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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
初心者訓練場の戦い
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交渉と前準備

ちょっと短めです。

「強情だなぁ。どうして駄目なのかな」


 ため息をつくネイサンに、シルバは途切れ途切れに言葉を吐き出す。


「……どう考えても、交渉が下手くそすぎるだろ。暴力は最後の手段だ。しかも……条件が悪すぎる。素性の知れない相手と……けほっ……そんな賭けには乗れるはず、ない」


 一回咳き込み。


「それに……俺一人で判断していい問題じゃない。仲間の了承が必要だ……ああ、これは、さっきも言ったか……」

「ああ、そう。そういう事なら、交渉は成功だ」


 ネイサンはシルバの背後を見て、笑った。


「……そうみたいだな」


 鼻を押さえながら、シルバはすっくと立ち上がった。

 想像以上にシルバの元気な様子に、ポールが目を丸くする。


「断る必要は、何もないぞシルバ殿。むしろ、受けて立つ」


 追いつき、間に割って入ってきたのは、黒髪の剣士・キキョウだった。どうやらトップスピードで駆けてきたらしい。振り返ると、ヒイロとタイランはまだ遙か後方だ。

 シルバから、『透心(シンツ)』による救援要請を受け、キキョウを含む三人は即座に動いた。

 が、その『即座』の速さが圧倒的だったのが、キキョウだった。ヒイロとタイランが事態を把握するより早く、キキョウは発信源であるシルバの元へと駆け出していたのだ。




 最早、キキョウの背中すら見えない。


「っていうか、鬼速いよキキョウさん! 何あのスピード!?」

「うぅ……私、もう限界かも知れません……」


 広大な草原を、ヒイロとタイランはひたすら駆けるのだった。




 シルバを守るように立つキキョウを、ネイサンはニヤニヤと見上げていた。


「へえ、リーダーさんの登場か。キキョウ・ナツメ。名前は聞いてるよ」

「リーダーは……」


 ――そのままでいい。

 振り返ろうとするキキョウに、シルバは念波を飛ばした。


「ああ、某だ。話ならまず、某を通してもらおう」

「条件は聞いてた?」

「某達が勝てば、五千カッドもらえるとか」

「そう」


 シルバは再び、キキョウに念波を飛ばした。

 キキョウの頬が一瞬引きつったが、すぐに冷めた表情を作る。


「安いな」

「何」

「こちらは一万カッド出す」

「何だと!?」

「こっちが十倍出す。だからお前達も十倍で勝負してもらう。五万カッドだ」

「そ、そんな額……あ、兄貴」

「いや、別に構わぬぞ。某達が一万カッド、そちらは五千カッドでも」

「いいでしょう。五万カッドで勝負といきましょう」

「兄貴!?」


 不敵な兄の言葉に、ポールは目を剥いた。

 その額は、ネイサン達のパーティーの全資産に近い。ポールが焦るのも無理はなかった。


「問題ない。タダのハッタリだ。こっちに勝算がある。確かに前衛の、彼は大したモノだった。他二人も手強そうだ」

「なら……」

「でも、後衛はあれ一人。僕の『アレ』をどうにか出来ると思うか? 出来るとしてもお前のスピードがあれば」


 ポールはニヤリと笑った。


「……何とかする前に、潰せる。なるほど、さすが兄貴」

「そして払えない時には、代わりのモノで支払ってもらう。……分かるな?」

「もちろんだよ、兄貴」


 ネイサンとポールの視線は、シルバの腰に引っ掛けられた革袋に向けられていた。

 話は決まった。

 ネイサンは、パンと両手を合わせた。


「そういう事さ。――いいでしょう、その条件で勝負といきましょう。では早速」


 キキョウは、鼻を押さえるシルバを親指で指し示した。


「という訳にもいかぬだろう。まずは、ウチの後衛の手当が先決だ。何より大金が掛かっている故、それなりの準備が必要」

「おいおい」

「二時間の猶予をもらおうか」

「一時間」

「分かった。ではそれで」


 ネイサン達の後ろ姿を見送りながら、キキョウが呟いた。


「しかし、無茶な条件だぞシルバ殿。そんなお金、どこにあるのだ」

「俺の蓄え全部漁れば、それぐらいあるさ。もし負けても、その点は問題ない」



 ネイサンたちと交渉をしたのはキキョウだったが、金額の提案は実は『透心(シンツ)』を通してシルバが行っていた。

 実際、前パーティーの時に、そこそこ稼いでいるので貯金はあるのだ。

 だが、キキョウが反応したのはそこではなかった。


「負けても、であるか? 勝算はないのか?」

「まさか。なきゃ、やらないよ。まあ、絶対とは言えないけどな」

「それでは困るのだが」

「相手もこちらを倒しに来てるんだ。絶対安全な戦いなんて、存在しない。だろ?」

「む、むぅ……」

「ただ、向こうはそう思ってないようだけどな。……まあ、どこか休める所で話をしよう」


 ようやく、ヒイロとタイランが追いついた。




 術の効果で、シルバの傷は癒えている。

 だから、手当の時間というのは嘘っぱちだし、提示した時間も『予定通り』一時間得る事が出来たので、たっぷりミーティングする事が出来る。

 念のために、四人はネイサン達から見えない場所に移動する事にした。


「まず、向こうはちょっと腕の立つチンピラ程度と思っていい。頭はそれほどよくない」


 歩きながら、シルバはそう三人に説明した。


「っていうと?」


 ヒイロが首を傾げる。


「腕力に訴えてきた。アイツらにも言ったけど、それは最後の手段。下手すりゃ憲兵が来て、大事になるしな」

「それに、某をリーダーと勘違いした」

「多分、さっきの練習を見てたんだろうな。俺達の事を良く知らないって事だ。良くは知らないけど、与しやすい相手と見て、勝負を吹っかけてきた。さて問題。ここから導き出される、敵の得意とする攻撃は? ヒイロ」

「ボク達より、強い攻撃? 前衛がボク達よりも強いとか」

「まあまあかな」

「えー、まあまあ?」


 シルバの採点に、ヒイロは不満そうな声を上げた。


「理由を出せただけ、いい解答だよ。さて、タイランは?」

「え、えっと……私達の練習は見られていたんですよね?」

「うん、おそらくね」

「っていう事は、遠距離からの攻撃か……魔術を用いた攻撃、でしょうか。私達の攻撃は近接攻撃主体ですから、相性を考えると……それがよいかと」

「うん、だと思う」


 満足げに、シルバは頷いた。


「向こうの前衛の要は、あのでかいの。ポールって言ったっけ。それなりに強い」


 強い、という言葉にピクッとヒイロが反応した。


「ボクより強い?」

「装備に依る所が大きいみたいだけど、多分な。後衛は、あのネイサンって言う小さい兄貴の方。こっちがくせ者っぽいな。ただ、情報が足りない」


 そこが悩みどころだ。

 ネイサンが、あのパーティーの要である事は、ほぼ間違いない。

 自分達のように念波で裏会話をしている可能性ももちろん考えられるが、弟のポールは表情が出やすかったし、それもないと見ていいだろう。

 重要なのは、ネイサンが何をしてくるかだ。


「ど、どうすればいいんでしょう」


 大きな身体をガチャガチャと震わせながら、タイランが問う。

 少し考え、シルバはその問いに答えた。


「分からないなら、誰かに聞けばいいんだよ」


 キキョウが、ポンと手を打った。


「なるほど、情報屋であるな」

「いや、今から街に戻るには、ちょっと辛いな。それより実際に手合わせした人たちに聞く方がいいだろう」


 何よりタダだし、と付け加えるとキキョウ達は小さく笑った。


「手合わせした人たちとは?」

「うん、連中、俺に喧嘩を売る前に、二、三戦はしてたと思う。ポールって奴の鎧やブーツに真新しい血の跡が付いてた」

「ならば、結局治療室か」


 初心者訓練場には出入り口に、小さな受付所がある。

 あるとすれば、そこぐらいだろう。他には、草原に点在する東屋(あずまや)ぐらいしか建物はない。

 だが、シルバはいや、と首を振った。


「残念だけど、この訓練場には治療室はない。適当に寝っ転がったり、辻聖職者が回復したりしてる。という訳で、ちょっと怪我人を探そう。時間もないし、急いで」

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