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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
小さな霊獣の冒険譚
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力比べ

「『鉄壁(ウオウル)』!!」


 シルバは指を鳴らし、正面の自動鎧に呪文を放った。


「ぬう……っ!? どうしたモンブラン四号! 早く立ち上がるんじゃ!」


 尻餅をついたモンブラン四号が足掻くも、なかなか立ち上がることができないでいる。

 それもそのはず、ヒイロを押し潰そうとした時ほどではないにしろ、モンブラン四号の身体はその重量故に、身体が地面に埋まってしまっている。

 シルバは、その地面に対して防御力を高める『鉄壁(ウオウル)』を掛けたのだ。

 長くは保たないだろうが、一撃叩き込むぐらいの時間ぐらいは稼げたはずだ。


「手応えあり! いけ、ヒイロ!」

「あいさーっ!!」


 骨剣を大きく振るい、一直線に突撃する。


「じゃが、甘いわい! モンブラン四号の無敵モードはまさしく無敵じゃ! 物理攻撃を一切阻むこの力場、貴様のような小童がどうにかできるものか!」


 鈍く低い音と共に、不可視の力場が再びモンブラン四号を中心に放たれた。

 なるほどこの力場、老人が言うところの無敵モードはいまだ健在。

 それが、ヒイロの骨剣を阻み――。


「ぬうぅっ!!」


 ――弾き飛ばされるのをヒイロは力尽くで押さえ込み、半ば足を地面に埋めた状態で突き進む。


「な、な、なんじゃとお!?」


 進む、進む、とにかく力任せに突き進む!

 そして、攻撃の間合いに入ったところで、やはり力任せに骨剣を振り抜いた。


「おおぉりゃあっ!!」

「ガゲフッ!?」


 バケツのような頭部に骨剣がめり込み、モンブラン四号が奇怪な悲鳴を上げた。

 そして、無敵モードと呼ばれる不可視の力場も消失した。


「ば、馬鹿な、モンブラン四号の無敵モードに傷を負わせたじゃと!? あり得ぬ! いくら(オーガ)族の力が強かろうと、いや、まさかその骨剣……っ」


 老人は動揺したが、慌てて口をつぐんだ。

 一方、ヒイロも大きく後ろに跳躍し、シルバの手前に着地する。


「ぶはーっ!」


 大きく息を吐くと、禍々しいオーラが一気に噴き出し、赤黒かった肌が赤褐色へと戻った。


「もうちょっと長く『凶化』できるようにならなくちゃなー」

「まあでも、今回は充分だろ。無敵モードはもう、使えないみたいだしな」


 頭を凹ませたモンブラン四号はヨロヨロと立ち上がったが、頭をふらつかせ、足下も相当に覚束ないモノになっていた。


「ええい、検討は後回しじゃ! こうなればモンブラン四号、あの小僧をぶっ飛ばし、サンプルとして霊獣と共に持ち帰るのじゃ!」

「ガ……ガガッ!」


 老人の言葉にモンブラン四号は立ち直り、ジャキンと拳を構えた。

 轟、と巨大な拳がヒイロとシルバに向けて飛んできた。


「二回も同じ手は通じないよ!」


 ヒイロは、両手で持つ骨剣の力を引き絞りながら突進した。


「『大盾(ラシルド)』!!」


 ヒイロの目前で、斜めに張られたシルバの魔力壁『大盾(ラシルド)』がモンブラン四号の巨大な拳を弾く。

 勢いをまったく殺さないまま、ヒイロは突き進む。

 大きく拳を突きだしたモンブラン四号は、隙だらけだ。

 しかしそれでも、老人は不敵な笑みを崩していなかった。


「二回も同じ手を食わぬじゃと? まったく同感じゃい!」


 モンブラン四号の空いていたもう一方の手に、見覚えのある眩い光が収束しつつあった。


「嘘だろ!?」


 ヤバい。

 シルバの背筋を冷たいモノが走った。

 リフの使っていた力と、同じ気配が感じられるその手が、ヒイロに向けられる。


「に!」


 リフの鳴き声に、シルバは動いていた。


「やれ、リフ!」


 右腕を前に突き出すと、心得たとばかりにリフが懐から飛び出し、手の甲まで駆け抜けた。


「にぃっ!!」


 鳴き声と共に、リフの口から光が放たれる。

 モンブラン四号の手に、光の束が直撃した。


「ガ!?」


 さすがにそこは、絶魔コーティングを施せなかったらしい。

 光と光がぶつかり合い、モンブラン四号の手の平は勢いよく弾かれた。

 同時に突進していたヒイロも、反発する力に巻き込まれるように弾き返されていた。


「うわあっ!?」

「『小盾(リシルド)』!!」


 こちらに飛んできたヒイロの身体を、シルバは小さな魔力障壁を張りながら受け止めた。


「ぐはっ……」


 しかし勢いは殺しきれず、ヒイロもろとも後ろに転がり倒れた。

 その拍子に、ゴンと鈍い音がした。


「にぃー……」


 目を回しながらも、シルバ自身はかろうじて受け身を取れた。

 リフもノーダメージだ。

 ただし、ヒイロが目を回していた。


「ふやぁ……」


 ……どうやらさっきの鈍い音は、地面に後頭部を打ち付けた音だったようだ。


「シ、シルバさん、大丈夫ですか……?」


 タイランが、眼鏡の青年を斧槍で牽制しながら、シルバのすぐ傍まで下がってきた。

 こちらはほぼ全員を倒し終え、残っているのは眼鏡の青年だけのようだ。


「ああ、何とか。……ヒイロは魔術系の攻撃には極端に弱いからな。リフも相殺助かった」

「に」


 ヒイロが目を回しているだけで済んでるのが、御の字だ。

 リフの鳴き声がなければ、シルバだってこんな無茶はしなかっただろう。


「じゃが、これで霊獣を守る盾はそこのデカいのだけじゃの。其奴を倒してトドメじゃ、モンブラン四号!」

「ガ!」


 重い足取りと共に、モンブラン四号が近付いてくる。

 頭は凹み、身体のあちこちにガタがきている。

 どうやら片腕も動かないようだ。

 それでも、シルバ一人を相手にするなら充分だろう。

 リフの攻撃は、絶魔コーティングが無効化する。

 しかも、こちらの最大火力が現在、絶賛行動不能中だ。

 かといって、タイランがモンブラン四号を相手にすれば、その間に眼鏡の青年がリフを奪おうとするだろう。

 ……それでもシルバは余裕を崩さなかった。


「いや、ここまでやれれば充分だよ」

「何?」


 シルバは、ポケットから石ころを一つ取りだしていた。

 ピンッと指で高く弾く。

 モンブラン四号と老人の意識が一瞬、そちらに逸れた。


「『発光(ライタン)』」


 強烈な光が石ころから放たれた。

 白く眩い視界の中、シルバは気絶したヒイロを後ろに放り投げた。


「タイラン、行くぞ! ちょっと重いけど、強行突破だ!」

「は、はい!」


 タイランはヒイロとシルバ、二人の後ろ襟を掴むと、引きずるように駆け出した。


「ぐえっ!」


 首が絞まり、思わずシルバは悲鳴を上げたが、この際贅沢は言えない。

 タイランが向かう先はもちろん――眼鏡の青年の側だ。

 シルバが放った強烈な『発光(ライタン)』は、タイランが影になっていてこちらには影響がほとんどなかったようだが、そんなことは最早関係ない。


「な……っ!?」


 タイランの突撃に、眼鏡の青年がバランスを崩した。

 そんな彼に体当たりを食らわせながら、タイランは路地の出口を目指した。


「ぐぁっ!? くっ、ま、待て!」

「に!」


 何とか銃を向けようとする眼鏡の青年に、リフの鳴き声が響く。



 路地に生えた短い雑草が突然シュルシュルと伸び、眼鏡の青年の足に絡みついた。


「な……何だ……雑草が!?」

「何をやっておる! 小さいといえども霊獣じゃぞ! それぐらいお前達も知っておるじゃろが! しっかり足止めせんかあっ!」


 おそらく目眩ましの効果が切れたのだろう、老人の怒鳴り声が遥か後ろから聞こえてきた。


「は、はい……!」


 眼鏡の青年は懸命に振り払おうとするが、雑草は予想以上の強靱さで、その動きを阻む。

 業を煮やしたらしい老人が、最も頼りになる部下に声を上げていた。


「くっ、頼りにならぬ! 四号追うのじゃ!」

「ガ……! ガ……ガガ……ッ」

「くうっ、こっちはこっちで、やはり手持ちの精霊石では出力が足りぬか……! おのれぇ……」

「先生、警吏が来ます!」

「ええい、撤収じゃ撤収! 皆、そんなモノはさっさと焼き切って、逃げるぞ!」

「はい!」


 そんなやり取りが遠ざかっていく。

 どうやら、逃げ切れたようだ。




「……タイラン、もういいと思う」

「は、はい……」


 シルバが言うと、人々の注目を浴びながら通りを駆けていたタイランの足がようやく緩む。

 全力疾走する重装兵、しかも両手に一人ずつ引きずっているのだ。

 目立つに決まっていた。


「……まあ、勝負はともかく、目的は達せたってところかな」


 立ち上がりながら、シルバは大きく息を吐いた。

 せっかく風呂に入ったのに、もう泥だらけの傷だらけだ。


「お、お疲れ様でした」

「タイランもな」


 タイランの背中を拳で叩くと、懐に戻っていたリフがシルバを見上げていた。


「にー……」

「あと、リフもな。……ヒイロは起きてからでいいか。とにかく一旦、食堂に戻ろう。リフの話も聞きたいし」

「……はい」

「……にぃ」


 まだ気絶しているヒイロをタイランが背負い、三人と一匹は仲間の待つ食堂に向かった。

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