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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
51/215

クスノハ遺跡の決戦(1)

「……言いたい事はそれだけか?」


 シルバの感情を押し殺した問いに、クロップ老は胸を張った。


「いや、まだある! このモンブラン八号はすごいぞ! 内蔵した精霊炉をフル回転させることにより、全体の動きが滑らかとなり、足の裏に装着した無限軌道により機動性の大幅アップ! パワーも増し、装甲を厚くしてもモンブラン四号を上回る攻撃力と防御力を両立させたのじゃ! 手数も増え、どれほど多勢であろうとお前達に勝ち目はない! どうだ、恐れ入ったか!」

「いらない」


 大きく振りかぶったヒイロの轟剣が、唸りを上げてモンブラン八号の横っ面をぶん殴った。


「ガ……!?」


 モンブラン八号の、鉄の頭がクルクルと勢いよく回転する。

 問答無用なヒイロの攻撃に、クロップ老は顔を真っ赤にして飛び上がった。


「おのれ! またお前か小僧!? じゃから人が話している時に攻撃するでないわ!」


 抗議するクロップ老に、紫電の一撃が迫ってきた。

 カナリーの雷魔術である。


「うおおおおっ!?」


 クロップ老が白衣を翻すと、紫の雷はまるで弾いた水のように散らばった。


「チッ……さすがに遠距離対策はしてあるか」


 カナリーは舌打ちした。

 やはり自動鎧、モンブラン八号を倒さなければ、あの老人を捕らえることは難しそうだ。

 一方、そのモンブラン八号は肩に乗ったヒイロを捕まえようとしたが、ヒイロの巨大な骨剣がその手を払い除けた。

 そのままヒイロは、クロップ老を見下ろした。


「ご託はいーんだよ、爺ちゃん。爺ちゃんはやっちゃいけない事やったんだ。悪いけど今からコイツぶちのめしして、爺ちゃんもぶっ飛ばす。いいよね。答えは聞いてないけど」

「おのれおのれおのれ! やれ、モンブラン八号! オクトよ、何をぼさっとしておる! さっさと霊獣を回収せい!」

「は、はい!」


 戦闘が始まった。

 最前線でモンブラン八号とぶつかり合うのは当然、ヒイロ。

 そのサポートに、キキョウが回る。

 タイランは前の戦いと同じく、眼鏡の青年ことオクト率いるローブ姿の男達の相手を務める事となった。

 タイランやリフの精霊砲に対抗するためだろう、何人かは盾を構えていた。

 その後方では、カナリーが影の中から赤の貴婦人を出現させていた。

 赤いドレスの美女・ヴァーミィが滑るような動きでローブ姿の男達に迫り、手刀の舞踏を展開し始めた。


「……君が止める間もなく始まっちゃったな、シルバ」


 カナリーは髪を掻き上げ、一歩下がる。

 前線の激しさに比べれば大分落ち着いてはいるが、油断はできない。


「いいさ。ウチの代表として先制攻撃って事で。それに事前に言ってたとしても、誰も止めなかったろ」

「まあね。じゃあま、こっちはこっちで仕事を始めるとしよう――『紫電(エレクト)』!」

「リフも支援よろしく」

「に!」


 シルバの懐に収まっていたリフが飛び出し、肩に移動した。


「にぅ!」


 開いた口から、鳴き声と共に緑色の光線、精霊砲が放たれる。


「た、助かります!」


 タイランの正面から響く、金属を弾く音はおそらく銃によるものだろう。

 眼鏡の青年、オクトの指示のようだ。

 なるほど、タイラン自身には効かなくても、シルバ達に届けばダメージは大きい。

 それをタイランが身体を張って防ぎ、ヴァーミィが横から滑るような動きでローブの男達に攻撃を与えていく。

 そちらを避けたところを、リフの精霊砲が命中する。

 連発こそしていないが、盾で守り切ることができない顔を正確に狙い撃っている。

 シルバはシルバで、回復の祝福は元より、攻撃力を高める『豪拳(コングル)』や防御力を高める『鉄壁(ウオウル)』の展開で忙しくなってくる。

 そんな中、不意にタイランが動きを休めた。


「……っ! やっぱり!」


 屈強なローブ姿の男の棍棒を払い退け、確信の声を上げた。

 そして、ヒイロとキキョウが戦っているモンブラン八号に、指を向けた。


「れ、霊獣の仔達、まだ生きてます! 大分弱ってますけど……中にちゃんと反応、四つ、感じます!」

「確かか!?」


 でも、四つ?

 確かクロップ老も同じことを言っていたような気がするが、それだとリフの言っていた兄弟と数が合わない。

 いや、今はタイランの話の方が先かと、シルバは気を取り直した。


「間違いありません、シルバさん! 絶魔コーティングで分かりづらかったですけど、排気の時の気配とか……って、それはどうでもよくて、と、とにかく、時間が経てば経つほどエネルギーを消費しますから……早く助け出さないと……!」


 なるほど、精霊炉には霊獣の仔のエネルギーを利用している。

 ということは、このままモンブラン八号を稼働させていると、どんどんと霊獣の仔達は衰弱してしまうのだろう。


「ならやる事は決まってる! 全員速攻!!」

「心得た! 霊力解放!」


 キキョウの後頭部に狐面が出現し、妖しい紫色の光を放つ。


「ヒイロ、スイッチである!」

「うんっ!」


 それまでモンブラン八号と真っ向から打撃戦を繰り広げていたヒイロに代わり、キキョウが前に出る。

 それまで、攻撃を受けては反撃を繰り返していた八号の攻撃が、途端に当たらなくなった。

 スピードが圧倒的に違うのだ。

 それも、狐面に秘めていた霊力を解いて、強化した加速術。

 モンブラン八号が一度拳を振るう間に、キキョウは四度の攻撃をその関節に与えていた。


「ぬうっ!? こ、小癪な!」

「確かに、その大きな身体でその機動力は大したモノである。だが、それでもなお遅い!」


 モンブラン八号の拳をギリギリで回避し、キキョウはそのまま懐に飛び込んだ。


「舐めるな、小童! そのような細い剣で八号の重圧な装甲を貫けることなど、無理! 無駄! 無謀!」

「生憎と、某達には優秀な参謀がついているのだ――」


 突然、モンブラン八号がガクリとバランスを崩した。


「モ、モンブラン八号、どうしたのじゃ!?」

「――どれほど装甲が厚かろうと、関節の強化には限界があるのである。まずは足!」


 キキョウの鋭い刃が四つ閃き、八号の膝裏と腱に当たる部分から火花が飛び散った。


「ガ、ガガァ……!?」


 たまらず、両手を床につくモンブラン八号。


「モ、モンブラン八号ーっ!? し、しっかりするのじゃ!」


 クロップ老が悲痛な声を上げる。

 だが、形勢の不利は、彼らだけではなかった。

 ローブ姿の部下達も、既に何人かが戦闘不能に陥っていた。

 まだかろうじて無事な眼鏡の青年オクトが、悲鳴を上げる。


「せ、先生! 敵の火力が強すぎます!」

「しっかりせんか! 八号の余った絶魔コーティング装甲で、魔術はある程度、防げるはずじゃろうが!」

「ま、魔術は何とか防げるんですが、この鎧と女が……!」


 赤い美女ヴァーミィの刃物のような切れ味の手刀に、ローブの男達は対応しきれないでいた。

 かと思えば、モンブラン八号ほどではないにしても充分巨体のタイランが、力任せの突進で、彼らの体勢を崩してくる。

 そして盾にしていた装甲を落とせば、後方でカナリーが髪を掻き分けながら笑うのだ。


「ふふ、いいぞヴァーミィ。そのまま敵を翻弄し続けるんだ。盾を奪えば、僕とリフの出番となる」

「……にぃ!」


 紫電と精霊砲が飛び、クロップ老の部下達はみるみるうちにその数が減っていく。

 しかしその程度で諦める老人ではなかった。


「モンブラン八号、スピン攻撃じゃあ!! 全員弾き飛ばせ!」

「ガ!」


 何とか起き上がったモンブラン八号は足を踏ん張り、その場で大きくその身体を回転させた。

 極太の腕が暴風となって、キキョウやタイランを後退させる。


「ぬっ!?」

「……つぅっ!?」


 力任せながら、敵を怯ませることに成功し、クロップ老は激しく手を叩いた。


「よぉしよしよし! 落ち着いて戦えば、お前に負けはないぞモンブラン八号! 仕切り直しと行こう! まずは厄介な後ろの連中じゃ! 飛ばせロケットナックル!」

「ガオン!」


 八号が構えた腕から拳だけが飛び、後方のシルバ達を襲う。

 しかしそれが彼らの届く前に、カナリーの影から飛び出した青い風が、軌道を逸らした。


「何ぃっ!?」


 シルバ達の前に優雅に着地したのは、青いドレスの美女・セルシアだった。

 彼女はスカートの両端をつまみ、一礼したのであった。


 序盤にカナリーの不意打ちを追加しました。

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