ヒイロVSモンブラン四号
「タイラン、大丈夫か? 鎧が心配なのは分かるけど、あんなちゃちな銃でダメージを受けることはない。落ち着いて、一人ずつ相手していけば、大丈夫だから」
「は、はい……いきます」
斧槍を構え、タイランはのそりと踏み出す。
「来るぞ、もう一回だ!」
眼鏡の青年の指示で、ローブの男たちは一斉に引き金を引くが、タイランの鎧を銃弾が貫くことはなかった。
「相手の銃は単発式だ。行け!」
「はい!」
単発式の銃は、装填に時間が掛かる。
ローブの男たちがモタモタしている間に、タイランは距離を詰めていた。
慌てて、後退を始めるローブの男たち。
彼らだけではない。
突発的に始まった戦闘に、周囲も騒々しさを増していた。
……壊れた建物の中の人たち、大丈夫かねぇ。
シルバは心配になったが、他人の心配をするよりこの場合、自分たちの事情を優先するべきだろう。
つまり、一刻も早く、騒動の元を叩くのだ。
シルバは再び振り返り、ヒイロの背に向けて、印を結んだ指を向けた。
「『豪拳』!」
ヒイロの身体を赤い光が包み込み、圧が増す。
「ういっし、あんがと先輩!」
攻撃力を増したヒイロが、モンブラン四号に躍り掛かった。
「ガガ、ガ……ガ……!」
モンブラン四号はかろうじて踏ん張ってはいるものの、いよいよヒイロの猛攻を捌ききれなくなってくる。
胴体や手足に何度も打撃を受け、足が下がっていく。
モンブラン四号も、拳や蹴りで反撃はしているものの、その大半は回避され、間に合わないモノも骨剣でいなされている。
「キキョウさんの斬撃に比べればこんなの、楽勝過ぎっ!」
大きく拳が空振り、がら空きになったモンブラン四号の頭に向け、ヒイロは骨剣を振り上げた。
ガァン!
派手な金属音が鳴り響き、モンブラン四号がたたらを踏んだ。
「モンブラン四号、しっかりするんじゃ! 貴様の力はそんなモノではないはずじゃぞ!」
「今ので潰れないかー……タフさならタイラン以上じゃん」
ふーっ、と息を吐き、ヒイロが骨剣を構え直す。
渾身の一撃だったにも関わらず、決定打には到らない。
外見に相応しく、相当重い上、頑丈に出来ているようだ。
さてどうしたものか、とシルバは考えた。
「出来れば、援護射撃が欲しい所だけど……」
欲を言えばキリがない。
シルバ自身は、火力がないのだ。
そしてもう一つの戦力たるタイランは今、ローブの男たちを相手にしている。
それなりの幅があるといっても、タイランの脇を彼らが潜り抜けることは無理だろう。
絶対に、動かしてはならないポジションだ。
シルバはポケットの中に放り込んでいた、石ころに手を伸ばした。
「にぃ……」
懐でリフが鳴き、シルバを見上げていた。
「ん?」
リフがモンブラン四号の方を向いた。
「何だ?」
「にっ!」
小さく口を開いて短く鳴くと、リフの口元から緑色の光が生じた。
光の束が空気を灼きながらヒイロの頭上を駆け抜け、モンブラン四号の頭部を直撃した。
「ガ……ッ!?」
「に!」
間髪入れずに二発目の光の束が、モンブラン四号の胴体に叩きつけられる。
「おぉー……やるな、お前」
「にぃ」
リフは少し得意げだ。
しかし……。
シルバは動こうとしたが足を止め、ヒイロも骨剣を構えたまま待機状態にあった。
「カカ……さすがの儂も少しビックリしたが、残念じゃったな」
明らかに不利だというのに、老人は笑っていた。
確かにリフの砲撃は直撃した。
ただの光ではなく、破壊力があるのは明らかだ。
にも関わらず、モンブラン四号はまるでダメージを受けた様子がないのだ。
ならばこれは、どういうことか。
シルバは考え、舌打ちした。
「……絶魔コーティングか!」
後ろで戦っているタイランの甲冑を覆っている、魔術攻撃を弾く特殊加工。
それが、モンブラン四号にも施されているのだろう。
リフの攻撃がどういう種類のモノかは分からないが、少なくとも絶魔コーティングによって無効化されてしまうのは間違いないようだった。
「その通り! 儂のモンブラン四号に隙はなしじゃ!」
「にぃ……」
自分の効かないのが残念なのか、リフは両耳を倒してしまう。
だが、シルバはそのリフの頭を撫でた。
「いや、いい。そのままヒイロを助けてやってくれ」
「……に?」
不思議そうに、リフはシルバを見上げた。
「無駄じゃと言っておる」
「そうか? もう一発だ、リフ! ヒイロ、頼む!」
「にぃっ!」
「あいさー!」
新たな光の砲撃が、モンブラン四号に直撃する。
攻撃が効かない為、それ自体には構っていないが、動きは明らかに鈍くなっていた。
そしてその隙を逃さず、ヒイロがモンブラン四号に骨剣を叩きつけていく。
「ど、どうした、四号!? 調子が悪いのか!?」
老人は動揺するも、すぐにシルバの狙いに気がついたようだ。
「……しもうた、目眩ましか!」
「その、通り! 火力攻撃だけが、支援じゃねーよ!」
「にぃっ!」
シルバはヒイロに『透心』で指示を送った。
同時に、リフの砲撃でモンブラン四号の股下から老人を狙う。
が、さすがにこれは通らないようだ。
(まずは、リフを守るのが最優先。ヒイロは、タイランが後ろの連中を倒しきるまで、頑張ってくれ)
(そりゃもちろんそーするけど……)
大きく踏み込みフルスイングした骨剣が、自動鎧の膝をへこませる。
「別に倒しても、問題ないよね!」
「ガ……!」
たまらず、モンブラン四号は跪いた。
「な、何をやっている、モンブラン四号! しっかりせんか!」
「ガ!」
立ち上がったモンブラン四号は、勢いよく拳を突き出した。
攻撃途中だったヒイロは崩した体勢のまま、とっさに骨剣でいなそうとする。
そのまま、拳だけが飛んできた。
「うひゃあっ!?」
回避は間に合わず、ヒイロは骨剣を盾に防御した。
とっさに跳躍し、衝撃を極限まで緩和させる。
モンブラン四号の巨大な拳はヒイロを直撃し、そのまま後ろにいたシルバとリフに突っ込んできた。
シルバは自分たちの位置関係を思い出す。
後ろでは、タイランが戦闘中。
ここでシルバが避ければ、タイランの背中にヒイロとモンブラン四号の伸びた拳が当たってしまう。
「――『大盾』!!」
「にぃーっ!?」
避けるのはマズい。
シルバはとっさに両手を突き出し、魔力の盾を生み出した。
地面を踏みしめ、何とかヒイロを受け止めた。
「くっ、惜しい……! 今のはよかったぞ、四号!」
「ガ!」
飛んだ拳はどうやら腕部とワイヤーで繋がっているらしく、勢いよく引き戻された。
「あ、危なー……ビックリしたぁ」
シルバをクッション代わりにしていた為、ヒイロのダメージはほとんどないようだ。
「ビ、ビックリしたのはこっちだっつーの! 心臓に悪い!」
「にぃっ!」
抗議してもあの場面ではどうしようないのは分かるが、思わず突っ込むシルバとリフだった。
「や、ごめんごめん。今のはもう憶えた。タイランのサポートの方よろしく」
よっと立ち上がり、ヒイロは改めて自動鎧に突撃していった。
一方、背後の方では新たな問題が生じていた。
路地には二人のローブ姿の男が倒れている。
眼鏡の青年を含めて三人いたので、残りは一人……だったはずなのだが。
「来たか、一斉に畳み掛けるぞ!」
ローブを羽織った四人の屈強な男たちが、眼鏡の青年の指示でタイランに迫る。
どうやら、増援のようだ。
しかも銃が効かないと判断したのか、全員が戦鎚や棍棒を手にしている。
そんなモノ、わざわざどこで用意したのかと思ったら、もう一人路地の建物の一つから、大鎚を手に出てきた。
シルバは、建物に掛かっている看板に目をやった。
鍛冶屋だった。
「間が悪いなコンチクショウ!! ちゃんと金払ってるんだろうな!」
「わ、や、ち、近付かないで下さい!」
さすがにこれはちょっと、タイラン一人ではキツそうだ。




