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穴の中での作戦会議

 一緒に落とし穴に入ったカナリーが、光球を作り出す。

 頭上では多くのモンスターが暴れ回り、穴の中にまでその振動が伝わってきていた。


「さて、手早く現状の把握といこうか」


 外ではいまだにモンスター達が大騒ぎだ。

 シルバはその場に胡座をかき、『透心(シンツ)』に集中する。

 まず真っ先に頭に響いたのは、キキョウの恨めしそうな『声』だった。


『カナリィィィー……』

「ああもう、キキョウもしつこいね。大体あのロンとかいう黒いのを相手にしつつ、こっちまで来るとか普通に無理だろう?」


 シルバの向かいに女の子座りをしながら、カナリーはパタパタと手を振った。

 それからにんまりと笑う。


「それにしてもドキドキするねぇ、シルバ。こんな狭い場所で二人っきりなんて」

『ぬうぅ! カナリー! 今からそっちに行くから待っているのだ!?』

「はいはい、カナリーも冗談はその辺にして。リフ、無事か」


 カナリーとキキョウのやり取りを流し、シルバは点呼を取った。


『にぃ』

「ヒイロ、タイラン」

『あいさー。ご迷惑おかけしましたー』

『わ、私はあまり無事とは言い難いのですが……』

『ごめんねごめんね! タイランごめんね!』

『ヒ、ヒイロのせいではありませんから……』


 よし、全員いるな、とシルバは安心した。


『シ、シルバ殿。某の無事は……』


 何か、尻尾がだらんとしおれていそうな声だった。


「……いや、別に忘れてた訳じゃなくて。あれだけカナリーと喋れるなら、元気なのは分かるし。けど、ロンとの戦いで消耗してるだろうから、回復は必要だろうな」

『う、うむ……』


 ちょっとホッとした風なキキョウの声だった。

 さて、とシルバは場の空気を調える。


「厄介なのは、魔人に変えられた冒険者と、えーと……木の根だったか、リフ?」

『に。つかまると厄介』


 リフの言葉に、カナリーが唸る。


「おそらくそれは、第五層から運んでいたっていう苗だろうね。しかしリフの話を聞いた感じ、相当な成長を遂げているようだ。こんな短期間で成長するモノなのかい?」

「おそらくそれは、例の靄の仕業だろう。アレは俺達の常識から外れている。苗を大きくすることなんて、それほど難しいことじゃない」

『シルバ殿。その靄……悪魔というのがよく分からないのであるが』

「そういえば、キキョウ達には説明してなかったか」


 これまでは、ノワ達との戦いに集中していたので、シルバは一緒にいたヒイロやカナリー以外には、『悪魔』に関しての説明は、最低限のことしかしていなかったのだ。

 なので、手早く悪魔の召喚と、それに伴う黒い靄の出現について、シルバは皆に話した。

 そして、手に持つ『古代遺産(アーティファクト)』である、『魂の座』を撫でる。


「ノワ達はこの『魂の座』を使って、悪魔を呼び出そうとその封印を解いた。この『古代遺産(アーティファクト)』は今、起動状態にある」


 そして今の『魂の座』は、近くにある悪魔の素となる物質を引き寄せる性質を持っている。


「その物質ってのが、件の黒い靄だ」

『不定形であるか……斬るのは難しそうであるな。『列車作戦』の間、手を出さなくてよかったのである』

「いや、キキョウじゃなくても、誰が相手になってもアレには勝てない。絶対に相手にするな。触れた途端、別のモノに書き換えられちまうからな。先生や……一部のヒトは情報(データ)って呼んでるけど」


 ヒトだけでなく、モンスターや迷宮そのモノすら書き換える危険な相手だ。

 武器も触れた途端、大根やゴボウに変えられかねないのだ。

 ノワが盗品であること、そして危険な存在が近付きつつある現状を把握していないことから考えて、誰か第三者が彼女をけしかけた可能性がある。


「なかなか興味深いねえ。とにかく現状では倒す手段はないということは把握したよ」


 うんざりと頭を振りながらも、カナリーが取り乱した様子がないのは、シルバが落ち着いているからだろう。


『で、でもそれじゃ打つ手がないんじゃないですか……?』


 タイランの問いを、シルバは否定する。


「そうでもない。悪魔がこの世界に顕現すれば、その肉体ごと消滅させることが出来る。もしくは悪魔自身が自分で帰るかだ」

「その靄が受肉する為のアイテムが『魂の座』という訳か……」

「ああ。ただし、顕現には代償が必要になる。それが『高位の魂』」


 シルバは『魂の座』を眺め見た。

 台座の上にある透明な卵形の器。ここに、『高位の魂』が入ることにより悪魔の召喚は完了する。

 しかし、それはまだ入っていない。

 現地調達するつもりだったのだろう。


「……ウチでいえば、リフの魂ってことになる。多分、ノワ達はそれも狙いの一つだったんだろうな」

『にぃ……』


 シルバの言葉に、キキョウとタイランが激昂する。


『それは、断じて許せぬ!』

『は、はい! ぜ、絶対駄目です……!』


 一方、カナリーはクールだった。


「しかし、受肉しなければ靄は倒せない、と」


 ただ、とシルバは考える。

 普通、リフを見て霊獣だとは分からないはずだ。

 ちょっと見、獣人か、仔虎状態でも使い魔と思うのが関の山だろう。

 ノワのパーティーの中に霊獣に詳しい者がいるか、さもなければ『魂の座』を売った人物ではないかと、シルバは踏んでいる。

 そこで口を挟んだのは、それまで黙っていたヒイロだった。


『ねーねー奪われたっていう苗は? アレって確か、霊樹……とかいう奴の小さいのだよね?』

「あれはイレギュラーもいいところだ。ノワ達がそっちを最初から狙っていたのなら、靄の襲撃は受けてないと思う。もっと奥の方で戦闘になってたはずだからな」


 だが、第五層の冒険者達を襲ったのは靄だった。

 靄には、『高位の魂』に引きつけられる、動くモノを襲うという二つの習性がある。

 本来なら苗を持って、そのまま『魂の座』に向かえばいいところを、苗を成長させてリフを追い回したのも、その習性にあるのだろう。

 話を戻し、ノワ達の目的だ。

 シルバ達を倒し、リフを手に入れる。

 それが彼女達の目的だとして……。


「俺達を倒してからゆっくりと、『魂の座』を使ってこの世に顕わす気だったんだろう。けど、望みは出てきた。その件の苗の魂。それを使って受肉させれば、靄は消える」

「悪魔も相手にしなきゃいけないのかい? 身体が持つかな」

「……あー」


 どうみんなに説明するべきかシルバは迷った。


「多分、だけど、そっちは多少希望がある」

「何故?」

「伝承にしろ俺が実際にあった奴にしろ、悪魔には知性がある。対話が可能なんだ。独自の論理で動く相手だが……とにかく、この世に顕現させた方がマシなのは確かだよ。靄には本能しかないからな」


 すると、カナリーがジトーっとした目でシルバを見た。


「シルバ、君が会ったという悪魔について、詳しく聞きたいんだけれど」

『もしや、温泉で話していた、以前死んだというのはそれが関わっているのか、シルバ殿!?』

「いや、直接的には違うんだけど」

『それは、間接的には関わっていると言っているようなモノではないか!?』

『あ、あの……今はシルバさんと悪魔の関わりはそれほど重要じゃないと思います……』

『む……タ、タイランの言う通りではあるな……シルバ殿、続けてくれ。そもそも『高位の魂』とはどうやって使用されるモノなのだ? その……リフの手前、聞くのは抵抗があるが……命を奪ったりするのか?』


 シルバは台座の縁に刻まれた、文字を見た。

 古代語の下に、おそらくノワ達が翻訳したのだろう、現代の言葉が書かれている。

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