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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
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テュポン・クロップの実験

「数年前の話になるけど、確か所属してた錬金術師ギルドで保管してた一山ほどもある精霊石、全部自分の造った精霊炉にぶち込んだんだっけ?」


 充分知っているカナリーだった。

 サフォイア連合国は、幾つかの小さな王国が集まって形成されている国家だ。

 精霊炉とは、火山の近くや湖の底で発見される、精霊石という稀少な結晶を用いた炉であり、通常のそれよりも遥かに出力が高い。

 パル帝国のように相当に工業に力を入れた国が工場に設置したり、軍用に用いられることが多い。


「は、はい……その、自分の精霊炉の優秀さを実証する為に。確かに優れた機関で、無謀とも思える精霊石の投入にも耐えましたが……その代わり本人は錬金術ギルドどころかサフォイア連合国そのモノから追放されたそうです……何せ、ありったけの精霊石を、自分の研究の為だけに使い切っちゃいましたから……」


 なるほど、モンブラン四号で地面ぶち抜いて、襲いかかってきただけのことはある。


「……また、とんでもない爺様だったんだな。確か精霊石って一つで相当な高値だったはずだろ?」

「ですから、もし研究を続けていたとしても、どこかの組織に属する事はできず、細々とやっているはずだったんですが……」

「この辺境の地、アーミゼストに現れた」

「はい」


 タイランの肯定に、シルバの頭の中でも繋がってくる。


「精霊炉の研究者、それにリスクを冒してでも手に入れた霊獣……つまり、タイランが心配しているのは、そういう事か?」

「……はい」


 カナリーも気付いたようだ。

 キキョウは眉を寄せているが、ヒイロは明らかに分かっていないようだった。


「どゆ事?」

「俺はてっきり、密輸とかの心配をしてたんだが、状況はもっと悪いって話。爺さんが研究を進めていた精霊炉の核ってのは、つまり精霊そのモノなんだよ。だけど、精霊ってのはなかなか安定しないのが欠点でな。だから、通常は精霊石っていう結晶化されたモノが使われる。確か、人工的な精霊石の開発も進められているほどだ」


 シルバは一拍おいて、水を飲んだ。緊張のあまり、喉が渇いてしょうがない。


「だけど、それよりも効率のいい核があるとしたら? 今の爺様のエピソードを思い出したら、半精霊であるリフ達を掠った目的は何か、お前でも何となく想像が付くだろう?」

「待ってよ! じゃあ……」


 ヒイロが手に持っていた骨付き肉の骨をへし折る。

 キキョウの目も細まった。

 ここにいる全員が理解した。

 つまり、こういう事だ。

 老人達、テュポン・クロップの一味がリフ達を掠った目的は、自身の開発している精霊炉の核にする為なのだろう。


「リフは、みんなを助けに行く」


 皿を舌できれいにし終えたリフが、テーブルから飛び下りる。


「ちょ、ちょい待ち」


 シルバはその真下に手を滑り込ませ、捕まえるのに何とか間に合った。


「にぃ……はなして。いそがないと」

「そ、そりゃそうなんだけど、みんなの意見も聞かないと」

「に?」


 リフを膝の上に載せ、シルバはパーティーのメンバーを見渡した。そして、手を挙げる。


「それじゃ、リフの兄弟を助けに行くのに参加する人ー」


 全員が一斉に手を挙げた。


「……いいの?」


 見上げてくるリフに、シルバは肩を竦めた。


「いや、自分で言ったんだろ。一人じゃ無理だって」

「だね」


 うんうんと、ヒイロも笑う。


「困ってるんだろ? ウチの連中が放っておくなんてそれこそ、無理無理」

「にぃ……」

「ま、僕としては、そのクロップ氏の精霊炉がどんなモノかも興味あるしね。もしかしたら、何らかの研究の足しになるかも知れない。ああ、無事に終わったらお父上によろしく言っておいてくれたまえ」

「ボクも、リベンジできる訳だし、望む所だよ。あ、もうちょっと待ってね。ご飯食べ終わるから」

「某はシルバ殿に付いていくまで。何より、このまま見捨てては寝覚めが悪くなる故」

「……わ、私としても、知らない人じゃありませんし、その……言い出したのは私ですし……」


 それぞれが、好き勝手な理由を口にする。


「という訳で。アジトの場所まで案内頼む」

「にぃ……ありがとみんな」

「そうと決まればみんな、作戦会議だ。爺さん達、アレでなかなか厄介だからな」


 テーブルを囲む全員が、一斉に頷いた。

 料理を除けたテーブルの上に地図を広げて、騒々しい会議が始まった。


「アジトは、西南のいせきの地下」


 たし、とリフは短い前脚を、都市の外れに置いた。


「ってそれ、クスノハ遺跡ー! ……いや、そうか、だからこそ誰も今更調べない。うまい手かもしれないな」


 カナリーが頭を抱えて叫んだ。


「ってゆーかアイツ、攻撃効かないあの力、ズルい!」

「……ヒイロ、それ完全に力業で破ろうとしたよな?」


 ヒイロの絶叫に、シルバは突っ込んだ。


「それとこれとは別!」

「まあ、あれについては何となく見当が付いてる。キキョウ、ヒイロの武器ってさ……」


 シルバの問いに、キキョウは頷いた。


「ああ、充分に有り得る話だ。ヒイロ、ちょっと武器を見せてもらえるであろうか」

「あ、うん」


 キキョウはヒイロから骨剣を受け取ると、その刀身に手を滑らせた。

 その横では、タイランがカナリーに問いかけていた。


「……あと、わ、罠の心配とかないんでしょうか……?」

「確かに、連中がアジトにしているなら、罠を仕掛けていても不思議はない。ま、夜のこの時間なら、僕の霧化で割と何とかなると思うけどね」

「それってつまり……全部、引っかかるやり方、ですよね」

「その通りだが?」

「……多分、向こうが一番用意しそうな罠って、侵入を察知する類の罠だと思うんですけど……」

「……ごもっともで」


 タイランの指摘に、カナリーはぐうと唸った。

 リフは話し合う皆をキョロキョロと見渡し、シルバの袖を引いた。


「お(にぃ)、植物のタネほしい。リフもたたかう」

「花屋か……まだ開いてるかな? ……って、兄って何?」

「ず、ずるいぞ、リフ! 大体、リフには本当の兄弟がいるはずでは!」


 ピンと尻尾を立て、キキョウが指摘した。

 しかしリフは平然としていた。


「みんな、渾名でよんでる。お兄はシルバ(にぃ)だけ」

「ずっ、ずるすぎる!」


 ぐぬぬ、とキキョウは悔しそうな顔をした。

 そんなキキョウの肩に、呆れた顔をしたカナリーがポンと手を置いた。


「……落ち着きたまえ、キキョウ。というか何がずるいのかね」

「う、そ、それは……うう、妹キャラ……何という強力な……っ!」


 低い声で吠えるキキョウであった。

 そして横ではヒイロが、キキョウから返してもらった骨剣を両手で持ち、凶暴な笑みを浮かべていた。


「ふふふふふ……りっべーんじ! 待ってろ、四号ーっ!」


 実に、まとまりのない面子であった。


「あ、あの、シルバさん……私、いいんでしょうか」


 遠慮がちに、シルバに尋ねたのはタイランだ。


「何が」

「どうして精霊の言葉が分かったのかとか……き、気になりませんか……?」

「そりゃメチャクチャ気になるけど、今の優先順位は低いだろ。この件が終わって、タイランが話してもいいって思ったら、話してくれよ」


 タイランが、『透心(シンツ)』を使う前からリフの言葉が分かったことや、錬金術に造詣が深いことなど、前々から気になっていたことも含めて色々あるが、それが害になるかというと、それはちょっと考えづらい。

 むしろ、助かっていることの方が多いのだ。

 その話を聞いていたカナリーが、やれやれと頭を振っていた。


「……僕が言うのも何だが、シルバ、君はもうちょっと仲間の素性に気を払うべきだと思うよ。あと、その手の台詞は死亡フラグと呼ばれる類の一歩手前だ。気をつけたまえ」


 騒々しい小一時間の相談(?)の後、準備を整えた一行は都市を出たのだった。

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