シルバの目的
説明回、続き。
前回よりかなり軽いです。
「え? カナリーさん、そんなに驚くようなことなの?」
愕然とするカナリーに、ヒイロは目を瞬かせた。
我に返った様子のカナリーは、小さく咳払いをしてソファに座り直した。
そして小さく息を吐くと、ヒイロに向けて、指を一本立ててみせた。
「……驚く理由は二つある。一つは、人々の信仰こそが魔王を魔王たらしめているという、この珍説そのモノ。根拠らしい根拠はなく、学会で語れば一笑に付せられるはずなのに、先生の話には妙に説得力がある……ストア・カプリス先生、まだ僕たちに語っていない何かを知ってますね?」
「はい、色々と」
カナリーに問われ、ストアはおっとりと微笑んだ。
その尻尾はユラユラと揺れているが、キキョウのそれのように分かりやすい動きはしていない。
あるいは本当に、ただ平然としているだけなのか。
カナリーはその尾から目を離し、二本目の指を立てた。
「もう一つは、教会の司教がこの説を唱えているということだよ。いいかい、ヒイロ。ここはルベラント聖王国にあるゴドー聖教総本山の大会議室じゃないんだ。高位の神官が、僕たちみたいな人間に、世間話みたいに語っていい話じゃあない」
カナリーは、真面目な顔で言った。
ストアは、カナリーに聞こえないように、ソッとシルバに耳打ちした。
「そうなんですか?」
「……そうなんです」
自分の師匠が規格外なのは今更なので、シルバはそれだけを小声で返した。
カナリーに言われたヒイロは、ちょっと考え、ハッと顔を上げた。
「え……あっ、そうか! 教会の人が、神様と魔王が一緒だなんて言っちゃマズいんだ!」
「そういうことさ。最悪破門されてもおかしくないような主張なんだよ」
頷くカナリー。
腕を組んだキキョウが、シルバを見た。
「もちろん、シルバ殿はそれを承知の上で、ストア殿に協力されているのであるな?」
「まあな」
ふぅむ、とキキョウは頷き、真剣な瞳でシルバを見つめ直した。
「なるほど、納得いったのである。即ち、シルバ殿は魔王討伐軍の密命を帯び、魔王打倒の手立てを企てている。そういうことであるな。そして、某たちに語ってくれているということは、某たちの力を必要としている……そういう解釈でよいか?」
その尻尾も勇ましく、ピンと立っている。
「んー……ちょっと違う気がする」
シルバの軽い返答に、キキョウの身体がカクッと傾いた。
「ぬ?」
「いや、そもそも話の内容は、ここで何の研究をしているかの話であって、俺の目的じゃないだろ?」
「それは……そうであるな」
言われてみれば……とキキョウは唸った。
まあ、内容的に早とちりしてもしょうがないかと、シルバは思った。
「魔王云々の話は、流れでそうなっただけだよ。今の話自体に間違いはないけど、何か協力してくれとかそういうことじゃない」
「で、では、魔王を倒すとか、そういう話でも……」
シルバは苦笑いを浮かべ、手を振った。
「ないない。重すぎるだろ、それ。研究室にお邪魔しますのノリで語る内容じゃないって」
「……それは確かに、分かる」
ボソッと、カナリーが呟いた。
そんな人類全体の使命に関わりそうな話ならば、それこそ、教会の密室ででも語られるべきなのだ。
「まあ、ついでに俺が冒険者やってる目的としてはな、墜落殿にある『古代遺産』なんだけど」
「それは別に、冒険者なら珍しいことじゃないね。ただし、シルバの場合は教会からの指示ってとこかな」
『古代遺産』には様々な価値がある。
金銭的価値はいうまでもなく、その性能は個人はもちろん、国家、研究機関、教会、暗黒街とあらゆる組織が欲している。
だから、カナリーの推測は難しいことではなかった。
「そういうこと」
肯定するシルバに、何だかキキョウは残念そうだ。
「……それは、某たちに協力して欲しい、ということではないのか?」
「全然違うよ、キキョウ」
しょうがないなあ、という風にカナリーが首を振った。
「いいかい? 僕たちはパーティーを組んでいるが、目的が一致している訳じゃないし、そもそもしなければならないなんて決まり、どこにもないんだ。シルバはシルバ。彼の目的を、僕たちが背負う必要はない。シルバが今語った目的だって、『万能たる聖霊』の研究をしているっていう話題のついででしかないんだよ」
「そ、それにしても、大変な任務なんじゃないですか……?」
おずおずと問うタイランに、シルバはそうでもない、と返した。
「冒険者やってる聖職者なら、大体みんな同じ指示を受けているんだよ。魔王討伐に役立ちそうな何かを見つけたら、報告するようにって」
「で、ではシルバ殿が魔王の棲むという島に向かうなどということは……」
キキョウは窓の外、島のある方角を見、もう一度シルバに向き直った。
そんな気張られても、シルバとしては困る。
「そういうのは、勇者の仕事だろ。多分実在する」
シルバは、見たことはないが。
シルバの言に、カナリーは何かに気付いたようだ。
「そうか。お伽噺では、勇者と魔王は大抵、対の存在として描かれる。今の『万能たる聖霊』の説明を考えると、いてもおかしくないのか。あと、魔王を打倒する聖剣なんかも……」
その独り言は正解、とシルバは内心で答えておいた。
「まあ、見つけたら先生に報告だな。それ以上のことは、もっと上の仕事だよ」
それに、とシルバはキキョウを指差した。
「大体、そんな重要任務を背負っているパーティーに俺がいるってのなら、前のパーティーがそれに当たってたはずだし、簡単に離脱できたりしないだろ?」
「言われてみれば、その通りなのである……!」
ちなみに前のパーティーのリーダーである聖騎士イスハータも、教会に籍を置いており、その使命は受けていたはずなのだ。
あんまりこういう言葉は使いたくないが、普通に『堕落』だよなあ……と、シルバは過去のパーティーメンバーを振り返る。
「まあ、『万能たる聖霊』のことや、教会に関してのことでしたら、いつでもここか、大聖堂を訪ねてください。歓迎しますよ」
最後は、ストアが締めた。
けれど、シルバはどうしても皮肉を挟まずにはいられなかった。
「寝間着で?」
ストアは笑顔でシルバを見、再び他の皆に向き直った。
「事前に連絡は、お願いします」
「事前に連絡しても、ほとんど寝てますよね先生!?」
「努力は、しますので」
「……それ、大体生活を改めない人の台詞ですよね、先生」
どこまでも、司教らしくないストア・カプリスであった。




