戦い終わりベッドに倒れる
戦いの後、一人元気になっているカナリーにスミス村に飛んでもらった。
その間に、シルバたちは回復薬を使い、何とか動けるまでには力を取り戻した。
坑道の中は気になるが、まずは山賊たちの扱いが先だ。
しばらくすると、カナリーが配下の三人を連れて戻ってきた。
「急いで運んでしまおう。日が昇ると、僕たち吸血鬼の力は半減してしまうからね」
カナリーは配下から首輪を受け取ると、魔術師の首にそれを嵌めた。
「魔術封じか?」
「その通り」
シルバの問いにカナリーはウインクで返した。
捕まえた山賊たちや魔術師は、彼らに空輸してもらうことになった。
そちらは任せて、シルバたちは自分たちの足で、スミス村に帰還する。
回復薬を使っても、眠気は取れないし、芯から来る疲労はどうにもならない。
村長宅の客間を与えられると、シルバたちはベッドに倒れ、そのまま眠りについた。
そして、夕方にはまだ少し早いぐらいの時間。
自然と目を覚ましたシルバは、ネリーの勧めで家に設置されていた風呂を使わせてもらい、食事を摂ることになった。
食堂に入ると、タイランがいた。
ジョッキに入った水分を補給しているようだ。
「あ、お、おはようございます……おはよう、でいいんでしょうか……?」
「起きたところだから、いいんじゃないか。他の二人は?」
「その……おそらく、まだ眠っています」
「まあ、昨日はきつかったからなあ」
「ですねえ。あ、シ、シルバさん、傷は大丈夫ですか……?」
タイランが心配そうに、シルバの腕を見た。
昨晩、シルバはカナリーに血を与えるため、自らの腕をナイフで斬りつけた。
だが、回復薬を掛けた腕には、わずかな傷跡が残るばかりだ。
それも、しばらくしたら消えるだろう。
「大丈夫だろう。特に後遺症もない」
「よ、よかったです……出血とか、あまり心臓によくありませんから」
……お前、心臓あるのか?
どうしよう、突っ込むべきだろうかと迷っている間に、ネリーが食事を持ってきたので、シルバはしばらくそちらに集中することになった。
出てきたのは、ステーキである。
パンや付け合わせの野菜もあるが、香ばしい匂いと熱気に包まれた肉の主張がすごい。
「血を流されましたので、ここはやはりこれかと」
「……起きてすぐこれは、ちょっと重くないか?」
「一口食べていただければ、その認識も変わるかと思います」
にこやかだが、自信ありげなネリーだった。
半信半疑ながらも、シルバはステーキにナイフを入れてみると、ほとんど何の抵抗もなく刃が下のプレートまで通過した。
マジか。
軽く驚きながらも、シルバは肉を一切れ口に入れてみた。
直後、目を見開いた。
「うまっ!? 何だこれ!?」
そこからは手が止まらなくなった。
次々と運ばれてくる肉とパンと野菜と水。
ワインも勧められたのでこれも飲んでみると、グラスを一気に傾けてしまう。
気がついたら、ステーキの皿は三枚重なっていた。
「食べたー」
さすがに満腹になり、シルバは背もたれに身体を預けた。
しばらくすると、キキョウとヒイロも起きてきて、食事となった。
キキョウはステーキ皿二枚だったが、ヒイロに出てきたのはステーキというより巨大な肉の塊であった……。
最後に現れたのが、カナリーだった。
「さー……全員揃ったようだねぇ……」
「メッチャ寝起きか!」
寝ぼけ眼のカナリーに、思わずシルバは突っ込んだ。
「いやいやいや、俺たちが寝る前、メチャクチャ元気だったよな!?」
「シルバ様の血を飲んだお陰でですね」
いつもの笑顔を浮かべていうネリーに、シルバは頬を引きつらせた。
「……ネリーさん、そこを深く追求するのは、何かヤバそうだから今はやめようか」
「かしこまりました」
「で、何なのこのポンコツっぽいの……って立ったまま寝るんじゃない!」
「くー……」
カナリーは扉にもたれかかり、寝息を立てていた。
「カナリー様は、日中は大体こんな具合です。まあ、もうそろそろ、ちゃんと目が覚めるはずですが」
「……この村の正体を俺が調べてた時って、どうやってこの村まで来れたんだコイツ?」
「馬車と棺桶と、彼女たちですね」
カナリーの身体を、影から現れた赤と青のドレスの美女が支えていた。
ヴァーミィとセルシアである。
「あの二人、護衛というより世話係じゃないのか?」
「今のカナリー様には、そういう立ち位置で正解ですね。それではカナリー様が調子を取り戻されましたら、捕らえた賊の下へご案内致します」
山賊や魔術師を捕らえている牢は、村の外に造られたワインの醸造所の地下にあった。
日は傾き、歩いている内に、カナリーも調子を取り戻しつつあるようだった。
山賊は後回しにし、シルバは魔術師と会うことにした。
「とはいっても、簡単に尋問はしておきました」
ネリーがファイルを手に、それを読み上げた。
「名前は明かしませんでしたが、着ているローブはアーミゼストで購入したモノと分かりましたので、向こうにいる手の者に調べさせました。あちらでも表向きは、植物の魔術を研究していたようです。ただ、三十日ほど前から、姿を見なくなっていたということも判明しています。このことから考えて、その頃から山賊どもと行動を共にしていたと推測できます」
「魔術師が名前を明かさないっていうのは、珍しいことじゃないね。表向きというのは、どういうことだ?」
石造りの階段を下りながら、カナリーが尋ねた。
「それと、魔術師の家を調べてみたところ、隠蔽していたようですが不死の研究の痕跡がありました」
「なるほど、それであの身体や巨大な吸血タックルラビットか」
「はい。『牧場』を狙ったのも、狙いは村人ではなく、ホルスティン家の書物でしょう」
「はい、質問。カナリー先生」
突然、ヒイロが挙手した。
「何かな、ヒイロ? あと誰が先生か」
「不死の研究って、悪いの?」
先生の部分のツッコミを、ヒイロはスルーした。
「それ自体に善悪はない。ただ、不死の研究を行うということは生命を扱うということだ。その過程で、多くの犠牲が出ることが多いんだよ。実験動物に不死の術を掛けたとして、それが成功したかどうか確かめるには、殺してみるのが一番だろう? 研究者すべてがそうという訳ではないだろうが、大体は隠すし、後ろ暗い事をしていることがほとんどだ」
「うへぇ……」
「死霊術師と呼ばれる存在が、忌み嫌われるのは、そういう面があるからだね。死霊術師の場合、他にも墓を暴いたりするからってもあるけど」
「問題は」
ネリーはファイルを閉じた。
「どこで『牧場』の情報を入手したのか、です。私どもでは口を割らなかったので、カナリー様……」
「まあ、今の僕なら大丈夫だろうね」
「……そこで、何で俺を見るんだよ」
チラッと振り返ってきたカナリーに、シルバは渋い顔をした。
「言った方がいいかい?」
「むむっ!?」
ピンとシルバの隣にいたキキョウの尻尾が逆立った。
シルバとカナリーを、交互に見る。
「な、何やら通じ合っている様子……一体何があったというのだ……!?」
キキョウの焦りを表わすように、その尻尾もソワソワと揺れ始めていた。
そういえば、蔓の壁に阻まれて、キキョウたちはシルバがカナリーに血を飲ませたことを知らなかったっけ。
そんなことをシルバは考えた。
「ま、とにかく、どれだけ口が固かろうが、今の僕にはあまり意味はないよ」
ふ、とカナリーは短く笑うのだった。
当然だが、牢に入れられ縄で縛られた魔術師は、カナリーを警戒した。
「ち、ちち、近付くな……吸血鬼」
「おやおや、君、せっかくお望みの『牧場』に来られたっていうのに、あまり嬉しそうじゃないじゃないか。どうしたんだい?」
カナリーは魔術師を見下ろし、微笑んだ。
「ふざ……けるな。こんな、牢獄……オレの望んでいた場所ではない」
魔術師の長い前髪は、顔のほとんどを覆い尽くしていた。
「そうかい。まあここは郊外だ。そういう意味では、本当の『牧場』まで、まだあとちょっとあるね。見せてあげようか?」
「い、いらない……オレは自分の力で、こ、ここを脱出してみせる」
「できるといいね。魔術は封じられてるけど」
「ぐ……」
魔術師は悔しげに下唇を噛んだ。
「まあ僕の力を借りるかどうかを別にすれば、『牧場』に入ってみたいってことは否定しないんだろう?」
「それは……そうだ」
答えても損はないと判断したのか、魔術師はあっさり肯定した。
「何で『牧場』を狙ったのかとかはいいんだ。でも、よく『牧場』のことを知っていたね。あれは僕たち同族や、聖職者以外、ほとんど伝わっていないはずなのに」
「そ、そうだ……オレは、お前たちの知らないことだっていっぱい知っているんだ……」
「それは大したモノだ。『牧場』のことも独力で調べたんだろう。大変だっただろう?」
「……チッ。ちがう……あれは、俺の優れた知識ではない……人から聞いたに過ぎない……」
そうかい、と笑うカナリーの瞳が、一際紅く輝いていた。
少し離れた所で、シルバはネリーに小声で尋ねた。
「……あれって吸血鬼の『魅了』か?」
「左様でございます」
ネリーは、笑顔で頷いた。




