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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
学習院の白い先生
37/215

シルバの目的

 説明回、続き。

 前回よりかなり軽いです。

「え? カナリーさん、そんなに驚くようなことなの?」


 愕然とするカナリーに、ヒイロは目を瞬かせた。

 我に返った様子のカナリーは、小さく咳払いをしてソファに座り直した。

 そして小さく息を吐くと、ヒイロに向けて、指を一本立ててみせた。


「……驚く理由は二つある。一つは、人々の信仰こそが魔王を魔王たらしめているという、この珍説そのモノ。根拠らしい根拠はなく、学会で語れば一笑に付せられるはずなのに、先生の話には妙に説得力がある……ストア・カプリス先生、まだ僕たちに語っていない()()を知ってますね?」

「はい、色々と」


 カナリーに問われ、ストアはおっとりと微笑んだ。

 その尻尾はユラユラと揺れているが、キキョウのそれのように分かりやすい動きはしていない。

 あるいは本当に、ただ平然としているだけなのか。

 カナリーはその尾から目を離し、二本目の指を立てた。


「もう一つは、教会の司教がこの説を唱えているということだよ。いいかい、ヒイロ。ここはルベラント聖王国にあるゴドー聖教総本山の大会議室じゃないんだ。高位の神官が、僕たちみたいな人間に、世間話みたいに語っていい話じゃあない」


 カナリーは、真面目な顔で言った。




 ストアは、カナリーに聞こえないように、ソッとシルバに耳打ちした。


「そうなんですか?」

「……そうなんです」


 自分の師匠が規格外なのは今更なので、シルバはそれだけを小声で返した。




 カナリーに言われたヒイロは、ちょっと考え、ハッと顔を上げた。


「え……あっ、そうか! 教会の人が、神様と魔王が一緒だなんて言っちゃマズいんだ!」

「そういうことさ。最悪破門されてもおかしくないような主張なんだよ」


 頷くカナリー。

 腕を組んだキキョウが、シルバを見た。


「もちろん、シルバ殿はそれを承知の上で、ストア殿に協力されているのであるな?」

「まあな」


 ふぅむ、とキキョウは頷き、真剣な瞳でシルバを見つめ直した。


「なるほど、納得いったのである。即ち、シルバ殿は魔王討伐軍(オルレンジ)の密命を帯び、魔王打倒の手立てを企てている。そういうことであるな。そして、某たちに語ってくれているということは、某たちの力を必要としている……そういう解釈でよいか?」


 その尻尾も勇ましく、ピンと立っている。


「んー……ちょっと違う気がする」


 シルバの軽い返答に、キキョウの身体がカクッと傾いた。


「ぬ?」

「いや、そもそも話の内容は、ここで何の研究をしているかの話であって、俺の目的じゃないだろ?」

「それは……そうであるな」


 言われてみれば……とキキョウは唸った。

 まあ、内容的に早とちりしてもしょうがないかと、シルバは思った。


「魔王云々の話は、流れでそうなっただけだよ。今の話自体に間違いはないけど、何か協力してくれとかそういうことじゃない」

「で、では、魔王を倒すとか、そういう話でも……」


 シルバは苦笑いを浮かべ、手を振った。


「ないない。重すぎるだろ、それ。研究室にお邪魔しますのノリで語る内容じゃないって」

「……それは確かに、分かる」


 ボソッと、カナリーが呟いた。

 そんな人類全体の使命に関わりそうな話ならば、それこそ、教会の密室ででも語られるべきなのだ。


「まあ、ついでに俺が冒険者やってる目的としてはな、墜落殿(フォーリウム)にある『古代遺産(アーティファクト)』なんだけど」

「それは別に、冒険者なら珍しいことじゃないね。ただし、シルバの場合は教会からの指示ってとこかな」


古代遺産(アーティファクト)』には様々な価値がある。

 金銭的価値はいうまでもなく、その性能は個人はもちろん、国家、研究機関、教会、暗黒街とあらゆる組織が欲している。

 だから、カナリーの推測は難しいことではなかった。


「そういうこと」


 肯定するシルバに、何だかキキョウは残念そうだ。


「……それは、某たちに協力して欲しい、ということではないのか?」

「全然違うよ、キキョウ」


 しょうがないなあ、という風にカナリーが首を振った。


「いいかい? 僕たちはパーティーを組んでいるが、目的が一致している訳じゃないし、そもそもしなければならないなんて決まり、どこにもないんだ。シルバはシルバ。彼の目的を、僕たちが背負う必要はない。シルバが今語った目的だって、『万能たる聖霊』の研究をしているっていう話題のついででしかないんだよ」

「そ、それにしても、大変な任務なんじゃないですか……?」


 おずおずと問うタイランに、シルバはそうでもない、と返した。


「冒険者やってる聖職者なら、大体みんな同じ指示を受けているんだよ。魔王討伐に役立ちそうな何かを見つけたら、報告するようにって」

「で、ではシルバ殿が魔王の棲むという島に向かうなどということは……」


 キキョウは窓の外、島のある方角を見、もう一度シルバに向き直った。

 そんな気張られても、シルバとしては困る。


「そういうのは、勇者の仕事だろ。多分実在する」


 シルバは、見たことはないが。

 シルバの言に、カナリーは何かに気付いたようだ。


「そうか。お伽噺では、勇者と魔王は大抵、対の存在として描かれる。今の『万能たる聖霊』の説明を考えると、いてもおかしくないのか。あと、魔王を打倒する聖剣なんかも……」


 その独り言は正解、とシルバは内心で答えておいた。


「まあ、見つけたら先生に報告だな。それ以上のことは、もっと上の仕事だよ」


 それに、とシルバはキキョウを指差した。


「大体、そんな重要任務を背負っているパーティーに俺がいるってのなら、前のパーティーがそれに当たってたはずだし、簡単に離脱できたりしないだろ?」

「言われてみれば、その通りなのである……!」


 ちなみに前のパーティーのリーダーである聖騎士イスハータも、教会に籍を置いており、その使命は受けていたはずなのだ。

 あんまりこういう言葉は使いたくないが、普通に『堕落』だよなあ……と、シルバは過去のパーティーメンバーを振り返る。


「まあ、『万能たる聖霊』のことや、教会に関してのことでしたら、いつでもここか、大聖堂を訪ねてください。歓迎しますよ」


 最後は、ストアが締めた。

 けれど、シルバはどうしても皮肉を挟まずにはいられなかった。


「寝間着で?」


 ストアは笑顔でシルバを見、再び他の皆に向き直った。


「事前に連絡は、お願いします」

「事前に連絡しても、ほとんど寝てますよね先生!?」

「努力は、しますので」

「……それ、大体生活を改めない人の台詞ですよね、先生」


 どこまでも、司教らしくないストア・カプリスであった。

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