、肉を食べていた。


「大丈夫なんだよね、先輩」

「……」


 シルバは、タイランと目が合った。


「まずは、タイランの話を聞かないか? 何で素性を隠してたのかとか、その中身は一体何なのかとか」

「わ、分かりました……」




 シルバに促され、タイランは話し始めた。

 父の助手の裏切りで国を追われたこと、魔女の家で世話になり、その後、父と合流するために旅に出たことなど。

 話が終わると、タイランは小さく息を吐いた。


「なるほど」


 タイランの生い立ちに関してコメントは挟まず、シルバは皆を見渡した。


「それじゃ、今の話を聞いて、タイランがこのパーティーを去るべきだと思う人は挙手」


 誰も手を挙げなかった。


「じゃあ、一緒にパーティーにいて欲しいと思う人は挙手」


 すると、全員が手を挙げた。


「だよなあ」

「当然だよ! タイラン悪くないじゃん!」


 シルバが呟き、ヒイロは憤っていた。


「ねえ、これ茶番じゃないかい、シルバ? 答えなんて分かりきってただろう?」


 やれやれ、とカナリーが首を振った。


「分かりきっててもやっとく必要はあるんだよ。無駄に疑心暗鬼になられても困る」

「まあね。意思表示は大切だ」

「あ、ありがとうございます……でも、その、決まりで……」


 タイランは、またしょぼんと俯いた。


「そう、だからタイランが不安になるのは分かってたから、さっさと終わらせたかったんだよ、この件。半日置くだけでも長いぐらいだ」


 さて、とシルバはタイランに切り出した。


「そもそも、女性禁止ってルールにした経緯は、タイランも知ってるだろ。キキョウと呑んでた時から、いたんだから」

「は、はい……その、シルバさんのいた前のパーティーが、女性絡みで酷いことになったっていう……」


 視界の隅で、ヒイロが「そんなのだったっけ……?」という顔をしていたが、シルバは無視することにした。

 話が盛大に脱線しそうだからだ。

 それよりも、今はタイランとの会話に集中するべきだろう。


「じゃあ、タイランが()()()()になるかっていうと、ないだろ。それぐらい、パーティー作ってから今までの付き合いで分かる。タイランがいることで、パーティーが壊れるって思う奴、ここにはいないだろうし」


 キキョウやヒイロが頷く中、異論を唱えたのはカナリーだ。


「だがね、シルバ、ルールはルールだ。そこはどうするつもりだい?」

「そこなんだがな、ここにいる全員が黙ってればバレないんじゃないか?」

「うん、確かに!」


 いい笑顔をしたヒイロが、両手の親指を立てた。


「い、いやいやいや、本当にそれでいいのかい!? 僕は構わないけど、このパーティーの風紀的に、それはちょっとどうかと思うよ!?」


 カナリーはあくまで、常識論を唱えるつもりのようだ。

 カナリーがこういう役割をしてくれて、シルバとしても本当に助かっていた。

 キキョウとヒイロだけだと、ほぼ成り行きというか、なあなあで終わってしまうからだ。

 お陰で、シルバもなあなあな話ができるというものだ。

 実際、タイランがノワみたいなパーティークラッシャー的な役割を果たすかというと、まずないだろう。

 それに、パーティーの機能としても、今やタイランは不可欠だ。


「タイランレベルの前衛はそうはいないぞ? しっかり仕事してくれてるし今回の一件でも活躍した。加えていえば、タイランを追い出すと漏れなくヒイロも多分出ていくことになる。だろ?」

「うぇっ!? あ、あー……」


 シルバの指摘に、ヒイロは挙動不審になった。

 ただ、ちょっとシルバの予想とは、反応が少々異なる。

 何故、そこで自分の胸を両腕で押さえて、太股をもじもじさせるのか。

 シルバが首を傾げていると、カナリーが早い口調で話し始めた。


「ああ、なるほど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そ、そそそ、そう! そういうこともあるかもー」


 カナリーが目配せすると、ヒイロは何度も首を上下させた。

 ふぅむ、とキキョウと同意を示した。


「感情的な問題もそうであるが、前衛が二人抜けるというのも困る話であるな」


 ヒイロとカナリーの態度には、何やらまだ妙な違和感がまだあったが、概ねシルバの考えた通りに話は進んだので、良しとすることにした。


「だから、タイランの性別に関しては、黙っていよう。……何より、ほら、リフが入ってくるかもしれないしな」


 いつになるかは分からないが、その時それを理由の拒絶できるかとなると、シルバには自信がない。


「ああ、それもあるか。うん、あの子は父親の言葉通りなら、間違いなく女の子だしねえ」


 カナリーの言葉に、シルバはスッと目を背けた。

 シルバは既に確認済みだが、皆にそれを話しても誰も幸福にならないような気がしたからだ。

 カナリーは納得しそうになっていたが、ピタッと動きを止めた。


「いや、でも待って欲しい。タイランにはもう一つ、問題があるだろう?」


 言われて、シルバは思い出した。


「例の、国から追われている件か」


 属性を自在に変えられる人工精霊。

 そんなのは、シルバも聞いたことがない。

 タイランの故国が、あっさり諦めるとも思えない。

 まだ、探している可能性は高いだろう。


「あ……」


 タイランが申し訳なさそうな顔をするが、それにしてはシルバも話さなければならないことがあった。


「その件だがな、実は既に別の国から追われている奴がいる」


 話しながら、シルバの右の人差し指は、キキョウを指していた。


「シルバ、指、その指」

「シ、シルバ殿……あのことを話してしまうのか?」


 タイランに続いて、キキョウも不安そうな顔をした。


「事のついででもあるし、この際みんなにもリスクは話しといた方がいいだろ?」

「……まあ、何となく僕は見当がついているけどね」


 ふっ……とカナリーは笑い、窓の方を見た。

 その方角には、クスノハ遺跡がある。

 一方、ヒイロは慌てて、立ち上がっていた。


「え!? キキョウさん、何しでかしたの!?」

「またずいぶんと人聞きの悪い言い方であるな!?」

「ただ、領主の屋敷にあった宝物庫から、財宝を根こそぎ持ち逃げしただけだよな?」


 シルバがポンと肩を叩くと、キキョウは涙目になった。


「それもその通りであるが、言い方が!?」

「……本当に、何をしでかしてるんだい、キキョウ」


 呆れたような顔をする、カナリーだった。

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