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ミルク多めのブラックコーヒー  作者: 丘野 境界
シルバ、パーティーを離脱する
2/215

こんなパーティーやめてやる!(下)

 目的地である首都に着き、その夜の酒場にパーティーの面々は集まった。

 酒場の薄暗い隅で料理を突きながら、リーダーのイスハータが大きな金袋をテーブルに置いた。


「という訳で、みんなお疲れ。コレが今回の報酬だ。それじゃ分配を……」


 戦闘時とは違う、柔らかな口調で袋の紐を解こうとする。


「ちょーっと待って」

「ノワ、何か?」


 少女の言葉に、イスハータは動きを中断した。

 彼女は赤ワインを飲みながら、言う。


「前から思ってたけどぉ、何かこれって公平じゃないと思うの」

「と言うと?」

「いっぱい頑張った人と、働いてない人が同じ報酬をもらうのは間違ってると思う」

「……みんな、頑張ったと思うけど?」


 イスハータは、頬から一筋汗を流した。

 ノワが何を言っているのか分からないようだ。


「そうかなぁ。一人も敵を倒していない人がいるんだけど」


 彼女は白魚のソテーを切り分けつつ、可愛らしく小首を傾げた。

 その言葉に、全員の視線が一点に集中した。


「いや、ちょっと待てよ。俺の事?」


 米酒をチビチビと飲みながら、シルバは渋い顔をした。

 しかし、ノワは朗らかな笑みを崩さない。


「うん。ノワ、三人倒したよ? バサンズ君、何人?」

「え。あの……ご、五人ですけど」


 突然話を振られた魔術師が、眼鏡を直しながら答えた。


「うわ、すごいね! さすが魔術師!」


 わざとらしく拍手をするノワに、骨付き肉を咥えたまま、テーストが身を乗り出した。


「お、オレだって四人倒したって!」

「リーダーとロッシェさんは戦士さんだから、もっと多いよね」


 ダラダラと流れる汗をひたすら拭うイスハータと、無言でスープにパンを浸すロッシェ。

 ロッシェが何も言わないので、イスハータがシルバを庇うしかない。


「ま、まあ、そりゃ……しかしだね、ノワ。戦いっていうのは、敵を倒すのがすべてという訳じゃないんだ。シルバは、やるべき事はやっている」

「でも今回、シルバさん、全然馬車から動かなかったよね。バサンズ君みたいに、呪文で敵をやっつけてもいないし」


 ふむ、とシルバは杯をテーブルに置いた。

 幾分乱暴な音が鳴ったのは、酔いのせいだけではないはずだ。


「……なるほど。見る人が見ると、そう見える訳か」


 シルバは軽く息を吐くと、意地悪そうな視線をイスハータに向けた。


「んで、どうするんだ、イス。リーダーとしての意見を聞きたい」


 その言葉に、グッとイスハータは詰まった。


「お、お前はどうなんだ、シルバ?」

「わざわざ口にしなきゃ分からんほどアホなのか、お前は?」


 心底呆れたシルバだった。

 確かに今回の作戦、シルバは一人も敵を倒していない。

 『透心(シンツ)』を常時使っているとはいえ、傍目から見れば幌の上から『加速(スパーダ)』と『発声(ヤッフル)』の二つの祝福を与え、指揮しているだけにしか見えないかもしれない。

 それ以外にも、パーティーの荷物や共同資金の管理はシルバの担当だし、冒険前の必要資材の買い出しや朝一での冒険者ギルドでの依頼の確認も、率先してやってきた。

 それが自分の仕事だという誇りが、シルバにはあった。

 しかし。


「……ちょっと待ってくれ」

「……」


 どうやら、そう思っていたのは、シルバだけのようだった。

 いや、違う。

 ちょっと前までなら、悩む事自体ナンセンスな話だったはずだ。


「ぶー」


 元凶であるノワは、頬を膨らませて不満そうにイスハータを見ていた。

 シルバがイスハータを促そうとした時だった。


「な、なあタンマだ。リーダー、シルバ、少し話がある」


 腰を上げたのは、テーストだ。




「あ?」


 テーブルを少し離れて、シルバはテーストの提案を聞いた。

 ノワだけがテーブルに残り、他は全員がシルバを取り囲んでいた。

 ノワは一人、退屈そうに晩餐を味わっているようだ。


「……何だって?」


 思わず、耳の穴の掃除をしたくなったシルバだった。


「それで我慢してくれよ、シルバ。それで丸く収まるんだって」


 パン、と手を合わせるテースト。

 テーストの話は単純だった。

 つまり、一旦ノワの言い分を聞いて、彼女の言う『分配』を行う。

 そして彼女がいなくなってから、テーストやイスハータの取り分から改めて、本来のシルバの取り分を渡すという事にしたいらしい。


「……アホか」


 シルバとしてはそう言うしかない。

 賭けてもいいが、この話は今回一回だけに留まらない。

 今後の仕事では、そのやり方が罷り通ってしまうだろう。

 少しでも考えれば分かる話だった。

 ところが。


「いや、しかし、彼女の言い分にも一理……」


 イスハータが真剣な表情で検討を開始したので、シルバは思わず彼をぶん殴りそうになった。


「一理もねーよこのスカタン! 前衛職と後方支援を同列で語ってる時点で、どー考えたっておかしいだろ!?」


 少し離れたテーブルを指差し、シルバは叫んだ。


「しっ、声がでかい! と、とにかくだ、今の話でひとまず我慢してくれないか。な、シルバ?」


 何とかシルバをなだめようとするイスハータ。その行為そのモノが、さらにシルバを苛立たせる。


「シルバ……」

「ぼ、僕も賛成です。ナイスなアイデアじゃないですか」


 ロッシェとバサンズも、いつの間にか相談の輪に加わっていた。

 バサンズが弱々しく両拳を握りしめ、テーストがその勢いに乗る。


「だろ? お前もそう思うだろ?」

「僕達だって、回復の重要性は分かっている。ここは堪えてくれ、シルバ。報酬自体は実質、変わらないんだ」


 眉を八の字にしながら、イスハータはシルバの肩に手を置いた。

 続いて、ロッシェもボソリと呟いた。


「……俺もそう思う」

「……ロッシェ。お前もか」

「……」


 シルバの問いに、ロッシェは気まずそうに目を逸らした。


「ねー! もういい? ノワ、早くお風呂入って眠りたーい!」


 足をバタバタさせながら、テーブルに一人残っていたノワが声を掛けてきた。


「じゃ、じゃあ、そういう事で……」


 シルバが返事もしない内に、イスハータの中では結論が出たらしい。

 いや、シルバ以外の全員か。

 シルバは、心の底から失望した。


「そういう事もへったくれもあるか、このド阿呆ども」


 吐き捨てるように言うと、シルバは仲間達が止める間もなく早足でテーブルに戻った。

 そして乱暴にテーブルを叩いた。


「俺は今日でこのパーティーを抜ける。それで満足か?」

「え?」


 目を瞬かせる、ノワ。

 しかし驚いた振りなのは、あからさまだった。

 シルバは、ノワから、背後のリーダー達に視線を移した。


「俺の分の報酬は手切れ金代わりにくれてやる。パーティーの予算で買った装備や道具も部屋に置いておくから、あとで適当に回収しとけ。ほらイスハータ、共同資金の金庫の鍵だ。受け取れ。……お前らは仲良しパーティー続けてろ。じゃあな」


 そして、テーブルに背を向けて、自分の部屋へ戻る事にした。


「やってられるか」


 その背に、ノワの声が掛けられた。


「シルバ君」

「あ?」

「ばいばーい」

 ノワが無邪気に勝ち誇り、シルバにヒラヒラと手を振った。




 その夜の内に、シルバはパーティーの泊まる宿をチェックアウトした。

 そして友人が用心棒をする別の酒場で、やけ酒をあおっていた。


「心っ底ムカつくっつーの、あの(アマ)!」


 ダン、とカウンターに空のジョッキが叩き付けられる。


「災難であったなぁ」


 隣に座るシルバの友人、キキョウ・ナツメはうんうんと頷いた。

 黒髪に着物という、この国では珍しい凛々しい風貌の剣士だ。

 ここ、辺境の都市国家アーミゼストから遥か東の彼方にある島国・ジェントの出身である。


 この世界に『魔王』が復活して数十年。

 十何度目かの討伐軍の派遣と共に、古代の失われた技術で作られた武器や防具の発掘も進められてきた。

 ここアーミゼストは、多くの遺跡が眠る遺物(アーティファクト)・ラッシュの真っ直中にある。

 キキョウは、なりゆきでこの地に留まることになったようだが、荒々しくも景気のいいアーミゼストを気に入っているらしい。


「ふーっ!」


 怒りのせいで、今のシルバは赤ら顔のまま飲む事にしか集中出来ないでいる。


「どうどう。落ち着くがよい、シルバ殿。今日は(それがし)のおごりだ。金は気にせず、心ゆくまで飲め」

「……悪い」

「何の。短いとはいえ、それなりの付き合いではないか」


 パタパタとふさふさの尻尾を振るキキョウ。頭の狐耳もピコピコと揺れていた。

 キキョウは人間ではなく、一般に亜人と呼ばれる種族だ。アーミゼストや周辺国では、その中でも獣人という種族がキキョウに近いが、本人の談によると厳密には違うらしい。

 冒険者稼業においても、種族の違いから人間は人間、亜人は亜人とパーティーを組む事が多いが、シルバはあまり気にしていない。

 キキョウは獣人でもいい奴だし、ノワは人間でも気に入らない。

 まあ、そういう事だ。


「あーもー、腹立つ! マスター、もう一杯!」

「しかし、今後どうするのだ、シルバ殿? その、働き口のアテはあるのか? も、もしよければ……」


 ドン、とシルバの前に麦酒の注がれたジョッキが置かれた。

 それを煽りながら、シルバはヒラヒラと手を振った。


「あー、そりゃ多分問題ない。回復役は、冒険者稼業にゃ必須だからな。その気になれば、何とでもなると思う」

「そ、そうか。それは何より」


 何だか残念そうな、キキョウだった。


「まー、我ながら短気だとは思うよ。けどよー……何か違うだろアレはー……」


 ジョッキの半分ほどになった中身をチビチビ飲みながら、シルバはぼやく。


「うむうむ。何というか、長くないなそのパーティーは」

「だろー? 次に入るパーティーはこー……アレだな。女いらねー。やだよもー、あんなの」

「はは、それはそれで極端ではあるなぁ。にしても、よほどの美女だったと見えるな、そのノワという少女は」

「んー、まあそだなー。外見は悪くないぞ、確かに。アイツらがコロッと落ちるのも分かる」

「しかし、シルバ殿は落ちなかったではないか」

「んんー……別にそれ、俺が人格者だったからとか、そんなじゃねーぞ」

「というと?」

「ウチの実家な、上に三人、下に四人」

「……何が?」

「姉と妹」

「……な、なるほど。ならば、女の本性を見抜けるのも道理かも知れんな」

「まーさー、同じパーティーに異性が混ざると、多かれ少なかれ、そういう問題ってのは発生するよな」

「む、む……まあ、それは確かに。某も心当たりがないでもない」


 キキョウの凛々しい外見は人目を引く。特に若い女性ともなれば、言い寄ってくる者は数多いのだ。


「だろー? お前、格好いいしー」

「むぅ……格好いいか」


 どことなく、不満そうなキキョウだったが、酔ったシルバはそれには気付かない。


「男女の仲を否定はしねーよ。それでいい関係になる事だってあるだろうし、悪い事だけじゃねー。けど、俺は嫌。少なくとも、当分は勘弁。そーゆーの抜きで仕事させてくれ」

「な、ならばだ」


 パン、と両手を打つキキョウ。


「うん?」

「シルバ殿自身がパーティーを作ればよいのではないか? 女人禁制のパーティーだ」

「お、そりゃ名案だな」

「そ、某も及ばずながら助力しよう。事情を知っている人間の方が、シルバ殿も何かと動きやすかろう」


 何故か、キキョウは強く握り拳を作りながら言う。


「んんー……でもよ、キキョウ。お前さん、誰とも組まないって有名だったんじゃなかったっけ。それに、今の用心棒の仕事はどうすんのさ」


 シルバの問いに、キキョウは肩を竦め、唇を尖らせた。


「べ、別に誰とも組まない訳ではない。ただ単に、これまでその気がなかっただけだ。獣人というのは、奇異の目で見られるしな」

「そっかー? ウチの故郷じゃ珍しくなかったから、よく分からねーけど……」

「それに、ここの用心棒も、今週で契約が満了する。これも問題はない」


 腕組みをしながら、キキョウは真っ赤な顔で俯いた。


「な、何より某は剣客故、役割的に後方支援が必要なのは言うまでもない。某は、回復術など使えぬからな。シルバ殿と手を組めるならば、その、互いにとって益があると言うモノ」

「そっかー、助かるなぁ」

「では、よろしいか!?」


 キキョウは勢いよく身を乗り出した。


「いやいや、こっちこそよろしくなー」

「うむ! うむうむ!」


 スゴイ勢いで尻尾を揺らすキキョウだった。

 そこに。


「その話、ボクらも乗っていい?」


 キキョウの背後から、幼い声がした。


「む? ――ぬおっ!?」


 振り返ったキキョウは、思わず椅子からずり落ちそうになった。

 巨大な壁のような存在が、キキョウを見下ろしていた。

 いや、壁ではない。青銀色の全身甲冑に身を包んだ、重装兵だ。


「す、すみません……驚かせてしまいました……か?」


 ただ、声は今の幼い声とは違っていた。どちらかといえば性別の分からないエコーがかった声だ。


「い、いや、こちらが勝手にビックリしただけだ。こちらこそ、すまぬ」

「デカいよねー」


 今度は、最初にキキョウ達に声を掛けてきた、あの幼い声だった。

 重装戦士を見上げていたので気付かなかったが、小柄な少年がその手前にいたのだ。

 背中に大きな骨剣を背負った、中性的な雰囲気の少年だ。

 栗色の髪の中から二本角が現れているのは、(オーガ)族と呼ばれる種族の特徴である。


「ボクも初めて見た時は、超驚いたけど。あ、ボクはヒイロ。見ての通りの鬼族。後ろにいるのは動く鎧(リビングメイル)のタイランだよ」


 人懐っこい笑みを浮かべるヒイロに、キキョウはふむ、と頷き返した。


「鬼族のお主はともかく、動く鎧(リビングメイル)とは珍しいであるな。某はキキョウ・ナツメ。狐獣人の剣客だ。こちらで酔い潰れる寸前なのが、シルバ・ロックール殿だ」


 カウンターに突っ伏したシルバを、ヒイロは視線をやる。


「ほうほう。で、鬼でも入れるかな、その新しく作るパーティーって?」

「んー? お前、男か? 女は禁止だぞー」


 酔った目で、シルバはヒイロを見た。


「見ての通りだよ?」


 ブレストアーマーに短いズボン。

 男にも見えるし、活動的な女の子にも見えない事はない。

 がまあ、男だって言うのならいいか、とシルバは回らない頭で考えた。


「……んじゃ、おっけ。……そっちのおっきいのも?」

「は、はい。タイラン・ハーベスタと申します。私も、よければその、パーティーに加えさせて頂けると助かるのですが」


 大きな身体に似合わず、どこか遠慮がちに甲冑の戦士――タイランは言った。


「……男?」

「み、見ての通りです」


 ヒイロに倣って、微妙な言い回しをするタイランだった。


「……じゃあ、よし」


 シルバの許可に、小柄なヒイロと超大柄なタイランが両手でタッチを決める。


「やった! よかったね、タイラン」

「はい」


 喜ぶ二人とは対照的に、何とも言えない表情になっていたのはキキョウだった。


「む、むう……」


 唸るキキョウに、ヒイロが不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの、キキョウさん。難しい顔して?」

「い、いや、何でもない。うむ、これでよいのだ」


 自分を納得させるように何度も頷き、キキョウは自分の酒を少し口に含んだ。


「……微妙に残念ではあるが、それではシルバ殿への裏切りになるしな、うむ。これでよかったのだ」


 そう呟くキキョウの言葉は、誰にも届く事はなかった。


「あ、そうだ。キキョウ、これ返すの忘れてた」


 シルバは、腰につけていた革袋を外した。

 元々これは、キキョウが厚意で貸してくれていたのだ。

 キキョウはそれを受け取りはしたものの、首を傾げた。


「む? おお、そういえば貸したままであったな。別に持っていてくれても構わぬのだが」

「だとしても、一旦はそっちに戻すのが筋だろ。いや、本当に助かった。これがなかったら、探索かなり辛かっただろうからな」

「それは何より。では、再びこれはシルバ殿に預けよう」

「……まあ、この面子の中じゃ、俺が持ってるのが一番無難そうだな」


 シルバは、キキョウに渡したばかりの革袋を、再び受け取ることになった。

 そして、新しいパーティーとなる面子を見渡した。


「前衛三に、後衛一であるからなあ」


 苦笑いを浮かべる剣士のキキョウ、明らかにパワーファイターであるヒイロ、そして重装兵のタイラン。

 荷物の保管は、シルバがした方がよさそうだ。


「リュックだったら、ボクも持ってるけど?」


 ヒイロは、床に置いているフライパンや薬草を吊した大きなリュックを指差した。


「ヒ、ヒイロ、あれは普通のリュックじゃないんですよ……おそらく、その……マジックバッグの類です」

「マジックバッグ?」

「……見かけよりもいっぱいモノが入る、収納魔術の施されたバッグで、すごく高いんです」


 タイランのいう通り、この革袋は中が亜空間となっていて、小さな見た目からは想像も出来ないほど、大量の荷物が入るのだ。

 口も大きく開き、その気になれば倒したモンスターの死体も、そのまま入る優れものだ。


「まあ、従姉妹の手製故、買った訳ではないのであるが」

「何か、時空魔術を使う従姉妹がいるらしいんだよ」


 恥ずかしそうにするキキョウに、シルバは言葉を付け加えた。

 ふむふむ、とヒイロが頷く。


「あまり公言はしないことにしているのだ。……それをアテにして自分にも作ってくれと集ってくる輩も多い故な。もっとも、ここは某の故郷であるジェントからはずっと遠いので、言ったところでどうにかなるモノではないが。二人もあまり大っぴらには、話さないでもらえるだろうか?」

「もちろんだよ!」

「は、はい……その革袋だけで、一財産ですからね」


 ヒイロとタイランも、了解した。




「……やられた」


 ノワの泊まる宿の部屋には、大量の荷物が積まれていた。

 雑に山となって……はおらず、衣服、化粧品、道具類、生活用品、武器とちゃんと整理されて、置かれている。

 しかしそれでも量は多く、足の踏み場もないほどだ。

 出ていったシルバ・ロックールが、ノワから預かっていた荷物を返したのだ。

 それはいい。

 それは、分かっていたことだ。

 ただ、ノワは一つだけ計算違いをしてしまった。

 つい先刻交わした、バサンズとの会話を思い出す。


「え、あれ言ってませんでしたっけ? はい、あの道具袋はシルバの私物でしたよ……ノ、ノワさん、どうしたんですか? 何だか笑顔が怖いんですけれど……それでお話ししていた、道具類の管理は確かに商人であるノワさんが一番向いて……ノワさん、ねえちょっとどうしたんですか!?」


 ノワは、部屋の壁に拳を打ち付けた。

 壁は軋みを上げ、ヒビが入った。


「やってくれたなあ……シルバ君……人の『獲物』を奪うなんて、絶対許さないんだから……」


 目だけが笑っていない笑顔のまま、ノワは小さく呟くのだった。

初投稿時から、ラストが少し変わっています。

賛否両論があるのはまあ当然として、ノワが今後しつこくなる理由を強めたいと思って追加しました。

なお、この革袋アイテムボックスを作ったのは、別作品に登場するとあるヒロインです。

それと更新に関してですが、今のところは朝7時と夕方18時で行こうと思います。

しばらくすれば一日一更新になると思いますが、その時はまたご報告させていただきます。

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