リフと愉快な仲間達&カナリーVS魔人
前話の後半の一部を削除しました。
今回の話との繋がり的に分かりづらいので、次話の冒頭へと移させていただきます。
サムライクラブの鋭い斬撃を、魔人は足で受け止める。
そのまま、足にまとわりついていたリビングマッドと共に、蹴り上げた。
フレイムホーネットが炎の尾を作りながら周囲を舞うが、その分厚い筋肉には針を打ち込める部分を見出せないでいた。
体当たりを食らわせるイガグリ小僧のトゲも、同様だ。
かろうじて体格で互角の石巨人が背後から腰を掴むが、魔人は力任せにふりほどいた。
すべての攻撃をやり過ごした魔人は、口から炎を吐いて、イガグリ小僧とリビングマッドを焼く。
さらに握りしめた拳が、サムライクラブの固い甲羅を叩き、軽くヒビを入れる。
炎の中から飛び出したカナリーの従者、ヴァーミィとセルシアの蹴りを、獰猛な笑みを浮かべながら受け止めた。
正直、苦戦であった。
リフはといえば、横や足下から襲いかかってくる霊樹の蔦や木の根の相手をするので手一杯でいた。
腕から生やした刃で切断しながら、仲間になったモンスターの紹介をカナリーにする。
「サムライクラブがヘイケン。イガグリ小僧がマーロン。石巨人はウッズ。フレイムホーネットはトエント。リビングマッドがダン」
「……悪い、リフ。いっぺんには憶えられない」
指で印を作りながら、カナリーは眉をしかめる。
「にぃ……」
「ま、とにかくだ」
カナリーの指先が光り、一条の紫電が迸った。
しかしその光は魔人に届く直前に勢いを失ってしまう。
顔を直撃しながらも、魔人は顔をしかめるのみだった。
そして魔法を放った相手が誰かに気付くと、カナリーに向けて大きな口を開いた。その喉奥には、赤い炎が覗いている。
チッとカナリーは顔をしかめ、足を浮かせる。
「あの対魔フィールドが、魔術師的にはちょっと厄介だね。精霊砲も同様だったろう?」
「に」
カナリーとリフは左右に散った。
直後、魔人の吐き出した炎が、二人の立っていた位置を焼く。
背後から姿を覗かせていた木の根の一部も焼け、煙が立ち込める。
その煙は、若い女性の姿に変化し、細い腕をカナリーに伸ばそうとする。
煙のモンスター、スモークレディだ。
物理的なダメージこそないが、顔を塞がれると呼吸困難に陥るいやらしい攻撃だ。
「あの火も、や」
着地し、リフが眉を八の字にする。
「またスモークレディか。本当に嫌になる……ねっ!」
マントを翻しながら、カナリーはスモークレディに雷撃を放つと、モンスターはあっさりと霧散した。
体力が低いのが、せめてもの救いかもしれない。
一方霊樹に近付く羽目になったリフを、何十もの蔦が襲っていた。
「にゃあ!」
リフが吠えると、その勢いがわずかに弱まる。
その隙を突いて、リフは蔦を腕の刃で断ち切り、距離を取った。
「大したモノだ。さすが木を治める霊獣の仔だけのことはある」
自分の傍に着地したリフに、カナリーは軽く拍手をした。
「に。父上は、もっとすごい。ちゃんと退けられる」
「だろね。ま、霊獣の長と比較するのもどうかと思うけど」
「……魔人ずるい。あっちだけ煙におそわれない」
「はは、もっともな意見だ」
さすがに、全然攻撃が通じない魔人相手に、リフも焦れているようだった。
微笑むカナリーだったが、すぐに真顔に戻った。
魔人を相手に、前衛はまだ猛攻を続けている。しかしその効果もなかなか芳しいとは言えなかった。
「しかし、どうしたモノかな。近接攻撃でも、防御が上手くてダメージがいまいち通りづらい。さすが元が第五層の戦士だけのことはある」
「支援は?」
「……一応僕も、『鈍化』とかやってみたけどね」
溜め息をつきながら、カナリーは呪文を唱えた。
すると効果は覿面、魔人の動きは見る間に鈍くなった。
その隙を見逃さず、モンスター達が魔人に襲いかかる。
それを睨みながら、魔人は両手を広げて、大きく咆哮を上げた。
突風のような波動が生じたかと思うと、再び、魔人は動きを取り戻し、自分に攻撃を仕掛けようとしたモンスター達をまとめて薙ぎ払ってしまう。
「にぃ!」
リフが心配げな声を上げる。
「この見えない波動が厄介なんだよ。全部キャンセルされちゃうから」
近接攻撃は今一つ、魔法もなかなか通じない。
カナリーの吸精で皆の回復は出来るが、あまりやり過ぎるとカナリー自身が酩酊してしまい、戦闘不能に陥ってしまう。
そして黒い靄は刻一刻とこちらに近付いているという。
それを考えると、余計な敵を残しておきたくはない。
「……お兄ならどうする」
「……多分また、妙な案を出すだろうねぇ」
「に」
苦笑するカナリーに、リフは律儀に頷いた。
そして、カナリーは決断した。
「一体一体ぶつかってたんじゃ、駄目だ。間髪入れず、すべての攻撃を一気に叩き込む」
「に。連携こうげき」
カナリーは、リフに微笑みながら指を向けた。
「ヤ。その為には確実に攻撃を通すこと。モンスター達にそれを頼むのは酷だから、僕達がやる」
「に」
「まずは、僕の後ろで豆を育ててくれ。発射台を作る」
「はっしゃだい?」
懐から豆を取り出しながら、リフは不思議そうに首を傾げた。
「うん。あの蜂が使えそうだけど、バレるとまずいな。やっぱり僕の魔術でやるか」
背後からは、蔓の燃える臭いと共に、わずかに熱が伝わってきていた。
いくら燃えればそこから煙のモンスターが生じるといっても、敢えてたき火に飛び込むようなことは霊樹はしない。
チラッと左を見る。
木の幹が邪魔をして、ヒイロ達の姿は見えない。
ならば好都合、とカナリーは考える。
魔人に相対したまま、カナリーはリフに尋ねた。
「全員にタイミングは伝えたかい?」
「に」
「それじゃ、作戦スタートと行こうか!」
カナリーは、魔人の目線の高さまで宙に浮いた。
一瞬、魔人がキョトンとする。
それに微笑みながら、カナリーは両手をかざした。
「――最大出力・『発光』!」
手の平から強烈な閃光が生じ、魔人の目を灼いた。
魔人がたまらず、両目を覆う。
「今だ、ヘイケン!」
咆哮を上げながら身悶える魔人の足の腱を、サムライクラブのハサミが切断する。
踵の上に一本の線が生じたかと思うと、そこから勢いよく血が噴き出す。
「リフ! 続いてマーロン!」
「に!」
リフが魔人に向けて投擲した豆は即座に発芽し、全身に巻き付いた。
そして、カナリーの背後にあったたき火が爆発し、足の下を火の玉が通り過ぎる。
焼けたイガグリが股間を直撃し、魔人の口から悲鳴が上がる。
「大きく口が開いた、畳み掛けろトエント!」
魔人の周囲を飛んでいたフレイムホーネットが口の中に飛び込み、無防備な舌に太い針を突き刺す。
口から吐き出される炎も、火属性のモンスターにはほとんど効果がない。
全身にまとわりつく蔦を引きちぎりながら、視界を失った魔人がヨロヨロと足をふらつかせる。
その足の裏にリビングマッドのダンが滑り込み、大きく転倒させた。
地響きを上げて、そのまま仰向けに倒れる。
「よし、よくやったダン――最後、ウッズ、ヴァーミィ、セルシアやれ!」
作戦開始と同時に距離を取っていたヴァーミィとセルシアが、助走をつける。
ウッズは大きく跳躍すると、魔人の胴体目がけてボディプレスを叩き込んだ。
重量級の攻撃を胴体に叩き込まれ、魔人は肺の中の空気を強制的に吐き出させられる。
その直後、天井近くにまでジャンプをしていた従者二人のダブルキックが顔面に炸裂した。
……魔人は大きく身体を震わせたかと思うと、そのままガクンと力尽きる。
「やったか……?」
床に着地し、カナリーは呟き、しまったと自分の口を手で押さえた。
その途端、ガバッと魔人が石巨人を押しのけて上半身を起こし、その巨大な手をカナリーに伸ばしてきた。
「にぃ!?」
「大人しく――」
軽く跳んで、大きな手を回避したカナリーは、そのまま魔人の顔を手で掴んだ。
「――したまえ!」
一瞬にして、魔人の髪が白髪になり、顔面が皺だらけのミイラと化す。
カナリーの吸血鬼としての能力、吸精だ。
再び、後ろへと倒れようとする魔人。
しかしその開かれた口の奥が、赤く揺らめいているのに、カナリーは気付いた。
「リフ、上だ!」
轟、と口から放たれた炎が天井の蔦を焼こうとする。
このままだと、再びスモークレディが出現する。
「にぃあ!」
しかし、炎が届くより前に、リフの咆哮を受けた木の蔦達は、不自然な素早い動きで退いていった。
天井を黒焦げにしながらも、霊樹の蔦はただの一本も焼かれることはなかった。
今度こそ力を失った魔人は、仰向けに倒れて気絶した。
「あ、危なかったね、リフ。やればできるじゃないか」
「にぃ……二回はたぶん無理」
リフがへたり込む。必死だったらしい。
「向こうもおわった」
リフの視線を追うと、ロンが倒れていた。
血だらけのヒイロがそれを見下ろし、シルバが印を切っている。
ホッと一安心すると、カナリーは足下をふらつかせた。
酩酊感に、頭を振る。
「おっと……うん、やり過ぎた。これ以上はまずいね。酔っぱらいそうだ」
吸精の副作用だ。
「に。みんな、おつかれ」
リフが言うと、モンスター達は魔人の周囲を取り囲み、勝ち鬨を上げた。
それを眺めながら、カナリーは大きく息を吐いた。
「それじゃ、報告といこうかな」
モンスター達に魔人の見張りを頼み、カナリーはリフと共にシルバの下に向かった。
「……酔った振りをして、シルバにもたれかかるっていう手もあるなぁ」




