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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
とあるパーティーの憂鬱
30/215

それぞれの課題

 次に切り出したのは、キキョウだった。


「では次は某であるな。シルバ殿」

「うん?」

「預けていた()を返してもらいたい」


 キキョウの言葉に、シルバ以外の面々は首を傾げた。

 シルバは構わず、キキョウに尋ね返した。


「いいけど、いいのか?」

「構わぬ」


 そういうのなら、とシルバは道具袋から仮面を一つ、取りだした。

 白い狐の仮面だ。

 テーブルに置かれたそれを、カナリーが興味深げに眺める。


「へえ、これは見事な工芸品……ってだけじゃなさそうだね。魔力……? いや、ちょっと違うな」

「某の力の形である」


 唸るカナリーに、キキョウが言った。


「力の形?」

「まあ、一言で片付けてしまえば、以前己の限界を弁えずに引き出し、挙げ句暴走しかけた無様の形である」


 カナリーは真顔で頷いた。


「なるほど、分からない」


 確かにそれでは分からないよなあ、とシルバも思う。

 それに対して、ヒイロはあっさりとしたモノだった。


「要するにすごい力?」

「……ヒイロ。君は何というか、時々すごいな」


 一刀両断してのけたヒイロに、カナリーは本気で感心しているようだった。


「そうかなあ。要するにその、すごい力をキキョウさんが使うってことでしょ?」

「すごく単純に言えば、そうなるな」


 完全に合っている、とシルバは頷いた。

 この狐面にはキキョウが封じた強い力が宿っていて、それを使うというのだ。

 キキョウは狐面を手に取り、指で立ててみせた。


「この狐面を返してもらう理由は、基本的にはヒイロと同じである。前の戦いで苦戦した。故に某は強くなりたい」

「だから、以前は持っていた力を取り戻すってことかい?」


 カナリーは呆れた、という風に肩を竦めた。


「分かるけど、それはちょっと納得いかない部分があるなあ。それってつまり、ここにいるみんなとパーティーを組んでこれまで、本気を出していなかったってことじゃないのかい?」


 入ったばかりの僕は除くけど、とカナリーは付け加えた。


「ずいぶんと人を舐めていると思うんだけど、その辺どうなのかな?」

「それは、否定できぬ」


 腕を組んだキキョウが断言し、カナリーの動きがピタリと止まった。

 ヒイロはモシャモシャと肉を食べ始め、タイランはオロオロとキキョウとカナリーの顔を見た。

 シルバは、口を挟むことにした。

 キキョウの説明は、言葉が足りていないのだ。


「否定はできないけど、正しくもないんだ」

「どういうことかな、シルバ」


 シルバは、カナリーに指を突きつけた。


「カナリーは血を吸うよな」

「い、いきなり何だい? 正確には飲むだったけどね。つい最近までは」


 コホン、と咳払いし、頬を赤らめたカナリーは顔を背けた。

 それに構わず、シルバは続けた。


「血を吸うと力が強くなるだろ。まあ、吸血鬼としての本領を発揮するっていうのが正しいんだろうけど」

「ふむ、それで? ……いや、待った。つまりその狐面はつまり、()()()()()()なのか?」


 さすが、カナリーの頭の回転は速かったようだ。


「正確には違うが、例えとしては大体合ってる。使うには自制が必要。使いすぎると使用者が壊れて()()()()になる」

「……」


 キキョウは、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。


「なるほど、それはつまり、キキョウが過去に何かやらかした『黒歴史』なんだね。それは確かに、封印したくもなるか」

「……そのような、同情に満ちた目で見られると、大変複雑な気分なのであるが」


 納得と同時に愉快なモノを見るような顔をするカナリーに、キキョウは眉間の皺をさらに深くした。


「はい、先生質問」


 勢いよくヒイロが手を挙げた。


「誰が先生であるか」

「キキョウ先生、質問!」

「名前を付ければよいというモノではないぞ!?」


 キキョウは突っ込み、それから短く息を吐いた。


「まあよい。どういう質問であるか?」

「さっきの話だと、何かすごい力が出せるようになるんだよね?」

「その通りである」

()()()()()()()()()()?」

「……お主は、本当にピンポイントで鋭いところを突いてくるであるなぁ」


 キキョウは苦笑いを浮かべた。

 シルバが語った、仮面の封じた力の使用には自制が必要で、さらに濫用すれば使用者が壊れてバケモノになるという説明。

 加えて、キキョウがこれまでそれを使わなかったこと。

 そこから、ヒイロは直感で尋ねたのだ。

 そこまでしなければならなかった()()を相手に、キキョウは力を振るったのだと。


「だが、今は語りたくないのである。そも、これは反省会であって某の身の上話をする場ではないのだ」


 キキョウは狐面を、頭の後ろに回した。


「これは危険ではあるが、某が持っておかねばならぬ。……いざという時に、某にもっと力があればなどとは、後悔したくはないのだ。それが、先の戦いにおける某の反省点。ならば、某の『黒歴史』であるとか、そのようなことは言ってはおれぬ。使える力があるならば、振るえるようにせねばならぬ。もちろん通常の鍛錬も含めての話であるな」

「使える力があるなら……」


 ポツリと、タイランが言葉を漏らした。


「うん? どうしたの、タイラン?」

「あ、い、いえ、何でもありません……」


 反応したヒイロに、タイランは慌てて首を振った。

 そんなタイランに、シルバは話を振った。


「じゃあ、次タイランだけど」

「あ、ひゃ、ひゃい!」


 思わずタイランの膝が跳ね上がり、テーブルの底を蹴り上げる。

 ゴンッといい音がして、テーブルが揺れた。


「うん、慌てない。ここのテーブル頑丈だけど、モノには限度があるからな」

「す、すみません」


 しょんぼりと、タイランは椅子に座り直した。

 そして、申し訳なさそうに身を縮めさせた。


「反省点……そうですね。私の身体が大きいせいで、森の中を進むのが遅かったりとか……足を引っ張ってしまいました」

「うーん……それは、反省点かな」


 シルバは、ちょっと首を傾げた。


「え?」

「身体が大きいのは長所でも短所でもあるだろ。その姿なんだから、どうしたって動くと軋むし、スピードだって遅くなる。それはもう、しょうがないだろ」


 そもそもの身体の造りがそうなっているのだから、反省してもしょうがない。

 逆にその身体の大きさは、仲間を守る時にはとても頼りになるのだ。

 動く鎧(リビングメイル)相手に、音を鳴らさないように鎧を脱げとも言えないではないか。


「それに、吸精蔓が出た時も、一番奮戦していたのだ。胸を張ってよいと思うぞ」

「そーそー。タイランはもっと自信持っていいと思う。あ、反省点って、そこじゃない?」

「タイランが隠密行動を取れないのは、本当にもう、そういうもんだ。どうしても気になるっていうなら、今度から油を用意しとこう。少なくとも関節部分の軋みは、ある程度緩和されるだろ」


 気がつけば、タイランは何故か、励まされていた。


「あ、ありがとうございます」

「あとは技術面の底上げかな。これはキキョウとヒイロ、頼む」


 タイランの斧槍の捌き方には、まだまだ伸びしろがあると思うシルバであった。


「無論である」

「ひひ-。ボクの『凶化』の練習相手にもなってもらうからねー」

「お、お手柔らかに、お願いします……」


 タイランの問題が片付き、次はカナリーの番だった。

 といっても、特に反省するような点がないのはタイランと同じだ。

 カナリーに必要なのは、冒険者としての立ち振る舞いだろうということになった。


「カナリーは連携の練習だな。使える魔術のリストアップを頼む」

「いいとも。でも、『透心(シンツ)』があるんなら、連携は特に重視しなくていいんじゃないかな?」


 カナリーの疑問に、シルバは首を振った。


「俺がいないケースだってあるだろ」

「まあ、それは確かにあるね。後はシルバがいても、何らかの理由で『透心(シンツ)』が使えないパターン?」

「それもある」


 互いの意識を共有できる『透心(シンツ)』は便利だ。

 しかし、それに頼りすぎていては、万が一それが使えなくなった時、パーティーの戦闘力は著しく下がってしまう。

 そこでちょっと、シルバは嫌なことを思い出した。

 前のパーティーでも、同じことを言ったことがある。

 リーダーであるイスハータやロッシェは賛成したが、他の三人は買い出しがとか、普通にサボったり、自分の研究がとか言って、結局一度も全員での連携の練習ができた試しがなかった。

 今頃どうなっているだろうとはちょっと思ったが、それよりも今は自分のパーティーの問題だ。

 どういう反応を示すか……と、シルバは皆の様子を見た。


「となると、二人一組や三人一組での戦いも、想定しておいた方がよさそうではないか?」

「ボクとカナリーさんとか?」

「君は、なんか僕をほったらかしで敵を殲滅しに行きそうだなぁ」


 どうやら乗り気のようで、シルバは内心ホッとした。


「あの、でもそもそも練習相手は、どうするんですか?」


 タイランの心配は、シルバの中では解決済みだ。


「初心者訓練場で仲良くなった連中に頼みに行こう。飯を奢るっていえば、何組か手伝ってくれるだろう」

「そ、それは、あの……シルバさん。あまり大っぴらには、募集しない方が……」


 そして、タイランから『透心(シンツ)』を通して、考えが流れてきた。


(キキョウさんとカナリーさんの影響で、また、殺到しちゃうかもしれません。それそのこと自体より、その……二人とも、私たちに迷惑が掛かるってところが不安になってそうで……)


 口に出して言わないのは、キキョウとカナリーを慮ってのことだろう。

 シルバはタイランに頷いた。


「だから、候補を絞ってるんだよ。誰でもいいって言ったら……あまり絡みたくない連中とも、顔を合わせることもあるしな」


 キキョウとカナリーのことは挙げずに、シルバは違う問題点を出した。


「あー、前のパーティーの人たちとか?」


 シルバは首を振った。

 あれだけ渋っていた連携の練習に、『プラチナ・クロス』が参加するとは思えない。


「この都市の冒険者は割と気のいい連中が多いけど、それでもならず者一歩手前やそれそのモノはいるんだよ。それなら、知り合いに頼む方がいいだろう。あとはモンスターの討伐依頼でも、練習を積んでいきたい」

「そ、そういうことなら、大丈夫だと思います」


 コクコクコク、とタイランが大きく首を振って賛同した。

 さて、とシルバは姿勢を正した。


「残るは俺か」

「え、何が」

「反省会の残り」


 ヒイロの問いに、シルバは答えた。


「って、先輩一番初っ端にやったでしょ」

「反省はしているが、具体的にどうするかは言ってなかっただろ。まあ、そんな訳でキキョウ」

「ぬ?」

「護身術を教えてくれ。基本的な奴でいい」


 初心者訓練場で、ネイサンのパーティーに絡まれた時から考えていたことだ。

 自分の身を自分で守る。

 祝福を使わずにできるなら、それに越したことはないだろう。


「う、うむ、もちろん構わぬぞ!」


 キキョウの尻尾がすごい勢いで左右に揺れていた。


「あと、これは俺の修練にはならないんだが……」


 シルバは懐から、二つ折りにした紙を取り出した。

 自分を除く全員分があり、それを皆に渡していく。


「ラブレターにしては素っ気ないなあ」


 そんなことを呟くヒイロに反応し、何故か頬を赤くしたキキョウがシルバを見た。


「こ、恋文?」

「……いや、仮に俺が出すとしても、さすがにちゃんとした便箋を用意するぞ。違うから」


 これは、そんな艶っぽいモノではない。

 カナリーが折った紙を開き、それに目を走らせた。


「これはゴドー聖教の聖句だね。これを僕らにどうしろと?」

「暗記して欲しい。口に出してもいいし、心の中で唱えてもいい」

「この程度の句、憶えるのは簡単だけど、吸血鬼である僕がこれを学ぶことにどういう意味があるのか、教えてもらいたいね。もちろん、シルバのことだから意味のないことだとは思わないけどさ」


 そう問われれば、シルバも返すしかない。


「一言で言えば、カナリーやタイランが祝福を使えるようになる()()だ」


 シルバの言葉に、カナリーとタイランが驚いた。


「僕が!? 祝福を!?」

「わ、私もですか……?」

「まあ、試すのは外に出てからにしよう。あと……」


 シルバは、ヒイロを見た。


「……ヒイロは、あんまり無理するな」


 (オーガ)族は、生粋の戦闘種族であり、戦いのセンスならば随一と言ってもいい。

 ただ、頭脳労働は大の苦手であり、ごく短いセンテンスであろうと、それを暗記せよとなれば……今のヒイロのように、頭から煙を吹き出しながら、テーブルに突っ伏すことになるのだった。

連携の訓練で、モンスター討伐も練習になるという一文を追加しました。

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