『魂の座』
「何、恐れることはないぞ、ノワ・ヘイゼル」
ロンと刃同士の火花を飛ばしながら、キキョウは笑う。
「な、何よぉ」
一旦、セルシアを退けヴァーミィを相手に優位に立ったノワだったが、すぐにセルシアをシルバが回復させてしまう。
結果、彼女が復活してきて、動きをとめられてしまっていた。
赤と青の従者は、常に息のあった連係攻撃でノワを戸惑わせるのだ。
「シルバ殿はおそらくこの中の誰も倒さぬし、ほとんど動かぬ。呪文で相手をやっつけもせぬ。お主の理屈では、働いていない男だ。そうであろう? かつてそう言って、シルバ殿をパーティーから追い出したそうではないか」
確かにその通りだ。
しかしこの戦場で、ノワ達にとってこの場で一番鬱陶しいのは、間違いなく中心にいるそのシルバ・ロックールでもあった。
ノワのパーティーは、その全員が一対一ではなく、シルバを含めた二対一、もしくは三対一で戦わされる羽目になっていた。
「ま、前とは違うもん! こんな戦い方、しなかったし!」
「いや、俺がやってることは前のパーティーの時と変わっていない」
ノワの抗弁に、シルバは首を振りながら、キキョウに『回復』を与えた。
「仲間の要請に応え、敵から皆を守る。それが俺の仕事だ」
「ううううう~~~~~!」
ノワが歯ぎしりする。
「お前に対しても、同じようにしていた。要請には応えていた。要請されなくても支援していた。それに気付いていなかったってことは多分……俺は、お前から仲間とも味方とも思われていなかったってことなんだろうな」
さて、とシルバは誰にも聞こえないように、小さく呟いた。
「正直、あんまり時間は掛けたくないんだがな……」
壁にもたれたまま動いていないタイランに視線をやり、『透心』を飛ばした。
『もうしばらく辛抱していてくれ、タイラン』
『りょ、了解です……でも、何だか申し訳がないような……』
『にぃ……こっちももうすぐ、とうちゃく』
『リフは、走りっぱなしで体力大丈夫だったか』
リフからの割り込みに、シルバは返事を返した。
『に……そっちはへーき。時々、ボタンに乗せてもらってた。けど怖いのが追っかけてきてるから、もう造りかえられた通路をグルグル回るのきつい。やっつけないと』
『怖いのって……靄か』
『モヤは遅い。でも、魔人と木の根が――追いかけてきたからそっちにしゅうちゅう』
魔人は分かるけど、木の根?
だが、シルバがその疑問を尋ねるより先に、リフからの連絡が切れた。
どうやら、逃走に集中したいらしい。
『……タイランはタイミングを見計らって、穴に落ちてくれ。仕切り直しだ』
『わ、分かりました……』
『みんなもよろしく。俺はノワ達の保管しているアイテムを回収しにいく。時間稼ぎを頼む』
シルバは、ノワが座っていた椅子の後ろにあった宝箱に視線をやった。
キキョウとタイランが引っ張ってきたモンスターの群れが暴れても、無事だった頑丈な箱である。
ヴィクターが魔力回復薬を取り出した時、鍵は開いていたのは確認済みだ。
『らじゃっ!』
『承知した。シルバ殿気を付けて』
『背後からやられないようにしてくれたまえ、シルバ』
縁起でもないこと言うなよカナリー、とボヤキながらシルバは『透心』での連絡を終え、自分の荷物が無造作に置かれている部屋の隅に駆け出した。
「むー! ノワ達の野望の邪魔はさせないんだからぁ!」
中段蹴りを放ってきたヴァーミィを強引に振り払い、ノワがシルバを追ってくる。
だが、その背中にセルシアのドロップキックが突き刺さった。
「ひゃあっ!?」
倒れ込むノワと、その拍子に荷物袋からいくつものアイテム類が転がり出る。
シルバは振り返り、すかさず従者達に指示を与えた。
「ヴァーミィ、セルシアも足止めを頼む!」
「だ、駄目ぇ!」
何とか立ち上がろうとするノワよりも、ヴァーミィの方が早い。
横薙ぎの手刀を、ノワは何とか回避した。
その間に、シルバは宝箱を開いた。
中には案の定、多くの魔力回復薬やいくつかの『古代遺産』が収められていた。
その中で、特にシルバの目についたのは、手の平に乗るぐらいの大きさの、金色の台座だ。
小さな卵のような形をした、透明な硝子のような器が載っているが、中身は空っぽになっている。
「コイツは……」
「それを手放しちゃ駄目だ、シルバ!」
叫んだのは、カナリーだ。
「なるほど、シルバ。君はここに来る前に悪魔がどうとか言っていたね。なら、そのアイテムがそれだよ。パル帝国の国立博物館から盗まれたはずの禁具『魂の座』。ノワ、君は一体、どこでそれを手に入れた」
「盗品!?」
一番驚いたのはノワだった。
やれやれ、とカナリーは頭を振った。
「その様子だと知らなかったようだね――って、人が話をしている最中に邪魔をするんじゃない」
ノワを見据えながらカナリーが手を振ると、後方に控えていた雷球が飛び、隙を伺っていたクロスをぶっ飛ばした。
無視する訳にはいかないのが辛いところだ。
「もっとも知っていようがいるまいが、禁具の類は所有しているだけで重罪だ。かつこの場にあるということは、コレクション目的ではなく実際に扱おうとしているということ。はい、シルバの専門だ」
シルバも頷いた。
「悪魔の召喚は、教会では禁忌とされている。大陸中のゴドー教徒を敵に回すことになる。大陸中の教会に最優先事項として手配書が配られ、祓魔官がどこまでも追う。国外逃亡するにしても、できる範囲がかなり狭まったぞ。いや、そんなことは正直後回しだ。現状を把握しているか、ノワ」
「ノワ達がピンチだってこと?」
ノワは従者達に取り囲まれており、残りの三人も、それぞれシルバのパーティーのメンバーを相手にしている。
だが、そんな次元の話ではないのだ。
「ある意味で俺達全員だっつーの。あー、くそ、本当に封印が解かれてる……」
シルバは『魂の座』から漏れる強い魔力に、頭を掻きむしった。
「君がいう靄の出現は、それが原因か」
「ほぼ間違いなくだ、カナリー。そして、これは俺じゃ封印無理。先生クラスじゃないとどうにもならない。そしてそれすらもう手遅れで、タイムアップだ。始めるぞ」
「分かった」
カナリーは残っていた雷球をすべてクロスに放った。
「な――!?」
数よりもまず眩しさに、クロスは顔をしかめる。
それに構わずカナリーは、滑るような動きでシルバの元へ低空飛行する。
ついでに影の中に、赤と青の従者も回収していく。
「ぬ! カナリーズルいのである!」
ロンの刃を弾き、キキョウは後方に飛んだ。
ちょうど真後ろは、自分が二度落ちた落とし穴だ。
そのまま、キキョウは袖の中から小袋を取り出すと、ロンに向かって投げた。
「チイッ!」
ロンがその小袋を短剣で切り裂くと、赤い粉が舞った。
「っ!? ゲフッ、ガハッ!」
「トウガラシの粉であるよ。鼻の利く狼男には、効果的であろうな!」
言って、キキョウは穴に落ちていった。
「ズルいも何も、予定通りじゃないか」
肩をすくめるカナリー。
シルバをかっさらい、別の落とし穴へと滑空する。
離れた場所でヴィクターを相手にしていたヒイロも、彼に背を向けて後ろへ駆け出していた。
「うお?」
攻撃を空振り、ヒイロの後ろ姿に驚くヴィクター。
だがヒイロはそれに構わず、タイランの元へ駆け寄り、彼女の重甲冑を引っ張りながら、自分達も穴に飛び込んだ。
「タイラン相席よろしくー」
「は、はい……!」
そのすぐ頭上を、ヴィクターの放った精霊砲が薙いでいったが、間一髪でそれがヒイロ達に当たることはなかった。
突然のシルバ達の行動に、ノワは戸惑った。
「な、何よ一体!?」
「紹介しよう」
カナリーと共に穴に落ちていきながら、シルバは壁の一点を指差した。
「ウチのパーティー六人目、リフ・モースだ」
「に!」
どん! と壁が開き、深く帽子を被ったコートの獣人の子どもが突入してきた。
そしてそれに続くように長い長い木の根、さらに大量のモンスターが殺到し、部屋を埋め尽くそうとする。
リフが自分用の落とし穴に潜って、その蓋が閉じたのを確認すると同時に、シルバ達の落とし穴も完全に閉じてしまった。
地震のような震動と、モンスター達の咆哮が、ドームの壁越しにも伝わってきていた。
リアルが忙しいため、明日はお休みさせて頂きます。
よろしくお願いします。




