表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/215

ネリー・ハイランドの願い

 戦う前に、物資の準備と食事を摂ることになった。

 各自の入り用のモノを雑貨屋で調達した後は、酒場に集合ということになり、一足先に準備を終えたシルバは酒場への道を歩いていた。

 方々の家の灯りがあるとはいえ、村の夜道は暗い。

 シルバは石に『発光(ライタン)』を付与し、手で転がすそれを照明にしていた。


「ロックールさん」


 振り返ると、カナリーの部下、ネリー・ハイランドが追いかけてきた。


「シルバでいいですよ。ハイランドさんの方が年上のようですし、仲間ですから」

「では、私もネリーとお呼びください。敬語も不要です」


 隣に並び、ネリーが言う。


「分かった。それでネリーさん、何かあったんですか? ああ、悪い。しばらく、敬語と素が混じると思う」

「そこは気にしませんよ。ただ、我が主のことでお話が」

「ホルスティンが、どうかしたんですか?」


 歩きながら、シルバは尋ねた。


「カナリー様自身には、何の問題もございません。いや、あるといえばあるのですが……とにかく、そうですね。どうか、カナリー様と仲良くしていただければと思いまして」

「……問題があるって部分が、すごく気になるんですけど」


 口ごもられては、指摘せざるを得ない。

 しかし、ネリーは少し困ったような笑顔を浮かべ、肩を竦めた。


「そこは、プライベートに触れるのですが、今回の作戦自体には、差し障りがございません。おそらくカナリー様自身がいずれ、話してくれることになるでしょう。……そう、いずれというところなのです」

「つまり、カナリーと友だち付き合いをして欲しいってこと?」

「有り体に言えばそうです。カナリー様には、友達が少ないので」

「本人が聞いたら、拗ねそうですね」


 そのまま伝えたら、間違いなくへこみそうだ。

 ただ、ネリーにとっては笑い事ではないらしい。


「事実です。まず貴族であることで、庶民は気後れします。また吸血鬼であることから、怖れられることも珍しくありません。錬金術師としても優秀なので、そちらの方面でも対等に話ができるモノが少ない。そしてもう一つは……これは私の口からは申せません。ただ、それが理由でカナリー様ご自身が、他者と距離を取っています」


 どうやら、茶化してはいけない内容のようだ。


「それは、()()()って部分に触れるのかな?」

「左様にございます」


 なら、触れずにいるべきだろう。

 人には誰だって、聞かれたくないことの一つや二つはある。

 シルバは司祭なので、人と接することも多く、そういうことはよく知っていた。


「その仲良くしてってお願いは、俺だけに該当するのかな? それともウチの仲間全員?」

「できることならば、全員にお願いしたいですね。家で話したのはこの村の事情でしたが、カナリー様があのように楽しそうに話をされるのは、珍しいことなのです」

「楽しそうと言うか振り回されてたというか……」


 ヒイロにペースを乱されるのは、まあ、しょうがないよなとシルバは思う。


「シルバ様も、振り回したご本人の一人ですよ」


 ネリーに、痛いところを突かれるシルバだった。


「俺はそのつもりはなかったんだが……まあ、タイランとは、特に話が合いそうだよな。そもそもタイランのあの知識がどっから来てるのか、俺も分からないんだけど」

「そもそも、一つのパーティーでここまで種族がバラバラというのも、珍しいのではないでしょうか?」

「それは確かに、よく言われる。ほとんど成り行きで組んだパーティーだけど、上手いこと回ってると思うよ」


 冒険者のパーティーの多くは、同じ種族同士で組むことが多い。

 人間は人間、獣人は獣人といった具合だ。

 シルバのパーティーのように、人間、獣人、(オーガ)族、動く鎧(リビングメイル)と全員が違うのは、アーミゼストの冒険者ギルド内でも異色である。

 それだけに、役割分担はハッキリと分けやすいというメリットがある。

 ……逆にいえば各々の能力が突出しているので、代役が務まりにくいというデメリットも存在するのだが。


「そして、シルバさんのパーティーにはまだ、魔術師がおられない」

「ネリーさん、そそのかしてる。それ、めっちゃそそのかしてるっぽいから」


 割とグイグイ来るなあこの人、とシルバは思った。


「この辺りは、カナリー様自身の意志次第でもありますが」


 思ったよりもあっさり引いてくれて、シルバはホッとした。

 パーティーに魔術師が入ってくれるのはありがたいが、本人のいないところでの推薦はフェアではないとも思うのだ。

 また、カナリーには別の問題も存在する。


「俺達のパーティーに入るとしても、ホルスティンは、『牧場』の運営とか、色々あるんじゃないのか?」

「そちらは問題ありません。カナリー様の部下に、無能はおりませんから。今の仕事ですら、カナリー様の処理は早く、私どもの仕事が少ないぐらいなのです。カナリー様ご自身の決済が必要な仕事は、ごくわずかな時間で済ませてしまわれるでしょう。シルバ様たちの負担にはならないと、お約束します。……あの方には、人付き合いが最優先です」


 引いたと思ったら、また推してきたネリーだ。

 ネリーだけではない。

 いつの間にか、赤と青のドレスの美女、人形族のヴァーミィとセルシアも一緒になって、シルバに迫っていた。


「うおっ!?」

「ヴァーミィとセルシアも、そうだと申しております」


 人形族は無表情なので、夜道で無言で詰め寄られるとかなり怖い。


「どっから現れたんだよ二人とも!?」


 しかし、喋る機能がない人形族の二人は答えない。

 護衛であるカナリーから離れていいのかとか、思う所はあったが、カナリーには今、話に出ていたタイランが一緒についているから、その辺は大丈夫なのだろう。

 シルバは三人と距離を取り、ネリーたちの訴えに応えることにした。


「まあ、さっきネリーさんも言ったけど、その辺は本人の意思次第だから、約束はできない。けど、友だち付き合いってのなら、ウチのパーティーとは無関係に構わないと思うよ。学習院(アカデミー)には俺も出入りするし、出入りだけなら基本的に誰だって問題ないはずだから」

「ありがとうございます」


 酒場に到着した。




 酒場に全員が集まり、食事となった。


「はー……」


 ヒイロは、肉の塊を食べる手を止め、カナリーの手元に見入っていた。

 その視線に気付いたのか、カナリーは食事を()()()()()()にしていた。


「マジマジと見ないでもらえるかな、ヒイロ」


 カナリーが飲んでいるのは、ガラス管に入った血液だ。

 この『牧場』で採れたモノである。

 それが数本、ケースに入って並んでいる。

 また、別の飲み物としてトマトジュースも用意されていた。


「や、そんなので栄養採れるのかなーって思って。お肉食べないの?」

「食べる時は食べるけど、戦う前だろう? あまり重たいモノは食べたくないんだ。大体それを言うなら、タイランだって似たようなもんじゃないか」


 カナリーは、ヒイロの横を指した。

 タイランが、桃蜜水のジョッキを少しずつストローで吸っていた。


「その、固形物は、ちょっと苦手でして……」


 ヒイロはタイランを見、もう一度カナリーに向き直った。


「タイランはいいんだよ」

「何故だ」

「見慣れてるから」

「……そうか。まあ、人の食事をマジマジと眺めるのはマナーに反する。覚えておくといい」


 突っ込まないぞ、という強い意志の込められた発言だった。


「このお肉美味しいね!」

「人の話を聞く気がまったくないな、君は!?」


 肉の塊に笑顔でかぶりついたヒイロに、カナリーの忍耐は一瞬で尽きたようだ。


「ボク吸血鬼ってさー、みんな人から直接吸うんだと思ってたよ。違うんだね」

「……話し合いの時も言ったと思うけど、そんなのやってたら、すぐに『人間の血液』がなくなってしまうんだから」


 話がポンポンと跳びはねるヒイロに、カナリーは疲れた態度で返事した。


「牙立てなきゃいいんじゃない?」

「毎回、僕たちに血を吸わせる為に、ほんのちょっととはいえ身体に穴を開けるのって、人間にはかなり負担だと思わないかい? 採取だって、何日かに一回なんだぞ?」

「あー……そっか。難しいんだね」

「それに、直接人間の血を吸うっていうのは、吸血鬼にとって結構特別なことなんだよ」

「どんな風に?」


 カナリーは口を開き、答えようとして、結局やめた。


「教えない」

「えぇー」




 会話の弾む(?)ヒイロとカナリーを横目に、シルバとキキョウは静かに食事を摂っていた。


「……ヒイロのコミュニケーション能力は、すごいであるな」

「俺もそう思う」


 チラッとネリーを見ると、そんなカナリーたちをニコニコと眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] カナリーさんシルバのパーティと一緒に居たら苦労しそうだなーって思ったけどそういう流れ? 期待!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ