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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
55/215

クスノハ遺跡の決戦(5)

すみません、ちょっと短めになります。

 シルバは、雷の縄に縛られているクロップ老を見下ろした。


「ヒイロ、先に行ってくれ。俺とタイランはちょっと、やることがある」

「殴るの? 骨剣いる?」


 ヒイロは持っていた骨剣のひっくり返してその先端を持ち、柄の方をシルバに突き出した。

 シルバは気持ちだけ、受け取ることにした。


「き、貴様ら、か弱い老人に私的制裁とか鬼か!?」

(オーガ)族だけど、それが何?」


 慌てるクロップ老に、ヒイロは素で返した。


「とにかく先に行ってくれ。すぐに追いつくから」

「うん、分かった!」


 ヒイロはあっさり頷くと、そのまま霊獣に向かって駆け出した。


「あと、さすがにか弱いは通じないだろ、爺さん」

「……先生、さすがにそれは僕も擁護できません」


 ガックリと首を落としたのは、クロップ老と一緒に縛られていた眼鏡の青年オクトだった。


「オ、オクト裏切りおったな!?」

「……いえ、他はともかく、そこは本当にもう……」

「死んでも死にそうにないもんな、爺さん」

「ええ……」


 シルバの言葉に、オクトは本心から同意しているように見えた。


「さてタイラン」

「は、はい!」

「爺さんの白衣を剥いでくれ。タイランの絶魔コーティングなら、この雷の縄も素通りできるだろ?」

「あ……精霊砲対策ですね」

「そういうことだ」


 そういうことなら……と、タイランはクロップ老の白衣を奪い取ろうと、身体をまさぐった。


「き、貴様、やめんか破廉恥な! 人のモノを盗むなど人道にもとる行為じゃぞ!」

「……リフ、今なら撃っても全然構わないぞ」

「にぅー……」


 撃ちたいけど、我慢するらしい。

 これから、兄弟を止めるためにできるだけ力を溜めておく必要がある。

 リフはそう判断したようだ。


「シルバさん、取れました!」

「よし、じゃあタイラン行こう」

「はい!」

「ま、待て! 儂らはこのままか! 解放していかんか!」

「……解放する訳ないだろ、爺さん。じゃ、また後でな」


 抗議するクロップ老を置いて、シルバとタイランは遺跡の陰から飛び出した。

 手には白衣があり、ポケットに何やら硬い感触があったので調べてみると、それは懐中時計だった。

 シルバは、足を休めないまま、懐中時計を調べてみた。


「……()()()()()()()()()()()()


 シルバの考えた通りだった。

 しばらく走ると、すぐにヒイロの背中に追いついた。

 が、これは別にヒイロの足が遅いからではない。


「草、か?」


 来る時には荒れ地だった土地には、雑草が生い茂っていたのだ。

 それも相当に成長し、今はシルバの膝ぐらいまである。


「どんどん伸びてきてるよね! 走りづらい!」


 ヒイロが叫ぶ。

 しかも草の背は、どんどんと高くなってきていた。


「にぅ!」

「……そうか、リフの兄弟ならそういうこともあるか」


 リフは植物を操る、木属性の霊獣だ。

 ならば、その兄弟も同じ属性であり、しかも三体分の力が大地の植物に影響しているのだろう。

 このままでは、シルバ達も身動きが取れなくなってしまうだろう。

 霊獣は脚先が雑草に隠れている程度で健在、キキョウの姿は見えない。

 おそらく高くなった雑草のどこかに、姿が隠れてしまっているのだろう。

 霊獣を翻弄する黄金色の光、カナリーが牽制を担ってくれているようだ。

 うるさい虫を払うように、霊獣が何度も前脚で光を叩こうとするが、その度に光は舞うように前脚から逃れていた。


「早くあのカナリーさんと合流しないとね!」

「だな」


 雑草はシルバの腰近くまで伸びてきていた。

 ヒイロも胸元ぐらいまで隠れていて、これ以上は本当に動きの妨げになってしまう。

 けれど、カナリーが来てくれればそれも、解消される。


「にに?」


 もちろん、リフに理由が分かるはずがない。


「以前、こういうので俺達、一回痛い目に遭ったことがあるんだ。何、体力とか吸い取られないだけ、ずいぶん優しいよこれは」

「ですよねぇ……」


 タイランがしみじみと言う。

 以前、炭坑前での戦いでは、皆が身動きを取れなくなり、唯一動けたタイランの負担が相当に大きかったのだ。

 シルバはポケットから石ころを取り出し、『発光(ライタン)』の祝福を付与したそれを霊獣に投げつけた。


「これでも食らえ!」


 シルバが指を鳴らすと、石ころが強烈な光を放った。

 三つの頭を持つ霊獣が、たまらず怯む。

 しかしその中でも、頭の一つは苦し紛れに口から光線を吐き出した。

 精霊砲だ。

 このまま直撃するそれを、シルバは手に持ったクロップ老の白衣で払った。

 対遠距離魔術用の白衣は案の定、精霊砲にも通用した。

 そのままシルバは叫ぶ。


「散開!」

「あいさー!」

「りょ、了解です」


 ヒイロとタイランが、正面の草むらに飛び込んでいく。

 そして真上からは、カナリーが降りてきた。


「シルバ!」

「カナリー囮役助かった! もう一仕事頼む!」

「やれやれだね、まったく!」


 カナリーは、地面に手をついた。

 シルバは同時にキキョウに向け、『透心(シンツ)』の念話を飛ばす。


「キキョウ、()()()だあれ!」


 シルバの問いに、草むらからキキョウの念話が届いてきた。


()()である。シルバ殿の精霊砲の無効化は今し方確認したが……水の術も使うのである。それはおそらくどうにもならぬぞ)

「……いや、助かった。()()って分かっただけでも御の字だ。それも多分、()()()()()


 一方カナリーである。


「さーて、覚悟はいいかい獣君。――吸精!!」


 ズッ!

 カナリーを中心に、青々とした雑草が一気に赤黒い色に変化した。

 そしてそのまま放射状に枯れ果てていく。

 カナリーの纏う黄金の輝きは、目を見開くのも困難なほどになっていた。

 雑草の中に姿を隠していた、ヒイロ、タイラン、それにキキョウの姿も露わになっていく。


「ガアア!!」


 シルバの放った『発光(ライタン)』の目潰しも既に効果を失い、霊獣は三つの口から精霊砲を放とうとしていた。


「からの――『雷槌(トルハン)』!!」


 カナリーは限界まで吸収した草の精気を魔力に換え、そしてそれをそのまま霊獣に対して解き放った。

 振り下ろした掌と共に、霊獣を紫色の雷柱が包み込んだ。


「ギイイィィ……!?」


 霊獣は精霊砲を放つこともできず、苦しげな悲鳴を上げた。

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