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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
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クスノハ遺跡の決戦(2)

「よくやった、セルシア。しっかり僕達の護衛を頼むぞ」


 カナリーに頷き、セルシアは静かに待機状態を保った。


「ならばこれでどうじゃ!」


 拳を引き戻した、モンブラン八号の両手が眩い光が収束していく。


「双・精霊砲!」


 老人の声と共に、八号の両手から光の束が迸った。

 それを、シルバとリフが迎え撃つ。


「『大盾(ラシルド)』!」

「にぃっ!」


 魔力障壁と精霊砲が、モンブラン八号必殺の攻撃をほぼ完全に相殺した。

 一方、タイランとヴァーミィはほぼ、自分達の仕事を終えていた。


「こ、こっちの制圧もう終わります!」


 残ったローブ姿の男達を、タイランの斧槍とヴァーミィの蹴りが潰していく。


「任せた、タイラン。キキョウ、もう一本の足も頼む」

「承知した!」


 キキョウは疾風の速度で、真上から落ちてくるモンブラン八号の拳を回避。

 無防備になった手首にも刃を撃ち込み、何とか敵の背後に回り込もうとする。


「させるか、馬鹿モン!! もう我慢ならん! 今こそ、超! 無敵モード発動の時じゃい!」

「ガ!」


 鈍い唸り音と共に、不可視の力場がモンブラン八号を中心に発生する。


「むぅ……!?」


 異様な気配にキキョウは唸り、即座に後退した。

 部下の数こそ減ったモノの、形勢の逆転にクロップ老は得意げに含み笑いを漏らす。


「ククク……よくも今まで、舐めた真似をしてくれたな、小僧ども! 霊獣から得た圧倒的なエネルギーにモノをいわせ、攻撃力も速度も従来の倍となっておる! 貴様ら揃って、新たな無敵モードの実験台になってもらうとしよう!」

「そ、その力……出来れば、もっと早く出して欲しかったです……先生……」


 床に倒れ伏した眼鏡の青年オクトが、呻き声を漏らした。


「ええい、やかましいわ! 切り札は、最後まで取っておくモンじゃろうが」


 老人は、部下の愚痴など意に介さなかった。


「……って事は、その無敵モードさえ何とかすれば、もう手はないって事だな?」


 シルバの特に焦った様子もない問いに、クロップ老は眉根を寄せた。


「ふん……! 虚勢を張れるのも今の内じゃ! ゆくぞ、超☆無敵モード・モンブラン八号!!」

「ガオン!」


 唸り声を上げ、モンブラン八号は両脚を踏ん張った。

 ガクンと一度大きく体勢を崩したが何とか立て直し、足の裏にある無限軌道が唸りを上げる。


「よし、体当たり攻撃じゃモンブラン八号! 全員、ミンチにしてくれようぞ!」

「ガ!」


 モンブラン八号の巨大な足の踏み込みに、地面が爆散した。

 なるほど、攻撃力も速度も二倍というのは、ハッタリではないようだ。

 五メルトを優に越す鋼の弾丸が、凄まじい勢いでシルバ達に迫り――。


「『雷閃(エレダン)』」

「にぁっ!」


 ――カナリーの雷魔術とリフの精霊砲に貫かれた。


「ガガ!?」


 全身から火花を飛び散らせ、モンブラン八号の巨体が真後ろへと弾け飛ぶ。

 かろうじて倒れこそしなかったものの、身体の関節部はガクガクと痙攣を繰り返していた。

 モンブラン八号を操っていたクロップ老も仰天する。


「な、何と!?」

「へぇ……シルバの推測通り、あの無敵モードって、魔術は素通りなんだ」


 指先から小さく紫電を発しながら、カナリーが口元だけ微笑む。


「な、な、何故、この無敵モード最大の弱点を、貴様が知っておる!」


 ダラダラと汗を流すクロップ老に、シルバは即答した。


「答える義理はない」

「何じゃと!?」

「冒険者に二度も同じ攻撃が通じると思うなよ?」


 シルバが言っている間にも、ヒイロやキキョウ、それにタイランがモンブラン八号を取り囲む。

 ヴァーミィはシルバ達後衛を守るように、セルシアと並んだ。


 実際は、シルバも冷や汗ものだった。

 その視線は、モンブラン八号の胴体に刺さった短刀――キキョウの武器である。

 モンブラン八号が超無敵モードを発動した時、跳び退りながら投げつけたモノである。


 一度目の、路地裏でのモンブラン四号戦、ヒイロの骨剣はわずかながら通用した。

 それは何故か、シルバは考えた。

 前パーティーに所属していた時、酒の席で戦士であるロッシェから、数多の生き物を斬り、潰してきた武器には微弱ながら魔力が宿ると聞いたことがあったのだ。

 つまり、古く使い込まれた武器は、魔剣の類となる。

 ヒイロの武器はまだまだその域には程遠いが、食堂で会議をしていた時、キキョウとカナリーに確認してもらうと、なるほど骨剣は微量の魔力を帯びていた。

 だからこそ、路地での戦いで、ほんのわずかながら無敵モードのモンブラン四号に、ダメージを与えることができたのだ。

 つまり。

 無敵モードは、物理攻撃にはこれ以上無いほど有効だが、その反面些細な魔力ですら通すほど魔術攻撃には弱い。

 そしてそれを裏付けるべく、今回は無敵モードの発動と同時に、キキョウが魔力を帯びた短刀を使ってくれたのだ。いや、キキョウが言うには妖力だったか。

 そしてそれは、通用した。


「もう、無敵モードは通じないぞ、爺さん」


 攻撃力や速度が上がっているのは厄介だが、珍しいモノではない。

 シルバの言葉に、クロップ老の決断は早かった。


「構っわん!!」

「何……!?」

「エネルギーフル出力! 一気に回復じゃあ!」

「ガァッ!」


 モンブラン八号の雄叫びと共に、金属製であるはずの胴体や四肢が光を放ち、見る見るうちに修復されていく。


「た、体力にモノを言わせてごり押しする気かよ……」


 何という、酷い作戦だ。

 だが、有効な手であることも確かだ。

 どれほど魔術に弱かろうと、最後まで立っていれば勝ちである。

 そして、この強引な回復にはもう一つ問題があった。

 タイランが、悲痛な声を上げる。


「……まずい、です……! 中の子達が……悲鳴を上げています!」

「よし、まだ搾り取れるぞ! さすが霊獣! 秘められたエネルギーは純度も量も桁違いじゃ! ではゆくぞ、生意気な小僧! まずは貴様からじゃ!」


 クロップ老の狙いは、シルバのようだ。

 散々挑発したのだ。

 それはいい。

 しかし、戦闘の中盤からずっと攻撃を控え、ひたすら己の中で破壊衝動を練り続けていた鬼がいることに、老人は気付いていないようだった。


「ヒイロ、準備はいいか――『豪拳(コングル)』」

「……うん、充分!!」


 極限まで力を絞るヒイロの肉体からは、赤黒い瘴気のようなモノが立ち込めていた。

 (オーガ)族の攻撃力を高める『凶化』だ。

 シルバの与えた攻撃力を高める『豪拳(コングル)』によって、その瘴気はさらに濃度を増していた。

 そしてもう一人、カナリーである。


「こっちも準備はできたとも」


 カナリーは、華奢な身体の全身から静かに紫電を迸らせていた。

 シルバとて、好き好んでこの頭のおかしい老人と長話をしていた訳ではない。

 あと一撃で片付ける為、時間稼ぎを行っていたのだ。

 何せ、霊獣達がいるであろう心臓部である精霊炉には傷をつけずに、モンブラン八号を行動不能にしなければならないのだ。

 これで結構、気を遣っていたのである。


「ゆ、ゆけモンブラン八号! これさえ凌げば、儂らの勝ちじゃ!」

「ガオン!」


 クロップ老の声に応え、改めて轟音と共に突進を開始するモンブラン八号。

 どれほどの攻撃を受けようが、そのままこちらを圧死させる覚悟のようだ。

 しかし、シルバ達は動じなかった。


「ないよ、そんな勝ち。無敵モードのままなら、カナリーの雷魔術が。無敵モードを解いたらヒイロの骨剣とキキョウの妖刀がモンブラン八号を破壊する。どっちにしても勝ち目はないって」


 凄まじい勢いで迫るモンブラン八号を、正面に斧槍を構えて立ったタイランが迎え撃つ。


「無駄じゃ! 貴様の攻撃力ではモンブラン八号を止められんぞ!」

「はい!」


 身体から青いオーラを放ちながら、タイランは斧槍を脇に投げ捨てた。


「何じゃと!?」


 タイランは攻撃を捨て、両腕でモンブラン八号を抱きとめた。

 いや、勢いを完全には止めきれず、後ろへと引きずられていく。

 けれどそれで充分。


「だから三人がかりです!」


 後ろに控えていたヴァーミィとセルシア、赤と青の美女がタイランの背中を支えた。


 トン、とカナリーが高く跳躍した。


「フルパワー全開――」


 激しい紫電光が、大きく掲げた掌に収束する。

 狙いは当然、タイランの頭越しに見える、モンブラン八号だ。


「――『雷槌(トルハン)』!!」


 カナリーが掌を振り下ろすと同時に、モンブラン八号を紫色の雷柱が包み込んだ。


「ガ、ガ、ガガガ……!!」


 ビクンッと背を仰け反らせ、八号は全身から煙を吹き出した。

 しかし、それでも足下の無限軌道は死なず、タックルを継続する。


「気張れ、モンブラン八号! そんな静電気に負けるでないぞ!」

「ガハァ……!」


 タイランの脇から巨大な手を突き出し、シルバを捕らえようとするモンブラン八号。

 その手が爆音と共に伸びた。

 ロケットナックルだ。

 シルバは後ろに跳びはね、腕を突きだした。

 その手の甲にリフが乗り、四肢を踏ん張っていた。

 空ぶったモンブラン八号の手が地面に突き刺さる。


「やれ、リフ!」

「にぃっ!」


 リフの口から放たれた精霊砲が、モンブラン八号の手を破壊した。

 すると不意に、不可視の圧力が消失した。


「ガォッ……!?」

「な……超無敵フィールドが……」


 無敵モードの活動限界を迎えたのだろう。

 既に、キキョウとヒイロは間合いに入っていた。


「ヒイロ、ゆくぞ」

「うん! タイラン投げて!」

「はい!」


 タイランが、モンブラン八号の身体を持ち上げ、そのまま投げ飛ばした。

 宙に浮いたモンブラン八号に、跳躍したキキョウの刀が瞬いたかと思うと、両腕と両足を切断していた。

 そしてその落下地点では、ヒイロが骨剣を振りかぶっていた。


「おおおおおおおおおおりゃああああああっ!!!!」


 ドボン、と。

 とても金属とは思えない音と共に、骨剣の必撃を横殴りに喰らったモンブラン八号は再び、天高く舞い上がった。

 高い天井をそのまま貫き、瓦礫が落下して生まれた大穴からは星の瞬く夜空が覗いていた。


「モ、モンブラン八号おおおぉぉぉぉぉーーーーーっ!?」


 クロップ老が悲鳴を上げる。

 しばらくして、クロップ老の背後から、凄まじい轟音が響いてきた。

 天井に、新たな穴が開く。

 広い屋内実験場(今は天井が無くなりそうになっているが)の端っこに、どうやらモンブラン八号が落下したようだ。

 よほど天井の補強が厚かったのか、思ったよりも飛距離は伸びなかったようだ。


「ふぅ……スッキリした」


 スカッと爽やかな笑顔で、ヒイロは汗を拭った。

 しかし、シルバはそれどころではなく、ヒイロの後頭部を軽くはたいた。

 自分の術も原因の一つとはいえ、やり過ぎだ。


「いや、スッキリしたのはいいけど、中の子らの事もちょっとは考えろよ!? 中心は避けろっつっただろ!?」

「あ」


 モンブラン八号へと駆け出すシルバに釣られてか、ヒイロも併走し始めた。


「ったく……ま、まあ、本当に外が頑丈だったのが救いだけどさ」

「ともあれ、さすがに行動は不能だろうね、あれは」

「にぅー……」


 ヒイロとは反対側にカナリーが飛翔し、肩に戻ったリフが心配そうに鳴く。

 ヒイロの骨剣が直撃したモンブラン八号の頭部が、胴体に埋没していた。


「あの一撃受けちゃ、どう考えても無理だろ。それよりも……」


 クロップ老もまた半壊したモンブラン八号に向かって駆け出しながら、その巨体に叫び続けていた。


「立て! 立つんじゃモンブラン八号! お前の力はそんなモノではないはずじゃあ! 儂の造った精霊炉の優秀さを、示せ八号!!」


 ただ、小柄かつ老齢ということもあり、その走りは遅い。

 キキョウの方が、モンブラン八号に追いつくのは速いだろう。


「とりあえず、あの爺さんを黙らせよう。カナリー、リフを頼む。タイランと一緒に、精霊炉の方を頼む」

「承知した。行こう、リフ」

「に!」


 シルバの肩から跳んだリフを、カナリーは受け止め、モンブラン八号の方へと飛んでいく。


「ヒイロ、爺さんを止めるぞ」

「うん!」


 シルバとヒイロは、クロップ老の方に進行方向を変えた。

 もはや、老人に戦力は残っていないはずだ。

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[一言] 絶魔コーティングいつの間に剥がれたん?
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