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ヒイロ&ボタンVSロン・タルボルト(後編)

 大幅に遅刻しての更新です。

 真っ直ぐに突き進んでくるロンに、ヒイロは持ち上げた骨剣を振り下ろした。

 それはさっきと同じパターンだ。

 ロンはわずかに左に逃れ、それを追うようにヒイロは骨剣を横薙ぎに振るう。

 キキョウ相手に相当な修練を積んできた分、この連撃にだけはヒイロは自信があった。

 実際、他の技に比べて格段に速かった。



 だが、それが故にロンはヒイロの攻めを見切っていた。

 得意だからこそ何度も振るわれ続け、速いとはいえキキョウの剣速には劣るそれは、ロンにとって回避は容易である。

 そして弱点もまた、ロンは掌握していた。

 この技はあまりに大振りすぎる。

 身体を地面スレスレにまで沈めたロンは、そのままヒイロと距離を詰めた。

 ここまで、まったく同じパターンだったのだ。

 ならば、次の突きは、間に合わない。

 ロンの方が速いのは、理性と野性のどちらもが確信していた。

 そのまま、ロンは右の腕に力を込めた。


 ガラン……!


 直後、血で滑ったヒイロの手から、骨剣が離れてしまっていた。


「……!?」


 大きな音が響き、ほんの一瞬だけロンの瞳と獣の耳が揺れた。

 狼の本能が、その音を無視することができなかったのだ。

 それでも、充分すぎるほどにロンの右の爪は速い――!!



 けれど、その攻撃が来るのさえ分かっていたならば。


「それを――」


 ヒイロが一気にロンとの距離を詰めた。

 いや、ヒイロではない。

 乗っていたバレットボア――ボタンだ。

 予想外の速さ、しかも自ら距離を寄せてきたことにロンは対応できない。

 右の爪は、ヒイロの頬をかすめはしたものの、致命傷にはほど遠い。


「――待ってたよ!」


 ヒイロはロンにしがみついた。

 そしてそのまま、残っていた力のすべてを足腰に込めた。

 思った以上にロンを軽く感じたのは、ボタンもまた同じく四肢に力を込めたからだ。


「よいしょおっ!!」


 ロンを抱えたまま、ヒイロとボタンはその場で高く跳躍した。


「っ!?」


 ロンが何とかヒイロから逃れようとするが、関節がガッチリと固められている。

 二人と一体はそのまま弧を描いて反転、地面へと垂直落下し、ロンの頭部は石の床に叩き付けられた。


「……!!」


 地面が砕け、ロン・タルボルトの頭部は床に埋まった。

 ヒイロとボタンも床を転がったが、すぐに立ち上がった。


「勝利!」

「ブモ!」


 ボタンはハイタッチできないので、寄せてきた胴体にヒイロは両手を当てた。

 その光景に、シルバも、まだ戦っていた魔人やリフ達も、ノワ達を支援しながら様子を伺っていたクロス、霊樹ですら、言葉を失っていた。

 頭を床に埋め、逆さまに直立していたロン・タルボルトの身体が前に倒れ、両膝をついた。

 しばらくそのまま動かなかったが、やがて静かに頭を床から抜いた。


「む……って、あ!」


 ヒイロは骨剣を構えようとして、さっき投げ捨てたのを思い出し、慌てた。


「ブモウ!」


 一方のボタンは後ろ脚を蹴り、やる気に満ちている。

 ロンはゆらりと起き上がったかと思うと、髪についた石片を払った。

 ヒイロ達を見る瞳には理性が戻り、徐々に全身の毛が抜け始めていた。

 獣の顔も、黒髪の青年のモノへと戻っていった。


「まさか、な……最初から、これが狙い……だったのか」


 言って、彼は自嘲気味に笑った。

 立ってはいるものの、足はふらついており、少なくとも今の時点で戦闘を続けることが不可能なのは明らかだろう。

 一つの戦いが決着を見せ、ヒイロは深く息を吐いた。

 そして小さく笑った。


「うん、アンタとは相性が悪すぎるからね。最初からスピードで勝てる気はしてなかったし、一回や二回当たっても倒れそうにないのも、何となく分かってたし」


 いつもの骨剣の攻撃では、勝てない。


「だから、捕まえるしかなかった」


 その為には、ロンの間合いのさらに内側に入り込む必要があった。

 しかも、ただ入り込むだけでは、駄目だ。

 ロンの素早さならば、そこからでも逃れられる可能性もあった。

 だから、ロンが攻撃をした直後、ごくわずかな隙を狙わなければならなかった。


「っていうか正直、三連続攻撃のコンビネーション一つと、左右の回避しか習ってないんだけどね」


 元々それほど器用ではないヒイロでは、短期間で学べる技などまずない。絞り込んだのだ。

 そしてヒイロがロンと戦うケースは、万が一キキョウが彼に敗れたときの為の用意だった。

 狼男と化したロンの主力が爪であることは、キキョウから聞いて分かっていた。

 左右の回避から相手に抱きつくまでの工程は、キキョウだけでなくタイランも協力し、ほぼ反射的にできるようにまで仕込んでいた。

 ヒイロ単体の場合と、ボタンに乗っていた場合の二パターン。

 ヒイロのみの場合は、背負い投げ。

 ボタンと協力した場合は、今回のように高くに跳躍してからの変則飯綱落とし。

 後はロンの攻撃が右と左、どちらになるかが要だった。


「お前とあの狐の……執拗な、あの、三連撃は……そういう、ことか……」


 ロンは納得したようだった。

 同じパターンの突きを回避した後の攻撃。

 ロン自身も、同じ右の爪攻撃にいつの間にか誘導されていたのだ。

 キキョウとヒイロは、シルバの『透心(シンツ)』だと間に合わない場合も考え、暗号を用意していた。

 『駄目』なら『右』、『よし』なら『左』。

 キキョウの助言は、ちゃんとヒイロの耳に届いていたのだ。


「……夜のマルテンス村で、お前と鎧があの狐に投げられるのを、俺は見ていた」


 ロンは呻くように言う。


「……眩く強いカードにしか目がいかなかったのが、俺の最大の失敗だったということだな」


 そして力尽きたのか、ロンはそのまま後ろに倒れ、気を失った。

 それと同時に、ヒイロの身体からも力が抜ける。

 どうやら、血が失われすぎたらしい。


「あ……」


 フラッと倒れそうになる身体を、後ろから誰かが支えていた。


「ブモ」


 ボタンが心配そうに、ヒイロを見上げていた。


「お疲れ、ヒイロ」


 近づいてきたシルバも印を切り、聖句を唱える。

 すると、少しずつヒイロの身体から、痛みが薄れてきていた。


「あー、うん。疲れた……」

「ブモゥ」

「おー、ボタンもお疲れ。『回復(ヒルタン)』を掛けてやろう」

「ブモ!」

「ま、けど、休んでる暇もなさそうだね」


 よいしょ、と背中を預けていたボタンから起き上がる。


「悪いな」

「いいよ。あ、あっちの人も治しといて」


 言って、ヒイロは床に大の字に倒れるロンを指差した。


「いいのか?」

「うん、大丈夫だと思う。根拠はないけど」

「ったく……ま、今は一人でも戦力が欲しいところだし、いいけどな」


 言って、再びシルバは印を切った。

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